ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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いつも応援ありがとうございます。

今回の話は割とすんなり書けました。
書きたい部分だったのと、キャラが勝手に動く現象が同時に発生したせいですね。

この次くらいでジュニア級は終わりです。

それではどうぞ。


ホープフルステークス:寒空と、温かい涙

 

 

 

 勘違いしていたんだ。

 俺は、自分の心の中に燻る感覚が、『勝ちたい』とか『一着を取りたい』という気持ちから来ていると考えていた。

 

 

 でもそうじゃなかった。

『勝ちたい』ではなく、『負けてはいけない』が正しかった。

 

 

 結局のところ、俺は負けて自分が失望されることが怖かったんだ。

 

 

 これまで自分のために身を粉にして尽くしてくれた両親に。

 俺の目標のために睡眠時間を削ってまでトレーニングメニューを考えてくれたトレーナーに。

 何より、前世でもしたことがないような努力をして、全力で挑んだ自分に失望したくなかった。

 

 だから、負けてはいけない。

 負けて両親やトレーナーに見放されたくない。

 自分に失望したくない。もっとやれるんだと思い込みたい。

 

 そんな考えがいつの間にか出来上がり、肥大し、体を縛っていた。

 俺は両親から、トレーナーから期待されている。

 無意識にそう思っていたからこそ、負けたときに怖くて涙が流れた。

 

 勿論、勝ち続けろなんて両親やトレーナーから言われたことなんて一度もない。

 全く、俺は度し難いほど傲慢だった。

 

 

 自分の力を過信して、負けたら失望されると思い込んで、挙げ句の果てには自滅して。

 

 

 俺の両親は一度や二度負けたくらいで失望するような人たちか? ありえない、そのくらい分かっているはずだ。そもそも両親は俺に見返りなんて求めていないだろう。

 

 俺のトレーナーは一度や二度負けたくらいで俺の担当を辞めるような無責任な男か? 違うだろう! 俺の負けを自分のせいだと言い張るような奴だぞ。

 

 俺はどんなに努力したからって、無敗で物事を続けられるような完璧な人間か? それが一番ありえない。転生しても何も成長してないじゃねえか。

 

 俺は負けることで自分が失望される、見放されるなんて思い込んで、負けることに恐怖していただけだった。

 我が身可愛さ、どこまでも自分中心な人間、いやウマ娘だったってわけだ。

 

 勝ちたい理由なんて大層なものじゃなかった。そんな前向きな感情じゃない。

 俺の心のもやもやなんて幻想に過ぎなかった。バ鹿すぎて呆れ返る。

 

 芙蓉ステークスまで勝ち続けていたのも原因の一つだな、完全に天狗になっていたんだ。

 子供特有の根拠のない全能感? おい、前世含めたら中年なんだぞ、いい加減現実を見ろよ俺。

 恩返しを走る理由にするのはいい。

 だが俺はそれをあろうことか不調の原因にしようとしていた。

 

 一抹の不安を振り切るために電話をかけたら何て言われたか? 

 

 

『…あ、もしもしお母さん? 私だけど』

 

『あら、どうしたの? いつもなら寝てる時間じゃないの?』

 

『うん…一つ聞いてもいい?』

 

『なぁに? 例えレースで負けても、あなたは私たちの可愛い娘よ。手放してなんてあげないわ』

 

『…凄いね、何も言ってないのにお見通しってわけだ』

 

『娘のことだからね。最近、元気なさそうだったし。レースの映像からだけでも分かるわ、私も、お父さんもね。それに、ウルはちょっとネガティブなところあるじゃない』

 

『うん…』

 

『また色々考え込んで、もしかしたら不調の原因が自分でも分かってないんじゃないかって、お父さんも言ってたわ』

 

『うん』

 

『全く、あなたは頭がいいのに変なところを心配するんだから。大丈夫よ、誰もあなたを見捨てないわ。だから、そんなこと気にせず走りなさい!』

 

『…ありがとう。私、頑張るよ。あ、次の日曜日、私ホープフルステークスに出るから。良ければ見にきて』

 

『もう客席のチケット予約してあるわ』

 

『…っふ、それじゃおやすみ』

 

『はい、おやすみなさい』

 

 

 親って凄い。

 最近電話すらしてないのに、レースの映像を見ただけで分かっちゃうんだってさ。

 やっぱり、俺の両親は最高だよ。

 そしてそんな最高の両親が来るからこそ、今日のレースは頑張らないとな。

 

