ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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お気に入り、評価、感想ありがとうございます。

誤字報告も、毎度ながら助かっています。いや誤字するなって話ではあるのですが…

今回は三人称視点です。

ではどうぞ。


メイクデビュー

 

 

 

「何故ですか?」

 

 ウルサメトゥスは心底不思議そうに、中森へ疑問を投げかけた。

 それを見て中森は確信した。

 未だにこのウマ娘は、自分には『領域』しかないと思い込んでいるということを。

 

 確かに領域は強力無比なものであるし、ウルサメトゥスにとって切り札であることは間違いない。

 しかし、切り札というのは簡単には切らないからこそ切り札足り得るのだ。

 情報が割れれば対策を取られやすくなってしまう。

 

「メトゥス、キミは一度今の自分の実力を正確に把握するべきだよ。そのために、今回は『領域』というハンディキャップを相手に課さずに走ってごらん?」

 

「…分かりました。トレーナーがそこまで言うのなら、意味のあることなのでしょう」

 

 ウルサメトゥスは露骨に納得してなさそうな顔をしているが、それ以上の反論はせずにターフへと向かった。

 これまでの二ヶ月弱、なんだかんだと言いながら中森の指示に従ってきた。

 おそらく今回も従ってくれるだろうと中森は思っている。

 

(メトゥス。キミは本当にすごいウマ娘だ。それは、『領域』なんてものを抜きにしたって変わらないことなんだよ)

 

 中森はウルサメトゥスと出会ってから今日までの間、他所から見たら虐待とも言えるほどのトレーニング量を課してきた。

 そしてウルサメトゥスは文句を言いつつそれをこなしてきた。

 

(それがどれほどのことなのか、キミはきっと分かっていないのだろう)

 

 ウルサメトゥスは、本人の自称通り体が頑丈だ。それに関しては中森もとっくに知っていることであり、頑丈さを加味した指導をすでに行なっている。

 しかし、体の頑丈さだけならば、珍しくはあるが他に例がいないわけでもない。

 異常なのはその精神性である。

 

(メトゥスがやってきたトレーニングは、クラシック級のウマ娘が根を上げて逃げ出すほどのものだ。実際、去年似たようなことをした先輩の所からウマ娘が逃げるように移籍した)

 

 中森のスパルタ具合はサブトレーナー時代に教わっていた先輩トレーナー譲りのものである。

 ウルサメトゥスに話したことはないが、中森は当初、肉体的ではなく精神的な限界がどこかを見極めるために、量の多いトレーニングメニューを課した。

 

(結果として、キミは精神的な限界が来る前に、体の方がこれ以上のトレーニングに耐えられないという状況になってしまった。自他ともに認めるほど頑丈な体が、だ)

 

 ウルサメトゥスはクラシック級のウマ娘が泣いて逃げ出すほどのトレーニングを毎日行っていても、精神的にはまだ余裕がある。

 それは、体が耐えうる限りどこまでもトレーニング内容を増やすことができるということである。

 

 そんなこと普通は不可能である。

 競技に出るウマ娘たちは多感な時期の少女であり、ずっと練習などさせていれば、精神面に異常が出る娘は多い。

 中森もトレーナー養成校でよく言われたことだ。

 ウマ娘のメンタルが万全な状態でレースに出られれば、実力を100%以上に出すことが出来ると。

 

 しかし、そう上手くはいかない。

 サブトレーナーとして一年間様々なウマ娘を見てきたが、ウマ娘の調子は非常に上がり下がりが激しい。

 それこそ、練習ばかりではなく息抜きもさせなければ、すぐに不調になってしまうほどだ。

 

 中森は視線の先、一人だけさっさとゲートに入ってしまった担当ウマ娘を観察する。

 これからレースだが、必要以上に気負うことはなく、自然体に近い。

 調子はかなりいい。というより、良い状態から変化がない。

 理由は不明だが、ウルサメトゥスは調子を下げることがほとんどないのだ。

 

 中森が気分転換の外出を提案したときも、

 

『それ要ります?』

 

 とバッサリ切られた。

 

(キミは大して見てもないんだろうが…周りとキミの体を見比べてみろ。仕上がりが違う。キミは小柄だが、はっきり言ってそれが意味をなさないほどの実力差が既にある)

 

 毎日限界までトレーニングを行える頑丈な体に、それに拒絶反応を起こさない強靭な精神。さらに、中学生という心が乱れがちな時期であるにも関わらず、調子の下がらない特異な心の持ち主。

 

 それらが合わさり、今のウルサメトゥスを形作っていた。

 

「中森。上手くやっているか?」

 

「先輩! お疲れ様です!」

 

 ウルサメトゥスを確認する中森の下にやってきたのは、昨年中森を指導していた黒沼トレーナーである。

 スパルタ指導で有名だが、その分ついてこられれば強くなることでも知られている。

 彼の下には毎年多くのウマ娘がその指導を求めて集まり、そしてほとんどが耐えきれずに去っていく。

 …去る原因にその厳しい顔つきとサングラス、筋骨隆々な漢らしい体が関係しているかは、定かではない。

 

「次がお前の担当が走るレースか。どの娘だ?」

 

「一番調子のいい娘です」

 

 黒沼の問いかけに、中森は迷いなく答える。

 わざわざ指差して見せる必要はない。

 黒沼ならば見ただけで分かると中森は思っているし、簡単に分かるほど他とは実力差があるウマ娘なのだと確信していた。

 

