ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件 作:アザミマーン
今回の話は多分話の本筋には関わらないので、読まなくても大丈夫です。
あと、GWが終わったので更新頻度は落ちます。すでに落ちてますが…
それではどうぞ。
メイクデビューからそれなりに経ち、明日から夏休みである。
期末テスト? 中一の問題でつまづくのは流石にね…
それでも満点は取れないんだけど。ケアレスミスと、単純に数学苦手なのが響いてるな…
まぁ問題はない。
座学だけなら学年でもかなり上位にいるし、実技でも最近はかなりいい感じだ。
それもこれもトレーナーの考案してくれるトレーニングメニューのおかげだな!
「坂路、あと三本! 最後まで気合い入れろ!」
「ッはい!!」
「五分休憩、その後インターバル走。急走1000m二分、緩走400m同じく二分のペースを三セット。フォームを意識しながらね」
「はい!」
「今日はこれでラスト、50mダッシュ二十本。インターバル10秒。始め!」
「…ぁい!」
「お疲れ様。クールダウンに移ろうか」
「……」
……
「メトゥス?」
「はっ…」
意識失ってた気がする。
だが体は無意識下でも染み付いた動きを繰り返していたようだ。
いつの間にかクールダウンの最後の動きを終えていた。
「大丈夫かい?」
「大丈夫です。いつものことですので」
「まぁそうだね。マッサージするよ」
「お願いします」
あ゛あ゛〜効くぅぅぅぅぅ
やっぱ練習終わりにはこれがなきゃな、疲れが取れるぜ。
いつものこと、そういつものことなのだ。
最後は返事もままならなくなるほどの練習、そしてクールダウンをする頃には半ば意識が飛んでいる。
毎日こんな感じだ。
午前は授業、午後はぶっ倒れるまで練習。
日々成長はしている、それは間違いない。
先週よりダッシュが一本多くできるようになったり、徐々にインターバル走の緩急が短くなったり。
めちゃくちゃキツいのだが、確かな効果がある。
「う゛ぅ゛あ゛ぁ゛〜」
「毎回だけど、すごい声出すよね…」
トレーナーも俺の能力を満遍なく鍛えつつ、こうして練習終わりには態々俺を癒してくれている。
いやこのマッサージ本当に凄いんだよ。
あ、段々意識が…
「起きなさい、メトゥス」
「…ああ、眠っていましたか」
寝ていたみたいだ。とは言っても、トレーナーは毎回寝てから三十分くらいで起こしてくれる。
そうすると大抵19時半くらい、カフェテリアで夕飯食べるのに丁度いいくらいだ。
「今日は終わりだよ。明日からは夏休みだし、初日はオフにしておいた。キミの同室のシャドウストーカーから僕に連絡が来ていてね。一緒に遊びに行きたいそうだよ」
「トーカちゃん先輩が? それなら仕方ないですね。明日はリフレッシュに当てるとしましょう」
週に一度はオフなのだが、普段練習しすぎて何をすれば良いのか分からん。
今回みたいにトーカちゃん先輩やクラスメイトが遊びに誘ってくれればホイホイ着いていくのだが…そうでない時は引きこもってUmatubeでレース映像をひたすら見ているかイメトレしている。
先輩方のレースはとても勉強になるし、たまに『領域』が発動しているのが分かると面白い。シンボリルドルフ会長の『領域』とか、映像越しでも雷がビリビリしてるのを感じ取れるくらいだ。
イメトレの方は、ただ自分の記憶に没入してクマに殺されまくってるだけだ。
俺だって自分が殺されるところなんてそう何回も思い出したくはないのだが…定期的にやらんと、いざというときにイメージが曖昧で発動しない、なんてことになったら困るし。
「キミはオフなのにオフしてないことが多いからね。精神を緩めるのも体調管理のうちなんだから、自主練もほどほどにしなさい」
「体は…」
「体は動かしてない、なんて言い訳は使わないね?」
「ハイ…」
平気なんだけどな…と言いたいが、ウマ娘の体に関してはしっかり勉強しているトレーナーの方が詳しいだろう。
トレーナーの言う通り、オフの日の過ごし方は見直したほうがいいかもな。
ま、まぁそれはまた今度考えよう。
今考えるべきは明日のトーカちゃん先輩とのデートだ! 最近予定が合わなくて寝る時くらいしか顔を合わせないんだよな…
