ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

1 / 53
n番煎じネタですまんな。

思いついてしまったためここに供養しときます。

追記:連載にしたので1話目を分割します。長すぎますしね。


【怪物】と【獣】の会合

 五月も終わり頃、気候は夏に入りかけているこの日、東京レース場に何十万という人が詰めかけている。晴天が照らすレース場は満員で、そこからあぶれた人による喧騒が、今日のレースに寄せる期待を感じさせていた。

 

 今日このレース場で行われるのは日本ダービー。クラシック級のウマ娘たちが競い合うレースであり、一生に一度しか機会のない大舞台であり、そしてナリタブライアンにとってはクラシック二冠のかかったレースでもある。

 

「フン…分かってはいたが、騒がしいものだ」

 

 控室で開始を待っているナリタブライアンは呟く。群れることを好まないブライアンだが、バ群という名の群れから抜け出せるレースは好きだ。

 そして何より、飢えを、その身を焦がす渇望を満たすためのたった一つの方法。ウマ娘は走ることを本能的に好むとはいえ、ブライアンのそれは常軌を逸していると言ってもいいほどだ。

 しかし、この飢えは、いつの日かあの白い後ろ姿を追い抜くまで満たされることはないのだと、ブライアン自身も分かっていた。

 

 眉を顰めるブライアンの言葉に、同行していたトレーナーは首を振る。トレーナーはチームリギルのサブトレーナーであり、ブライアンのトレーナーでもある。

 何人もの有力ウマ娘を輩出してきたリギルに数年所属しているサブトレーナーだが、ブライアンほどの才能を持つウマ娘は、これまで見てきた中でも片手で足りるほどだ。

 そしてレースに対する渇望の度合いもまた同様だった。

 

「諦めなよブライアン。日本ダービーというだけでも注目度は高いのに、君は皐月賞を勝っている。つまりクラシック二冠がかかった状況だ。君のファンが集まるには十分な理由だ」

 

「そんなものか。まぁ、どうでもいい。私は私の走りをするだけだ」

 

「レースが楽しくないというわけじゃないんだろ?」

 

「当然だ。この身に宿る飢えを満たせるのは、レースで走ること以外にない」

 

 トレーナーは少し笑うとぽそりと呟く。

 

「特に最近は、かな?」

 

 トレーナーは独り言のつもりだったが、ウマ娘であるブライアンにはしっかりと聞こえていた。

 

「そうだな…そうかもしれん」

 

 ブライアンはここまでの道程を思い起こす。最初の選抜レースを勝ちトレーナーもついた。

 しかし、その後のデビュー戦は勝利したものの、始まったトゥインクルシリーズのレースでは五戦二勝と見込まれた実力に反して結果は振るわなかった。

 そして一度レースと距離を置いた方がいいというトレーナーの方針と合わず、チームを辞めた。

 ブライアンが持つ走りに対する飢えは、走らないという選択肢を失くすほどに強烈なものだったのだ。

 

 フリーになったブライアンは選抜レースに再び出て、敗北。レースでは見せ場もなく、本番のレースで二勝しているとは思えない不恰好な走りだった。

 思うような走りが出来ず、ブライアン自身やきもきしていたところに現れたのが、今のトレーナーである。

 

『君、随分とぎこちなそうに走るね。何というか、フォームに拘りすぎて上手く力が引き出せてないように見えるよ』

 

『…! そうか』

 

 トレーナーの言うように、ブライアンはフォームに拘ることをやめて好きなように走った。重心は低く、まるで獣のよう。

 ウマ娘のスパート姿勢はヒトが走るよりも前傾気味になるが、ブライアンのそれはあまりにも低く、倒した体と地面が平行になっているのではないかと思うほどだった。

 普通のウマ娘では、そんな無茶な体勢で走ればバランスを崩してしまう。

 しかし、ブライアンの筋力、体幹、バランス感覚といった天性の才能が一見無茶な走りを可能にした。

 

 その走りを体得し、トレーナーの所属するリギルに参入してからと言うもの、ブライアンは連戦連勝し、ジュニア級のG1の冠をも戴いた。

 また、トレーナーの質だけでなく、リギルは設備もそれを使ったトレーニング自体も一流だった。

 メイントレーナーの東条ハナからトレーニングを見てもらうこともあり、ブライアンは自分の実力がメキメキと伸びていくことを実感していた。

 

