修羅の国日本の霊能者、ホグワーツに通う 作:アママサ二次創作
イギリスについてそうそう。柩たちはイギリス側の魔法省の職員に迎えられていた。
「はじめまして。イギリス魔法省のオリビア・ライトです。以後よろしくおねがいします」
「日本特事省霊能丁所属の
「お、大鳥優羽です。よろしく、お願いします」
「小鳥遊柩です。よろしくお願いします」
互いに自己紹介を交わした後、では行きましょうというオリビアの言葉で4人はひとまずしばらくの宿となるホテルへと移動する。
「日本は魔法省では無いのですね」
「ええ。日本は他国と違ってまだ魔法以外の術が残っていますので。私もどちらかと言うと魔法よりはそちらの術の方が得意分野でして」
こうした探りを入れられるのは、日本にいる段階で関係者全員が想定をしていたことだ。日本がイギリスの魔法界に興味を持つと同時に、イギリスもそれを持つ。優羽や柩といった子供(だとイギリス魔法省は思っている)だけならばそちらと話すことも出来るが、今回優羽と柩がホグワーツに入学するのは、入学というよりは『留学』である。あまりに子供2人にちょっかいをかけ過ぎると、今後の両魔法界の関係が悪化する可能性すらあるのだ。
だからこそこうして案内に魔法省の人間が出てきているし、付き添いにもそれなりに下っ端とは言え血筋も肩書もある夏目が派遣されていた。子供から話を聞くのはゆくゆく、ということで、それより短い時間の夏目に焦点を絞っているのだ。それを聞いた夏目が『めんどくさいーー!』と駄々をこねたのは記憶に新しい。
「魔法以外の術、ですか。どのような術かお聞きして良いですか?」
「私は陰陽道という術を得意としています」
「陰陽道……それはどのような」
「そうですね……大雑把に説明すれば、こちら風の魔法、と言った感じでしょうか。ああ、ただ怪異や怨霊の類を対象とした術が多いです」
「怪異や怨霊、ですか」
「ええ。そういえばイギリスの魔法界では数年前まで大きな騒動があったそうですが」
「……ええ、ありました。ですがその件についてはあまり──」
情報の奪い合いをしながらも、互いににこやかな笑みを崩さない。イギリスの側からしてみれば日本に舐められない、あるいはマウントを取りたいという思惑があるが、それに夏目が張り合っているのは『日本からの大使だと思ってネ』という成忠からの言葉があったからだ。
そもそも現代の日本の魔法や霊能側の世界において、一般の人間界と交わっている人たちというのは血筋や実力としては上の下以下が大半だ。上の中、上の上の人たち、例えば古代から伝わる濃い陰陽師の血筋や神の血を色濃く引くもの、強力な魔法使いなどは、隠遁生活をしていたり、神社、神域、隠れ里など俗世とはある程度隔絶された空間に住んでおり直接的に世俗社会へと手を出さない。
そうした特に強力な力を持つものたちと一般社会の間を取り持つのが、それなりの力を持ったもので構成される特事省などである。
まあ要するに、日本の特事省には特事省にいる時点で高貴さなどに対する大したプライドというのは無いのだ。無いというか、より上がいるのは当然という納得があるわけである。
最たる例が皇族だ。2700年も続く神の血を引く一族であり、その高貴さは一般の旧華族なんかとは比べ物にならない。そしてそんなことは誰もが理解している。
ちなみにマホウトコロなんかは少しばかり例外で、教育熱心なそうした高貴な血筋の者たちが教師として普通にいたりもする。成忠なんかも特に優れた陰陽師の血筋である安倍の、それも直系ではあるが、本人が教育を重要視しているので隠遁生活をすることなく校長なんてやっているのだ。
つまりは、別にイギリス魔法界にマウント取られようが舐められようがどうでも良いのである。それよりも情報抜かせてね、ということだ。
そうこうしているうちにホテルにつき、翌日以降の話をされる。まだ入学までは半月ほどあり、入学に必要となる道具、例えばこちら風の魔法を使うのに使用する杖の用意などしなければならないことはあるが、それでも観光をする余裕もある程度はある。イギリスでの生活に優羽を慣れさせるためにも、柩も夏目も街に出ていく気満々だった。
******
イギリス滞在3日目。到着した日と翌日をホテル内での完全な休養に当てた3人は、今日イギリス魔法界でも重要な店などが集まっていることで有名なダイアゴン横丁を訪れることになっている。
「ダイアゴン横丁、どんなところかな」
