風矢が西南に向かって移動している中、江橋隊の2人は隊長がアッサリやられた事で焦りが見えた。
「な、え?」
「江橋隊長がベイルアウト?」
雪川も羽山も正隊員。隊長が先にベイルアウトする事はランク戦でもあったが、それは部隊のレベルが同じか相手の方が上の場合だ。
(流石におかしい気がする)
新人潰しをしようとしたら、その新人のレベルが詐欺だった。この時点で釣られたと感じた羽山は体を震わせる。
「今よ!」
「チイィ、厄介すぎる!」
雫の孤月が羽山の肩に擦り体からトリオンの黒い煙が漏れる。羽山は雫の動きが前よりも上がっていると思い、下がりながら弾トリガーのアステロイドで牽制する。
『雫さん! あんまり踏み込まないでください!』
『わかっているわよ!』
雫がもつサイドエフェクトの効果で相手の不意打ちは通じにくいが……。
「ぐぅ!」
「……まだ僕の方が腕は上のようだね」
単純な剣比べでは羽山に軍配が上り、少しずつ押される雫。
(まあ、アタシの仕事はコイツを止める事)
相手の斬撃で雫のトリオン体に小さい傷が増えるが、雫の狙いは羽山を止める事で深くは踏み込んでない。羽山は雫は深く踏み込んでくると思ってカウンター狙いでいたがちっとも勝負を仕掛けてこないので拍子抜けをしていた。
「何が狙いかわからないけど!」
『警戒!』
「は?」
オペレーターの阿笠が警戒のアラートを鳴らす。羽山は阿笠の言葉を聞き警戒心を上げるが、次の瞬間には自分のトリオン体に無数の穴が開いた。
「一体なにが?」
音もなく弾丸トリガーが飛んできた。その事がおかしいと思い、弾丸が飛んできた方を見ると突撃銃を構えた風矢が立っていた。
(やられたね)
風矢はバックワームを使い羽山の近くまで移動して、サブをサイレンサーに切り替えて無音でメインのアステロイドを発砲。そのやり方に気づかずシールドが間に合わなかった羽山のトリオン体にはヒビが入る。
「ここまでか」
《トリオン体、活動限界! ベイルアウト》
羽山のトリオン体が光り、次の瞬間には空を飛び市街地Aから離れていった。
ーー
羽山を連携で倒した風矢と雫は合流した。
「もう少し早くきてほしかったわ」
「お前な……」
「まあ、いいけどね」
雫は満面の笑みを浮かべているが、風矢は油断せず周りを見る。
『オペレーター、城山はどこだ?』
『城山さんは雪山さんと共に北の方に行きました!』
『マジか!?』
『とりあえず援護に向かいましょう!』
(分断したのか)
江橋隊の2人が連携していたら雫達の勝ち目はさらに薄かったので分断したのは正解ではある。だが距離的には少し遠いので風矢は雫を先に向かわせようとしたが北の方でベイルアウトの光が見えた。
『! 城山さんがベイルアウトしました!』
『……やっぱりか!』
城山がベイルアウトした事で月白隊は1人減ったが、まだ2人残っているので有利に見えるが……。
『左腕しか持って行けませんでしたわ』
『いや、それだけでも十分だ』
『後は私達に任せな』
雫が腰に装着されている鞘から孤月を引き抜き、北から接近してくる雪川を見る。
「さて動くぞ!」
「了解」
住宅街の屋根を伝って接近してくる雪川を見た2人は戦闘態勢に入る。
ーー
雪川がまず目をつけたのはガンナーである風矢だった。
「まずは邪魔な貴方からよ!」
シールドを起動して風矢が放つアステロイドの弾丸を防ぎながら接近する雪川だったが雫が邪魔で自分の動きができない。
『迎撃は頼むぞ』
『わかっているわよ』
相手の動きを制限するようにアステロイドを発泡する風矢と孤月とスコーピオンの二刀流で攻める雫。この2人の連携は形になっており雪川をイラつかせる。
「どうしてB級上がりたての雑魚にアタシが苦戦するのよ!」
「そんなの知るかよ」
(まあ、2人がかりなのが大きいと思うけどな)
ボーダーのトリガーはメインとサブで一つずつしか使えないので数を相手するのは難しい。それを知っている風矢は冷静に戦局を見ながら戦いを進める。
「このまま追い込むぞ」
「了解!」
片腕を取られた雪川は足スコーピオンなどの体術で応戦してきたが、その動きは影浦も使っていたので雫は孤月とシールドを使って防ぐ。
「!? シールドが硬いわね!」
雪川は自分の攻撃が集中してない普通のシールドで防がれた事に驚き大きくバックステップを踏む。
「そこよ! 旋空孤月!」
「! しまった!」
雫はオプショントリガーの旋空を起動して孤月の射程を伸ばして雪川のトリオン体を真っ二つに切り裂く。
「こ、ここまでなの……」
『トリオン体活動限界、ベイルアウト』
トリオン体が真っ二つに切り裂かれた事で雪川はベイルアウト。月白隊VS江橋隊の勝負は月白隊の勝利に終わった。
ーー
ランク戦の決着がつき悔しそうな表情で香取達に頭を下げる江橋達を見ながら城山は高笑いをキメていた。
「オッホホ! これがワタクシ達の実力ですわ!」
「1人だけベイルアウトした事を忘れたの?」
「そ、それは……!」
(コイツら)
風矢はため息を吐きながら雫と城山の言い合いを観察していると江橋達が頭を上げてコチラを睨みつけてきた。
「今回は負けたが次は勝つ!」
「それまで首を洗って待ってなさい」
三下のような捨て台詞を吐いてそそくさ離れていく江橋隊の面子を見ながら風矢達はスッキリした表情を浮かべる。
「まあ、今回はなんとか勝てたな」
「でも次はわからないわね」
「まあな」
今回は風矢達の情報が少なかったのと江橋隊が油断してログをあんまり見なかった事で勝てた試合。そのため次に戦う時は勝てるかどうかは怪しい。
(そんな事は今考えても仕方ないか)
香取達とワイワイ騒いでいる城山と餅坂を見た風矢と雫は混ざるために近づいていく。
「ねぇ風矢、ボーダーに入ってどう?」
「うん? いきなりどうした?」
「いいから答えてよ」
雫の質問に困り顔を浮かべる風矢だったが、少し魔を置いてから口を開く。
「まあ、楽しいぞ」
「!? それは良かったわ」
中学校では友達が少ない風矢と雫だがボーダーに入って仲のいい友達が増えていった。その事を思った風矢は心の中で喜ぶ。
(ボーダーに入ってよかったな)
風矢は雫に手を引っ張られながら前に進んでいく。それはまるで上への道が見えているようだった。