「これで三つ目です。」
白い法服姿の男が言う。
「最早偶然とは言えないでしょう。皆さんはどうお考えですか?」
共にある三人の仲間連れに問いかけるも、まず返された言葉は取り付く島もないものだった。
「それを考えるのは私の役目ではないわ。」
軽装の女戦士が素っ気なくそう言う。
「同じく、私にわかるわけないじゃん。」
と黒い
法服の男は、ふーっと溜息をついたが、
「まー、おまえらそー言うな。ダラムの頭が切れるのは事実だが、こいつにだってわからねーことはあるし、おまえらの直感が当たりを引くことだってあろーさ。」
そして目玉の男は右手を耳元に当て、魔法を発動させる。
「<
リーマン、どーだ。ここまでに見つけた石碑の位置関係から何か推論できることはあるか?」
待つことしばし。
男は三人に向かって首を振った。
「リーマンもこれじゃーわからん、と言ってる。」
彼らが拠点を離れて探索を開始し、既に二ヶ月が経過していた。
「整理しましょう。」
とダラム。
「これまでに確認された事実は、ここがユグドラシルではなく、私たちが何らかの異世界へと迷い込んだ、という仮説を支持します。ここまではよろしいですね?」
残る三人は無言のまま頷く。
「今のところ手掛かりはこの石碑だけです。」
と目線を街道から少し外れた草むらの中に建つ、おそらく彼らでなければ自然石とは見分けがつかないであろう石碑へ向ける。
ここまでの旅の過程で、現地住人との間には何らかの翻訳が働いており会話可能であることは確認していたが、用いられる文字体系はまったく異なっていて、来歴上文字に一家言あるダラムをしても、旅を優先していることもあって未だその解読は叶っていない。
一方、彼らが唯一の手掛かりと
そして、微妙に文面に揺れがあるものの、すべての石碑は共通してある場所への来訪を求めていた。
「二つまでならばどうか、と思っていましたが、三つ目となれば明らかにこれは我々の存在を想定しての
「ダラムがそうだ、と言うのなら、それでいいんじゃない?」
「デルカに同じく。」
ふーっと再びダラムが溜息をつく。
が、ローブの男はむしろ愉快そうだった。
「意見が一致したんだから結構なことじゃねーか。」
「……しかし、ピー。このイジェ、というのが何処なのか手掛かりがないのですよ?」
とダラム。
しかしピーと呼ばれた灰色の男はさらりと返す。
「ダラムともあろう御方がらしくもねー。これを彫ったヤツは、イジェ、と言えばわかると思ったからこーしたんだろーさ。現地人を適当に引っ掴まえて訊けばすぐにわかるんじゃねーか?」
「……それはそうですが、現地人との接触は極力避けよう、と決めた方針からズレませんか?」
「そんなこと決めたっけか?」
「「さぁ?」」
ピーは確信犯であるとして、ケイトとデルカ……軽装の女戦士、は単に既に忘れているだけだろう、ということが問い糾すまでもなくわかるがゆえに、ダラムは再び溜息をついた。
*
当地を含む周辺を統治していた王家が倒れたのは、既にその家名が忘却されるほどの昔の話だ。
国家崩壊の直接の要因となったバハルス帝国との戦いで激戦地となったエ・ペスペルは廃墟として放棄され、若く聡明な領主がいち早く共和制への移行を断行し帝国への恭順を申し入れたエ・レエブル、追ってそれに倣ったリ・ロベル、および、かつての王都リ・エスティーゼは緩衝地帯として帝国自由都市……帝国に貢納の義務を負うが自治権を有し、代わりに帝国市民権は持たない……となった。
これより北は、それぞれの領地を有していた貴族を源流とする
最初に王国から離反したエ・レエブルは、支配階級であった貴族が特権放棄に合わせて土地所有権を富裕層市民に安価に売却し、これによって新たな資産階級となった人々による寡占共和制へと移行した。これ以外に参照すべき前例がなかったこともあって、帝国自由都市は具体的な制度体系は微妙に異なりつつもすべて共通の政体を採用している。
王国旧体制は、良くも悪くも上意下達の恣意が罷り通るものであった。無論、
対して帝国自由都市はこういった旧体制への反動もあり、また、安全保障は帝国が担う建て付けになっているため政治権力の果たす役割は、帝国への貢納の原資となる徴税、城壁や街路、水道、近隣の街道といった
具体的には、人々は資産階級へ
そして現在、この
「何かこう、血沸き肉踊る冒険はないものかね?」
と、リキウスはボヤく。
冒険浪漫に夢見がちな彼の独り言はいつものことなので、最早
「……おまえらさ。何か返せよ!
