「……リーマンか。どうだ首尾は?」
ピーが彼らの目であるところのリーマンからの<
が、
「ふふふ、そーか、そー
とピーが愉快に笑うので、たちまちに戦闘ということはないと理解し、安堵と若干の不満から
「で……どうでしたか?」
通話終了後、最初にそう尋ねたのはダラムだ。
「予想通り動きはあったが、予想した動きではなかった、ってところかなー。」
とピー。
「もったいぶらずに説明なさいよ。」
ケイトが不満げにそう告げるが、デルカはいつものように
「一万人の
パンパン、と手を叩きながらピーは
「……あー、すまん。ちゃんと
リーマンはオレたちが焼き払った間抜けな
「間抜けじゃないわ。」
と、デルカが割り込む。
「私が仕込んだランバートを、離脱後ものの数秒で焼き払ったもの。あいつは間抜けではないわ。」
ランバート、というのは彼女が使役する虫型
「なんでー、
言われたデルカは既に上の空だ。
「……訂正する。
オレたちが焼き払った……竜の居城跡をリーマンは監視してた。ここまではいーな?」
ダラムとケイトが頷く。ピーはデルカに視線を送るが応答はなく、まー
「<
「一万人の骸骨……ですか。噂通り、トンデモない御仁のようですね。」
とダラム。しかし口調に反して目は楽しそうだ。
「リーマンの話だと、
で、ここからが本題になるが、<転移門>を開いて骸骨を連れて来たのは
おぉ、とダラムとケイトが唸る。相変わらずデルカは無関心のままだ。
「そーいうわけで、想定たー
しかも、だ。
リーマンはたかだか二十レベルの探査特化型だから百レベルのシャルティアにブルっちまうのは仕方がねーとして、一層あいつを困惑させたのは、シャルティアが
「中華服……だから、何だってのさ?」
と不服気にケイト。だがピーはニヤリと笑う。
「相手方の探査を警戒して
聞いて驚け、
ゴクリ、と二人が息を呑む。流石にデルカもピクッとだけ反応した。
「データベースには載ってなかったそーだが、リーマンの見るところ<
笑っちまうだろ?
着てんのが本当にシャルティアだとしたら、そもそも
ピーは、ダン、と床を踏み鳴らした。
「流石、アインズ・ウール・ゴウンは洒落にならねー!」
「さて。」
興奮気味だったピーは、一旦落ち着きを取り戻したかに見えた。
彼ら四人組は薄暗い石造りの玄室の隅で話していたが、不意にピーはその逆側、蝋燭の
「話が
どー責任取るんだ、え?」
足下に転がっていた頭蓋骨を投げつけつつピーはそう怒鳴った。
「あら、そうかしら?」
アナールと呼ばれた女性は
やや
年齢は八十前後だろうか。色褪せ白髪が混じった金髪、かつては相当な美貌を誇ったやも知れぬその相貌は、頬は痩け落ち目玉ばかりがぎょろぎょろと目立つ。同じく若い時分は白魚のようであったろう指先も、今は
だが、四人組を睨めつけるその眼差しは揺るぎない強い精神を感じさせる。
投げつけられた頭蓋骨はアナールのすぐ後ろの壁に当たってぱしゃりと砕けたが、彼女がそれを気にする様子はない。
「あなたたちが予想した通りの相手は現れたのでしょう?
であれば、私の言ったことは間違ってはいなかったのではなくて?」
「……ピー、彼女の言う通りです。」
と、ダラムがいつものように執り成しにかかる。
「確かに
「あれがシャルティアかどーかわかんねーじゃねーか!」
いや、それを言い出したのはあなたでは?とダラムは敢えては言わない。
「しかし、一万人の
「<傾城傾国>は似せただけの
「あなたはどっちであって欲しいのよ?」
聞いていない様子だったデルカが再び割り込み、痛いところを突かれたのかさしものピーも一旦口を噤む。
「
四人組の内輪揉めには関心がない、とばかりにアナールはそう告げた。
外見の弱々しさとは対照的に、言葉だけは力強く世界の命運を語る。
「そして、その事実が明らかになった今、彼ら
「誰がそんな命令を出したってんだ、え?」
再びピーが噛み付くが、アナールは動じない。
「使命……という言葉がお嫌でしたら、運命とでも宿命とでも、はたまた巡り合わせとでも、お好きなように言い換えればよろしいのでは御座いませんか?
