ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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いつも応援ありがとうございます。

今回は特にいい感想をいただけたと思っています、いや本当に。
自分の文章力をもっと上げたいと思うと共に、しっかり呼んでもらえているんだなぁと嬉しくなりました。
本当はこの話と次の話を一緒にしたかったのですが、書きたいことが増えたので分けました。

まだまだ未熟ですが、お付き合いいただけたらと思います。

ではどうぞ。




勝ちたい理由は

 

 

 

 

 負けて悔しい。

 

 当たり前の感情だ。

 俺だって別に遊びでレースに出ているわけじゃないしな。高い賞金を得るためにも一着を取れるなら取ったほうがいいに決まってる。

 

 だが、涙が出るほど? 

 そこがよく分からない。

 気持ちがスッキリしないのもそれが原因だとは思うんだが、なんというか、『今更?』というのが正直なところだ。

 

 俺は今世でウマ娘として生まれ変わったわけだが、前世は一般人だったし、負けることなんて珍しくもなかった。

 というか、勝ったことのほうが珍しいんじゃないか? 

 子供の頃は運動で同級生に負け、受験して入った高校でも大して勉強していないやつに成績で負け。大学は志望校に入れなかったし、就職も別に上手くいったというわけじゃない。

 

 だから、今更レースの一つや二つ負けたくらいで泣くほど悔しがるような人生を送ってきていないのだ。

 負けて悔しくないわけはない。

 ただ、それが原因なら感情の振れ幅が大きすぎじゃね? という話だ。

 これも精神が体の年齢に引っ張られているせいなのか? 

 

「メトゥス、メンタルの状態がトレーニングに影響しないのはキミの凄いところだとは思うが…今日はこれで終わりにしよう」

 

「え…まだ余裕がありますが」

 

「いや、どちらにせよ週末にはホープフルステークスがある。今日あたりから調整しようと思っていたんだ」

 

「そうですか」

 

 確かにレース前は調整するが、まだ一週間近くある。

 直前でも良かったはずだが…どうやらトレーナーに気を使わせてしまったみたいだ。情けない。

 

 この前の京都ジュニアSでは入着すらできなかったが、ホープフルSの抽選にはなんとか通った。

 ブライアンが朝日杯の方に出たことで枠が一つ空いたからかもしれないな。

 あ、ブライアンは朝日杯をぶっちぎり一位で勝ちました。まぁ、そうだろうねって感じだ。

 

「メトゥス。キミの悩みに関して、僕がアドバイスできることは多くない。僕はトレーナーだけど選手じゃないからね」

 

「ええ。これは私が乗り越えるべき問題です」

 

「だから、シャドウストーカーにでも相談してみたらどうだい? 仲がいいんだろう?」

 

「そうですね…一理あるかもしれません」

 

 トーカちゃん先輩に相談か…いいかもしれんな。

 同じウマ娘だし、競技者として先輩でもある。いいアドバイスが貰えるかもしれない。

 よし、早速聞いてみよう。

 あ、その前にマッサージおなしゃす! 

 

「お゛お゛あ゛ぁ゛〜気持ちいい゛〜ですぅ゛〜」

 

「…」

 

 そこ、おっさんくさいとか思わない。

 

 

 ──────────────────

 

 

 

「トーカちゃん先輩は、なんのために走っているのですか?」

 

 風呂から上がったシャドウストーカーは、先に就寝準備を済ませていたウルサメトゥスに突然そう問いかけられた。

 少し驚いたシャドウストーカーだったが、冴えない顔色から、ウルサメトゥスが近頃何かに悩んでいるのは知っていた。

 かわいい後輩のお悩み相談。シャドウストーカーも頼られたい年頃だ。

 シャドウストーカーはドライヤーを当てて髪を乾かし終わると、ウルサメトゥスに向き直った。

 

「それは勿論、勝つためだよ」

 

「では、なぜ勝ちたいと思うのですか?」

 

 食い気味とも言える、即座の返答。本当に聞きたかったことは最初の質問ではなくこっちなのだろうと察した。

 シャドウストーカーは、ウルサメトゥスの悩みがなんとなく分かった。

 だから、参考になればと自分の考えを話すことにした。

 

「最初はね、見返したかったんだ。私は強いんだって、私に期待しなかった人たちに」

 

 シャドウストーカーの勝ちたい理由は、その出自に関係する。

 シャドウストーカーは、それなりの名家の分家出身だ。四大名家やいつもの名家集団に匹敵するほどの家ではないが、関係者にはそこそこ知られている。一般人は知らない。その程度の家の、分家の出だ。

 そして、そこまで期待されたウマ娘ではなかった。

 本家の娘のように充実した設備で幼少期を過ごしたわけではないし、技術を教え込まれたわけでもない。寒門よりはマシだったと思うが、明らかに贔屓があった。

 

『私の方が速いのに』

 

 シャドウストーカーはそう思っていた。だからいつも不満があった。

 本家の娘が同期だったということも贔屓に拍車をかけていた。

 最近は、あの家程度の大きさでは、同時に多数のウマ娘を育成する余裕などなかっただけなのだということがシャドウストーカーにも分かってきていた。

 しかし、当時の自分がそれを知っても不満が抑えられることはなかっただろうとも思う。

 

 トレセン学園に入学し、できる限りの努力をした。

 本格化するまでは、座学、教官からの指導を誰よりも真剣に行った。

 本格化してからは、練習し、レースに出て、勝ったり負けたりした。

 才能を見込まれベテランのトレーナーが付いたが、それに対する本家のリアクションは皆無。

 チューリップ賞で三着だった時も、本家は何も言って来なかった。本家の娘がオープン戦で二着だったときはあんなに褒めていたのに。

 

