あの状況でも三浦が風矢を無理矢理連れ出した理由、それは……。
「まさか!」
C級ランク戦のブース。そこでは黒髪でギザギザした歯が特徴のスコーピオン使いに、ボロボロになりながらも血走った目で苛烈な攻撃を仕掛けている雫の姿だった。
「おれが来た時にはB級のアタッカー達がボロボロになって沈んでいたんだよ」
「……」
「それでおれも戦ったんだけど全く歯が立たなかったんだ」
「そりゃそうだろうな」
(ああなったアイツはそう簡単には止まらない)
何がきっかけかはわからないがバーサクモードに入った雫は、自分の感情だけを見る様になり周りの事なんてシャットアウトする。
「今はマスタークラスの影浦先輩に止めてもらっているけどいつまで持つか」
「……難しいな」
見た感じはマスタークラスの影浦が優勢だが、雫も負けておらず孤月とスコーピオンの変則攻撃で反撃している。
(アイツ、マスタークラスとやりあえるのか)
試合は24対6で影浦が圧倒しているが、徐々に雫が反撃おり試合時間が長くなっている。
「雄太! 何があったんだ?」
「ゾエさんも気になる」
2人の後を追ってきた北添と若村に、風矢と同じ説明を繰り返す三浦。そして三浦の説明を聞いた2人は驚いた様にモニターを見る。
「そういえば水山は風矢以外は心を開いてないな」
「確かにヨーコちゃんにも開いてない気がする」
「確かにそう見えるね」
モニターを見ながらガンナー2人と三浦は会話している中、さっきから物事を考え事で話さない風矢。
(また誰かに強い敵意を向けられたんだな)
雫が暴走する理由を知っている風矢は、どうやって止めようかと考えていると若村に声をかけられる。
「なあ風矢、水山はなんでああなったんだ?」
「それは……多分、誰かがアイツに強い負の感情をぶつけたんだろう」
「負の感情?」
「アイツ、小さい頃から相手の悪意に敏感でな……ロクに友達も出来ず周りから見捨てられていたんだよ」
「それってもしかして、悪意が肌に刺さる感覚がある?」
「!? なんで知っているのですか?」
「やっぱり」
風矢の言葉を聞いたゾエさんは心当たりがあるのか、ウンウンと頷きつづきの言葉を口にする。
「多分それ、感情受信体質と呼ばれるサイドエフェクトだよ」
「「「サイドエフェクト?」」」
「そう! まぁ、特に有名なのは未来予知をもつS級隊員の迅さんだね」
(未来予知とかチートだろ!?)
サイドエフェクトの言葉を初めて聞いた風矢達は北添の説明を耳にする。
(サイドエフェクトか)
優秀なトリオン能力者が稀に発現する特殊能力。その力は空を飛んだり火を吐くわけでない人間の延長線の能力だが、持っている物的にしんどいのもあるらしい。
「多分だけど、水山ちゃんはウチの隊長であるカゲと同じ感情受信体質を持っているんじゃないかな?」
「感情受信体質?」
「うーん、説明するのは難しいんだけどね」
とりあえず相手の感情が肌に刺さる感覚がある体質。と説明する北添に疑問符を浮かべながら頷く風矢。
(そんな辛いサイドエフェクトを持っていたのか)
何回倒されても立ち上がり影浦に襲い掛かる雫に、周りのC級隊員達は固まったり震えていた。
「おい、アイツ怖くないか?」
「なんなんだよアイツ」
「ひいぃ、怖いわ……」
「あんなの狂犬よ!」
(まずい!)
今の状況はまずいと思った風矢は、どうするか考えるが対策が思い浮かばない。
「あ、終わったぞ」
「へ?」
対策を考えたいると同時に試合が終わったみたいで、周りを睨みつけている影浦と雫がいた。
(部屋は隣同士だったのか)
周りの隊員達は2人の鋭い視線を受けてジリジリと後退する。その中で風矢は周りをかき分けて前に向かう。
「お前ら、オレ達はみせもんじゃねー!!」
「さっさと散りなさい!」
「「「ひいぃ!?」」」
バタバタと離れていく隊員達をよそに風矢の姿を見つけた雫は、さっきとは全く違う笑顔を浮かべて彼に抱きついた。
「ああ、ふゔやさーん」
「おまっ!」
「じあわぜー」
思いっきり抱きついている雫を見た風矢は呆れながら影浦の方を見る。
「影浦先輩、雫の面倒を見ていただきありがとうございます」
「オレは面倒を見たつもりはないぞ」
「いえ、影浦先輩がいなければもっとひどい事になってましたよ」
「そうか? ってお前、オレが怖くないのか?」
「怖くないと言えば嘘になりますが、コイツの暴走をよく見ているので大丈夫ですよ」
「なるほどな!」
カカカと笑う影浦と苦笑いを浮かべる風矢。その姿を見た北添は2人は相性がいいかと思う。
(あの2人、上手く行きそうだね)
かつて8回ものタイマンを影浦と繰り返し、友情を確かめ合った肉体派のボーダー隊員である北添。そこまでしないと友情が芽生えなかった自分とは違い、あっさりと影浦の懐に入る風矢を見て羨ましく思う。
「あのー結局どうなるのですか?」
「うーん、その辺はゾエさんも知らない」
これから起こる問題に対して北添は考えないようにし、近くにいる若村と三浦は疑問符を浮かべる。
ーー
お好み焼き〈かげうら〉は三門市では有名なお好み焼き店で、他の町からも観光客が来る名店。その中のひと席、お好み焼き屋かげうらの次男坊である影浦雅人が自分が呼んだ仲間と共にお好み焼きを食べていた。
「カゲ、これいけるんじゃねのか?」
「おい待て仁礼!」
「待たねーよ」
影浦隊の仁礼光が笑顔を浮かべながら鉄板の上にあるアツアツのお好み焼きを口にした。
「あつっ!? ハムハム」
「仁礼さん、大丈夫ですか?」
「おう、こんなのへーき」
風矢が仁礼の事を心配していると袖を強く引っ張られる。
「ねぇ風矢……今は私だけを見てよ」
「ちょ!? おまっ」
「あらら、完璧にハイライトがないね」
「そうですか?」
「うーん、カゲとは違うタイプだねー」
「おいこらゾエ!」
影浦隊は、隊長でアタッカーの影浦、ガンナーの北添、そしてオペレーターの仁礼。この3人がチームとしてB級ランク戦に参加している。
(確かB級ランク戦に参加しているチームは20チームだよな)
確か諏訪隊が14位で影浦隊が7位、入隊式にお世話になった嵐山隊は10位。
「しっかしカゲもこの2人を気に入ったんだね」
「……そんなんじゃねーよ」
「気に入ってなかったらお店に呼ばないでしょ」
「おい仁礼」
「あ、これいただき!」
(面白いな)
この和気藹々した空気を感じながら焼かれたお好み焼きを食べる風矢と雫。彼らの顔にはさっきとは別で笑顔が浮かんでいた。
「うまっ!」
「うめーだろ、こら!」
「は、はい!」
「おいしいー!」
さっきのハイライトオフから復帰した雫に安心する風矢。彼らは思う存分、影浦家のお好み焼きを食べて満足した。