重要なのは……あなたがたが今こうしてここにおられるのには何らかの理由がある、という点で御座いましょう?」
もし、本当に
そしてそこに、亜人たちを引き連れて遠からずの人間支配を目論む
だが、それは我々に関係のあることなのか?
「ピー、どうしますか?
そもそもアナールの話に乗って竜退治をしよう、と言い出したのはあなたです。
あなたが続ける、と言うのであれば、
とダラムが言う。
「私は面白ければどっちでもいいわ。」
とケイト。
例によってデルカは関心を示さない。
ピーは敢えて仲間たちには言葉を返さずアナールに問う。
「次の手は打ってるのか?」
「もちろん。あなたたちにその気があるのであれば、既に仕込みは済んでおりますので、対決の場をご用意できますのよ。」
事も無げに女は言う。
「難敵であることは否めませんので無理強いはいたしません。あなたがたにも生存率の高い方に賭ける権利はおありでしょう。この世界に生まれた私には選択の余地がない、だけの話ですので。」
悲壮なことを言っているわりに、彼女の口調は何処か他人事だ。既に半ば想定される近い将来の世界の蹂躙を受け入れてしまっているためだろうか。
「……そーであれば、もー乗るしかねーんじゃねーのか?」
先程までのアナールへの抗議は一体なんだったのか。ピーはあっさりと彼女に同意した。
「本気ですか、ピー?
アナールも、我々には降りる権利がある、と言っているのですよ?」
流石に慌ててダラムが言う。
しかし、ピーの決意は揺るがない。
「降りてどうする?
エリュシオンでリーマンも含め、五人仲良く顔を突き合わせて暮らすのか?
その外すべてがアインズ・ウール・ゴウンに征服された状態で?」
「それは私も嫌ね。」
とデルカ。
「同じく。」
とケイト。
「……我々は運命共同体です。皆さんがそれで悔いがない、と言うのならば、もちろん私も異存はありません。」
ダラムはしぶしぶ同意した
「では、こちらが計画書です。
これに従っていただければ、皆さんは目的の人物と
アナールが一巻の羊皮紙を差し出す。
受け取りながらピーは言った。
「次に
「よろしいのですか、あんな連中を信用なされて?」
四人組が立ち去った後、逆側の扉から現れた歳の頃は四十過ぎの男がアナールに声をかけた。
「信用なんかしていないわ。」
「しかし!」
「彼らは彼らが信じたいように信じ、やりたいようにやるだけ。私たちには関係のないことよ。」
「ですが……彼らは命を賭けるのですよ!」
「私たちには関係のないことよ。
それよりエミルク、喉が乾いたわ。美味しいのを一杯淹れてちょうだい。」
「……かしこまりました、アナール様。」
男はさきほど出てきた扉を通って隣室に戻る。
そこには彼が両の手でようやく抱えることが出来るか出来ないかの大きな金属製の樽があった。手回し式の
エミルクがハンドルに力を込めると、螺子切りが鈍い音を立てて樽の中へと沈み込んでいく。すると、樽から水平方向へ突き出た
ティーカップがいっぱいになる前に液体の流れは止まった。
カップをソーサーに載せ、盆に乗せて再び
「ありがとう、エミルク。」
受け取ったソーサーからティーカップを
「あなたが淹れてくれるものはいつも美味しいわ。」
「それは……よろしゅう御座いました。
では、
……アナール様。」
「えぇ、ありがとう、エミルク。」
エミルクの悲しげな瞳はアナールを捉えているが、アナールの空虚な瞳はどこか見果てぬ遠くを見ている。
