ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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2000お気に入り、10万UA達成!本当にありがとうございます!

前回の掲示板回に隠れたネームドは無事みんな見つかったようで嬉しいです。
お馴染みのカイチョー、黄金船さん、顔でか姉貴、天才ちゃんでした。

あと今回ちょっと長いです。誤字も多いかも。
誤字を見つけたらそっと報告してやってください…

ではどうぞ。


鋼の意志とは

 

 

 

 ホープフルステークスを優勝したのが昨日。

 

 あの後ウイニングライブを無事に終え、両親とトレーナーに胴上げされた。高く上げすぎてこえーよ! 3人ともウマ娘でもないってのにどこにそんな力があるんだ? 

 俺が小さすぎるだけ? やかましいわ。

 レース後も特に忙しいこともなく。取材とかあるのかなーって身構えてたけど、なんか簡単な受け答えだけで終わっちゃったんで拍子抜けしちゃったよ。

 

 明けて月曜の今日、俺は普通に授業を受けている。出待ちとかもなしだ。トーカちゃん先輩とかはオークス優勝してから取材でてんてこ舞いだったみたいだけど、あれはトーカちゃん先輩が知られた家の分家出身だからだったっぽい。俺は実に平和なものだ。

 トーカちゃん先輩やクラスメイトからはめっちゃお祝いされた。嬉しいね。

 トーカちゃん先輩にG1を獲ってお揃いだね、なんて言われたりもしたが、いやクラシック級でG1三勝と比べたら流石に比較にならないっすわ…

 クラスメイトにサイン書いてーとか言われることもあり、なんか自分が有名人になった気分になった。

 

「ウルサメトゥスさん、教科書の朗読の続きをお願いします」

 

「はい、『しばらくじっと僕を見つめていたが…」

 

 当てられたので該当部分を読み上げる。考え事をしていても授業を聞いていないわけじゃない。

 今は国語で教科書の朗読をしているのだが…

 とりあえず、この世界でも「君はそういうやつ」なことが分かった。

 

 

 

 

 授業が終わり、いつも通りカフェテリアでトレーナーを待つ。

 今日は練習はしない。レースの次の日は反省会をすると決めていて、それを口実にというかトレーナーからトレーニングを禁止されているのだ。

 いつも練習しすぎだから? 否定はしないけどね。

 

 ブラックコーヒーを飲みながらUmatterを眺めて時間潰しする。エゴサとかはしない。そもそも俺の本アカウントほぼウマートしてないしな。

 眺める時も別アカウントを使っている。芙蓉を勝ったときにめちゃくちゃフォロワーが増えてからというもの、なんか怖くてそれ以来本アカを見てすらいない。通知も全部切った。

 

 昨日の有の会見について色々言ってるウマ娘が多いな。

 …ビワハヤヒデ先輩の「今日の朝刊は異常だ。新聞社は反省するべきだな」ってなんだ? 俺も新聞読んだけど、特におかしな事が書かれてた感じはなかったと思う。

 

「お待たせ、メトゥス。遅れてしまったね」

 

「いえ、せいぜい五分と言ったところですので、問題ありません。今日はトレーニングもありませんしね」

 

 有に出るメンツのウマートを眺めてたらトレーナーが来た。

 待ち合わせの時間から五分遅れているが、その程度気にすることはない。

 ただ、時間を守る性格のトレーナーが遅刻なんて珍しい。

 なんか様子がおかしいような。顰め面してるし。

 

「どうかしたんですか?」

 

「ああいや…キミは今日の朝刊を見たかい?」

 

「見ましたが」

 

 今日の新聞? ビワハヤヒデ先輩に続き、トレーナー、お前もか。

 有記念に出るウマ娘たちの会見の様子が一面に取り上げられていたな。皆有に出るだけはあり、強気の発言が多い。

 トーカちゃん先輩も載ってた。「私を応援してくれる全ての人へ勝利を捧げたい」だってさ! いやーかっこいいね。

 あ、俺も取り上げられてたぞ。俺、というよりはホープフルがだけど。

 俺がウイニングライブをセンターで踊ってる写真が載ってた。自分で言うのもなんだけど、可愛く取れてたぞ。カメラマングッジョブ。

 

「キミは疑問に思わなかったのか?」

 

「何をです?」

 

 トレーナーはそんな俺の様子を見て、なんというか怒っているようだった。

 俺に怒っているわけじゃなく、新聞に怒っているのか? 

