約1ヶ月後の11月の下旬。期末テストも終わり雫が赤点なしだったので風矢は驚きながら彼女とボーダー本部に向かう。
「しっかし、雫が全教科の赤点を回避したのはびっくりしたな」
「私だって頑張ればこれくらいできるのよ!」
「その頑張りをもう少し早く出して欲しかった……」
雫の保護者扱いされている風矢は呆れながら頷く
(まあ、今のベースがいいのかもな)
あんまり焦っても空回りするのは目に見えており、風矢は自分も今の生活に慣れてきたと思い始める。
ーー
C級ランク戦ブース、いつも通り個人ランク戦に参加しようとした2人だったがモニターに映った文字に驚く。
「香取隊VS江橋隊?」
モニターに映っているのは最近部隊申請した香取隊が、B級12位の江橋隊にボコボコにされている姿だった。
「香取達が手も足も出ないのか」
「しかも相手はかなり遊んでいるわよ」
「……だよな」
江橋隊のスナイパーが香取の足を打ち抜き機動力を封じ、援護に向かう若村と三浦だったが前衛に止められる。
(一方的すぎるだろ)
B級上がりたてのチームがB級中位のチームにボコボコにされる。字幕だけ見れば当たり前かもしれないが、どうもおかしい。
「なんで香取達は江橋隊と戦っているんだ?」
(B級ランク戦はどうしたんだ?)
現在チームで行うB級ランク戦が行われており、上位2チームになるとA級昇格試験が受けられる。そのためチームを組みA級を目指す人も多い。
「あ、決着がついたわ」
「結果は香取隊の惨敗か」
一方的な戦いだったと2人は思い、ブースから出てくる香取達を見つける。
「なんなのよアイツら……」
相手の女子アタッカーに手も足も出なかった香取は、ショックで俯いていた。そこに相手のチームである江橋隊の4人が現れた。
「おいおい、この程度でA級を目指しているかよ」
「まあ、この実力から無理だと思うわ」
最初に煽ってきたのは、江橋隊隊長の江橋一。彼は長身で威圧感があり、少し怖い雰囲気がある。江橋の隣にいるのは茶髪サイドテールの少女、雪川静乃。彼女は身長は低めだが目つきが香取以上に鋭く愛想がない様に見える。
「あのーすみません。これ以上騒がしくなると問題になるかもしれないですよ」
「はあ? アッチの小娘が突っかかってきたから反撃しただけだろ」
「それで問題になるならボーダーの規律問題ね」
(いやお前らが言うのか……)
前者の2人にビビりながら言葉を発したのは、江橋隊のオールラウンダーである黒髪で小柄な少年羽山圭一。彼は15歳でオールラウンダーと呼ばれ、アタッカートリガーとガンナー用トリガーのポイントがそれぞれ6000ポイントを超えている腕利きだ。
「ちっ、こんな雑魚を相手してもロクにポイントが貰えやしない」
「!? なんだと!」
「ろっくん!」
「あらあら、まだやるつもりなの?」
流石に止めないとまずいと思い、風矢と雫は動こうとしたがある人物が先に動いた。
「オッホッホ! 貴方達、何をやっているのかしら?」
「……なんだコイツ?」
(まあ、そうなるよな)
(またあの高笑い)
いきなりの乱入者である金髪ロングヘアの少女。お金持ち令嬢の城山美鈴が香取隊と江橋隊の間に入った。
「ねぇ風矢、なんか嫌な予感がする……」
「俺も同じ事を思った」
(アイツ、絶対ロクでもない事をやるだろ)
2人は頭を抱えそうになっていると香取が立ち上がり城山に睨みつける。
「美鈴! アイツらはアタシの相手よ、邪魔しないで!」
「確かにそうかもしれませんが、このまま事が大きくなると上層部に伝わりますわよ」
「!? で、でも!」
「大丈夫、仇はワタクシ達がとりますわ!」
((え?))
城山が仇を取ると言った瞬間、彼女は風矢と雫の方を見た。
(アイツ、まさか!?)