*
「……ツアーさんから聞いた十三
とマーレ。
「こ、こんなのでお役に立ちますか?」
既にマーレの背丈はデミウルゴスよりやや高いが、腰は相変わらず低い。
見た目上の態度だけ、だが。
「いやマーレ、上出来だよ!よくぞ彼からここまで聞き出してくれた。
おそらく追ってアインズ様からもお褒めの言葉がいただけることだろう!」
マーレがたどたどしく思い出し思い出し語る十三AU……マーレは何の話だと思って聞いていたのだろうか?……の物語を、頻りに帳面に書き付けながら聞いていたデミウルゴスは、パンと手を打った。
人選に間違いはなかった。
マーレは、人から聞いた話を手前勝手に解釈する、ということがない。おそらくそれは、マーレ自身の関心が話の内容そのものではなく、少なくとも嫌ってはいない相手からお話ししてもらっている自分、の方に常にあるからだろう、とデミウルゴスは考えているが真相は定かでない。
とまれ、マーレの話は言葉遣いやちょっとした言い回しは彼流に
最初、デミウルゴスは自らツアーを尋問……が剣呑ならば事情聴取、でもいいのだが……するつもりでいた。が、ツアーのことを知る現地人が居城襲撃の背後にいる可能性を示唆したとき、ツアーがあからさまにデミウルゴスを警戒する素振りを見せたのに気づいて方針を変更した。
世界を
となれば、搦手から攻めるのは王道中の王道だ。
アウラとマーレを使嗾して彼の昔話を聞き出させたのは見事に図に当たった。マーレを通して得られた情報密度から勘案して、ツアーが背後で糸を引いたデミウルゴスの意図を看破した可能性はほぼゼロだ。これを完勝、と呼ばずして何を完勝と呼ぼうか!
両手を胸の前で握り合わせて勝利の確信に
ふと見れば、マーレも同じようなポーズで頬を赤らめている。こちらは「アインズ様からもお褒めの言葉がいただけることだろう」とのデミウルゴスの言葉に、既に心が舞い上がっている様子。
「では、マーレ。私はこれで。」
と会釈してその場を立ち去る。
しばらく自室に籠もるべきだろう。
マーレからの聞き取りに際しては、自身の思い込みが入り込まぬよう、敢えて思考を停止させて後から思索の種にし易いように整理することだけに集中して帳面に書きつけた。得られた情報の分析はこれからだ。
だが、そうは思いつつも大枠の解は既に得ている。
ツアーは、本人がそれをどう思っているかはともかく、基本的には孤独な存在だ。有する力が突出するがゆえに、共に歩む
一方で、ツアーの言をすべて信じるのであれば、そうでありながら存命であると思われる存在もいくらかいることがわかる。彼が、それらの存在と関係を維持し続けているわけではないことも。そして、そういった存在に対して、ツアーほどのものがまったく無警戒であろうはずもないから、場合によってはツアーと敵対し得るあからさまな潜在敵については除外してしまって問題はない。きっと彼は、そういった存在には自らの
とすれば、話は同じところへ戻ってくる。
ツアーの搦手は、結局のところ
そして、今も存命であり……つまり、そいつは少なくとも人間ではないはずだ……かつ、
さらに、その候補人物を検索
「これは忙しくなってきましたね。」
デミウルゴスは足早に第七階層赤熱神殿を目指した。
*
「……なるほど。
流石はデミウルゴス、よくやった。」
「お褒めに預かり光栄です、アインズ様。
ついてはこれに貢献したマーレにも、お褒めの言葉をおかけいただければ……」
「言われるまでもない!
