ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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いつもご覧くださりありがとうございます。

今回は最初主人公視点、後半三人称視点です。

三人称の方が楽ではあるのですが、文字数が無駄に増えがちですね…

それではどうぞ。


デビュー後、走る理由

 

 

 

 なんか勝った。

 いや本当にそんな感想しか出てこない。

 普通に最後方で脚を溜めて、後半で前との距離を詰めて、終盤で差す。

 多少はトレーナーから教わった技術を使ったが、そのくらいだ。

 

「一着おめでとう、メトゥス。不思議そうな顔をしているね?」

 

 狐につままれたような気分でターフを後にすると、トレーナーが迎えにきた。

 表情は何の驚きもないように平静で、この結果が当然のことだと本気で思っているようだった。

 

「トレーナー、私は何故こんなにもあっさり勝てたのでしょうか? 今回は指示通りに『領域』を使わず走りました。確かに、私の『領域』は何度も見せれば効果が衰えると思われます。なので、使わないに越したことはないのですが…」

 

「使わずに走ったから、もっとギリギリのレースになるはずだと?」

 

「端的に言えば、そうです」

 

 俺はこの二ヶ月弱、トレーナーの指示通りにしっかり体を鍛えてきた。

 その結果、自分でも分かるくらいに成長したと思ってるし、そこはトレーナーを信用してる。

 

 だがそれは他のウマ娘だって同じ。

 メイクデビューに出るウマ娘は既にトレーナーが付いていて、トレーニングを開始している。

 特に、今期最初に開催されるメイクデビュー戦である今日に出バしてくるということは、仕上がりに自信があるということを示唆している。

 もちろん、俺を含め、だ。

 

「それに対する答えは簡単だよ、メトゥス。キミは今回出バしたウマ娘のなかで、最も仕上がっていた。そして適切にその実力を発揮した。それだけだよ」

 

「私が、ですか?」

 

「これが何か分かるかい?」

 

 トレーナーは手帳を見せてくる。

 そこには二つのタイムが書かれていた。

 

「2:04.1と2:02.1…」

 

「一つ目は、キミが選抜レースを走ったときのタイム。そして二つ目は、今のレースのタイムだ。コースは同じで、バ場の状態もほぼ同じ。違いは『領域』を使ったか否かだが…キミの『領域』は他のウマ娘に作用するモノであり、自分の走りにはほとんど影響はない。つまり、キミはたった二ヶ月弱のトレーニングでタイムを2秒縮めたことになる」

 

 2秒。

 時間だけ聞くとあんまりと思えるが、俺たちは車ほどの速度で走るウマ娘。

 最終タイムでの2秒差とは距離にして約25m、10バ身だ。

 これが、俺が本格化する前とした後の結果の見比べだったらそんなに驚くこともなかったが、俺は二ヶ月前も今もまだ本格化しかけの状態で変わっていない。

 それがたったこれだけの期間でタイムを2秒も縮めるなんて、自分の身に起きたことでなかったら信じられなかったかもしれない。

 

 そうか。

 何というか、俺はこの二ヶ月で、自分が思っていたよりも大きく成長していたらしい。

 

「選抜レースでは『領域』を使ったことで疲れていたから参考にならない、なんてことはないだろう? 実際キミは選抜レースの直後も、肩で息をする他のウマ娘とは対照的に余裕の笑顔だったはずだ」

 

「…よく見ていますね」

 

「もちろん。あのレース、特に中盤以降はキミのことしか見ていなかったからね」

 

「! も、もう! そこまでは聞いていません!!」

 

「そうかい?」

 

 そ、そんな気恥ずかしいことよく真顔で言えるな! 

 あの閑散としたレースでそこまで俺に注目してくれてたことは嬉しいけどね。

 全くトレーナーは…これは天然たらしってやつなのかな。

 気をつけないと、何とは言わんが色々危ないかもしれん。

 いや俺は惚れないが? 

