シズ・デルタにとって、
なので、デミウルゴスとパンドラズ・アクターの助手を拝命して以降も、その手法は基本的には変化することはなく、それぞれの上司に過去の記録からの調査を依頼されれば、ただただ総当たりで問題解決を図ってきた。
ここに変革をもたらしたのは、これまた意外なことにソリュシャン・イプシロンであった。
アゼルリシア山脈の鉱山が縮小するにつれて暇を持て余すようになったソリュシャンが、ある日何の気なしに
「たまにはお手伝いいたしますわ。」
と、デミウルゴスの日記からの、さして急ぎではない調べごとに共に当たったことがあった。
それは、日記一巻から目的の語彙、概念に該当する頁を過不足なく正確に抜き出すのに半時間も要しないシズから見れば、あまりにのんびりとした牧歌的な光景であったが、そこにちょっとした気付きがあった。
ソリュシャンは、おやつにアインズが屠った人間の手足をもにょもにょ食べながら日記の紙面を一頁、一頁とめくっていたのだが、時折小さな紙片に何やら書き付けて日記に挟むのである。
「……何してるの?」
「
ブラック会社員にしてエンジニアのヘロヘロを創造主とするソリュシャンは、他の
ユグドラシル末期、しばしばヘロヘロはログインこそするもののナザリックの外へと打って出る気力が起きず、
そのひとつが、この栞による
シズはデミウルゴスの許可を得て一旦作業を止め、ソリュシャンからヘロヘロから聞かされたノウハウの聞き出しに務めた。そして、ついに
そもそも日誌の精査に総当たりを要したのは、その記述が文字通りの日誌であり、かつ、かの行きあたりばったり甚だしい至高の四十一人の
比してデミウルゴスの日記は、デミウルゴス自身が創造主ウルベルト・アレイン・オードルの性向を引き継いで
シズはこれに索引を加えることを思い立ち、
即座に
並行して、デミウルゴスの日記はどんどん巻数を増していくのではあるが、最初の頃こそソリュシャンは「大変なことを始めてしまいましたわ」と他人事のようにぼやいていたものだが、方法論さえ確立してしまえば、倦まず弛まず飽きず懲りず正確無比にそれを繰り返すシズの処理能力は想像を絶していた。
かくして、今から十年ほど前に索引化は最新のデミウルゴスの日記に追いつき、以降は
アインズは、シズが造ったその名も<
かくして、シズはこの世界におけるナザリックの歴史の
余談になるが、ここから一歩進めて、これらの膨大な情報に種々の仮説を加味することにより、アインズの狩りの獲物候補の出現の事前予測が可能になるのではないか、という提案をデミウルゴスがおこなったことがあるが、これはアインズにより却下された。
これは鈴木悟が、やはりヘロヘロと愚痴り合った記憶によるものだ。
鈴木悟は営業職として働いていたが、詳細は思い出せないものの、基本的にはコンピュータが事前予測する顧客候補に対し購入が予想される物品を販売する、という業務であり、直接には関係しないものの、ヘロヘロがエンジニアとしてメインテナンスするシステムにも同様の機能を有するものが多かった。
こちらに来てからの思索の中で思い至ったことではあるが、アインズはかつての
そもそも人間は、何か必要なものがあればそれを自分で採りにいくところから始まったはずだ。これが、採って売るものと贖って得るものに分化することで市場が形成されるが、この時点でも人々は市場に必要なものを探しに
長くその時代が続いた後、コンピュータとネットワークの発達に伴って人は居ながらにして自身の欲するものを市場から調達することが可能になった。だがこの時点でも、欲するものがある者は、自らコンピュータにその入手方法を問うてはいたのである。
さらに時代が
そして、この思い出すも馬々鹿々しい労働の対価が、黎明期のナザリック地下大墳墓を支えていたのである。
鈴木悟はこの業務の馬々鹿々しさがわからぬほど愚かではなかったが、小学校を卒業したのみの彼に他に担えよう職務もなく、黙々とこの地獄の御用聞き生活を送る以外になかったのであるが、デミウルゴスから為された提案がこれを想起させたのは無理なからぬことと言えよう。
「そんなことをするくらいなら、問答無用にこの世界を破滅させた方がまだましだ。」
アインズは半ば呆れ気味にそう言い捨てた後は、このアイデアに再び触れることはなかった。
もし、この計画が着手されていたら、この世界には
今だって、やっていることだけ見れば同じじゃないか!