ワタクシ達、つまり彼女は1人で戦う話ではなく仲間と共に勝負する。そして城山との関係が深いのは……。
「ふん、その勝負をしてオレ達になんの得があるんだ?」
「じゃあ、ワタクシ達に勝ったら1人1000ポイントを差し上げますわ」
「1000ポイント!? 隊長、やりましょう!」
「そうだな、祝いにもちょうどいい」
「なんか話が進んでないですか?」
戸惑っている羽山をよそに話を進める江橋と雪川。そして、彼らを見て何故か口元がにやけている城山。
(これでやっとワタクシの目的が進むわ)
内心で微笑んでいる城山をよそに江橋は一言。
「なら1週間後の17時に勝負でいいな?」
「ええ、もちろん。あ、こちらが勝ったらポイントと……後は彼女達に頭を下げてもらいますわよ!」
「あら? まさかあたし達に勝てると思っているの?」
「それはどうかしら?」
彼女の高笑いがウザくなってきたのか江橋達の3人は離れていく。
「ふん、あんな奴がいるなんて思わなかったですわ」
(ワタクシには痛くもない出費ですわ)
フン、不機嫌そうに顔を開けた後、城山は改めて風矢と雫の方に向く。
「では、風矢、雫、よろしくお願いしますわ」
「「……」」
「え? ここはおう! とかないのですか?」
「あるわけないだろ、このバカ女!!」
「いきなり意味不明すぎるわよ!?」
「ちょ、ええぇ!?」
いつもはヤレヤレ系で諦めている風矢だったが、今回の事ばかりは怒りが抑えられず雫と共にブチ切れる。
「雫、コイツにキツイお仕置きをしてこい!」
「ガッテンしょうち!」
「え、あ? きゃあぁぁぁ!?」
風矢の指示で雫は城山の耳を思いっきり引っ張りランク戦ブースから出て行く。
(さてと、コッチも片付けないとな)
今でも半泣き状態の香取、俯いて沈んでいる若村と三浦を見ながら風矢は頷く。
ーー
風矢と香取隊の4人はランク戦ブースから離れて休憩所のソファーに座った。
「で、何があったんだ?」
「それは……」
若村が話しにくそうにモゴモゴしていると、香取オペレーターの染井がいつもは崩れない表情を崩しながら口を開く。
「あの人達、特にわたしと雪川は因縁があるのよ」
「因縁?」
「雪川はかなりの実力主義で弱い者には生きる価値がないと考えているのよ」
「それって……」
「わたしは模試とかで彼女とトップ争いをしていたの……でも2年前の大規模進行で家族を失った」
「それてアタシ達はボーダーのトップを目指す事にしたのよ」
家族を失ったのは染井だけで他の3人は生きている。だから逆に香取達が染井の辛い気持ちがわからくて悩む時が多い。
(重い話になってきた)
普通に喧嘩した場合なら上層部に報告すればいい。だけど今回の場合はそれでは解決にはならない。風矢はその事を考えながら染井の言葉を耳にする。
「それで雪川は……」
「勉強で争っていた奴がいきなりボーダーに入ったからか?」
「わたしはそう思っているわ」
(そうなるとかなり面倒だな)
香取達は風矢達の一期前にボーダーに入隊しており、同じ時期に雪川も入隊している。
「雪川のやつ、アタシが華を邪魔している異分子と扱いやがって!」
「まあ、才能マンの雪川からすればオレ達は邪魔なんだろうな」
「でも納得できないよね」
(そりゃそうだろうな)
風矢自身、特に目立った才能がないタイプの凡人で、才能マンからの上から目線の発言にはよくムカつく。
「やり返したいけどアタシ達じゃあ勝てなかった!」
「手も足も出ずにボロ負け……」
「オレ達はこんなところで……」
「みんな、ごめん」
新星香取隊の4人は、ボロボロにされた状態でさっきと同じく俯いた。
(よくも……)
友人をコケにされて黙っているわけにはいかないので風矢はこれからの行動を考え始める。