 

「さて、メトゥス。これで晴れてキミはデビューウマ娘となったわけだが…まだキミには、トレーナーを変更する権利がある」

 

「いや、ここまでされて契約を切るなんてことはしませんよ…」

 

「それはよかった。けど、キミのトレーナーとして聞いておきたいことがある」

 

 ? 何だろう。

 なんか聞かれてないこととかあったっけ? 

 スリーサイズとか? いやそれはトレセン学園からトレーナーが貰う資料に書いてあるよな。

 

「それは、キミが走る理由だ。キミはどうしてこの学園に入り、トゥインクルシリーズで何を為さんとする?」

 

 あー、そういえばまだ話したことはなかったな。

 初めに聞かれたけど、あんときは初対面で俺のトレーナーじゃなかったし。

 うーん、どうしよう。

 金のために走りますとか言ったら幻滅されちゃうかな。

 でも嘘をつくのは違うよなぁ。

 

 うん、やっぱ怖いね。仲がいいと思ってる人から幻滅されるかもしれないってのは。

 両親にいろいろ聞いたときも然りさ。

 社畜やってたときはここまで弱くなかったと思うんだけど…

 精神が体に引っ張られてるってやつなのかね。

 精神年齢はともかく、体は12歳の女の子だからなぁ…

 

「分かりました。お話ししましょう。ただ、その前にカフェテリアにでも移動しませんか?」

 

「そうだね、キミのクールダウンもまだだったし、それも終わらせてしまおうか」

 

 まぁ、ここで話すことじゃないわな。

 軽く整理運動して、いい時間だしおやつになんか食おう。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、呼ばれてるよメトゥス」

 

「?」

 

「ウイニングライブだよ、まさか忘れてたってことはないだろう?」

 

「……」

 

 ────────────────────

 

 

 中森はコーヒーを二つとカフェテリア名物のデラックスパフェを注文する。

 ウルサメトゥスの担当になってはや二ヶ月弱、彼女がウマ娘の例に漏れず甘党で、そして歳に似合わずブラックコーヒーを好んで飲むことを知っていた。

 

「ありがとうございます、私の分まで…」

 

「パフェもキミのだからね?」

 

「え? いや、流石に悪いですよ」

 

「デビュー記念とでも思って受け取ってくれ」

 

「…まぁ、そういうことなら」

 

 ウルサメトゥスは少しバツが悪そうにするが、何か理由をつければ素直に受けとることが多い。

 これも中森が彼女と接する中で知ったことだ。

 トレーニングの研究だけでなく、ウルサメトゥスの嗜好や性格も中森がトレーナーとして知るべきことだった。

 

 そして今、中森がウルサメトゥスを担当する上で最も知っておかなければいけないモノを知ろうとしている。

 

「じゃあ、キミがパフェを食べ終わったら話を聞こうか」

 

「いえ、今お話ししましょう。場合によっては、パフェを受け取れないかもしれませんしね」

 

 ウルサメトゥスはそう言って姿勢を正す。

 中森としては、あまりにおかしな理由でない限り、ウルサメトゥスを手放そうとは思っていない。

 走る理由を知りたいのは、これからの方針を決めるために必要だからだ。

 クラシック三冠を目指すならこれまでの方針に加えてスタミナを伸ばしていく必要があるし、トリプルティアラを獲りたいと言うのならこれまで以上にスピードを伸ばす必要がある。

 目標にしているレースがあるのならそれに合わせたトレーニングをするし、大きな目標がないのならこれから決めたっていい。

 

 流石に『領域』を使って出場するレースをめちゃくちゃにしたい、などという理由だったら考えなければいけないが…

 中森はこれまでの短い付き合いで、ウルサメトゥスがそんなことをしたがるような性格ではないと確信していた。

 ウルサメトゥスは少しだけ俯いて言う。

 

「私が走る理由は、お金のためです」

 

「お金? 確かにレースに勝てば賞金が出る。だが、キミはお金に困っていたのか?」

 

 中森の知る限りでは、ウルサメトゥスにそういった様子は見られなかった。

 ウマ娘としては平均だがよく食べるし、欲しいものは躊躇わずにお金を出す。

 一般家庭出身だが両親は共働きで、少なくとも貧困というわけではないと中森は思っていた。

 