景気の良さそうな噂話の類でも、何か、こう……あるだろ?」
「なくはない。」
と傍らに二人いた同じ顔をした少年の一方が言う。
「聞こう!」
「リ・ロベルで以前から悪い噂のあった海運業者が行方不明。
また
「……なんだ、いつものやつかよ。面白くもない。」
自力救済を基本とする帝国自由都市は、その言葉が想像させるほど治安が悪くはない。
王国が滅ぶのと並行してこの地方に弘まった都市伝説があって、度を逸して私利私欲の悪行をおこなう者を問答無用に屠る化け物が徘徊している、という噂だ。これが総じて神隠し、と呼ばれるが、それがどのような化け物によって為されるかについてはいろいろな
最もよく知られているのが骸骨姿の
聞くに荒唐無稽な話であるが、存外この話は広く信じられており、どんな儲け話であれ、政治勢力間の衝突であれ、この辺りで手打ちにしておかないと神隠しに遭うかも知れない、という恐怖感が抑止力となり、治安の維持に貢献しているのは誰しもが認めるところである。野盗の類ですら、無垢な人々の皆殺しだけは忌避するほどに。
リキウスは、夢見がちではあるが現実主義者を自認しており、神隠しの話に対しては懐疑的だ。
彼は、神隠しは旧王国民がバハルス帝国による支配を受け入れる過程で
というのも、化け物の姿に関する話には、元ネタと思われるものがちゃんと存在するからだ。
骸骨姿の魔法使い、あるいは怪力無双は、トブの大森林に傍近い辺境に近年建国されたド・クロサマー王国が旗印に掲げる
白銀の
頭を吹き飛ばす白髪の紳士、というものだけが由来が不明な上突飛なこと極まりないが、どこかの
そんなものがあってたまるか!
少年の話は、リ・ロベルで
「面白くないだけならまだしも、俺たちに旨味がないじゃないか!」
「何か言え、と言ったのは駄目ボス。」
少年は淡々と返す。
同じ顔をしたもう一人の少年は、沈黙したまま
(口を閉じろ。首掻っ切るぞ。)
の意だ。
「おまえらなぁ……」
と突っ掛かりかけたところで、リキウスはもう一人の仲間、隣で黙って二席占領しながら得物の
肌色悪くやや
(相手に気取られることなくそちらを見ろ。)
のサインだ。
「……いい加減にしろよな。だいたいおまえらは……」
と口にしながらリキウスの心は、既に双子の方から大男が示した方向、酒場の一番奥の席に陣取っている四人連れへと向かっていた。
神官風の男、軽装の女戦士、灰色の
で、ありながら、この辺りの冒険者の顔役でもある自分が知らない、ということは旅人か、あるいは、余所からエ・レエブルの活況を聞きつけてやってきた新参か。いずれにしても、舐めてかかってよい相手でないことは明らかで、大男も同じ印象を
次の瞬間、リキウスはチッ、と舌打ちすることになった。
相手に気取られる前に視線を
詫び半分、懇願半分で再び大男に目を向けるが、口元がニヤリとしたのみ。
(テメェで何とかしろ。)
の意に違いない。
(そりゃないよ、ギンさん!
