修羅の国日本の霊能者、ホグワーツに通う 作:アママサ二次創作
「外で聞いてる人、入ってきたらどうかな?」
優羽と日本語のまま会話していた柩は、英語でドアに向かって声をかけた。すると、すぐに勢いよく扉が開いて1人の少女が顔を出す。
「ねえ! 今何語で話していたの? 私フランス語とドイツ語なら聞いたことあるけど今の言葉は聞いたことないわ! 響きからしてヨーロッパ系の言語じゃないわよね! となるとアフリカかアジアかしら。そっちの言語は──」
「落ち着け!」
留まること無く口から言葉が滑り出てくる少女に対して柩が声を張って制止をかけると、少女がピタリと口を閉ざすと同時に隣に優羽もビクリと肩を揺らした。
「そう勢いよく話されては答えられないだろう」
「あ、そうね。ごめんなさい、興奮しちゃったわ」
柩の気迫にのまれたように黙った少女は、大人しく柩のアドバイスに返事をする。続けて柩は、優羽に対して声をかけた。
「優羽、ブレスレットとイヤリングは?」
「あっ!」
柩に指摘されて、忘れてた! と慌てた優羽は、トランクとは別に持っていたボストンバッグを漁り始める。
「何してるの?」
「翻訳用の道具を探してる。彼女は英語がまだ完璧じゃないから」
「どこから来たの?」
「日本! だよ!」
柩に問いかけた少女に答えたのは、ボストンバッグから取り出したイヤリングをつけた優羽だった。さっきまでは聞いたことの無い言語に聞こえていた優羽の声が、今は少女には綺麗な英語に聞こえていた。
「ごめんね、翻訳用の道具つけるの忘れてたの」
電車に乗るまでは日本でかけてもらった翻訳魔法が残っていたので使うのを忘れていたのだ。ホグワーツ特急から先はホグワーツ、つまりは英国魔法界の領域になるということで、魔法を解析されないようにかけていた魔法は解除され、代わりに魔法道具を使うことにしていたのである。
「そ、そう。私、ハーマイオニー。ハーマイオニー・グレンジャー。あなた達は?」
「優羽、自己紹介」
「わかってるもん! 私は大鳥優羽、よろしくね!」
「俺たちの国とこっちだと姓名が逆だから、ここではユウ・オオトリだ。俺はヒツギ・タカナシ。よろしく頼む」
元気よく挨拶をした優羽と落ち着いた柩の差にハーマイオニーと名乗った少女は目を白黒させる。
「話すなら座ったらどうだ?」
「そ、そうね。そうさせてもらうわ」
入り口付近で固まっていた少女にそう声をかけると、柩達と同じコンパートメントに乗ることに決めたようで、大きなカートを押して室内に入ってきた。
その様子を見た柩は、女子2人で話してくれれば良いと書類の束を取り出してそれを読み始める。ホグワーツに派遣された柩だが、本職はあくまで霊能、神祇系の祓い師、あるいは戦闘屋だ。その中では怪異や怨霊から禍津神などの人に害をなす神、あるいは柩と似たような力を持つ人間等様々な者を相手することになる。最新の情報の入手は職業柄どうしても外せないことなのだ。
一方まだ内心落ち着かないながらも席についたハーマイオニーは、書類を読み始めた柩ともじもじしている優羽を見比べて話しやすそうな優羽に声をかける。
「ねえ、あなたたち日本から来たって言ってたけど、それって本当?」
「う、うん」
「日本からなんでホグワーツなの? ほら、私教科書で読んだのだけど日本にも魔法学校はあるでしょ? マホウトコロだったかしら。世界の魔法学校で一番人数が少ないって書いてあったわ」
初対面の相手でもガンガンいけるハーマイオニーと、慣れた相手には明るく話せるものの若干人見知りの気がある優羽では、ハーマイオニーがグイグイ押していくような会話になりつつあった。
「えと、私のお母さんイギリスに昔住んでたって。それで、ホグワーツ? 魔法省? からイギリスに来ないか、って連絡があって……」
「ふーん……。ねえ、あなたはなんでホグワーツに来たの?」
優羽の話を聞いたハーマイオニーは、続けて論文に目を通している柩にためらうこと無く問いかけた。相手が何をしているかよりも、彼女は好奇心が勝利したのだ。話半分でそちらを聞いていた柩は、一度ちらりと視線をやった後論文の束を閉じてハーマイオニーの方をしっかりと向き直る。
「彼女のお供、みたいなものだ。知らない土地に1人で行くのは不安だろう?」
「じゃああなたはイギリス人の血が流れているわけではない、ってこと?」
「俺は日本の者だよ」
人か、と聞かれると半分以上は違うものが混ざっているのだが。
「そういえば私、ホグワーツからの手紙が来てから調べたのだけど、日本って魔法使いがテレビに出たりするわよね。図書館の、と言っても魔法族じゃなくてマグルの図書館だけど、本でも日本の魔法使いについて書いている本がいくつかあったわ。あまり詳しく書いていなかったしどちらかというと御伽噺のようだったけど。なぜイギリスや他の国は魔法使いの存在を隠しているのに日本は隠していないのかしら。『世界における魔法使い』では、魔法使いはマグルからの攻撃を避け、魔法界とマグルの世界を区別するためには魔法族の存在を気づかれないことが最善だと書いてあったわ」
「そうなの?」
「この前教えただろ」
「あたっ」