 

「そうか、そもそもキミは知らないのか。いいかいメトゥス、基本的に、G1があった翌日の新聞では、そのG1を一面に取り上げるのが慣例なんだ。よほどのことがない限りはね」

 

 そうなのか。

 確かに言われてみればG1があった次の日にはそのG1のことが書かれてたかも? 

 ああ、だからホープフルじゃなくて有のことが一面に載ってたのがおかしいってことね、把握。

 でも有だしなぁ。よほどのことじゃないの? それは。

 

 俺がそんなことを考えていると、トレーナーは俯いて拳をキツく握りしめ、吐き捨てるように言う。

 

「キミは昨日G1のホープフルステークスで優勝した。だから今日の新聞には、一面記事にホープフルSのことが書かれているはずなんだ。なのに、どの新聞を見てもホープフルSのことが一面に載っていることはなかった…!!」

 

 

 ガン、と大きな音が響いた。

 

 

 トレーナーがカフェテリアの机を目一杯殴りつけたんだ。

 おいおい、少ないけど周りにいたウマ娘たちがめちゃくちゃビビってるじゃん。

 どうどう、落ち着けよトレーナー。

 

「これが落ち着いていられるか!? 昨日のレース後の取材があまりにあっさりしすぎていたことから訝しんではいたが…こんなもの、侮辱にも等しいんだぞ!!」

 

 宥めようとするが、トレーナーの激昂はおさまらない。

 ええ、どうしよ。そんな怒ること? 

 ほらカフェテリアにいた娘たちみんな逃げちゃったじゃん。いや、なんでか店員さんがこっちを注意してくることもないんだけど。

 

「挙げ句の果てには! 昨日ホープフルの後にやった有の会見を一面に持ってくる新聞社もある始末だ! …これがもし、キミ以外のウマ娘がホープフルを獲っていたらこんなことにはならなかっただろう」

 

「どういうことですか?」

 

「キミは一般家庭の出身だ。名門やこの業界で知られた家とはなんの関係もない。そんなウマ娘が、周囲を名家に囲まれたG1で優勝した」

 

「何か問題があるのですか?」

 

「問題なんてあるわけない。キミはキミの全力を尽くし、実力でG1の冠をもぎ取った。褒められるべき立場なんだ。問題は、マスコミがそれを認めていないことだ」

 

 認めてないってなんだ。昨日勝ったのは間違いなく俺だぞ。いや色々幸運な条件とかあったし、二位との着差もあんまなかったし、もう一回同じことやれって言われたら微妙だが。確かに優勝したのは俺だ。

 

「要は、キミの勝利をマスコミはフロックだと思っていて、それを世論にしようとしているんだ」

 

 あーなるほど、見えてきたかも? 

 つまりあれか? 名家の出身がこんなに集まってG1やったのに勝ったのがよく分からんやつだったから上の方の人たちが情報操作しようとしてるんか? 

 G1の次の日は必ずその記事を一面に載せるなんてルールがあるこの世界の新聞社なんて、絶対名家の人たちと結びつきあるだろうし。

 名家としては、同じ名家に負けるならともかくどこのウマの骨とも分からんやつに実力で負けたなんてことにしたくないわけだ。

 まぁ面子もあるだろうしそんな不思議なことじゃないな。ウマ娘中心で回ってるようなこの世界だし、さもありなんって感じ。

 

「そうですか」

 

「僕はそれを理事長に伝え抗議しようとしていたんだ。理事長も納得してくれて、正式に抗議を申請しようとしたんだが…」

 

「上に止められた?」

 

「…そうだ。今回だけは抗議を見送ってほしいと。URAも複数の名家、新聞社から圧力をかけられているらしい」

 

 へー、名家と新聞社が集まるとURAも一回くらいなら言うこと聞かせられるんだな。

 確かに名家って毎年URAにすごい額の寄付金出してるらしいし、そのくらいの権限ありそう。

 