とまれ、今シズが取り組んでいるのは、デミウルゴスがツアーの昔話から析出した、今回の事件の重要参考人を中心とする人間関係の割り出しである。
流石にツアーは当該人物の名前までは口にはしなかったが、その特徴は概ねわかっている。
第一に、百年前のリ・エスティーゼ王国で活動していたらしきこと。
第二に、女かつ子どもの外見であるものの、人外でありこの世界においては度外の強さを有したこと。
こういった人物が、当時のデミウルゴスの日記の記録中に見つからないわけはない。さらにその動向、交友関係、を追っていけば、今回の事件を裏で糸引く者が誰で、今何処に潜んでいるのかは、確定こそしないではあろうが、これまた凡そあり得る範囲は絞り込むことが出来るだろう。
そして、絞り込みさえ済ませてしまえば、後は
そして、デミウルゴスの
*
「山火事?」
デミウルゴスからの報告に、たちまちにその意を察せずアインズは首を傾げた。
「デミウルゴス。それはアインズ様のお耳に入れるほどのことなのかしら?」
傍らにあったアルベドも同様のようだ。
が、アインズにせよアルベドにせよ、デミウルゴスが無用なことを言い出すとはこれっぽっちも思ってはいないので、話の続きを待つ。
「はい、アゼルリシア山脈の北西部、人間どものウロヴァーナ伯国に面したあたりで繰り返し。」
ウロヴァーナ伯国、の名が出た時点でアインズは意図を察した。目下話題の容疑者の潜伏先の第一候補だったからだ。
「放火……ということだな?」
「ご明察で御座います、アインズ様。」
人間たちがトブの大森林と呼ぶ領域はアゼルリシア山脈の南に広がる原生林のことであるが、ナザリックと協約関係を結ぶトブの大森林は山脈全体の植生を含んでいる。ゆえにアウラ、マーレはいち早く山火事の発生に気づき、シャルティアの協力のもとに
「その先を当てて見せようか。」
とアインズ。
デミウルゴスは黙ってうなずき、アルベドは怪訝な表情を見せる。
「そうだな……ウロヴァーナ伯国南東に領地を持つ地方領主が放火を命じ、
どうだ?」
「流石はアインズ様、ほぼ仰る通りで御座います。」
デミウルゴスは片手を胸に当て、歓喜の表情を浮かべながら腰を折る。
「あからさまな釣りだな。」
アインズは、ツアーの居城跡に工兵を送り込んだ際、監視者があることを見越してニグレドにこれを探らせ、
だが、ニグレドもそうだし、デミウルゴスの
ツアーの居城で試みられたように。
「罠に相違御座いません。まずは
との常識的なアルベドの献言は即座に遮られる。
「何を言っているんだアルベド。」
フフ、とアインズは笑う。
「この馬鹿どもは、よりによってこのアインズ・ウール・ゴウンに喧嘩を売ったんだぞ?」
アルベドは溜息をつきつつも、高揚を覚える。
無論、愛する
「デミウルゴス。
ニグレドの部屋にコキュートス、セバス、パンドラズ・アクター、シャルティアを集めろ。
出撃前の
相手は曲がりなりにもユグドラシルプレイヤーだ。
いつものようにはいかんから気を引き締めて来いと
アルベド。
アウラ、マーレと共に留守を頼む。嫌でなければツアーと共に
デミウルゴスはもちろん、最早アルベドにも否を唱えるつもりは毛頭ない。
「
アルベドは深々と跪礼を執り、デミウルゴスは、
「必ずやアインズ様のご期待に応えてご覧にいれますとも!」
と意気揚々玉座の間から駆け出して行く。
アインズは、常日頃の一方的な殺戮ではない、自身の命を賭した戦いの予感に、この百年一度たりとも覚えたことがない……はずだよな、多分きっと……興奮を感じ高らかに笑った。
