8月上旬の暑い日。ウルフカットの少年が、いつも通りリビングでテレビを見ているとピンポンピンポンとチャイムが連続で鳴らされる音が聞こえる。
「またアイツか……」
何回もチャイムが鳴らされため息を吐く少年は、嫌な気持ちになりなから家のドアを開ける。
「なん……」
「ふゔやじゃーん!」
「ちょ、おいぃ!?」
ドアを開けた瞬間に赤髪ポニーテールの少女……ウルフカットの少年こと月白風矢の幼馴染である水山雫が、家の門を強引に開けて風矢の足元に抱きつきワンワンと泣き始めた。
「うぅ、もう受験勉強は嫌!」
「それを俺に言うか……」
「言うわ!」
高校受験シーズン真っ盛りで勉強が嫌になるのはわかるのか、風矢も渋い表情を浮かべる。
(まあ、俺も勉強は得意じゃないからな)
自分の足元でワンワン泣いている雫に面倒くさがりながら、風矢は彼女に現実を突きつける。
「ただな、受験をしないと高校に入学できないぞ」
「そんなの知っているわ!」
現実を突きつけなんとかしようとする風矢だったが、雫は風矢の言葉を耳にして泣きながらある書類を取り出す。
「じゃあどうするんだよ?」
「これを見てよ!」
「え?」
『ボーダー隊員募集! ボーダーは君たちの入隊と活躍を待っている!』
安い謳い文句が書かれた書類。内容はボーダー入隊のチラシだった。
「ボーダーに入ればボーダー推薦があるから受験しなくて済むのよ!」
「お前な……」
「それに正隊員になればお給料も出るの! こんなのやるしかないわ」
さあやろう、と言っている雫に冷たい視線を浴びせ否定しようとしたが……。
「それに風矢のお母さんには話が通っているし書類も出しておいたわよ」
「はあぁ!?」
(待て待て!?)
なんかいきなりの発言に驚いた風矢は、玄関で笑みを浮かべている雫の頭を引っ叩く。
「いたっ!? いきなり引っ叩かないでよ!」
「お前何やらかしているんだよ!?」
「一人で入るのは心細いからいいじゃないの!」
もう一度引っ叩こうとした風矢の手を雫はなんとか抑え、そのまま数分後。
「……どうしてこうなるんだ」
「し、知らないわよ」
「いやお前のせいだろ!」
ゼェゼェと息を吐く風矢と玄関でへたり込む雫。醜い2人の争いはあっけない結末で終わった。
ーー
1週間後、送られてきた書類を持ちボーダーの試験会場に到着した2人は当てられた席に座る。
「絶対に合格するわ」
(アイツ気合いが入りすぎないか?)
ブツブツと呟いている雫をよそに黙って周りを見る風矢。試験会場には100を超える受験者がおり、みんな緊張しているのか表情が固い。
『では、試験開始します』
風矢達が席についた後、席に置いてある試験用紙を裏返しマークシート型の答案用紙を見る。
(これはなかなか)
マークシートだから楽かと思った風矢だったが、内容が難しいので頭を抱える。
ーー
ボーダー入隊の筆記試験、体力試験、面接が終わりさらに2週間後。合格確認をするためにボーダーの試験会場に向かう2人。
「私、絶対に合格しているわ!」
「その自信はどこから出てきているんだ?」
数々の問題行動を起こしてきた雫と後処理を任されてきた風矢。狂犬美少女と苦労人イケメンの繋がりは深く、特に風矢の方は自分の胃に穴が開きそうだと思っている。
(落ちてくれよ)
このままボーダーでも雫の面倒を見ないといけなくなる。そんなのは避けたいと思い祈る風矢だったが……。
「あぁ! 私も風矢も合格しているわ!」
「へ?」
「やったわ!」
受験場に到着した瞬間、雫が合格している事を口にした。風矢は雫の言葉を耳にして口を大きく開けて固まる。
「ちょ!?」
「何驚いているのよ!」
(終わった……)
テンションが上がっているのかジャンプしている雫と落ち込んで俯いている風矢。
「これからどうしよう」
さらに面倒ごとが増えると思い風矢はため息を吐きながら建物内に入っていく。