皆さまの暇つぶしになれば幸いです。
よろしくお願いします。
「大丈夫か?」
思わず声をかけていた。
「えっ……」
もじゃもじゃ頭の男子は、勢いよく顔を上げる。
彼は明らかに戸惑っていた。
「俺は水粘水斗。君の名前は?」
「緑谷出久です」
戸惑う緑谷に水斗はまくしたてる。
「よし、緑谷。何が心配なのかは知らないが、まずは顔を上げろ。ヒーローは不安を民衆に見せないものだ。って友達の受け売りだけどな」
最近まで忘れてたけどさ、と水斗は笑う。
緑谷の表情も若干明るくなった。
「おい、そこ。早く準備しろ」
相澤の指示が飛んでくる。
ここまでか、と水斗は緑谷に背を向ける。
「まあ、オールマイトみたいに笑えとは言わないけど、それなりに笑える結果にしようぜ」
上鳴のおかげで思い出した言葉を送り、水斗は個性把握テストに挑んだ。
とはいえ、ほとんどの競技で水斗の個性を発揮できるものはなかった。
体が柔らかい。触れたものについた粘液を爆破できる。
このふたつの特性を活かせたのは、上体起こしとハンドボール投げくらいだった。
(緑谷は個性を使わずに生活してきたんだろうか?)
日常生活でも、あの力の個性は使う場面はありそうだ。
ハンドボール投げで大記録を出したことを考えると、筋力増強系の個性か。
記録測定のあと、爆豪が緑谷に詰め寄っているのを見た。相澤に止められていたが、何か因縁があるのだろう。
「んじゃ、ぱぱっと結果発表」
誰が除籍になるのか。
クラスメイトたちの空気が重くなる。
「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
しかし、それは相澤の種明かしによって霧散した。
(あれは本気だったと思うけど)
水斗の結果は八位。個人的には上々だった。
◇
話しかけられなかった。
個性把握テストが終了した後、耳郎響香は教室の机でため息をついた。
響香は朝の教室に入った時点で、水斗がいることに気づいていた。
どう話しかけようか迷っていると、上鳴が陽気に声をかけてきた。
そこまでの上鳴と水斗の会話を聞いていたから、ついそっけなく対応してしまったのだ。
「……何してるんだろ」
同じクラスなのは素直に嬉しい。
でも、最初になんて言葉をかけたらいいのか分からない。
俯いていた彼女の視界に誰かのつま先が入り込む。
「えと、響香だよな」
声に顔を上げると、成長した幼馴染の姿があった。
あの頃と変わらない深い青色の瞳が響香を映していた。
「水斗」
まさか向こうから話しかけてくるとは思ってなかった。
見つめ返すが、彼は視線を逸らす。
「もしかして、俺だって気づいてた?」
「当たり前じゃん。……一応、幼馴染だし」
そこから先は会話が続かず、無言になる。
互いに忘れられていなかったことで安堵した。
しばらく向かい合っていたが、視線があったのは最初の方だけ。
それがなんだか悔しくて、響香は呟くように口にする。
「今朝は話しかけてくれなかったのに、どうして放課後?」
「え、いやそれは……」
じっと水斗の顔を見つめて回答を待つ。
それにしても、と響香は思う。
見た目はあの頃の水斗を成長させた、想像通りの姿だ。
それなのに、あの頃よりも歯切れが悪い。
ひとつ考えられるのは、女友達がいなかった可能性。
お互いに成長して意識してしまうものだ、と中学までの友人が言っていた。
そんなことを考えるのは自惚れだろうか。
「上鳴に言われたんだ。幼馴染なんだったら、さっさと顔合わせて話してこいよって」
「へえ、案外いいヤツじゃん」
響香はくすっと笑う。
でも。
「人に言われたから話しかけてくるって、ロックじゃないね」
「う……ごめん」
気まずそうに俯く水斗へ苦笑で返す。
「別に怒ってるわけじゃないから」
響香は水斗から視線を外せなかった。
久しぶりの再会で、聞きたいことはたくさんある。
だけど、あまりグイグイいくのもどうなのかなと思って。
「どうした?」
響香の視線に気づいた水斗は、首を傾げている。
「えっとさ、お互い成長したなって」
もっと他に言いたいことはあった。だけど、無事に雄英高校で再会できたのは、互いにヒーローとしての資質を磨いていたということ。
「三年間会わなかったわけだし、身長くらいは伸びるだろ」
でも、水斗はあまりピンときていなかったようだ。
それから、彼は響香をまじまじと見つめ、ふっと口元をゆるめる。
「えと、なに?」
じっと見つめられるから、少し照れくさくなって響香は視線をそらした。
「立ち止まらなくて良かったと思っただけだよ」
「え?」
その言葉にどんな意味があるのか、響香にはわからなかった。
それでも、彼も再会を喜んでいるのが伝わってきて嬉しくなる。
「そうだ。水斗は中学で女友達はいた?」
「……え、一応いたけど」
「へぇ、そうなんだ」
平静を装っていたが、響香の心はざわついた。
答えるときに、一瞬だが暗い表情になったのも気になる。
「どうしてそんな事聞くんだ?」
「それは……」
聞いてから理由を頭の中で巡らせる。
「水斗が中学の時どんな感じだったのか聞こうと思って」
苦し紛れの答えだが、水斗は納得したように頷く。
「面白い話はないぞ」
彼はスマホで何かを打ち込む。
何をしているのか気になって待っていると、返信が来たようだった。
「明日ならいいってさ」
「え、もしかして、同じ中学の人も雄英にいるの?」
「うん」
「女子?」
「うん」
「へ、へぇ」
相槌を打ちながら、響香は相手について想像を膨らませていく。
「そうだ。その、響香さえ良ければ、連絡先交換しないか?」
「うん、いいよ」
二つ返事だった。
断る理由なんてないし、今まで連絡を取っていなかったから反動もあった。
「響香、これからよろしく」
はにかみながら差し出してきた水斗の手は、思い出のものより大きくなっていた。
「こちらこそ」
握り返すと彼と再会できた実感が湧いてくる。
同じ目標に向かって、一緒に歩みを進められると信じているから。
やっと耳郎さんとまともに話せました。
次回は空白の時間を知る拳藤さんと耳郎さんが遭遇?