「わはははっ、お楽しみはこれからだ!……(ペカー)……チッ。」
*
フォンドール男爵は大きく欠伸をした。
あと何度、この意味不明の饗宴を開けば不死の生命を得ることが出来るのだろう。
十日ほど前に先触れもなく訪れた魔女……としか表現のしようのない老婆から受けた世にも奇妙な提案は、眉唾物でありはしたが、魔女が自身の手の平を剣で突いても血の一滴も滴ることがなく、その口元に吸血鬼のそれと思しき牙が垣間見えたのは事実だ。
どうせこの先伯国は先細る一方だし、これといってやることがあるわけでもないので、男爵は魔女に言われるがまま、人に言いつけて
一瞬、神隠しの噂が頭をよぎらなかった、と言えば嘘になる。
が、仮にそれが本当だったら何だと言うのか。
うだつの上がらぬ地方貴族の家に生まれ、運良く当主の座を世襲したものの、自分の手にあるのは大した税収も上がらぬ痩せた土地とどこまでも陰気な領民、将来の展望のない国から気まぐれに請求される上納金だけだ。
「いっそ神隠しに遭って、すべて消えてしまえば清々するものを。」
「それはよろしゅう御座いますな。」
ん?
目の前に突如現れた漆黒の穴から聞こえた声が、彼がこの世で聞いた最後の言葉になった。
「……来たか!」
ピーがリーマンからの<
四人組はフォンドール男爵の
アナールと名乗る老婆から手渡された計画書には、フォンドール男爵領への道順と男爵邸周辺の地図、遠からずそこに四人組がアインズ・ウール・ゴウンのモモンガと
三日前に指示された地点に至った彼らは、リーマンに自分たちの周囲を監視させつつ必殺の構えでモモンガの来訪を待ち伏せたものである。
「リーマン、そのまま
敵は
ピーが嬉しそうに言うと、デルカは顔を顰めた。
「いや、おまえも
「私のは虫型
「では、手はず通りでよろしいですね?」
とダラム。
「四対二なんて余裕じゃないの?」
とケイト。
「いや、相手はあのアインズ・ウール・ゴウンのモモンガだ。
舐めてかかれば火傷どころじゃ済まんはず。
気を引き締めてかかれよ、おめーら!」
一気に鐘楼を飛び出し、ほぼ一直線にフォンドール男爵邸に向かって<
「<
もう少しで可戦域というところで、ダラムがモモンガが多用するであろう死霊系魔法の大半を時間限定ながら無力化する神聖属性魔法を展開する。これでいきなり即死魔法で瞬殺されることはない。
噂の切り札を除いては。
だが、彼らには対抗手段があった。
「そこだ!」
ケイトがいち早く目視で敵を捉えた。
左右の手に色違いのやたらと目立つ巨大な籠手を嵌めたモモンガと、帯剣しつつも抜刀していないコキュートスが男爵邸の使用人を次々と撲殺している。
「ご挨拶に一発お見舞いしてやるか……」
とピーが軽口を叩いたその瞬間だった。
モモンガに向けて飛翔する彼らから見て右手の屋根の上に新たに<転移>して来たものが居る。赤い
そして現れるや否や、
「<
<転移>による戦域離脱を封じられた。
意味するところは、連中は自分たちの強襲を予測していたということ!
だが最早引く筋はない。
改めてピーは持てる最大級の攻撃魔法の詠唱に入ろうとするが、さきほどまで人間を屠るのに夢中であるように見えたモモンガと目が合ったのに息を呑む。いつの間にか振り返ってこちらと相対しており、コキュートスが二本の腕それぞれに得物を構え、モモンガの三歩後ろで迎撃体制を採っている。
しかも、だ!