そもそも振ったのあんたじゃないか……)
リキウスは内心毒づいたが詮無きこと。そうこうするうちに、神官風は彼らが陣取っていた席……この店では最上とされる六人掛けのCの字ソファー……の前まで達していた。
「皆さん、こんにちわ。」
緊張を感じたのが馬鹿らしくなるほど、神官風男は気さくに声をかけてきた。
しかし、リキウスからしてみれば、それ自体が異常事態である。
というのも、隣にいる……自分よりもより神官風男に近い……大男、ギンは、
だが、声をかけてきた男はギンに対してまったく警戒している素振りがない。直前まで知らん顔を決め込んでいたギン本人までが、驚いて男の方に顔を向けていた。
よほど腕に自信があるのか、あるいは底抜けの阿呆なのか。
歳の頃は五十前後、銀髪を
「皆さんは、この辺りでは最も腕の立つ冒険者の方々とお見受けします。」
と銀髪。
阿っているのか喧嘩を売っているのか。彼らが既に未知の魔法で自分たちの
そこに助け船を出すつもりなのか、ギンが割って入った。
「ナゼ、ソウ
発声器官は父の血が強く出ている彼は、明らかに人外の者とわかる
だが、銀髪は怯えるでもなく、極普通に返した。
「あなたのような方と共に在れる方々が、並の方々であるはずもありますまい。」
一瞬の沈黙。
だが、ギンは素直に破顔した。この男は只者ではない。
「フフ、マッタクソノ
と隣に席を勧める。
だが、銀髪は立ったままで話を進めた。
「実は皆さんにご教示いただきたいことがありまして。もしご存知であれば、なのですが。」
ようやくリキウスも平静を取り戻す。
「俺たちで答えられることであれば別に構わんが。」
「ご覧の通り私たちは旅の者でして、この辺りの地理に詳しくありません。これが都市の名前なのか、村落なのか、そもそも地名なのかについても存じ上げないのですが……」
「まずは聞こう。」
「イジェ……という場所に心当たりはありますか?」
一瞬、ギンがピクリと眉を動かす。銀髪に気取られただろうか。
リキウスはギンの内心を知ってか知らずか双子に声をかける。
「おい、クゥイア、クゥイナ。
イジェ……って心当たりあるか?」
無口な
「ウロヴァーナ伯国の海岸沿いにそんな名前の村。」
「……やけに詳しいな。何かあったか?」
クゥイアは先に話題にした海運業者の失踪もそうだが、何かと耳が早いこと、噂に強いことが自慢だ。この辺りで話題になった事件であれば大抵は頭の中に叩き込んでいて瞬時に引き出すことができる。
「最近のことじゃない。三十年ほど前に吸血鬼騒ぎがあったので知ってるだけ。」
(おまえが生まれる前じゃないか!)
内心リキウスは思うが、口には出さずに銀髪の方を向いた。
「……だそうだ。ここからだと徒歩で二週間ってところかな。ただ、あんたらだけで伯国へ向かうのはなかなか面倒だぞ。ブルムラシュー侯国を越えていくことになるが、どちらも余所者の入国には厳しい。」
「ではおまえらを
いったいぜんたい、いつの間に近寄ってきていたのか。四人組の一人、灰色のローブを纏った
その傲岸不遜な態度に、ギンはリキウスが切れ散らかすのではないかと一瞬気を揉んだが、リキウスは既に目前の金貨に目が眩んだようで上機嫌だった。
「この仕事引き受けよう。改めて自己紹介させてもらう。俺たちはチーム<
しかし、銀髪の年上なのか年下なのかよくわからない灰色の男の態度は
「詮索無用に追加料金が必要なら調達するが要り用か?」
流石にマズいと思ったのか、銀髪の男が割って入る。
「すまないね、我々はこちらの流儀に不慣れなもので失礼した。私はダラム、彼はピー。後ろの二人はデルカとケイトだ。ただ、我々の素性や目的については詮索しないでくれた方がお互いのためかとは思う。」
「……道案内だけの仕事だからそちらさんの素性や目的はもちろん問わないさ。だが、
とリキウスは至極正論で応じた。
だが、灰色の男はにべもなくこう返す。
「帝国……何だそりゃ?」
その様子がまったく嘘のように見えなかったので、リキウスはマズい客を取ってしまったかも知れない、と内心思い始めてはいたが、こうなってしまっては引くのも躊躇われるので、
「……では、そちらの
と請け負った。
「そうしてもらえると有り難い。我々も揉め事を起こしたいわけではないのでね。」
とダラム。
どうも、話はこの男を常に通した方が良さそうだ、とリキウスは判断する。灰色の男もそうだが、後ろの二人の女に至っては、まったくこちらに関心がないようでずっと二人で
「出発は?」
「早ければ早い方がいいですね。」
「では、明朝に街の北門で。食糧は少なくとも六日分は自分たちで用意しておいてくれるか?」
「そこはお気遣いなく。」
「では俺たちは準備があるのでこれで失礼する。」
事務的に約束を終えてリキウスたちが立ち去ろうとすると、ピーが声を掛けた。
「忘れ物だ。金貨を持って行け。」
「……前金は受け取らない主義なんだが。俺たちが持ち逃げしたらどうする?」
自力救済を旨とする当地では、冒険者、
だが、では彼らは何処から来たというのか?