「それで遅れたというわけですか」

 

「メトゥス。悔しくないのか? キミの勝利に泥を塗られたんだぞ…!」

 

 そう言われてもな。実感湧かないんよね、実害ないし。

 

「トレーナー」

 

「…なんだい」

 

「私がなんのために走っているのかは、以前にお伝えした通りです」

 

「両親への恩返し、だよね」

 

「その通りです。別に名誉のために走っているわけではないのですよ。もちろんあったほうがいいとは思いますし、貰えるなら貰いますが」

 

 極論誰にも注目されてなくてもいいんだよね。

 俺の最終目的はレースでたくさんお金を稼いで両親に恩返しすることだし。

 怖いのは両親とかトレーナーに失望されることだけど、そんなこと俺の妄想でしかないってのがこの前はっきりしたしな。

 

「そうでしょう? 私のトレーナーさん」

 

「あ、当たり前だ。キミを見限ることなんて、手放すことなんてない。キミから見限られたらその限りではないかもしれないけど…」

 

 それはないと思うから大丈夫だよ。これでも信頼してるんだぜ。

 てか思ったんだけど、フロックって思ってくれるならそれはそれでよくね? 

 

「その評判は私に有利に働くかもしれませんね。私の『領域』は警戒されればされるほど効果が薄くなると思いますし。偶然私が勝ったと思ってくれるなら、むしろ好都合ですね」

 

 どうせ文句言ったところで結果は覆らんと思うしさ。

 あ、流石に結果を変えられたら俺も文句言うよ? 貰えるお金減るしね。

 

「キミは…本当に強いな」

 

「私なんてまだまだです。この『領域』を使っても、ナリタブライアン先輩に勝てるかは分からないのですから」

 

 そこだよなぁ問題は。

 京都ジュニアSで実際に戦った感じと、朝日杯の映像。

 あれに『領域』だけで追いつけるとは思えん。俺は俺の実力をそこまで信用していない。

 ブライアンに勝つには、俺自身の身体的な意味での成長が不可欠だ。

 

「これからですよ、トレーナー。私たちはまだ道半ばなのです。周りからの評判なんかに気を遣っている暇なんてないはずです」

 

 あと数日で今年も終わる。

 そしたら俺たちはクラシック戦線に突入するんだ。

 ホープフルに勝ったことは嬉しいけどさ、その評判までに拘ってる暇なんか無い。

 マスコミの工作? だからどうした。むしろ内容考えると俺に有利じゃん。

 実害もないそれへの抗議? 対応? 

 

「それ要ります?」

 

 まだ次の目標レースも決めてないし、昨日の反省会だって終わってない。

 やることなんて山積みなんだぜ、トレーナー。

 

「しっかりしてください。私をバンバン勝たせてくれるんでしょう? 覚悟の準備をしておいてほしいと言ったはずですよ?」

 

 そのためにも、まずは昨日の反省会からだ。

 

 いいですねッ!! 

 

 

 

 ──────────────────

 

 ホープフルステークスの翌日。

 

 中森がその日の朝刊を手に取って、それを引き裂かずにいられたのは奇跡に等しかった。

 一面を飾っていたのは、有記念の会見のこと。有に出走するウマ娘たちのコメントが細かく載せられている。

 

「何だ…これは!!!」

 

 新聞を持つ手が怒りに震える。

 それもその筈である。通常、G1があった次の日の朝刊には、そのG1の記事を一面に載せて大きく取り上げるものだ。

 その慣習は、トレーナーやウマ娘に深く関わっている人ならば常識的に知っていることであり、ウマ娘にそこまで詳しくなくても知っている人は知っている。

 

 そのはずが、ホープフルステークスが載せられていたのは三面記事。

 それも優勝したはずの中森の担当、ウルサメトゥスが注目されているわけでもなく、ホープフルSに出走したウマ娘たちに広く浅くインタビューしたもので、ひどく薄っぺらい内容だった。

 

 中森は即座に他の新聞社の記事も調べた。もしかしたら、中森の取っている新聞社のみがこんな巫山戯たことをしているのかもしれないと考えたからだ。

 しかし、大手新聞社は全滅。それどころか、中堅の新聞社まで同じような有様だった。

 