いや……おまえのその細やかな心
「ナザリックの仲間で
では、私はシズと共に容疑者の特定を始めたいと思いますので、これにて。」
デミウルゴスは、マーレから聞き出したツアーの昔話の分析を元に、今回の一件の
一方で、デミウルゴスの推理の過程に登場した十三英雄の物語……厳密には彼らが立ち向かったとされる
ツアーと話しておく必要があるな。
思うが早いか、アインズは行動を開始する。
「うーん、正直なところボクには、どうしてキミがアウラに引け目を感じるのかはよくわからないな。」
「はぁー……所詮は獣、乙女の悩みはわかりんせんでしょうな。」
シャルティアは、伏せのポーズで横たわるツアーの腹の
「たとえば、だよ。キミは<
「そういうことじゃありんせん!」
「そうなのかぁ……。ボクは随分とこのことではシャルティアに感謝しているのだけれど。アウラはせいぜい飛び出して来てはボクの上に土足で飛び乗るだけだからね。」
ぷっ、とシャルティアが笑い、そしてすぐに平素の様子を取り戻す。
「獣ごときにご機嫌取りをされようとは……思いもせんことでありんした。」
「それはご機嫌伺いもするさ。キミに
そこへ、突如アインズが転移して姿を現す。慌ててシャルティアが立ち上がろうとするが、
「<
ピタリ、中腰のままシャルティアの動きが止まる。
「……何の真似だい、アインズ?」
時間停止がツアーには効かないことは
「
「そうなのかい?」
「
おまえは今でもオレたちを世界を
アインズの様子が常になく真剣なので、ツアーはこれは真摯に応対すべきなのだろう、と判断する。
「少なくともアインズたちについてはそうは思っていないが、それ以外についてはわからないな。」
「その判断はオレが死んでも変わらないか?」
「……マーレたちから
魔神、と呼ばれたのは主人を失い暴走したNPCであったろう、アインズはそう判断しており、かつ、その判断は正しかった。
「まぁ、そんなところだ。そして、先にオレの見解を伝えておくと、おまえがユグドラシルプレイヤーを世界を
「……え?」
「時間がないから要点を絞って言うぞ。
おまえには理解し難いと思うが、ユグドラシルはゲーム、お遊びだ。プレイヤーはユグドラシルとは別の世界で、この世界の人間たち同様に何らかの
オレもそうだ。オレは要するにつまらない物売りで、そのなけなしの稼ぎを
ツアーは、敢えて意見を述べるよりも、まずはアインズの主張を黙って聞くべきと判断し、ただじっとみつめることで続きを促した。
「本物の人生としての物売りと、遊びの人生としてのユグドラシルでの大魔王があったんだ、わかるか?」
「……たちまちには理解し難いが、なんとなくなら。」
「続けるぞ。
デミウルゴスの日記によれば、こちらの世界に来てすぐの頃、魔法が使えるかどうかを試すために村人を襲っていた騎士を殺したオレは、随分と動揺して見せたらしい。何故だかわかるか?
つまりこうだ。オレにとって遊びの人生だったユグドラシルの延長線上にこの世界はあった。だから遊び気分で始まったんだよ、最初はな。だが、人を殺してみて、殺された
「アインズ……」
「そしてオレは……オレたちは切り替わったんだよ。これが自分にとっての本物の人生だ、とな。本物の人生においては、たとえどんな弱者でも遊び半分に殺めはしないし、おまえみたいな化け物にも遊び半分に戦いを挑んだりはしない。そうだろ?そんなのは問うまでもない当然のことだ。
だが、おまえの言う六大神や八欲王の話を聞く限り、連中は最後の最後まで遊びの人生のつもりでこの世界に対していたようにオレには思える。おまえの言う世界を
違うか?」
「……あぁ、そうかも……知れないね。」
「オレにとっては最早この世界がオレの本物の人生だ。だから、そこに遊び半分で介入してくるヤツには無性に腹が立つ。おまえの城を吹き飛ばした連中もそうだ。少し歩き回ってみれば、この世界の住人が本物の人生を生きていることぐらいわかって当然だ。わかる程度の知能が顕現しなかったヤツには、そもそも本物の人生を歩む資格などない。
だからオレは、この世界の存在にとってこの世界が本物の人生であることが理解できないか、理解していながら無視するヤツは叩き潰す。そいつがユグドラシルプレイヤーだろうがこの世界の元からの住人だろうが、そんなことはオレには関係がない。ムカつくやつは叩き潰すのがオレ……アインズ・ウール・ゴウンの流儀だからだ