出会った当初からお世話になりっぱなしだし、俺とお出かけしてくれるし、可愛いし…頭が上がりませんなほんと。
あ、いい機会だし一ヶ月くらい前に買って渡せてないプレゼントを持っていこう。
オークスを優勝したトーカちゃん先輩に相応しいかは分からんけどね。
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夏休み初日、シャドウストーカーは寮の同室であるウルサメトゥスと一緒に近くのショッピングモールに遊びに来ていた。
仲はかなり良い方だとシャドウストーカーは思っている。
同部屋になったばかりの頃からウルサメトゥスは何かと頼ってきた。
末っ子のシャドウストーカーにとっては、ウルサメトゥスの態度は妹が出来たようで新鮮だった。
「トーカちゃん先輩、あれなんて似合うんじゃないですか? トーカちゃん先輩、勝負服はミニスカだし普段着もスカート多いから、たまにはパンツスタイルも良いと思うんですよね!」
「そうだね…確かにあんまり持ってないし、ちょっと試着してみようか」
最近はウルサメトゥスにトレーナーがついて毎日遅くまでトレーニングするようになったので夜に少し話す程度しかできず、予定が合わないためこうして出かけることもあまりしていない。朝はシャドウストーカーが起きるより早くウルサメトゥスが散歩に行ってしまうため会うことすらない。
ただ、遊べなかった理由はそれだけではない。
最大の原因はシャドウストーカーがオークスを勝利したことだった。
シャドウストーカーは桜花賞のトライアルレースであるチューリップ賞で三着と入賞したが、桜花賞では結果が出ず七位。
オークスに出場するために再びトライアルレースに出場し、再び三着をとってオークスに出場は叶ったものの、桜花賞での凡走を加味されたのか、オークスでは11番人気だった。
しかし、走ってみればシャドウストーカーは二位に2バ身半差をつけて完勝。見事にティアラの一冠を戴いたのだった。
そこからは、毎日毎日取材の日々。
人気の低かったウマ娘が勝利したというのは、人目を引くし記事も書きやすい。
とにかく多くの記者、テレビ局すら来た。
トレーニングの時間は何とか取れていたが、シャドウストーカーのトレーナーが対応に追われていることでトレーニングの質は下がり、さらに慣れない取材のためか精神的にかなり参っていた。
時間に追われ、当然遊ぶ暇もない。
そんな日々がひと月ほど続き、当然の如くシャドウストーカーは調子を落とした。体調も崩し、丸一日寮に引きこもって休む日こともあった。
(私、なんでオークスで勝っちゃったんだろう)
それでも入り込む取材の依頼に、ついそんなことすら考えてしまう。
秋華賞には出走するのか
オークスでの強い走りの秘訣は
桜花賞での走りはブラフだったのか
同じような質問ばかり。
トレーナーやトレセン学園も対処しようとしているが、如何せん数が多すぎるし、何よりトレセン学園は今話題のBNWの記者たちの対処に追われていた。
そのため、シャドウストーカーに群がる記者軍団への対処が遅れてしまっていた。
もう走るのをやめてしまおうか。
精神的な限界に、妹分であるはずのウルサメトゥスにそんなことを話してしまったのが、今から二週間ほど前の朝。
すると、ウルサメトゥスは小さな体を震わせて猛然と怒りだした。
「私のトーカちゃん先輩になんてことを! マスゴミ共め、絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
普段は絶対に聞かないような汚い言葉遣いで、ウルサメトゥスは吐き捨てるように言い、そのまま部屋を飛び出すとどこかへと走り去っていった。
シャドウストーカーはしばらく呆然としていた。そして、ウルサメトゥスに心配をかけてしまったと落ち込んでいると、トレーナーから電話がかかってきた。
また取材の呼び出しか。
うんざりしつつ電話を取ると、そこで予想外のことを言われた。
「シャドウ、今日入っていた取材は全部キャンセルだ」
「え?」
「こっちから何を言っても聞く耳を持たなかったマスコミが、さっき急に謝罪してきてな。限度を超えた取材をして申し訳なかった、だそうだ」