「そのときは血の雨が降るだろーさ。」
ピーはニヤリと笑いながらそう言った。またもダラムが慌てて割って入ろうとするが、むしろリキウスも、そしてギンも、あまりに堂々と発せられた陳腐な台詞が可笑しくて、とはいえ曲がりなりにも客を笑うわけにもいかず、口を噤んでいたが、
「気前のよい客、いいお客。」
とクゥイアが軽口で応じたので、場が和んだ。
「……遠慮なくいただいていこう。では、明朝に。」
リキウスは、意識してダラムにそう伝えた。
対するダラムもその意を察したようで、
「よろしく頼むよ。」
と片手を差し出し、二人は軽く握手をする。
その手の感触に、リキウスの背中に冷たいものが走った。
これは腕に覚えがある、どころじゃない。
自分と同じ
酒場を
「クゥイアとクゥイナは旅支度の調達を頼む。」
「承知。」
黙礼。
足早に駆け出す二人の忍者を見送りながら、リキウスは隣に残ったギンに話しかける。
「何かあるのか?」
「……
「イジェ……の名が出たとき、一瞬眉を顰めたろ、ギンさん?」
若造に気づかれていたとはな、とギンは己に笑う。
「アア、
「
「イヤ、
「故人……のはず?」
「
「私ハ、運命ダトカ、宿命ナドトイッタ
そう呟くギンが、今なおこの世の何処かを彷徨っているであろう尽きぬ命を持つ古い知人に思いを馳せていることを、リキウスは知る由もなかった。
旅自体は、リキウスの期待に反して平穏そのものだった。
陸路アーグランド評議国を目指すローブル聖王国出身の探求者である、というでっち上げの履歴で四人組の通行手形を調達し、都合八人連れとなった一行はエ・レエブルを出発した。ここから北へ向かう街道は行き交う人も少なくやや荒れてはいるものの、それでもブルムラシュー侯国まではエ・レエブルの冒険者達が定期的に間引きを掛けているため、亜人や魔物の襲撃はあまり心配の必要がない。
途中、四人組の一人、ケイトと呼ばれている
税の一種として関吏を務める兵士たちは、自由都市の冒険者たちが南へ繋がる彼らにとって生命線となる街道の維持に貢献していることをよく承知しているのでおさおさ粗略に扱われることはなく、むしろそんなでいいのか、と疑問に思うほど四人組の手形についての検めも甘かった。もっとも仮に疑義を覚えたとて、
リキウスは、この先の行路の方がより亜人や魔物の襲撃を受ける可能性が高いこと、ここまでもずっと野宿であり以降も屋根のあるところで休める望みがないことから、
「おまえらが必要ならそーするが、オレらには不要だ。」
と灰色の
ちなみに。
加えて帝国自由都市においては、本来は冒険者
そういったこともあって、中間層以下の依頼を受ける冒険者、
<朱の薔薇>に限っていえば、彼ら自身は強い
とまれ、出発以来繰り返されたことではあるが、またしても慌ててダラムが執り成しに割って入り、むしろリキウスやギンは終始世間知の足りない仲間の尻を拭っているダラムに同情の念すら感じていたのであるが、そのまま
その日の夕暮れ、食事中に不意にクゥイナの姿が見えなくなったと思ったらいつの間にやらクゥイアの隣におり、手の平をぺらぺらと横に振った。
「連中、やっぱり喰ってないって。」
とクゥイア。
彼らの野営中の食事は、荷物として嵩張らないことが第一の要件となることから朝昼は干した果実類、夜は状況が許せば湯を沸かして干し肉と雑穀で即席のスープにするのが定番だ。今日から数日はこれに
四人組の客がリ・ブルムラシュールを離れる際食糧を調達する素振りを見せなかったので、気になったクゥイナが野営中は少し離れた位置に
「おまえらなぁ……気にしても仕方ないことだが、何らかの
飲食や睡眠を不要にする指輪の話は聞いたことがあるが、遥か昔、十三英雄が持っていたなどという伝説や御伽噺の類であって、
「あるいは、実はイジェの吸血鬼のお友達とか?」
リキウスは強いて軽口を叩いたが、双子からは無視され、ギンは見るからに不機嫌そうなのでそれ以上話題にするのは
それから二日経った日中、行程中で唯一の魔物の襲撃を受けた。アゼルリシア山脈から迷いでて来たと思しき