 許せない。

 

 中森の頭に浮かんだのはそれだけだった。

 中森は優勝したウルサメトゥスの担当だ。彼女がこの結果を得るためにどれだけのトレーニングを積んだか、どれだけ苦悩したのかをよく知っている。

 それら全てに泥を塗るような狼藉に対し、怒り狂わないはずもなかった。

 

 

 身支度もそこそこに中森はトレセン学園に向い、理事長室まで走って行った。

 既に来るまでの間にアポイントメントは取ってある。中森が理事長室をノックもなしに開いたそこには、眉を吊り上げた秋川やよい理事長が腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「歓迎ッ! よく来たな、中森トレーナー」

 

「中森トレーナー、お急ぎなのは分かりますが、ノックはしてくださいね」

 

「ああ、すみません」

 

 一緒にいた駿川たづな理事長秘書にたしなめられる。

 しかし、それで中森が止まれるわけでもなかった。

 

「理事長、今朝の新聞のことですが…」

 

「承知ッ! こちらでも把握している!」

 

「単刀直入に聞きます。どう思われましたか」

 

 中森は理事長に問いかけた。答えによっては、理事長すらこの出来事に噛んでいるということも考えられる。そうなった場合、中森はトレセン学園、ひいてはURAを敵に回す可能性があるのだ。

 

「…醜悪ッ。まさに下衆の所業と言えよう。こんな非道が罷り通るとはな」

 

 その言葉に中森はひと安心する。理事長も今回の件に関してはかなり思うところがあるらしい。隣にいる駿川も、口に出すことはないが、かなり不愉快そうな表情をしている。

 

「理事長。今回の件に関して、正式に抗議したいのですが」

 

「当然ッ! 我々もそう思って既に行動している! URAには連絡済みだ。あとは返答を待つだけ…」

 

 そのとき、理事長室の電話が鳴る。駿川がいち早く電話を取り、理事長に繋いだ。

 

「もしもし。はい、そうです! 我々は断固として…何だと?」

 

 途中までは比較的冷静に話を進めていた理事長だったが、雲行きが怪しくなる。

 

「そんなことが! あっていいはずがないだろう!! その横暴を認めるというのか?! ……いえ。そうですか。分かりました。ですが、納得はしておりません。それでは」

 

 電話が切られる。

 意気消沈した理事長の様子から、中森はこの抗議の結果が既に分かっていた。

 

「…謝罪ッ。今回だけは、怒りを飲み込んでほしいとのことだ。どうやらURAにも圧力がかかっているらしい。十中八九新聞社、それに名家上層部の連中だろう」

 

「そうですか…いえ、こちらこそ無理を言いました。メトゥスには私から伝えます」

 

 

 理事長で無理なことを、中森に何かできるはずもなく。中森は頭を下げる理事長にそう返し、理事長室を後にした。

 

「たづなよ。…私は、無力だな」

 

「理事長…」

 

 分厚い扉が閉まった後の会話は、中森には当然聞こえなかった。

 

 

 

 中森がいつも通りカフェテリアに向かうと、既にウルサメトゥスはコーヒーを飲みながら待っていた。

 今回は中森が遅れていたので当然とも言える。中森の知る限りでは、そもそも彼女が待ち合わせの時間に遅れたことは一度もないが。

 

「お待たせ、メトゥス。遅れてしまったね」

 

「いえ、せいぜい五分と言ったところですので、問題ありません。今日はトレーニングもありませんしね」

 

 ウルサメトゥスはスマホをポケットにしまいながらそう答える。

 あまりにも普通すぎる態度に、中森はウルサメトゥスがこの異常な状況を知らないのだと考えた。

 それを聞いてみると、彼女はそもそも新聞でのG1の扱いを知らなかった。一般家庭出身であることを考えれば、特段珍しいことでもない。

 

「そうなんですね。ああ、だからホープフルではなく有のことが一面に載ってたのがおかしいということですか」

 

 その事実を伝えてもウルサメトゥスの表情は一切変わらない。まるでどうでもいいと思っているかのようだった。

 しかし中森は怒りの表情をウルサメトゥスに見せたくなく、俯いていたために彼女の表情は見えない。

 