「はい。別に困窮しているわけではありません。ただ両親への恩を、お金という分かりやすい形で返そうと考えただけなのです」

 

 そして、ウルサメトゥスはポツポツと自らの生い立ちを話し始めた。

 中森に聞かせているというよりも、自ら確認している…まるで独白のようだった。

 

「私は…自分で言うのも何ですが、小さな頃からおかしな娘でした」

 

「生まれたばかりなのに泣かないわ、教わってもいないのに流暢な敬語を話し出すわ…とにかく、気味が悪い娘だったことは間違いないです」

 

 

「両親はそんな私を邪険にせず、たくさんの愛情を注いでくれました」

 

 

「私は、それが奇跡なのだということを理解していました」

 

「普通なら育児放棄してもおかしくない。私が両親の立場だったらそうしていたと思います」

 

「けど、両親はそうしなかった」

 

「こんな私を、出来損ないの私を愛していると。そう言ってくれたのです」

 

 そう語るウルサメトゥスの目には涙が浮かんでいた。

 しかし、表情は対照的に笑顔だった。

 

「私はそれに救われました」

 

「ならばこそ、その恩を返そうというのは普通ではないでしょうか?」

 

 疑問系ではあったが、強い断定の口調でもあった。

 決して譲れない強い思いなのだということが、中森にははっきり伝わった。

 

「それがキミの走る理由か」

 

「はい。これだけは変えられないのです」

 

「そうか…」

 

 中森は目の前のウマ娘を見据える。

 

(初めは、少し驚いたが)

 

 自分の課す異常とも言える量のトレーニングをこなせるモチベーションが、そんな理由から来ているのかと。

 しかし、続く生い立ちを聞き、そして何よりウルサメトゥスの強い意志を目の当たりにし、考えを改めた。

 

(本当に強くそう思っているからこそ、あの練習量にも耐えられるのだろう)

 

 中森は思う。

 自分は両親にそこまでの感謝を抱いたことがあっただろうか。

 答えはすぐに出る。否だ。

 だからこそ、自分とひとまわり近く歳の離れた彼女の想いに、素直に尊敬できた。

 

「あの、ダメだったでしょうか…?」

 

 ウルサメトゥスは不安そうに中森を見上げている。

 中森は首を横に振り、それを否定した。

 

「いや、キミの想いは十分伝わった。僕は、キミの意志を尊重しようと思う」

 

「それでは…」

 

「ああ、改めて、これからも正式によろしくね。まぁ元々、あんまりな理由じゃなければ、キミを手放そうなんて思っていなかったけど」

 

「ちょっと! 私がこんなに詳しく話したの、バ鹿みたいじゃないですか!」

 

 ウルサメトゥスは中森の言葉に憤る。

 しかし、彼女の恐ろしい『領域』からは考えられないほど迫力が無く、そのギャップにまた中森は笑い出す。

 

「もう!」

 

「ごめんって……僕は、その意志をとても美しいと思うよ。お世辞抜きにね」

 

「!!」

 

 臆面もなく言い放つ中森に、ウルサメトゥスは顔を赤くする。

 このタラシ…と呟いた言葉は、残念ながらウマ娘ではない中森には聞こえなかった。

 

「とにかく、契約は続けるということで! バンバン勝って賞金を獲得しにいきますから、覚悟の準備をしておいてください! いいですね?!」

 

「何だよ、それ。まぁ覚悟?しておくよ。キミこそ、僕の覚悟を無駄にさせないでくれよ?」

 

「それは大丈夫です」

 

 ウルサメトゥスは少し溜めた後、にひ、と笑って中森に言う。

 

「なんせ、私には優秀なトレーナーがついていますから!」

 

 そんな見事な殺し文句返しに、中森は面食らって固まった。

 それを見て得意げな顔をし、ウルサメトゥスは運ばれてきたパフェに手をつけた。

 

 

 




そろそろ精神的BLタグとか保険でつけた方がいいかな…

それはそれとしてパカチューブに推しが出演して無事死亡しました。
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