 大丈夫、これは体を縛る重圧じゃない。

 

 俺の背中を優しく押し出してくれる、追い風なんだ。

 

「メトゥス、入ってもいいか?」

 

「ええ、準備はできていますので」

 

 控室に中森トレーナーが入ってくる。その手には温かいお茶があった。

 もうすぐパドックに行かなければいけないが、どうやら俺のために温かい飲み物を買ってきてくれたらしい。

 相変わらず気の利く人だ。

 

「はい、熱いから気をつけて」

 

「ありがとうございます」

 

「…うん、朝見たときから調子は良さそうだと思っていたけど。どうやら完全に調子が戻ったみたいだね」

 

 ここのところずっと俺を気にかけてくれていたトレーナーは俺の顔を見て安心したように笑う。

 うう、すまぬ。心配かけてしまったな。

 貰ったお茶をちびちび飲んで俯きそうな顔を隠す。

 

「その節はご迷惑をおかけしました…」

 

「迷惑だなんて思わないでくれ。僕はキミのトレーナーだ、もっと頼ってくれていいんだよ」

 

 うーん、タラシ! 

 よくそんなキザなセリフ素面で言えるな! こっちが恥ずかしくなるわ。

 だがもう大丈夫だ。弱気な自分にサヨナラってな。

 

 お茶飲んで水分補給も十分。

 さぁ、パドックに行こうか。

 

 

 

 

 今日も今日とて凄いメンツだ。

 ブライアンこそいないけど、大体京都ジュニアSに出ていた娘たちと同じ。

 さらに京都のときはいなかった、ミニ家のミニコスモスちゃんとかもいる。

 新興のミニ家だけど、その実力は他の名家に劣るものではない。

 

 みんなこのレースに合わせてきたようで、調子は良さそうに見える。

 一番調子が良さそうなのは…ストレートバレットちゃんかな。黒沼トレーナーのところの。

 選抜レースでは出遅れながらもあのブライアンに迫った差し脚を持つウマ娘。要警戒だな。

 勿論ほかの娘も強豪ぞろい。油断なんて欠片もできない。

 

 天気は…うん、見りゃわかる。

 

 雪だ。

 

 まぁ12月も半ば過ぎて、さらに寒波が来て気温も0℃近い。

 雪も降るってもんだ。

 

 ただ…悪くないな。

 バ場は不良、そりゃそうだ。

 で、足場が悪いってことは、パワーのある俺のようなウマ娘にとっては有利要素だ。

 そして天候は雪。雨ではなく雪だ。

 

 雪は音を吸収する性質がある。

 だから、音を起点とする俺の『領域』とは相性が悪い…とでも思ったのか? 

 確かに雪は音を吸収する。雪の日に静かなのはそのせいだしな。

 だけどそれは距離に応じて変わる。

 雪だけで目の前を通り過ぎたトラックの音が小さくなるか? という話だ。

 つまり…俺の『領域』くらいの範囲なら大して変わりはない。

 むしろ遠くの歓声なんかは小さくなるだろうし、足音も聞こえやすくなるかも? 流石にそれは期待し過ぎか。

 

 

 返しを終えて控室に戻り、濡れてしまった服を着替える。

 そう、今日の俺は勝負服だ。ホープフルSはG1だからな。

 このときのために既に作ってあるのだよ。

 

 黒い髪に合わせ、色は黒を基調とした。

 狩人を彷彿とさせる身軽な上着に、口元を覆う生地の薄いベール。

 下はブーツイン型のすらっとしたズボン。ブーツは革のブーツ。

 ロビンフッドハットをかぶる。

 

 おっと忘れないように、仕上げに茶色のファーケープを羽織って完成だ。

 俺の『領域』の象徴、あの恐ろしいケモノ。

 これを羽織ることで、あいつの力を身につけるって意味を持たせた。

 

「メトゥス、どうだった?」

 

「ストレートバレットさんは調子が良さそうでしたね。他の方々も強敵揃いです」

 

 俺が着替えている間外に出ていたトレーナーが帰ってくる。

 トレーナーも概ね同意見のようで頷くが、途中で首を振る。

 

「いや、今日一番調子が良くて、一番仕上がっているのはキミだ」

 