やおらモモンガは両の手を左右に開き、大声で叫んだ。
「ザ・ゴール・オブ・オール・ライフ・イズ・デス!」
「いきなりだとー!」
モモンガの背後に巨大な針時計が出現し、何処からともなくゴーン、ゴーンと音がすると共に針が進み始める。
虎の子の<完全神聖防御>も、<
そして、全域即死魔法が詠唱される。
「ワイデンマジック、クライ・オブ・ザ・バンシー!」
ふしゅー!
モモンガの背後から強烈な冷気が放射状に広がっていくのが視認された。
「な!」
<次元封鎖>はダラム、デルカ、ピー、ケイトのみならず、術者本人を含めた領域内の全員に有効だ。ユグドラシルとは異なり、こちらの世界では
と言うことは。
モモンガは自分のNPCたちを
そうか!
レベルダウン無し<
なんて
「ダラム、タイミングを誤ってくれるなよ!」
「もちろんですよ、ピー。」
とダラムは余裕の笑みすら浮かべる。
ゴーン、ゴーン……
モモンガとコキュートスの十数メートル手前の中空に停止したままの四人は、ただ時計の針が進むのを眺めて待つが、その針が残すところあと三秒、というところで、ピー、デルカ、ケイトの三人がダラムの肩に手をかけ、ダラムは左手を前に突き出した。
「<
必殺コンボ……破れたり!」
四人は息を呑みつつ、モモンガの背後の時針が
*
「キミがアルベドだね、はじめまして。」
ナザリック
「はじめまして、ツアー。
どうしてはじめましてなのに、私のことがわかるのかしら?」
涼やかで人好きのする笑顔を浮かべながらアルベドが応じるが、その金の瞳だけは笑っていない。
「アインズからキミのことは随分聞かされていたからね。
一目見て、すぐキミがアルベドだとわかったよ。」
くふっ。
と、一瞬アルベドの頬に赤みが差し表情が蕩けかけるがすぐに元に戻る。
「差し支えなければ、アインズ様が
この会話を続けている限り、ツアーが何かしでかすことはあるまい、と考えてのことではあるが、もちろん、言葉のままの興味もある。
「まぁ、いろいろだよ。
あの話は面白かったなぁ、キミがアインズを抱き締めたまま眠ると身動きが取れなくなって、そのまま三時間じっと天井を……
あー、いや、落ち着いてくれアルベド。
そういう悪い話ばかり聞いたわけじゃないんだよ、もちろん。」
アルベドの瞳に恐るべき怒気が生じたのに気づいて、ツアーは、ボクはいったい何をやっているんだ、と自分を可笑しく感じつつも取り繕った。
「……確かに言えることは、だ。
アインズが今ああしてアインズでいられることに、キミの果たした役割はとても大きい、ということだな。その点では彼はもちろん、ボクもキミには感謝している。会うことが出来たら、一度御礼を言いたいとは思っていたんだ。」
ん?という顔をアルベドがする。
どうやら、こういう物言いは想定外だったようだ。
「……もう少し詳しく伺うことが出来るかしら。」
そう言いながら、アルベドはツアーの顔の傍に足を折って座った。
「うーん、ボクはご覧の通りの、アインズに言わせれば
うまく説明できるかはわからないのだけれど。」
とツアーは言葉を濁す。
が、アルベドの視線がジッと彼を見つめて次の言葉を待っているようなので、ツアーは話し続けた。
「多分キミたちも気づいているとは思うのだけれど、アインズは好き勝手をやっているようで、随分とキミたちに気を遣っていると思うんだ。」
「……アインズ様が私たちに気を遣っている?」
「そうだよ。
たとえば……今そこで追っかけ合いっこして遊んでいる双子、アウラとマーレ。アウラの方がわかりやすいかな。彼女はいろんなことをボクに話してくれたけど、突き詰めれば一つのことしか言っていないんだ。」
「それは?」
「何を話しても、彼女は常にこうさ。
アインズ様は強くてお優しい
「……確かに、それはツアーの言うとおりね。」
「だからアインズは、アウラの前では絶対に強くて優しい自分であろうとするだろう?」