明確に護衛を頼まれていたわけではないが、<朱の薔薇>の面々は極自然にリキウスとギンが鷲の迫りくる方向に並んで立ち、クゥイアとクゥイナが客の左右に立つ
再襲来に備えて振り返った刹那、四人組の灰色の
「ピー、やるなら事前に言ってよね。」
デルカだろうかケイトだろうか、耳を抑えながら女の声でそうボヤくのが微かに聞こえたので、四人組の他三人にとってもこれは不意の一撃であったらしい。が、その声には究極の切り札を使ったといった緊張感はまったくなく、彼らにとってはこれが日常の出来事であるかのようだった。
(今の……
ギンと双子はさきほど叩き落としたもう一羽の
「過ぎたるは猶及ばざるが如し……なんて、あなたに言っても無駄でしょうね。」
やれやれ、といった様子でダラムがそう言うのが聞こえる。
「大は小を兼ねるんだよ。どーせ、どっかで試してみるつもりだったんだ。」
とピー。
「……あぁ、リキウス。」
リキウスの視線に気づいたのか、ダラムが声を掛けてくる。
「片付いたのなら進みましょう。構わないよね?」
ゴクリ、と唾を飲み込みながら頷く以外、彼に何が出来ただろうか。
リ・ウロヴァールへの
目指すイジェはさらにここから西へ一日半の行程だ。リキウスは今度は敢えて休息の提案もしなかった。この客たちにそんなものが必要であろうはずもない。
イジェは海沿いの閑村で現在は二十戸程度の農家が穀物や果実を育てている、これといって何もない村だ。百年ほど前は、避暑地を兼ねた当時のヴァイセルフ王家の荘園の一つであったらしいが、それを感じさせるものは打ち捨てられて久しい廃屋同然の
「皆さんには世話になりましたね。」
ダラムがとても人好きのする、でありながら、まったく情を感じない口調で礼を述べ、更に金貨が五十枚ほど入った革袋を手渡してきたので、リキウスは貰い過ぎだと謝絶したが、
「それは立ち退き料と口止め料だ。」
と例によって背後から灰色の
結局<朱の薔薇>は後ろ髪を引かれつつも、四人組をイジェに残してリ・ウロヴァールへ逃げるように戻った。懐には向こう数ヶ月遊んで暮らしても釣りの出る大金がある。しばらくここでのんびり過ごしても良かったのだが、どうにも落ち着かず、二日ほど休息を取った後にエ・レエブルへ取って返すことになった。
「ギンさん……これで良かったのかな?」
とリキウスは導きの親でもある大男に街道を歩きながら問う。
「私タチハ……」
とギン。
「私タチハ、コノ
人間が三人がかりでようやく持ち上げることが叶う
「ダガ、
師父と慕うギンから繰り返し聞かされた、彼の両親の
「一方デ、
「触れ得ざる者?」
「父モ母モ、
クゥイアが茶々を入れる。
「ガガーリンの親自慢、ウザ。」
クゥイナは無言のまま親指を下向きに立てる。
途端に前を行く二人の位置をギンの
「ソノ名デ私ヲ
フフフ、とリキウスは笑いつつ、ギンの言う、触れ得ざる者に思いを馳せる。
彼自身は今以て神隠しを超常の存在とは信じていない。が、ギンの言う通り、俺たちが自身を過信して安易に手を出してはならない世界がこの世にはあるのかも知れない。
あの四人組がそうであるように。
そして、次なる事件は彼らがエ・レエブルへの帰路途上にあるときに起こるのであるが、彼らはその事件のきっかけを自分たちがつくったことも、そもそも事件が起こったことも、終ぞ知らぬままなのである。
*
「おまえは本当にいい匂いがするな、アルベド。」
達した後、いつものように
「
南東よりナザリック地下大墳墓へ一直線に向かってくる亜音速飛翔体を検知。
会敵までおよそ180秒!」
妹を抱きながらその姉と話す、というのもどうにも気が引けるな、と思いつつも、アインズは速やかに判断を下す。
「ニグレド、北西ではないのだな?」
「南東です。」
「対象を追跡するものがないか、対象自身に
60秒以内に実施可能なすべての手段を使って探査。
検出があれば即時連絡、ないなら通常業務へ復帰だ。」
「
さてと、打てる手は打った。
「<
起きろ!アルベドォッ!」