 …そうだな。こんな余裕の上から目線で対戦相手を評価できるのも、自分が一番調子がいいと分かっているからかも。

 

「そうですね。間違い無いかもしれません」

 

「間違いないよ。キミのトレーナーである僕が言うんだから間違いないさ」

 

 言ってくれる。

 だが、いい激励になったぜトレーナー。

 

「トレーナー。今日は勝ちます。見ていてください」

 

「勿論。最高の席を確保してある。ゴール前で待っているよ」

 

 その言葉を背に、俺は控室の扉を開けた。

 

「そうだメトゥス」

 

「?」

 

「勝負服、似合っているよ」

 

 …俺は惚れないからな!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートに入り、ファンファーレが鳴る。

 俺は7枠15番、外寄りだ。最初から『領域』を使おうとしても、ここからだと内枠のウマ娘にまで届かない。

 今回は中盤から使うつもりだから関係ないがな。

 人気のウマ娘が紹介されていくが、なるほど確かに音が小さく聞こえる。

 少し積もってもいるし、これが雪が音を吸うということなんだろう。

 ちなみに俺は9番人気。芙蓉Sを勝ったとはいえ、直近の成績はそうでもない。名家でもないし、まぁ妥当だろう。

 

 解説による紹介が終わり、いよいよレーススタートだ。

 

『スタートしました!』

 

 ウマ娘たちが綺麗なスタートを見せる。

 流石G1、出遅れなんてしないか。

 ハナを取りに行ったのはいつも通りリバイバルリリックちゃん。

 見惚れるほどのロケットスタート、他の逃げウマ娘たちを牽引している。

 

『ハナを取ったのは1番リバイバルリリック。もはやお馴染みの光景と言えます』

 

『内枠が幸いしたのか、今日はいつにも増して勢いがあるように見えますねぇ』

 

 ただ、雪道のせいかあんまり速度が出せていないように見えるな。

 よし、俺も序盤から圧力かけちゃうぞ。

 

 ほら、聞こえるだろう? 迫り来る足音がさ! 

 

『逃げウマ娘たちが後続を引き離します…いえ、あまり距離が開いていないように見えますね?』

 

『今日は雪が降っていますし、コースにも少し積もっています。あまり速度を出せないのかもしれません。それに、後ろのウマ娘たちもそれを見たのか序盤からペースを上げているようです。逃げウマ娘にプレッシャーをかけたいんでしょうね』

 

 その通りだが、プレッシャーをかけたいという意思は多分俺だけだと思うぞ。

 俺が圧力をかける前は別に前に出ようとしてなかったしな。

 というか、思ったより遠くまで足音が届いたのか? なんか差しウマ娘たちまで若干ペースが上がっている気がする。

 

『ウマ娘たちが坂を登り、最初のコーナーへと走って行きます。先頭から最後尾まではおおよそ9バ身といったところでしょうか』

 

『逃げウマ娘からしたらもう少し差を広げたいですね。ここで離しておかないと、後半でキツくなりそうです』

 

 実況解説の声が届いたのか分からないが、逃げウマ娘たちのペースが少し速くなる。

 よし、それでいい。この調子でスタミナを減らしてくれ。

 

『2コーナーを回り直線に向かいます。先頭から1番、7番、8番、16番、二バ身離れて11番、2番、4番、5番と続きます。一バ身離れて3番、18番並びかけてきた。半バ身離れて17番、6番、9番、10番、14番。更に半バ身離れて12番、13番、最後尾に15番です』

 

『先頭から最後尾までは12バ身といったところでしょう』

 

『只今先頭が1000mを通過しまして、タイムは1:00.6。不良バ場にしてはかなり速いペースです。ウマ娘たちのスタミナ残量が気になりますね』

 

 全く良いペースだ、感心感心。

 だが、俺も後ろからプレッシャーをかけ続けていただけあって、この距離なら『領域』の射程圏内だ。

 

 残り1000m。

 初のG1の舞台、今日の俺は一味違う。

 なんせアイツの毛皮を纏ってるからな。

 手に入れるのには苦労した。芙蓉Sの賞金を結構使ったくらいには。

 だがその甲斐はあったかな。昨日トレーナーに了解をとって試し打ちしたら威力が増してたらしいし。

 

 俺を殺したことを許すことはないが…今だけは力を貸せ、クマ公!! 

 

「さぁ…畏れろ、私を!!!」

 

 雪が音を吸収する? 