 クラシック級になってからも、ブライアンの快進撃は続いた。皐月賞へのステップレースであるスプリングステークスを軽々と制し、皐月賞へと駒を進めた。

 もはやこの世代にブライアンに比肩できるウマ娘などいない。そう確信させるほどの強さを見せてきたブライアンは、皐月賞でも当然のごとく一番人気に推された。

 

 勝つべくして勝つ。

 

 周囲がどんな走りをしようが知ったことではなく、ブライアンは自分の走りをすれば勝てた。

 そして、それはクラシック三冠の一つである皐月賞でも同じ。そう思っていた。

 

 

 

 

 

 あのウマ娘が出てくるまでは。

 

 

 

 

 

「ウルサメトゥス。寒門…というより、もはや一般家庭出身。彼女が出るレースでは何故か毎回展開が乱れて、実力が思うように発揮できないウマ娘が多い。そして彼女はそこをすり抜けることで偶然勝ちを拾っている運がいいだけのウマ娘。そういう前評判だったんだけどね」

 

 皐月賞には三つのトライアルレースがあり、そこで好成績を残すことで優先出場権を得られる。

 ブライアンはスプリングSを勝利したが、他のレースである若駒Sと弥生賞には出ていない。

 トレーナーが口に出したウルサメトゥスというウマ娘は、弥生賞で一着を取って皐月賞への出場権を得た。

 

「実際、弥生賞のレース映像を見ただけじゃあのウマ娘の脅威は分からないね。確かに、レース展開が乱れて勝手に他のウマ娘がペースを崩し、その隙をついていつのまにか前に出てゴールしていたように見えた。運がいいだけのウマ娘と言われるのも納得のレースだったよ」

 

「だがそうではなかった。あのウマ娘…ウルサメトゥスはあの状況を作り出していた。そして、ヤツはそれを巧妙に隠したまま皐月賞に来た」

 

 ブライアンは皐月賞で味わった感覚を、ついさっき起きた出来事であるかのように思い出すことができる。

 いつものように先行策を選択し、後半隙をついて前に躍り出る。

 そんな考えが甘かったと思い知らされたのは、レースがちょうど残り半分を切った頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────後ろから恐ろしい『何か』が来る! 

 

 いつも通りの先行策で、いつも通り他のウマ娘をちぎる。そんな考えは、突然現れた暗い世界の前で吹き飛んでしまった。

 

 ウマ娘の走行音ではあり得ないほどの重い足音。

 殺気。

 一瞬でも速度を緩めたら死ぬ、そう思わせるようなプレッシャー。

 

 じわじわと距離を詰めてくる真っ黒な重圧。それが確かに後ろから来ている! 

 

 振り向くことはできない、振り向くために速度を落としたら殺される。これまでに尋常ではない飢えに身を焦がされてきたブライアンだったが、未知のものに恐怖して追い立てられる、という経験は初めてだった。

 

 身に降りかかる衝動のまま、逃げ道を探すために周囲を見ると、どうやらこの現象がブライアンだけに起きているわけではないことに気づいた。周りにいるウマ娘が、皆必死の形相で前へ前へと向かっている。

 追われる感覚を変わらず受けつつも少し冷静になったブライアンは、この事態がウマ娘によって引き起こされているのではないかと理解した。

 

『さぁかなり速いペースでレースが展開されています! 先頭の1000メートルのタイムは58.5秒! しかし先頭集団のスピードは衰えない!! 掛かってしまっているのでしょうか、これは後半に脚が残っているのか?』

 

『とんでもないですねぇ。クラシック序盤、2000メートルのレースとは思えないペースです』

 

(なるほど、これが『領域』とやらか!)