アルベドはようやくツアーの言わんとするところがわかり始めていた。
「シャルティアも面白いよね。
彼女はアウラやキミをアインズに対する
「ツアーは、どう思うの?」
「そうだなぁ……彼女にとってアインズは、駄々を捏ねても嫌々ながら遊んでくれる近所のお兄さん、って感じかな。アインズに以前、彼女の創造主の……」
「ペロロンチーノ様ね?」
「そう!そのペロロンくんの話を聞いたことがある。これもとても楽しい話で、アインズもとても楽しそうに話してくれたんだけど、まさにそのペロロンくんと……あぁ、ごめんアルベド、怒らないで。ペロロン……チーノ……様だね?これでいいね?その彼とアインズの関係が、彼女がアインズに求めていることなんだろうな、という気がするんだ。これはアウラもそうだよね?」
なるほど、この獣は獣ではあるが阿呆ではない、とアルベドは得心する。
ツアーがアインズと共に語らった時間は、この百年を通していくらほどもないはずで、ナザリックの居候になってからもさして時間を経ていない。が、この獣は、ナザリックの
「そしてキミさ。」
「……私?」
「アインズが何度も繰り返しボクに語ったのは……本人は語る都度に語ったことを忘れちゃっているんだろうけれども、キミだけが、アインズがアインズとしてそこに居てくれればそれでいい、と言ってくれる
「……」
「ボクはよくわからないんだけれど、これ、アインズはきっと
「……」
「ごめん、アルベド。何か気に障ったかい?」
アルベドが顔を下げたまま動かなくなったので、ツアーは自分らしくないな、と思いつつも気遣いを見せた。
対するアルベドは唐突に自身の中に生じた不思議な感情に当惑していた。
自分とアインズ……モモンガの関係には満足しているし疑問に感じたこともない。が、何故か、ツアーの言葉に対しては……これまでに誰も自身に投げかけたことのなかった真正面からの二人の関係に対する肯定的な賛辞に対しては、噛みつかずにはいられなかった。
「これは、
「そこだよ!」
とツアー。アルベドは驚いて顔を上げる。瞳にはやや涙が溜まっている。
それに気づいてか気づかずか、ツアーはそのままの調子で話し続けた。
「もちろんその話もアインズから聞いたよ。アインズがキミの……テキストとやらをアインズを愛するよう書き換えたこと。そしてそれが
ツアーがやたら楽しそうに語るのが不思議に思え、アルベドは続く言葉を待った。
「普通に考えると、これは呪いなんだよね。」
「……はぁ?」
「あー、いやいや怒らないで聞いてよ、アルベド。悪い意味で言っているのではないからね。
うーん、ボクらしからぬ話をしているからどうしても難しいんだけれども、普通、こうであれ、とか、こうであらねばならぬ、という外的な規定は呪いなんだよ、わかるかい?」
黙ってアルベドは頷く。
「アインズにも話していないんだけどね。ボクの父母と兄弟は、みんな八欲王と呼ばれるプレイヤーに殺されたんだ。」
「……そう……だったの?」
「あぁ、誤解しないでくれよ、アルベド。ボクら
でもね。
やっぱり、これはある種の呪いとしてボクを束縛している。
随分と昔の話だからもうキミは忘れてしまったかも知れないけれど、初めてアインズと会ったときに、アインズは随分とボクに腹を立てたんだよね。そのとき、そしてしばらく、ボクは彼が何にそんなに腹を立てたのかよくわからなかったんだけれども、今は少しわかった気がしているんだよ。
ボクは、両親兄弟の死、という呪いをうけて、この世界を代表してユグドラシルプレイヤーからこの世界を護らなければならない、という束縛を受けていて、それに気づかないままにいたんだ。
アインズはそれが気に入らなかったんだ、と思うんだよ。」
「仮にそうだとして、どうしてアインズ様は、あなたが呪いを受けていることを気になされるのかしら。」