勘違いするなよ、オレはおまえを護りたいわけでも世界を護りたいわけでもない。オレが護りたいのはオレの本物の人生、オレだけの本物の人生、ただそれだけだ。だから、おまえから見てオレが遊び半分でやっているように見えるのであれば、オレはおまえから見て世界を
「……そうは……見えないよ。」
あぁ、アインズは……
「そしておまえに言っておきたいことはただひとつだけだ。
オレとオレの仲間たちには主従の差こそあれ、その成り立ちには本質的には何の違いもありはしない。オレはおまえの城を吹き飛ばした連中を片付けるつもりだが、もちろんオレが敗れることだってあり得る。仮にそうなったとしても、主人を失った下僕は魔神に違いないから殲滅する、などという短気を起こしてくれるなよ。」
ツアーは、いささかアインズを過小評価していたことを思い知った。
とても気さくで陽気で余裕があるように見えるこのユグドラシルプレイヤーは、自分同様にこの世界の他のあらゆる存在に比してあまりに強大な力を持っているがゆえに、こうも能天気でいられるのだ、と思っていた。思い込んでいた。
だが違う。
もっと早くに気付こうと思えば気づけたはずだ。たとえばスルシャーナ。彼と同じ
「もちろん、おまえから見て世界を
このアインズ・ウール・ゴウンという男は……
これだけ強大な力を有しつつも、恐ろしく考えに考え尽くしている。
彼がこれまでに喰らうわけでもないのに
だがこの男は、それを理解しつつ、しかも自分が屠る相手がこの世界においてそれぞれにとっては本物の生を生きていることまで理解し、それを尊重することすら誓いつつ、それでも屠らずにはいられない自身を呪うでもなく、ただひたすらに前進しようとしている。
この男は化け物の力を発揮するのではない。
歩み続ける精神が化け物なのだ!
「わかるよなぁ!」
「アインズ様ァ!」
突如止まった時間が動き出し、立ち上がったシャルティアがアインズに飛びついて抱きついたが、同時にアインズは膝をついた。
「ア……アインズ様ァ?
おのれツアー!何をした!」
シャルティアが一気に殺気立つが、アインズはすかさず割って入る。
「待て、シャルティア!
……ツアー
アインズはゆっくりと立ち上がりつつ、ふふふと笑っている。
「……考えてみれば、そんなことはありえないのでありんす。
しかし、御身は大丈夫なのでありんすかえ?」
シャルティアもさきほど見せた怒髪天の殺気はどこへやら、うふふと笑っていた。
(まったくトンデモないな、こいつらと来たら……)
ツアーはただただ嘆息する。
確かに……確かにアインズは本気で本物の人生を歩んでいるのだと。
「フフ、ちょっとしたお遊びでな。久々に
ツアー!
オレはこれで失礼するが、さっき話したことはゆめゆめ忘れないでくれよ。」
シャルティアが目を丸くして、鳩が豆鉄砲を食ったような可愛らしい表情を見せる。
「……?
アインズ様はお越しになったっきり、何も仰ってありんせんでしたが……」
その様子を楽しみつつ、ツアーは簡潔に答礼した。
「もちろん、忘れないよ。
いい話を聞かせてもらった、ありがとう。」
「それはよかったよ。
シャルティア、ツアーをまた外に連れて行ってやってくれ。
自然の獣だからな。ここでは息が詰まるだろうさ!」
わけがわからず首を傾げていたシャルティアであったが、一旦
「アインズ様の仰せのままに。」
*
意外なことに。
転機が訪れたのは半世紀ほど前のこと。ナザリック配下のアゼルリシア山脈南西部の採掘鉱山において大規模な落盤事故が発生した。
直接の原因……はちょっとした実験だった。魔法的な力によって鉱物資源のみを融解させ効率よく回収できないか、を試みたのだ。実験自体は成功で大量の金属資源の回収に成功したが、
この事件は自然愛好家ギルメン、ブループラネットの精神をも引き継ぐアインズに少なからぬ衝撃を与え、鉱物資源の採取を完全に
それから数年後、それ以前からトブの大森林のほぼ全域を掌握していたアウラとマーレから、常時
その報告はアインズのみならず、三賢者も含めて驚きをもって迎えられたが、蓋を開けてみればなるほどと納得がいく話であった。完璧な防諜対策で探索に望んでいた双子の