「…ほう、あの青鹿毛か。良い娘を見つけたな」

 

「ええ、僕には勿体ないくらいです」

 

「そう思うなら俺に寄越してくれねぇか? 今年は骨のあるやつが少なくてな。まだ一人しか残れてないんだよ」

 

「あげませんよ。あの娘は僕が育てると決めました。それに、先輩のとこのウマ娘って、選抜レースであのナリタブライアン相手にいい走りをしたストレートバレットでしょう? 十分じゃないですか」

 

 中森は黒沼をジト目で見る。

 人が集まらないと言いつつ、ちゃっかり有力株の確保に成功している。

 

「ストレートバレットはいつデビューするんですか?」

 

「あいつはまだ少し仕上がりに手間取っていてな。今回のメイクデビューは無理だ。おそらく、来月になるだろう」

 

『スタートしました!』

 

「始まったか。お前の担当の娘は綺麗にスタートしたみてえだな」

 

「メトゥスは僕が担当する前からスタートが得意なんです。練習はするのですが、正直必要はないと思います」

 

 他のウマ娘が少しバラけたスタートをする中、ウルサメトゥスは集中した綺麗なスタートを見せる。

 そして追込の定石通り後方へと下がっていく。

 最後方で目の前のウマ娘にピッタリと張り付き、圧力を与えている。

 

(序盤の動きは完璧だ。あとはじっくり脚を溜めて終盤で前に出る。それを今のキミの実力でやれば、着いて来れる娘はそういない)

 

 全体のペースは、今回はウルサメトゥスが『領域』で操作していないのもありそこまで速くない。

 ただ、先頭から最後方までは8バ身ほどとあまり先頭が引き離せていないレースとなっている。

 

『2コーナーを抜け中間点を通過、タイムは1:01.4です。先頭がここで少し加速したか? 後続をあまり引き離せていないのが気にかかるか』

 

「あの逃げの娘はここで距離を離せないと詰みだと気づいたか。いや、少し判断が遅かったか」

 

「ええ。2000mで中盤から引き離そうとしても、ここから息を入れずに走ることはできない。もう少し早く引き離して、中盤は少し息を入れるタイミングを作るべきですね」

 

 中森の言葉を証明するかのように、残り600mほどで先頭の速度が少し鈍くなる。そして、後続がそれを見逃さず距離を詰め始めた。

 

『最終コーナーで前を走るウマ娘の速度が落ちたか? それを見たのか、後続が距離を詰め始めたぞ!』

 

「お前の担当もアガり始めたが…前のウマ娘に張り付いているのは変わらんな。スリップストリームか」

 

「僕もまだ少ししか教えてないんですけどね」

 

 残り400m、逃げを打っていたウマ娘がバ群に飲み込まれる。

 前を走るウマ娘が、垂れてきたウマ娘をかわすためにそちらに意識を割いた瞬間、ウルサメトゥスはパワーに任せてバ群の横に飛び出した。

 

「! あれは…とんでもないな。隙を見つけることの上手さも、その一瞬で飛び出せるパワーも」

 

「メトゥスは元々パワーに優れた娘です。今までは自己トレーニングで鍛えていたためか、鍛えきれていなかったようですが」

 

「…あれでか?」

 

「特にスピードはあまり速くなかった。ただ、それは鍛え方を間違えていただけでした。正しい鍛え方を教えてやれば…」

 

 横に飛び出したときに少し速度を落としたが、2000mを走った程度でウルサメトゥスのスタミナは切れないということを中森は知っている。

 

 ウルサメトゥスはそこから大外を一気に駆け上がり、残り200mで最高速に達し、残り50mで先頭を奪った。

 

『ウルサメトゥス、大外から一気に捲ってゴール! お見事、これぞ追込バの醍醐味か!』

『一着は7番、ウルサメトゥス。タイムは2:02.1。二着は1 3/4バ身差で2番…』

 

「やるじゃねぇか。いったいあんな娘どこから見つけてきたんだ?」

 

「僕は先輩に教わったトレーニングを課しているだけです。ほら、先輩が去年逃げられたあの娘にやってたトレーニングとあんまり変わらない内容です」

 

「…本当かよ。それに耐えうるのか? いやでも、無理してるようには見えんし、疲労もなく体の状態もいい。まさに逸材ってやつか」

 

「僕がしていることは多くありません。あの娘の才能です。さて、僕はあの娘を迎えに行きます」

 

 中森はレースを終えて不思議そうにしているウルサメトゥスに向かって歩き出す。

 そんな中森に、黒沼は後ろから声をかけた。

 

「行ってこい。また今度飲みにでも行こうや。戦うのはどうやらオープンクラス以降のレースになりそうだしな」

 

「先輩とその担当ウマ娘が相手だろうと、僕とメトゥスは勝ちますよ。先輩も覚悟しておいてくださいね」

 

「言うようになったじゃねぇか。期待して待っとくぜ」

 

 そう言って去る黒沼に、中森は軽く頭を下げた。

 そして今度こそ自らの担当ウマ娘の下に向かい、まずはその結果を讃えたのだった。

 

 

 




これからは、主人公以外は全て三人称で書くことにしました。
二つ前の話でなんか変だと思ったのは、中森トレーナーの一人称視点で書いたからでした。

一人称視点難しいんであんまり得意じゃないんですよね…

-追記
「専属契約締結」の後半部分を三人称に変更しました。
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