 勝ちたい、勝って見返したい。私の方が強いんだということを、あの連中に突きつけてやりたい。

 本家の連中、そして何より大して強くもないのにチヤホヤされるいけすかない本家の娘が、自分の成績に何も言ってこないことに腹を立てた。

 

 シャドウストーカーの中でその想いは膨れ上がり、ついにオークスで爆発した。

 

「では…もう見返すという目標はオークスで達成していたのではないのですか? しかし、先輩は秋華賞でも勝つことができた。勝ちたい理由を見失わなかったのですか?」

 

「うーん…確かに一時期はそうだったよ。でも、また走りたいと思ったから」

 

「それは…?」

 

 身を乗り出して聞こうとするウルサメトゥスを少し笑って抑えつつ、シャドウストーカーは言う。

 

「単純だよ。勝ったことで、私のことを強いって思ってくれる人が増えたから。もっと見て欲しいと思ったの。もっと勝ちたくなったの。子供っぽくてごめんね」

 

 それは、子供のような承認欲求。

 もっと私を見て欲しい。もっと応援してほしい。私は強いんだと、知って欲しい。

 

 だから、勝つ。

 

 見返すという理由の延長線上かもしれない。しかし、今シャドウストーカーが勝ちたい理由はそれだった。

 

「幻滅した?」

 

「いえ、先輩はもっと人気が出るべきです。日本国民全員が先輩のファンになるべきです」

 

 即答する後輩に苦笑いする。

 このウマ娘は、シャドウストーカーのことになると少し過激になるきらいがあった。

 

「そうなったら楽しいかもね。それでウルちゃんの走る理由は、なに?」

 

 ウルサメトゥスに逆に問い返す。

 自分の想いは語った。

 力になるためにも、今度は後輩の想いを聞きたい。

 

「私は…両親に恩返ししたいのです。そのために、レースの賞金を獲得したい」

 

「でも、賞金は一着じゃなくても貰える。だから、勝ちたい理由が分からなくなった?」

 

「はい。いえ、勝ちたいとは思っています。私も競技者ですので。でも、負けて泣くほど悔しいか? とも思うのです。なんというか、頭と心が一致していないような、そんな不快感があるのです」

 

「そっか…」

 

 シャドウストーカーとてまだ十代半ば。

 的確なアドバイスができるほど、人生経験が多いわけではない。

 しかしだからこそ、常識に囚われた大人にはない柔軟な発想ができるということもある。

 

「勝ちたい理由なんて、分からなくてもいいんじゃない?」

 

「えっ?」

 

「理由なんてなくても、一着を取りたいから取る。それでもいいと思うよ。後から理由がついてくるかもしれないし」

 

 シャドウストーカーは、目の前の小さなウマ娘が必死になって勝つ理由を探していること自体が不思議だった。

 そんなものなくてもウマ娘は走る。本能で勝ちたいと思ってしまうのだ。

 だから理由なんて、『勝ちたいから』でいいと本気で思っていた。

 

「そんな! それじゃどうして私はこんなにも負けたく──────」

 

 無責任とも取れるシャドウストーカーの発言に言い返そうとして、ウルサメトゥスは目を見開いて動きを止めた。

 不自然な硬直にシャドウストーカーが様子を見ていると、一分ほど間を置いて動き出した。

 

「…すみません、ちょっと電話してもいいですか?」

 

「いいよ」

 

「ありがとうございます」

 

 目の前で急に電話をかけ始めるという失礼な行為に、シャドウストーカーが腹を立てることは無い。

 この小柄な友人が突飛な行動をし始めるのは割と慣れているからだ。

 それに、普段朝早く出て夜も早く寝てしまうこの友人の、起きている顔を長く見られるのも悪くない。

 

「…あ、もしもしお母さん? 私だけど。うん…一つ聞いてもいい? …凄いね、何も言ってないのにお見通しってわけだ。うん、うん。ありがとう。私、頑張るよ。あ、次の日曜日、私ホープフルステークスに出るから。良ければ見にきて。それじゃ、おやすみ」

 

 どうやら母親に電話をかけたようだ。

 内容についてはシャドウストーカーには分からなかったが、ウルサメトゥスの目を見れば、悩みが半ば解決してしまったことくらいは察せた。

 自分が直接悩みを解決してやれなかったことにシャドウストーカーは少し悔しく思ったが、ウルサメトゥスの顔が晴れたことは素直に嬉しかった。

 

「悩みは解決した?」

 

「ええ、先輩のおかげでもあります。アドバイスありがとうございました。このお礼は必ず」

 

「私は何もしてないけどね。お礼なんていいんだけど…そうだね。じゃあ、私に対して敬語、やめよっか?」

 

「!?」

 

 何もしていないとは思っていたが、貰えるものは貰っておく。

 ティアラ二冠にしてエリザベス女王杯優勝ウマ娘であるシャドウストーカーは、とても強かな娘だった。

 

 

 ──────────────ー

 

 

 ありがとう、トレーナー、トーカちゃん先輩、そして父さん母さん。

 よく分かったよ。

 俺は本当にバ鹿だ。

 

 勝ちたい理由じゃない。

 そんなもの無かったんだから、探しても分からないはずだ。

 

 あったのは負けたくない理由。

 俺のちっぽけなプライドと臆病な心が生み出したありもしない幻想。

 そんなものに怯えて、本当に下らない。

 それが分からなかったことにも腹が立つ。

 

 でも、もう大丈夫。

 

 幻影の重圧から逃げるのは終わりにしよう。

 

 負けたくない理由は妄想で、勝ちたい理由も呼んだ(・・・)

 

 

 なら、あとは勝つだけだ。

 

 

 




次話はホープフルステークスです。

感想欄で書きたいことを先に言われてしまいどうしようかと思いました笑
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