「楽しみか?」
「うん! 京都の隠れ里みたいなところなのかな。それとも秋葉原?」
「イギリス魔法界は今も多くの伝統を残している場所らしい。どっちかと言えば京都の方が近いんじゃないか?」
優羽の初めて見る場所への期待と興奮と共に10分前行動をした2人は、ホテルのロビーで遅れてくる夏目と今日案内してくれる予定の魔法省の職員、そしてホグワーツの教師を待っていた。
今話しているのは、日本魔法界における隠れ里、すなわち様々な術を扱えるものしか入る事の出来ない空間のことだ。そうした場所は日本中にあちこちに存在し、更には魔法や陰陽道など特定の術を扱えるものしか入れないような閉鎖的な隠れ里も存在している。
その中で今柩の上げた2つは、特に栄えている隠れ里の代表格のようなものだ。京都の隠れ里は、古来から伝わる道具や伝統的な術の指南書、塾など、言ってみれば『伝統を護る隠れ里』である。一方秋葉原の隠れ里は最近活動が活発になっている場所であり、オタクの聖地たる秋葉原にふさわしく、新たに開発された魔法や、特に小説やアニメ、ゲーム、漫画などの創作物を参考にして作られた術に関わる道具などを扱っている店が多い。
またそれぞれの特性から、京都では代々伝わる老舗が多く、秋葉原では個人経営から複数人が出している屋台、しっかりとした店舗まで、まさに混沌の坩堝とも呼ぶべき様相を示している。
その2つのどちらがイギリス魔法界のダイアゴン横丁に近いかと聞かれれば、京都と言わざるを得ないだろう。というか柩は、日本の秋葉原ほどのカオスを知らないし、そんなものが存在するとは思っていない。
ありとあらゆるものを、更には存在していなかったものまでも混ぜた空間など、他にあるという方がおかしいだろう。
秋葉原とはそういう場所なのだ。最近では特にアメリカの魔法師や中国、韓国の魔法師なども海を渡って訪れている。
そんなことをしているうちに急いだ様子の夏目が。そして先日案内してくれた魔法省の職員がやってきた。
「それではこれからダイアゴン横丁へ案内します。ホグワーツ側の職員は通りの入り口で待っていますので」
「はい!」
「ありがとうございます」
優羽が元気よく返事をし、夏目が丁寧に感謝を述べる。柩は何故ホグワーツの人は来ないのだろうかと疑問に思ったが、それを特に述べるようなことはしなかった。
そこから一度バスを乗り継ぎ、向かった先は漏れ鍋と通称されるパブのその裏。ロンドン魔法界有数の通りの入口は、こうして非魔法族、すなわちマグルから隠されているのだ。
そしてそこの壁のレンガを、女性職員が数度、決まった手順で叩く。するとレンガの壁が動きはじめ、その奥へとつながる道が開いた。開いた先はどこかの店へと繋がっており、中では昼間からではあるが酒を飲んでいる者たちがちらほらと見える。
「通りへは煙突飛行ネットワークで来ることも可能なのでそちらを利用する人が多いのですが、それが出来ない場合はこの方法で来ていただくことになります。正直、その、全員が品の良いものとは言えないのでなるべく早く店から出ることをおすすめします」
女性職員はそう説明してくれるが、夏目と優羽はレンガの扉から店内を物珍しそうに見ておりまともに聞いていたのは柩1人であった。
そのまま職員に促されて店の外、通りに出たところでようやくホグワーツの教師と合流する。古めかしいローブととんがり帽子に身を包んだ厳格そうな女性が、ジロジロと、というほどには品の悪くない視線で3人を観察してきた。その姿を見た柩は、この姿ではホテルまでは来れないだろうと先程の疑問の答えを勝手に得た。
「皆さん、こちらホグワーツで教鞭を取ってくださっているミネルバ・マクゴナガル先生です」
「ヒツギ・タカナシです。よろしくお願いします」
「お、ユウ・オオトリです! よろしくお願いします!」
「日本特事省霊能丁のナツメ・シゲオカです。末永くよろしくお願いします」
イギリス風の、名が先に来る自己紹介を3人がすると、マクゴナガルも改めて名を名乗ってくれる。
「ミネルバ・マクゴナガルです。ふたりとも、ホグワーツでは学業やその他活動に精一杯取り組んでください。困ったことがあったら相談にのります」
気遣う言葉をかけながらもニコリともしないのは、この表情が彼女にとっての普通になっているからだろう。
「では、マクゴナガルさん、案内をよろしくお願いします」