「それは本人に聞いてもらった方が早いとは思うけれども、ボクの考える理由はこうだ。
ボクもアインズも、とてつもない化け物だ、他の
「……」
アルベドが再び黙り込んでしまったので、ツアーは、
「あぁ、まぁ、ボクのことはいいんだ。」
と一旦言葉を切る。
そして目を細め、彼なりに精一杯親愛の情の籠もった眼差しで彼女を見つめながら……
こう告げた。
「アインズもキミも、その呪いにちゃんと自覚があって、かつ、楽しそうなんだよ。」
アルベドの心に、それまで覚えたこともなかった何かが注ぎ込まれる。
「ボクにはそういう感性は本来ないんだけれど……でも……ちょっと羨ましいくらいにね。」
「……」
「それって、呪いじゃなくて、祝福だと思うんだよね……あれ、また気に障ったかな、アルベド?」
「……」
「……参ったなぁ、キミを虐めたと誤解されるとまたアインズに何をされるか……」
「ありがとう。」
「……え?」
「ありがとう、ツアー。ためになるお話をして下さって。」
「……あー、そうかい!それは良かったよ!」
これをアインズは貸しに感じてはくれないだろうか、とツアーはまたらしからぬことを考えていた。
*
「<
四人組の拠点ギルト、エリュシオンから
それにしても<次元封鎖>はモモンガにとって悪手ではないのか?
<転移>で離脱できなくなるのはエリュシオンの面々のみならず、モモンガの配下とて同じこと。
となれば、彼の噂の必殺コンボが発動した際……
<転移>できない彼の
そのとき!
ドカン!
突然傍らの壁が突き破られ、大量の土埃が舞い上がった。
「お邪魔いたしますよ。」
と、その中から声がする。執事服姿の白髪の老人だ。一見不似合いな巨大な巻物を肩紐にかけて背に背負っている。
「な、なんだ、オマエは?」
「セバス・チャンと申します。至高の
探査合戦はニグレドの圧勝だった。
リーマンは戦場のすべてを把握していたがニグレドによる逆探知にまったく気がつかなかった。
対してニグレドは、リーマンにまったく気取られぬままにリーマンの位置を特定していた。
実際のところ、両者の性能に大した差があったわけではない。
が、ユグドラシルにあって最大千五百人のプレイヤーによる飽和攻撃相手の防衛戦を支援したことのあるニグレドと、拠点レベル総計たかだか三百二十、ユグドラシル最後の日まで誰の関心を惹くこともなかったエリュシオンの
とまれ、場所を特定さえしてしまえば、あとはシャルティアが
セバスは軽く礼を執りつつも、その鋭い眼光で室内を見回した。
目前に居るのは病院で見られるような簡易ベッドに横たわるやせ衰えた老男性で、ご丁寧に生命維持装置らしきものに繋がれている。悪趣味な造形だが、おそらくこれが彼らの目に違いない、とセバスは判断する。他に気配は感じられず、
「おぉ!」
とリーマンが叫んだ。
セバスに驚いたわけではない。監視している映像の中の出来事に対してだ。
「……ふふふ……はははっ!」
突如リーマンは哄笑する。
「我々の勝ちだよ、セバスくん。」
セバスの表情は揺るがない。
「キミの主人、モモンガは切り札を切った。
やはりセバスの表情は揺るがない。
「どうしたね、少しは悔しがってみてはどうかね?」
それでもまったくセバスの表情は揺るがない。
「何か言ってみろ、ジジィ!」
リーマンは既に自分がこの確実に百レベルに達している執事に瞬殺されることは悟っている。だからこそ、あと何秒あるかはわからないが、残り僅かなこのときを勝利の余韻を味わいながら過ごしたい、と考えていた。
対するセバスの脳裏には、いけ好かない同僚に作戦開始直前に投げかけられた言葉が浮かんでいた。
「わかっているとは思うがね、セバス。
くれぐれもアインズ様のご期待を裏切らないでくれたまえよ!」
嗚呼、たっち・みー様。
「せめて、仲間を巻き添えにした罰を受けるモモンガがボコられる様子だけは一緒に観戦しないかね?」
即座に鉄拳が叩き込まれた!