 

 一部のウマ娘だけが到達できるという、自分の心の内を写し出すモノ。それが『領域』である。

 上位のレースでは、ウマ娘が突然不可解な加速をしたり、速度を上げたりする現象が見られる。レースを外から見ている人には分からないが、レース中のウマ娘たちは、『領域』によって世界が塗り替えられ、引き込まれるような錯覚を覚えるのだという。

 

『領域』の存在は基本的にその位階に達したウマ娘にしか伝えられない。しかし、ブライアンは将来そこに達する可能性が高いこと、また姉のビワハヤヒデが既にその段階に達しているので伝えられる可能性があることを考慮され、既に『領域』の存在を教えられていた。

 

 教えられていたとはいえ、ブライアンが『領域』を受けるのは初めてである。だがそれは無理もないことだ。決してクラシック序盤のウマ娘が使ってくるようなモノではないし、『領域』に至れるウマ娘など上位でも一握りである。ブライアン自身その上位のウマ娘が多数存在するリギルに所属しており、模擬レースなどで既に『領域』に至った格上のウマ娘と競う機会はある。

 

 しかし、模擬レースで『領域』に達していないウマ娘相手に『領域』を使うような者はいない。そんなことをすれば、あまりに隔絶した『領域』の強さに心を折られてしまうウマ娘が出るかもしれないし、『領域』に取り憑かれ、習得しようと無理なトレーニングを繰り返してしまうかもしれないからだ。

 

 改めて周囲を見れば、後ろから追い立てられる恐怖により、全員が掛かってしまっている。実況の言うように異常なまでのハイペースで、これでは最後まで持たないと確信できるほどだった。ただ、実況がおそらく分かっていないのは、これが故意に作られた状況であるということ。

 

 掛かりからいち早く立て直したブライアンは周囲のペースにある程度合わせつつも脚を溜めようとする。無理に付き合ってしまうと、これを仕掛けた張本人の思う壺である。そう理解していた。

 

 

 

 理解はしていた。しかし、体は勝手に前に進み続ける。

 

 

 

(何だ、コレは…!? 体が言うことを聞かん!)

 

 まだ自分の『領域』を持たないブライアンは知らないことだが、完成された『領域』は簡単に破れるものではない。その強固さは格別だ。例えそれが『領域』の効果によるものだと分かっていても、抜け出せないというほどには。

 

 そうこうしているうちに終盤に差し掛かる。何者かの引き起こした恐怖によって支配され、超ハイペースで進んだこのレースで、スタミナを欠きながらそれでもウマ娘たちは懸命にスパートをかけようとする。

 

 すると、これまで続いていた強烈なプレッシャーが、暗い空間が無くなるとともに急に止んだ。

 

 理由は分からないが、これまでウマ娘たちを苦しめてきたものが無くなり、自由に走れるようになっていた。圧力から解放されたウマ娘たちは、気を取り直して一斉にスパートをかけようとした。その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、いなくなったはずの死の気配が真後ろに出現する。

 

 

 

 

 

 真後ろのソイツが腕を振り上げる。見えもしないはずなのに、その光景が明確に分かる。

 

 

 

 

 

 そして振り下ろされた鋭い爪は、狙い違わず首を切り裂き────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮遊感の後、ぐるぐる回る視界が、頭を失い崩れ落ちる自らの体を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おおっと! ここでウマ娘たちが揃って速度を落としたぁ! やはり前半に飛ばし過ぎたのか?!』

 

「ッ?!?!」

 

『どうしたのでしょうかねぇ。こうも一斉に走りが乱れるとは…』

 

 ターフに飛ぶ実況の声。それによりブライアンは意識を取り戻し、そして即座に加速しつつ状況を確認した。

 

 首は取れていない。後ろに死神もいない。

 周りはまだショックから立ち直っていないのか、走りに身が入っていない。

 何秒意識がなかったのか? 分からない。

 まさかプレッシャーをわざと解いて、油断を誘った直後を狙ったのか? それも分からない。

 

 分からないことだらけだが、ブライアンは自分が他のウマ娘よりも早く立ち直ったことだけは分かった。今はそれでいい。ただゴールを目指してスパートするだけだ。

 

 明らかにフォームの崩れた走りをする周囲のウマ娘を避け、スパートをかける。掛かってはいたが、スタミナは持つ。怪物と呼ばれるほどの身体能力を持つブライアンは、元々スタミナに自信があった。

 