「わかりました。では3人とも、行きますよ。すでに書類を送っていると思いますが、買わなければならないものがそれなりにありますので」
そう言ってマクゴナガルは案内を始める。魔法省の職員は帰りの案内もあるので後ろからついてくるようだ。
通りはイギリス魔法界随一の買い物通りだからか、平日にも関わらず多くの人で賑わっている。もっともマグル界と隔絶されたイギリス魔法界で曜日の感覚というのがどれほど役立つのかはわからないが。
雑談などの無駄口を一切叩かないマクゴナガルに案内されてまず向かうのはマダム・マルキンの洋服店である。2人はここで、ホグワーツの洋服やローブをを購入する必要があった。ちなみに通貨はすでに日本円からイギリスドル、そしてイギリス魔法界の通貨へと換金してあるので問題ない。優羽は未だに通貨の単位を覚えていないが、今日の買い物がいい練習になるだろう。
「お久しぶりですミズ・マルキン。この2人の制服とローブ、それに予備をよろしくお願いします」
店主に対して端的に述べるマクゴナガルに対して挨拶を返した後、2人の方へとその女性と、そして魔法で動いているであろう巻き尺などが飛んでくる。
「こんにちは。2人ともホグワーツの新入生かしら。お名前は?」
「は、はい! 大鳥優羽です! 日本から来ました! よろしくお願いします!」
初対面の相手と話す練習、という体で会話を任されている優羽が緊張した様子で挨拶をすると、2人の採寸をしながらもマルキンが話しかけてくる。例年新入生の買い物はもう少し遅い時期、入学の一週間前ぐらいからなので他の客もおらず、話している余裕があるのである。
「まあ、ほんとに? 日本には日本の魔法学校があるのではなくて? 確か……」
「マホウトコロ、ですか?」
「ああ、そうそう、そんな名前だったわ」
外国に対して大して興味の無いマダム・マルキンでも、よその魔法学校の名前程度なら知っているらしい。
「えと、私お母さんがイギリスの人で、だからホグワーツから入学しないか、って」
「そのまま日本の魔法学校に通うことも出来たのですが、せっかくの機会ですし留学という形でホグワーツに通わせていただくことになったんです」
「まあ、そうなの。そちらの子も?」
夏目の補足を受けたマダム・マルキンは、今度は柩の方へと話を振ってくる。
「ヒツギ・タカナシです。以後よしなに。俺は彼女の護衛です。ちょうど同じ年齢だったのでホグワーツに通わせていただけることになりました」
「護衛……」
子供1人に対して護衛、とは穏やかな話ではない。イギリス魔法界にも高貴な血筋の者もいるが、それでも付き人のような関係性の子供はいれど、はっきりと護衛と言えるようなものは滅多にいないのだ。魔法族の間でそういった形の上下関係が存在しないとも言える。
「オオトリの家系は日本でも有数の一族です。そのご息女を外国へと送り出すのに護衛の1人もつけない、というわけにはいきません。大人の護衛をつけるわけにはいきませんし、俺に白羽の矢が立った次第です」
この護衛、というのはイギリス魔法界に対して日本特事省や和国数多術修道処がでっち上げた柩の立場である。護衛という立場であれば若い身で実力があるのもおかしな話ではないと言い訳がつくし、場合によっては優羽にべったりになることもできる。口調がいささか大人びていることに関しても護衛だからという理由で片付けられる。そういう便利な立ち位置なのだ。
実際は優羽に何かがありそうなら優羽を見守っている神様が出てくるので柩の役目はない。むしろ神様がやりすぎないように宥める方がお努めだったりするのだが。そんなことは向こうの人間にはわかりっこないのである。
「オオトリと違ってタカナシの入学は特例です。成績が低いような退学もありえるのでしっかりとするように」
「わかりました」
実際のところは退学なんてありえない。優羽をホグワーツに迎えたいというのはイギリス魔法省もそうだが特にホグワーツ側の意地である。むしろそれに対して日本側が譲歩としてむしり取ったのが柩の入学資格だ。どれだけホグワーツが独立した権力を持っていようと日の本までは及ばない。
「採寸は終わりましたね? それでは服が完成するまでの間に他の買い物を済ませてしまいますよ」
マクゴナガルに促された3人は、マダム・マルキンに分かれを告げて次の買い物へと向かった。