森側代表……彼らにそういう意識があるのか、は今以て定かではない……として現れたピニスンと名乗る
ピニスンの関心は森の健全な維持、ただその一点のみにあった。
語るところによれば、
一方で、彼らはアウラ、マーレを始めとする、時折慌ただしく現れては恐るべき力を発揮し、そして瞬く間にどこかへ消えていくナザリックの面々を観察してきて、この連中とは他の動物、亜人種同様の付き合い方をするのは不可能で、明示的に何らかの協約を結んでおかないと後々恐るべき破滅的災厄に見舞われるのではないか、と気づいたのだそうだ。
こうなると話は早く、アウラ、マーレにパンドラズ・アクターを加えた
これらの果実は同質量の鉱物資源にこそ及ばないものの、<
ここにアインズはさらに二つの
一つは、果実の採集を
この、滑稽にも旬を迎えた果実を大量に抱えた骸骨の大行軍は、原則として原生林の中でも特に動物の侵入が困難な険阻な地帯を介しておこなわれたが、定期的かつ大々的にやっているからには森に暮らす亜人種や、たまたま森に迷い込んだ人間の目撃者が生じ、後に「トブの
もう一つは、必要に応じて超位魔法<
とまれ、かくしてこの共存関係がお試し期間を経て安定稼働に至ったことにより、ナザリックの収支はトブの大森林ある限り健全な黒字が約束されることになった。これがここ二十年ほどの話となり、過去の累積赤字も帳消しにして五億枚のユグドラシル金貨を要する
無論、だからといってアインズは、
既に彼らは、アインズにとっては仲間であり、家族であるのだから。
……という話を、シャルティアにまたも
ツアーとしては、アウラがやたらと
それにしても、本当にこの連中は面白い、とツアーは思う。
ユグドラシルプレイヤーが何らかの財を恒常的に必要とするらしい、ということは、六大神や八欲王の行動から気づいてはいた。だが、理由がわからなかったし、それ以上に、
そもそも六大神がスレイン法国を建国したのは、租税徴収を
というのも、六大神はかなりの税を吸い上げはするものの、どうしたことかそれを一向に使おうとはしない。金貨銀貨は大量に鋳造されているはずなのに、大量の穀物が納められているはずなのに、六大神のもとに届くや否やそれらは消息を断つのである。当然のことながら、スレイン法国は恒常的な通貨、物資の不足状態に陥った。
このスレイン法国の混乱を、六大神自身は収拾することが出来なかった。
これを解決したのは、皮肉にも六大神を屠った八欲王である。
もちろん、八欲王によって法国が蒙った被害は甚大なものではあったが、生き残った人々はいた。そして彼らは、六大神が示した徴税方針をそのまま堅守し既に亡き神々の祭壇に税を捧げ続けたが、それをそのまま祭壇に置いていても意味がないことに気づき自ら消費するようになった。結果、国家財政が健全化し経済が回るようになったのだ。
生きている六大神はスレイン法国にとって迷惑千万この上ない存在であったが、死して後に初めてその
それを知ってか知らずか、この連中、アインズ・ウール・ゴウンの
しかも、よりツアーに眩暈にも似た感覚を覚えさせるのは、これまでに見知ったユグドラシル産の存在中こうしてもっともまともな行動を取る彼らが、ナザリック居候生活を始めて付き合ってみた限り個々の存在としては突出して
今もツアーの頭をポカポカと親しげに叩きながら「ねぇーアインズ様は凄いでしょー!」と語るアウラの粗雑さ、姉ほどではないがむしろだからこそ底知れぬ闇を抱えるマーレ、可愛らしくもあるがそれと表裏一体の突き抜けた狂気と常に共にあるシャルティア……ツアーは既にある程度の親愛の情を彼らに覚えつつあることを自覚してはいたが、それでもやはり、彼らが十三英雄とともに立ち向かった魔神が滑稽であったかと思えるほど空恐ろしい存在であることもまた感じている。
そして、こういった面々を百年もの長きに渡って破綻に陥ることなく、さりとて強権的に支配するでもなく率いてきたアインズ・ウール・ゴウンを名乗る
「あぁ、アインズは凄いね。ボクもそう思うよ。」
突如、それまで笑顔だったアウラ、マーレ、シャルティアの三人の殺気立った視線がツアーに突き刺さる。
「……あぁ、いや失敬。アインズ……
再び蕩けるような幼い笑顔を取り戻す三人を見て、