『ナリタナリタナリタ! ここでナリタブライアンが速度を上げた! 本性を現した怪物が!! これまでのハイペースを物ともせず、バ郡から一気に抜け出し加速していく!!! やはり強い、強いぞナリタブライアン…』

 

 コーナーで外に出て、直線で一気に差す。これまでの勝ちパターンだ。意識せずとも練習通りに体は動く。極限まで体勢を低くし、更に力任せに速度を上げていき…

 

 

 

『そしてもう一人! 他のウマ娘が速度を落とした隙をついたのか!? 最後方から一気に上がってきた!! ウルサメトゥス、ナリタブライアンの一人旅に待ったをかける!』

 

 瞬間、自分の真横に別のウマ娘が並んでいることに気づいた。

 

「何?!」

 

 いつの間に? 先程までは居なかった。あの幻覚から立ち直ったのか? 

 どこから? 前にいなかったなら後ろから来たに決まっている。

 

「勝たせてもらうよ! ナリタブライアン!」

 

 美しい青鹿毛。よく通る声。小柄な体躯だが、それを感じさせないほどのパワーがある。

 ブライアンは知る由もないが、首を落とされる幻覚を見たのは一瞬のことだ。最速で立ち直ったブライアンは、ほんの一、二秒ほどしか意識を逸らされていない。

 

 そしてそのたった一、二秒のうちに爆発的なパワーで最後方から追い込みをかけてきたのが、今並んでいるウマ娘だ。

 

 ブライアンは直感で理解した。この小さなウマ娘こそ、今回の『領域』を仕掛けてきた張本人なのだということを。

 今回のレースでも敵なんていないと思っていた。しかし、蓋を開けてみれば、『怪物』すら喰らわんとする恐ろしき『獣』がいたのだ。

 

『ウルサメトゥス、どこにそんな脚が残っていたのか! ナリタブライアンをかわしてトップに立つか!?』

 

 青鹿毛のウマ娘は驚愕するブライアンをジリジリとかわしていく。パワーだけではない、才能の塊と称されるブライアンのスピードにも比肩しうるモノを持っていると、はっきりと理解させられた。

 

「ぐっ…だが!」

 

 しかし、才能の怪物は伊達ではない。

 

「! まだ伸びるの?!」

「舐めるなあああアアアア!!!!」

 

『しかしここで終わらないのがナリタブライアン!! 伸びる伸びる!! 開いた差を瞬く間に差し返した!!!!』

 

 一瞬差されるも、ブライアンは全力を発揮して即座に開けられた僅かな距離を差し返す。

 

 その様、正にハヤテ一文字。

 

 ブライアンはその勢いのまま速度を伸ばして最後の坂を登り、一気に勝負を決めた。

 

『ナリタブライアン、一着でゴール!!!! タイムは1:59.0、皐月賞のレースレコードどころか、中山レース場のコースレコードを記録しました!!! 強い、強すぎるナリタブライアン!! このウマ娘に勝てるウマ娘はいるのか!!!!』

 

『二着は1 1/2バ身差でウルサメトゥス、三着は…』

 

 ブライアンは息を整えつつ、観客席に手を振る。そして後ろを振り返り、疲労のあまり仰向けで倒れている小柄なウマ娘を見た。悔しさからか、目から溢れる大粒の涙を、拭うこともなくボロボロと流している。

 ウルサメトゥス。この身に並んだウマ娘。

 ブライアンはその名をしっかりと頭に刻んだ。

 

(…ウルサメトゥスか。クラシックなど勝って当たり前、姉貴と戦う前の通過点に過ぎないと思っていたが…存外、退屈しないで済みそうだ)

 

 ブライアンはフッ、と小さく笑みをこぼしてターフを去る。

 

 

 それがブライアンの皐月賞。そして、【影をも恐れぬ怪物】ナリタブライアンと、【影より出でし獣】ウルサメトゥス、今世代を代表することになる2人のウマ娘の出会いだった。

 

 

 

「…ちょっと待って?! 何その厨二病みたいな二つ名!!」

 

 

 

 そんな叫びが聞こえたとか聞こえないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 




続かない…と思っていたのですが、感想をもらってしまったため続きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。