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マダム・マルキンの洋装点を出た後は、まずフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に行って教科書などを。続いてペットとなるふくろうや猫、蛇を扱っている店に行って優羽が猫を購入した。梟は優羽についている神様と生物として見た場合の系統が親しく、蛇は神として見た場合に違う系統で存在している。そのためもっとも優羽を見守っている神様と余計な相性の悪さが無さそうな猫を選んだのだ。そもそも梟や蛇の側も神様の存在を感じているからか積極的に優羽になつこうとしないので、そういう意味でも猫しか選択肢が無かったと言える。
柩は柩で、体質的にそもそも動物との隷属契約、使役契約などが無理なのでペットは買っていない。
そして最後に訪れる店。
『オリバンダーの店』。シンプルな名前だが、ヨーロッパの魔法界においては重大な意味を持つ。
「こんにちはー……」
積み上げられた箱で見通しの聞かない店の中へと、優羽は恐る恐る。柩は泰然とした様子で入っていく。他の店にはマクゴナガルも夏目も魔法省の職員もついてきてくれたのだが、この店だけは2人で行くようにと言われたのだ。
この店では、その魔法使いと杖の相性を、実際に杖に触れることで試す。そこに余計な要素、例えば優羽の杖の相性を調べているのに、そこに杖を持ったマクゴナガルがいたりすると余計な相克を起こして大惨事になる可能性があるのだ。
と言っても店の中がとっ散らかるのはいつものことなので大した問題でも無いのだが、ちょうど大人だけで話しておきたいことがあるということで2人だけで行くように言われたのである。
「いらっしゃい。待って「ひゃっ!」。大丈夫かな?」
杖が高く積まれた薄暗い中でかけられた声に驚いた優羽が悲鳴を上げてしまう。そのまま積まれている箱に突っ込みそうになったので、柩がそれを抑えて大惨事を未然に防いだ。
「ご、ごめんなさい。びっくりしちゃって」
「大丈夫じゃよ。それにしても、懐かしいのう」
「え?」
目を細めるその小柄な男性、店の主であるギャリック・オリバンダーは、優羽を見ながらそう口にする。
「君の母君も、ここで杖を買っていったんじゃよ。もう20年は昔になる……暖かな空気をまとった少女じゃった」
「あ、お母さん知ってるんですか?」
「ああ、もちろん。さて、今日は2人とも、杖で良かったかな?」
問いかけに答える2人を確認して、オリバンダーは手近にあった杖を箱から出す。名前を尋ねなかったのは、この店においてそれは必要ないからだ。この店において大事なのは、ただ杖との相性。それだけである。
「1人ずついこう。お嬢ちゃん、まずはこれを振ってくれるかな? イチイの木、ユニコーンの毛、27センチ」
それを受け取った優羽が杖を振ると、先から光る何かが飛び出し、店の一角に積まれている箱にぶつかって大きくそれを崩した。
「わ、わぇ!? ご、ごめんなさ──「次はこれじゃ、ハンノキ、ドラゴンの心臓の琴線、30センチ」」
優羽の謝罪を遮ったオリバンダーは、今度は別の杖を優羽に渡し、優羽がそれを振り上げるが振り上げないかのうちにひったくってしまった。おそらくはこの被害が店内に出るのもいつものことで、こうして杖を使わせることでオリバンダーの目から見た杖との相性を測っていくのだろう。
それに気づけていない優羽は目を白黒させているが、その間にも杖をとっかえひっかえさせられ、どんどん店内に被害が出ていく。
そして数十本は試したかというころ。
彼女の振った杖の先から、美しい光が螺旋を描いて飛び出し、空中で鮮やかに消えた。
「これだな。ハンノキの木材に若いユニコーンの毛、30センチ。穏やかで思いやりのある貴女に最適、というわけだ」
そう言って渡された杖を、少女は嬉しそうに見つめている。
「これ、私の?」
「そうとも。ハンノキもユニコーンの毛も、いずれも所有者に忠実なモノだ。最強の組み合わせというわけではないが、きっと心優しい君の行く末を守ってくれる」
「あ、ありがとうございます!」
嬉しそうに優羽が杖を眺めている一方で、柩はイギリスの魔法における杖の役割について考えていた。