「なんでそんな急に…いや、私としては嬉しいんだけど」
突然態度を変えた記者たちに驚くが、久しぶりに取材のない日となりシャドウストーカーは上機嫌でトレーニングに行った。
何日かそんな日が続いた。
その頃には記者の数がトレーナーだけで対処できるほどになり、シャドウストーカーの異常なまでに忙しい日々は終わった。
そして、普段通りの日々を取り戻し、シャドウストーカーは徐々に調子を上げ、今ではすっかりオークスに出場した頃と変わらない体調を取り戻していた。
走る意味すら見失っていたあのときとは違う。
今はただ、自分を応援してくれるファン、鍛えてくれるトレーナー、期待してくれる家族のために。
次の目標である秋華賞を、全力で走りたいと思っていた。
「しかし、一体なんだったんだろうなぁ」
トレーニングの最中、ふとトレーナーがボヤく。
記者たちの態度の急変にトレーナーは首を傾げていた。
しかし、シャドウストーカーはとある噂を耳にしていた。
あるウマ娘曰く、校門前に集まっていたシャドウストーカー目当ての記者たちが突然蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
他のウマ娘曰く、シャドウストーカーやそのトレーナーを出待ちしていたテレビ局の取材班が、話しかける素振りを見せた瞬間に失神して運ばれていった。
他にも色々な噂が出ていた。
そして必ず、最後にはこう言った。
『小柄な黒い影を近くで見た』
手段に関しては全く分からない。
ただ、あの可愛い青鹿毛のウマ娘が、自分のために何かしてくれていたのだとシャドウストーカーは直感していた。
「トーカちゃん先輩? 大丈夫ですか?」
「あぁうん。ちょっとぼーっとしてたかも」
掛けられた声に、意識が現実に引き戻される。
昼食のためにレストランに入ったことは覚えているが、少し意識が飛んでいたようだ。
「毎日トレーニングで疲れてますもんね…良かったんですか? せっかくのオフを私とのお出かけに使っちゃって」
「それはもちろん。ウルちゃんとデートしたかったからね」
「デッ!? ももももちろん私も同じ気持ちですよ?!」
少し気障ったらしく言うと簡単に赤面してしまう。
こういう言葉に全く耐性がないことも、シャドウストーカーは好きだった。
「あ、そうだ」
「何?」
ウルサメトゥスは動揺から立ち直ると、持ってきた肩掛けカバンから何かを取り出した。
綺麗にラッピングされたそれは、どう見てもプレゼントだ。
「トーカちゃん先輩、オークス優勝おめでとうございます! ちょっと遅くなっちゃいましたけど…受け取ってもらえますか?」
「…もちろん。開けてもいい?」
「どうぞ!」
もうすでに散々言われてきた祝いの言葉だが、不意にウルサメトゥスから言われ、シャドウストーカーは若干涙ぐむ。
包装を解くと、中に入っていたのは耳飾りだった。
「オークス優勝バのトーカちゃん先輩にはちょっと格が足りないかもしれないんですが…良ければ付けてみてください」
「ありがとう。すごく嬉しいよ」
イメージカラーである赤や黒ではなく、黄と紺のシュシュ。
ワインレッドの髪色にもよく映えるだろうそれは、よく考えて選ばれた代物であることがすぐに分かる。
「トーカちゃん先輩、秋華賞も頑張ってください。私には応援しかできませんが…何かあったら、愚痴を聞く相手くらいにはなれますので!」
「うん」
「はい! って、あれ? ちょ! トーカちゃん先輩?! 何で泣いてるんですか!?」
「ううん…何でもないよ。大丈夫」
「どこが?!」
あたふたする可愛い後輩の姿に、涙を流しながらも笑いが込み上げる。
あのとき、走るのを辞めないでよかったとシャドウストーカーは思う。
そして、秋華賞を走る理由が増えてしまったとも。
「ウルちゃん、私頑張るね。秋華賞、獲るよ」
「応援してます!」
「ふふっ…」
拳を握ってむん、と力を込める後輩の姿に癒されつつ、シャドウストーカーは改めて秋華賞に向けて調子を上げていくのだった。
その後、秋華賞にてシャドウストーカーが二着に4バ身差をつけて圧勝し、ティアラ二冠を達成したのはまた別の話。
アイネスフウジン可愛いですね…
ミスターシービーのサポカと合わせて石が溶ける溶ける