10月下旬、風矢がB級に昇格して1週間後。雫もB級に上がり目標であったボーダー推薦を受け取った。
「やったぁ! これで受験勉強せずに済む!」
(ボーダーの試験が入試みたいなもんだろ)
周りのクラスメイト達が必死に受験勉強をしている中、クラス内でそんな事を大声で口にした雫は担当教師に怒鳴られていた。
「水山さん! 貴女、周りの人の迷惑を考えなさいと何回言ったかしら?」
「えぇ〜、なんで?」
不満げな表情を浮かべる雫を見た担当教師の女性は、メガネをキランと光らせて言葉を続けた。
「とにかく! 周りの事も考えなさい!」
「わかりました! では私はボーダーに行ってきますね!」
「え?」
「迷惑なら出て行けばいいんでしょ」
お疲れ様でしたー、と言って出て行く雫を見たクラスメイト達は彼女に向かって悪態をつく。
「なんであのバカがボーダー推薦をもらっているのよ」
「めっちゃムカつくわね」
「劣等生のくせに調子乗らないでよ」
悪態をついているのは女子生徒が多く、彼女達は目立たない様に陰口を言っている様だ。
(まあ、こうなるか)
静かに授業を受けていた風矢は、ため息を吐きながらこの状況を見る。
ーー
授業が終わりボーダー本部に到着しボーダーのスマホに電源をつける。すると新着があるみたいでチャットルームを開く。
「えっと」
グループチャットの画面を見ると諏訪が風矢にメンションしており、内容はガンナーの話をしないかと言う事。
(悪くないか)
年上の諏訪に対して丁寧口調で参加する事を伝え、場所はラウンジみたいで風矢は向かい始める。
ーー
風矢と諏訪の出会いは防衛任務で、初めて防衛任務をする事になった風矢と組んだのが諏訪隊だった。彼らは緊張する風矢にアドバイスを送ったりした。
(意外と面白い人だな)
そう思いながら風矢がラウンジに到着すると何人かのガンナー又は銃を使うオールラウンダー達が集まっていた。
「おっ、やっときたね」
「はい! こんにちは犬飼先輩」
「あらら、緊張しているのかい?」
風矢に声をかけてきたのは雰囲気的に裏がありそうな犬飼澄晴。彼は風矢を見つけて一番に声をかけてきた。
「B級上がり立てで試作のカメレオンを使っているガンナーと聞いたよ」
「まあ、カメレオンもデメリットはありますが強いので使ってます」
「確かに透明になるのは有利かもね」
トリオンの消費が大きくガンナーには向いてないけどね、と付け足す犬飼先輩に頷く風矢。彼は内心で気になるところを見つけながら犬飼に違う話題を振る。
「あのー、麓郎の方はどうですか?」
「あー、麓郎ね。悪くはないけど……」
半月前、犬飼に弟子入りした若村はガンナーの腕を上げて三浦と共にB級昇格した。だが犬飼は若村の弱点や引っかかる点をあげた。
「若村は腕は悪くないんだけど堅実さが強いね」
「堅実さですか? それって悪い事ではなさそうですが……」
「うーん、悪くはないんだけどね」
あくまでおれの意見だけど、と付け足す犬飼に風矢は心当たりがあるのか頷く。
(弾トリガーはブレードよりも威力が低いから、犬飼先輩はそこに引っ掛かっているのかな?)
シールドの性能も上がっており、話に聞くガンナートリガー大流行の時期とは別みたいだ。
「まあ、これからもガンナーの練習はするから風矢もきてよ」
「あ、はい。ありがとうございます!」
「じゃあ、おれは他のところに行くねー」
バイバイと手を振る犬飼を見た風矢は、少し不気味だと思いながら自販機で飲み物を買い移動した。
ーー
一方その頃……B級に上がった雫はC級ランク戦ブースのソファーに座っていた。
「私は……」
(なんなのよ!)
さっきまで訓練室でモールモットを斬り殺していた雫だったが、中学校で言われた言葉が頭から離れなかった。
「なんでみんなは私に敵意を向けるのよ」
雫は昔から他人の感情が刺さる体質で、敵意や侮蔑が不快な感情ほど嫌な刺さり方をした。
(確かサイドエフェクトと呼ばれる存在だったわよね)
正式入隊前に個室に呼ばれた雫、はボーダー職員からサイドエフェクトの説明をされた。その中で感情受信体質と診断され、ボーダーでも同じサイドエフェクトを持つ人がいるのを耳にした。
「あー、もう!」
サイドエフェクトの事とか意味がわからない。そう思った雫は立ち上がりトリガーを起動、自身の体をトリオン体に換装する。
(誰でもいい)
むしゃくしゃした雫は、ブースに入りモニターにある黒い画面を押し、B級以上……つまりは4000ポイント以上の隊員達が画面に映る。
「叩き潰しているわ!」
普段顔を出さない負の感情を表に出す雫。彼女のストッパーになるのは、幼馴染で理解もある風矢のみ。彼がいないと彼女は暴走を始める。
「さあ、私の糧になりなさい」
(ぶっ潰す)
まずは孤月4534ポイントに申請を送り、相手も受託したのでかなしわの体が転移させる。
ーー
場面は戻り風矢サイド。
「諏訪さんのショットガンは威力重視なのですね」
「あぁ、そうだ! ただ、射程がないのが辛いところではあるぜ」
「確かにそこが厳しいよね」
「それはありますね」
風矢の周りには諏訪隊のガンナーである諏訪隊長と堤隊員、隣には影浦隊の北添隊員。この3人に囲まれて苦笑いを浮かべている風矢だったが、入口の方からある人物がバタバタと走ってきた。
「あれ? 雄太?」
「どうしたんだろう」
周りのガンナー達が不思議そうにしている中、犬飼先輩と一緒にいた若村が三浦に声をかける。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「はぁはぁ、風矢君はどこにいる?」
「風矢なら諏訪さんの達のところにいるぞ」
「あ、ありがとう! ろっくん!!」
若村から風矢の居場所を聞いた三浦は、一直線に走ってきた。
「雄太、どうしたんだ?」
「風矢君! 悪いけど来てくれない!?」
「ちょ!?」
「皆さんすみません、風矢君を連れて行きます!」
「そ、それはいいが……」
(ちょ、諏訪さん!?)
よくわからないが嫌な予感を感じる風矢をよそに、三浦は彼を連れてラウンジから出て行く。
「何があったんだ?」
「でも、嫌な予感を感じるしゾエさん行ってくる」
「オレも行きます」
「わかった!」
いつもはホンワリしている三浦の焦りようを見た北添と若村は、諏訪さんに許可をもらいラウンジから離れる。
「まさかな……」
諏訪は一つの可能性が頭に浮かび、アタリだとマズイと思いながら今の空気を変えるために進行を進めた。