今見ていた限り、ここの魔法では魔法を使う際には特に何か特別なものを使用しているわけではないようだ。日本であれば魔力というエネルギーであったりあるいは血など何かを支払うのが通常だが、そういったわけではないようである。というよりは、魔法を使うためのシステムを外からはっきりと観測するのが難しい、といった方が良いだろうか。おそらく何らかの力があり原理があり魔法が発動しているのだろうが、それが杖と魔法使い、そして魔法のみで完結しているので外から見ていても魔法の結果しか見て取れないのである。
そう考えると、おそらく杖の役割は魔法を外に出力するための媒体、あるいは魔法力とも言える何かを形に整えてくれるものである、と考えることが出来る。
日本の様々な術でもそうだが、刀や神楽鈴、依り代などの道具、あるいは魔法陣のような図形や、音声である呪文など、様々なものを媒体、あるいは力の行き先を示す道具とすることで術を行使している。日本のそれは多様化しすぎていてぐちゃぐちゃだが、イギリスではそれが洗練された『杖』という一つの道具にまとめられているのだ。どちらが良い、というわけではないが、そういう形で柩は理解した。
日本におけるそれらは、同じ術を使う場合でもどちらが良いか常に実験が繰り返され、研究が進められている。例えばこちらと同じように桜などの木材に魔法生物や蛇神の一部などを芯材に使った杖も存在はしているが、あくまで一例に過ぎず他に様々なものが使われている。一度結論が出たであろうものでも異なる観点からのアプローチや分析が図られ、日々新たなことが発見されている。それが、日本の術の世界だ。ここイギリス魔法界とは、一線を画しているとも言えた。
「さて、お次は君だ。まずはこれを──」
そう言ってオリバンダーが差し出してきたのは、先程優羽が試したばかりの杖である。通常オーソドックスな杖から試していき、その反応を見てオリバンダーが杖を絞っていくのが普通、なのだが。
杖に触れるか触れないか、といったところで『バチッ!』と大きな音を立てて火花が飛び、手が弾かれる。
「ほう……?」
その反応を見たオリバンダーは興味深そうに眉を上げた後、次に試させる杖を思案する。
杖と魔法使いの相性が悪いことというのはよくあることだ。だからこそ様々な種類の木材や芯材が使われている。
だが一方で、これほどまでにはっきりと、『杖に拒絶される』などというのは見たことがない。
と。オリバンダーの後ろにあった杖の山が細かく振動を始め、数秒後、その山の奥から前にある杖をかき分けて一つの箱が飛び出してきた。そして勢いのままに柩の頭にツッコミ、その直前で柩の手によって受け止められる。
「これは?」
「……使い手がおらず父の代から残っていた杖じゃ。サンザシの木材にセストラルの尾毛、33センチ。じゃが……」
柩の手からその箱を受取ったオリバンダーは珍しく表情を曇らせる。
「何かあるんですか?」
「サンザシの枝、セストラルの尾毛ともに、強い死を象徴するものじゃ。この杖は死に魅入られておる」
オリバンダーが眉を潜めたのは、その杖に使われている木材と芯材の組み合わせだ。何故オリバンダーの父がそんなものを作ったのかと本気で疑問に思うぐらいには頭のおかしい組み合わせなのである。芯材と木材の相性とか以前に、それぞれが象徴する死が強すぎて単体でも扱いに困る程のものを何故組み合わせたのか。
しかもこの杖に関して言えば、木材は生きている木からではなく枯れた後の木から取られている。この杖を使えるのは、あるいは死者だけなのではないかと。
そうオリバンダーが考えているうちに、柩は導かれるように右手を上げ、その下向きに開いていた手のひらを、キュッと、杖を掴む形へと変える。同時にその手へ導かれるかのように、箱の蓋をはねのけて飛び出したその杖は、柩の手の中へと静かに。何の拒絶反応も、あるいは魔法も見せずにただただ静かにおさまった。
「杖が、懐いておる」
「懐く?」
「魔法使いが杖を選び使う、というのが普通じゃ。例え相性があろうと、選ぶのは魔法使い。だが今、その杖は君に使われたい、と自ら手元へ……こんなことは初めてじゃ……」
あるいはこれが強力な杖の素材であるニワトコにドラゴンの心臓の琴線などであれば、未来の偉大な魔法使いの誕生だと言うことも出来ただろう。
だが、その杖が杖だ。死を具現化したようなその杖。
死を内包した柩がそれに選ばれるのは、あるいは必然であったのかもしれない。
書きたいところだけ書くシリーズと言いつつ自分の考えた日本魔法界を表現したくて結局丁寧に書く形になってます。これでも日本の制服のところは次話以降に回したり使い魔あたりのことは省いたりはしているんですけど……。