「キミは昨日G1のホープフルステークスで優勝した。だから今日の新聞には、一面記事にホープフルSのことが書かれているはずなんだ。なのに、どの新聞を見てもホープフルSのことが一面に載っていることはなかった…!!」

 

 中森は悔しさのあまり机を殴りつけてしまう。拳が軋むが、中森は痛みを感じられるような精神状態ではなかった。

 

「お、落ち着いてくださいトレーナー! 周りに迷惑ですよ!」

 

「これが落ち着いていられるか!? 昨日のレース後の取材があまりにあっさりしすぎていたことから訝しんではいたが…こんなもの、侮辱にも等しいんだぞ!! 挙げ句の果てには! 昨日ホープフルの後にやった有の会見を一面に持ってくる新聞社もある始末だ! …これがもし、キミ以外のウマ娘がホープフルを獲っていたらこんなことにはならなかっただろう」

 

 きょとんとして明らかにその理由が分かっていないウルサメトゥスに、中森は一つ一つ説明していく。

 

 この記事がホープフルの結果を良く思わない人々によって操作されていること。

 一般家庭出身であるというだけで軽んじられていること。

 何より、ウルサメトゥスの実力が不当に過小評価され、それが事実とされてしまっていること。

 

 ウルサメトゥスは目を閉じて中森の説明を静かに聞いていた。

 そしてたった一言、

 

「そうですか」

 

 と言った。

 

 中森は既に抗議を試みて、失敗したことを告白する。

 URAにまで圧力がかかっていることも含め、全て話した。

 しかし、ウルサメトゥスの表情はそれでも変わらない。

 

「トレーナー」

 

「…なんだい」

 

「私がなんのために走っているのかは、以前にお伝えした通りです」

 

 もちろん中森は知っている。その問答をしたことも記憶に新しい。

 

「両親への恩返し、だよね」

 

「その通りです。別に名誉のために走っているわけではないのですよ。もちろんあったほうがいいとは思いますし、貰えるなら貰いますが」

 

 そしてウルサメトゥスは言う。

 

「誰にも注目されていなくても構わないのです。ただ、両親に、そしてトレーナー。私の親しい人たちが、私を応援してくれるなら。私に失望しないでいてくれるなら。それだけでいいのです。あなたは私に失望しませんよね? そうでしょう? 私のトレーナーさん」

 

「あ、当たり前だ。キミを見限ることなんて、手放すことなんてない。キミから見限られたらその限りではないかもしれないけど…」

 

「それなら大丈夫ですよ。これでもトレーナーのことは信頼してるんです」

 

 ウルサメトゥスは、この状況も悪いことばかりではないと言う。

 確かに『領域』のことを考えればそうかもしれない。しかし、とても中学生とは思えないほど彼女は冷静であり、そして強かだった。

 中森は激昂していた自分が少し恥ずかしくなる。彼女への仕打ちに対し怒っていたことに後悔はないが、ウマ娘よりもトレーナーである自分が冷静でいるべきだったのも確かだからだ。

 

「キミは…本当に強いな」

 

「私なんてまだまだです。この『領域』を使っても、ナリタブライアン先輩に勝てるかは分からないのですから」

 

 ウルサメトゥスは苦笑するが、中森が言いたいのは身体的な話ではない。

 

(キミは本当に、心が強い。同年代のウマ娘の中でなんて狭い括りじゃない。僕たち大人を含めてもその心は頑丈だ。鋼の意志、ってやつなのかな)

 

 抗議している暇なんて無いと。

 そんな時間があるなら自分を強くしてくれと。

 

 目を離したら置いてきぼりにしてしまうぞと、そんなふうに言われた気がした。

 

「しっかりしてください。私をバンバン勝たせてくれるんでしょう? 覚悟の準備をしておいてほしいと言ったはずですよ?」

 

 いいですね? なんて冗談めかして言う小柄な青鹿毛の少女に対し、この娘こそが最高のウマ娘なのだと中森は思ったのだった。

 

 

 




幕間を挟むかもしれませんが、今回で一応ジュニア級は終わりです。

次の投稿は間が空くかもしれません。
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