ハーマイオニーの言葉に優羽までもが疑問の表情を向けてくるので、柩は彼女に軽くデコピンをする。魔法族とマグル、それに神祇系の人間までもが普通に同じ場所に存在し交流している日本と、マグルと魔法族を完全に区別しているイギリスでは社会における魔法使いの立場が全く違う。そしてその認識は、イギリス魔法界に来るにあたって最も重要な注意事項とされているのだ。イギリス魔法界でのタブーを犯すよりも、外に魔法界の問題が漏れることをイギリス魔法界は恐れているのである。
「一つの物事に対してはいろんな対応の仕方がある。イギリスや他の国は秘匿することを選んだけど日本は選ばなかった、というだけの話だ」
「でも、多くの国がしている通り魔法界の存在は隠したほうが正しいんじゃないかしら。本を読む限りでは知られても良いことは無いと思うわ。今現在魔法界は魔法界で十分にやっていけてるもの。私も魔法使いの才能が無ければ何も知らなかったと思うから、本当にホグワーツからの手紙が来たとき嬉しかったわ」
「イギリスではそれで成り立っている。ただそれがどこでも成り立つかというと、そうではない、ということだ」
「そうなの?」
疑問を浮かべるハーマイオニーの質問に答えるために、柩は優羽に視線を向ける。
「優羽、日本とイギリスでは魔法関係で大きな違いがあるんだけど、何だと思う?」
「違い?」
「そう。今ミス・グレンジャーが言ったのとは別で、思いつくのがあるかい?」
柩の言葉に、優羽が腕を組んで考え込む。そしてすぐに顔を上げた。
「わかった! 神様がいない!」
「ほぼ正解だ。正確に言えば、神様と人間の距離間の違い、だな」
「どういうこと?」
「イギリスで信じられている神というとキリスト教がほとんどだろう?」
「そうね。私の家もキリスト教だわ」
魔女狩りが横行したヨーロッパに存在するイギリスにおいて、魔法使いは基本的に神を信仰していない。この場合はイギリスなのでキリスト教、と言うべきだろうか。キリスト教の側が魔法使いを敵視しているために、魔法使いの側もそれを信仰しないのだ。というかそもそも魔法という神秘を持つ彼らは神の存在を真の意味で信じることはありえないのだが。
その点で言えば、ハーマイオニーがマグルの家系出身というのはここから先の説明を簡単にしてくれる。
「ただ、キリスト教が信じられていてもキリストは、つまりは神が人間に何かをしてくれたり、姿を見せたりすることは無い」
「それは……そうよ。神の姿を見たことがある人なんてそれこそ大昔の聖人ぐらいじゃないかしら」
「ま、それがイギリスでの神に対する認識だ」
そこで柩は一旦話を区切って間を置く。その間に柩の言葉を頭の中で整理したハーマイオニーは思ったところを問いかけた。
「日本では違うの?」
「日本はキリスト教と違って信仰の形態が多様だし、仏教にしろ神道にしろ仏様や神様の数は多い。特に八百万の神なんかがそのいい例だ。そんな神様がいるということを日本人は普遍的に信じている。イギリス風に言うなら国民全員が多神教を信仰してる、ってところか? そしてそういう環境にある日本の神様は割と普通に人間の世界に降りてくるし、人の前に姿を見せる」
柩の言葉に一瞬止まったハーマイオニーは、動揺した様子で尋ねる。
「待って……。つまり、日本では神様に会える、ってこと?」
「運が良ければ、だが。な、優羽」
「うん! イギリスに来る前も神様がお見送りしてくれたんだよ」
「そういう社会だから、必要性の面から言えば魔法なんかの存在を秘匿する意味が特に無いわけだ。神様とか妖怪とか、普通にその辺にいるから。加えて日本人は魔法とか他の宗教とかそういうのに対して寛容だから、魔女狩りの再現みたいにことにもなり得ない。加えて日本と他の国で魔法を秘匿する難易度も全く違う。イギリスだと魔法使いが使う魔法だけ隠せばいいが、こっちはそうはいかない。そういう環境があって、日本は他の魔法界と違って存在を秘匿してないんだ。ま、国際魔法連盟からはずっと連盟に参加して魔法の存在を秘匿しろってうるさく言われてるがな」
日本以外の魔法界はすべて、といっても規模の小さい隠れ里のような魔法界がある国はあるかもしれないが、そういった例を除けば大規模なものはすべて国際魔法連盟に所属している。そしてそこで常々色々な話し合いが行われたり交流が行われたり。
一方日本は、そうした魔法界とは違って国として魔法や神秘の存在を認めている立場にある。そのため魔法の秘匿を前提とする国際魔法連盟には加盟しておらず、個々の魔法界と外交を行っている状態だ。
「そう、なのね。やっぱり日本は興味深いわ。本を探してみないと。ホグワーツにも大きな図書館があると言うし、行ってみたいわね」
「図書館? ホグワーツにも図書館があるの?」
「ええ、そう『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ。知らないの? 教科書では無いけれど、ホグワーツに通う前に読んでおくべきだと思うわ」
そう話しているハーマイオニーは知らない。日本の魔法界に関する情報が古い歴史書の片隅に記載されているものしか見つからず、なぜなのかと柩と優羽に詰め寄る未来があることを。