 関係ないね。

 だって今日の俺は絶好調なんだ。トレーナーも言ってたし間違いない。

 足音も届く。心臓も万全。毛皮効果で威圧のパワーもマシマシだ。

 それなら、効かないはずもないだろう? 

 

 ほらその証拠に、肉食獣に追われる草食獣たちが一斉に逃げ出したぞ! 

 

『先頭が第3コーナーを回りますが…ペースが速い?! 仕掛けるには早すぎるのではないか!?』

 

『後ろが慌てたようにそれに続いて行きますね…初のG1の舞台、緊張して仕掛けどきを誤ってしまったのでしょうか?』

 

 前を走るウマ娘たちが弾かれたようにペースを上げる。

 確かに効果が上がっているかも? 俺の思い込みかもしれないけど。

 まぁいい。重要なのは、ライバルたちが全員かかったという結果だ。

 

 ほらほら、まだ後ろから追ってくるぞ。

 そんなんじゃ追いついてしまうが、大丈夫か? 

 

『かかってしまっているのでしょうか、一息吐くことができればいいのですが』

 

『残りは500m。そうもいかない距離ですねぇ…』

 

 本来の仕掛けどきはこのくらいだからな。

 掛かってしまって仕掛けどきよりも300mは早くペースを上げてしまっただろう。

 脚は残っているか? プレッシャーも消すし、スパートしていいぞ。

 

 出来るもんならな。

 第二の効果、発動だ。

 

 

 夜ではないけど、天候のせいで空も暗い。

 まるで俺が殺されたときみたいじゃないか。

 

 だからさ、みんなも俺と同じ恐怖を味わってくれよ。

 

 

 なぁ!! 

 

 

『残り400m、しかしウマ娘たちのペースがここで落ちた!!』

 

『不良バ場に速いペース、それに最後の掛かりが牙を剥きましたね』

 

 ライバルたちの足並みが乱れたのを見て、力任せに横に飛び出す。まっすぐ行ったらバ群の中、埋もれて詰みだ。

 地面はぐしゃぐしゃで、先頭までは大体10バ身。かなり距離がある。

 なんかちょっとデジャブだな。

 そうか、芙蓉ステークスも中山レース場で、状況もこんな感じだったんだっけ? 

 それなら同じことが言えるな。

 

 ここから最終直線で残りは310m。普通なら間に合わない。

 だが…

 

 

 お嬢さん方、あまりにも隙だらけだぜ? 

 

 

『さぁ速度の落ちたバ群、根性で抜け出すのは誰だ! 中山の直線は短いぞ!』

 

『これは…大外、大外です! 一体いつからその位置にいたのか、バ群に邪魔されることもなく、そして雪道に足を取られることもなく! 駆け上がって行きます!!』

 

 キッツい。

 苦しい。

 脚が回らなくなりそう。

 滑らないように気をつける必要もある。

 俺がパワーが売りだからといって、この不良バ場を簡単に駆け上がれるわけはない。

 

 

 ああ。

 だけど。

 

 

「ウルー!! 頑張れえええ!!!」

 

「ウル!! 走り抜けろ!!!」

 

「いけえええええメトゥスぅぅぅぅぅうう!!!!」

 

 

 そんな声が聞こえたらさ、頑張るしかないじゃん? 

 

 

 隣を走るウマ娘がハッと我に返る。

 お、俺の世界から帰ってきたか。

 けど悪いね。もう伸びないだろう? 

 脚も残ってないだろうし。

 

 そして何より、今日の俺は、世界で一番速いんだ。

 

『15番並ぶか?! いや並ばない! 並ぶことなく抜き去った!! そのままの勢いでゴール!!!! 15番ウルサメトゥス、ペースを崩したウマ娘たちの中、ただ一人冷静にレースを制した!』

 

 

 勝った。

 勝ったのか。俺は。

 

 観客席に手を振る。

 気温は低いってのに、体が熱い。

 

 最前列に両親とトレーナーがいた。

 って、隣同士の席だったのかよ。そりゃ応援の声が同時に聞こえるわけだ。

 声を出そうとしたが、なぜかこえがでない。

 

 

 

 ああ、おれ、ないてるのか。

 

 

 

 でも、俺の心に恐怖なんて無い。

 

 これは、嬉し涙なんだ。

 

 

 

 




次を投稿したら、少し間が開くかもです。
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