ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件 作:アザミマーン
イベントほぼ完走しました。
次回のチャンミは根性育成が強いとか?まぁサポカ弱者である私には関係のない話でした…
今回は幕間のお話なので、見なくても本編には影響ないと思います。
それでもよければどうぞ。
世間は年末。俺は久々に実家に帰ってきていた。
夏休みは結局帰らなかったしな。
年末も別に帰るつもりはなかったんだけど、直近に予定してるレースもないしトレーナーに帰らされた。
『年末くらい帰ったらどうだい。ただでさえ、キミは練習しすぎだ。精神面、身体面共に問題がないことは僕も分かっているけど、クラシック級になる前に心機一転すると言う意味でも一度帰りなさい』
とのことだった。
まぁ俺としても久々に両親とゆっくりした時間を過ごすのも悪くないと思ったし、トレーナーの言葉には逆らわずに帰ってきたってわけだ。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい。寒かったでしょ?」
「いや、お母さんがくれたセーターのおかげでそんなでもないよ」
玄関を開けると早速母のお出迎え。
外の気温は0℃近いが、しっかり防寒しているのでそこまで寒くない。せいぜい顔が冷たいくらいだ。
「お父さんは?」
「予約してたお節料理受け取りに行ったわ」
トレセン学園の冬休みは二週間ほど。
生徒の中には遠方から来ている娘もいるため、里帰りするウマ娘が不便しないように冬休みは少し長めである。
デビューしていたらレースもあるので帰ることが叶わない娘も出てくるが、我が家はトレセン学園にそこそこ近いのでこうして帰ることもできる。
ちなみに電車で30分くらいだ。
「期末試験は大丈夫だった?」
「はい、成績表」
「まぁ、心配はそんなにしてなかったわ」
一学期は学園生活が始まったばかりということもあり少し成績が乱れたが、二学期は慣れてきたこともあり全て最高評価だ。
数学が少し苦手なのだが、トーカちゃん先輩が優しく教えてくれた。
二人っきりで! これはもうお部屋デートと言っても過言ではないのでは?
まぁ現実はそんな甘いものではなくただ勉強会しただけなんだが…しかも少しやれば俺も前世の知識を思い出してスムーズに解けるようになったし。
トーカちゃん先輩が微妙な顔をしていたことは忘れられない…
「ただいま!! ウル帰ってるか!!?」
「おーおかえりお父さん。そしてただいま」
「おかえりウル! 父は会いたかったぞ!!」
「ぐえ」
父が帰ってくるなり抱きついてくる。いくらウマ娘とはいえ大人の男が全力で抱きついてきたらちっとは苦しいぞ。
とりあえず手に持ったおせちは冷蔵庫に入れとけ。
「ほら、ウルちゃんが困ってるじゃない」
「うお?!」
べり、という効果音がつきそうな勢いで父が剥がされる。
それをやったのは勿論母だ。どんなパワーしてんだ。あれ? 母は普通の人間のはずなんだが…
「お母さん…また力ついた?」
「あらあら、そんなことないわよ〜?」
俺のパワーは母譲りなのかもな。
何はともあれ、一家全員揃った。
「いい時間だし、ご飯にしましょう」
そうしてくれると助かる。
時刻は18時。燃費の悪いウマ娘としてはお腹が空いてくる時間なんだ。
夕飯での話題はもっぱら俺の話だった。そりゃそうか。
「ほら、ウチで取ってる新聞にも載ってたのよ! ホープフルステークスの記事!」
そう母が見せてくるのは俺も見た記事。おお、こんな感じだったな。俺はこの時怒り狂うトレーナーを鎮めるのに必死だったからあんま覚えてないが。
両親はウマ娘にそこまで詳しいわけではないため、G1レースの新聞での扱いについても知らないようだ。俺も知らなかったし無理もない。
もし知られてて怒り出されても対応できないからむしろありがたいな。
「私も見たよ。まぁ、なんか不思議な気分だったよ。自分が新聞に載ってるなんてさ」
「俺なんて社長から直々に褒められたぞ! 『キミの娘さんは素晴らしい才能を持っているようだね。君たちには期待しているよ』だってさ!」
おお、思わぬところに影響が。悪影響じゃないっぽいしいいか。
父が会社での心証アップに繋がったなら俺も嬉しい。
話題は学園で関わる人たちへ。
「中森トレーナーはいいトレーナーだよ。私のことを気にしてくれるし、無理はさせないし。何より有能だしね」
「私たちもお話ししたけど、まだお若いのにしっかりした方だったわね〜。イケメンだし!!」
「ぐ…ウル、トレーナー殿に変なことはされてないよな?」
「ないない。むしろ私が変なことしてないか心配なくらいだから」
「そ、そうか」
「お父さんは心配性ねぇ。それに、もし何かあったとしてもあのトレーナーさんなら責任とってくれそうだしね〜」
「責任!? いかんぞウル! そういうのはまだ早い!!」
「何言ってんだか…」
まずは当然トレーナーの話題。
以前から電話では話したことがあるはずだが、この前ホープフル後に一緒に食事したのが初めての会合だ。
トレーナーはいつもよりさらに丁寧な調子で俺の普段の練習の様子を話していて、両親はいちいち大袈裟に反応していたようだった。
両親は中森トレーナーに対して概ね好意的だったが、好意的過ぎたのかなんか別の心配をされている。
こちとら中身は元男だぞ。全く無駄な心配だな。
「はいこれ、トーカちゃん先輩のサイン入り色紙」
「ありがと〜! お母さん大ファンなのよ!」
「こっちはドカドカ先輩の」
「おおこれが! 家宝にしなければ…」
両親は俺がトレセン学園に通い始めてから真剣にトゥインクルシリーズのレースを見るようになった。結果、二人とも推しのウマ娘ができたのだった。
母は俺と同室でお馴染みのトーカちゃん先輩。父は菊花賞で二着、有馬記念で三着と長距離ウマ娘として頭角を現しているドカドカ先輩のファンだ。
「クラシックでG1を3つ取ったウマ娘と長距離で最上位争いしてるウマ娘のサインなんてそうそう手に入らないんだから感謝しなよ?」
「勿論!」
「当然だとも!」
「全く二人とも調子がいいんだから…」
トーカちゃん先輩は言ったら普通にくれた。ドカドカ先輩のはトーカちゃん先輩が貰って来てくれた。まったくトーカちゃん先輩は最高だな!
お詫びというかお返しとして今度一緒に映画に行くことになっているが、俺が一方的に得しているのでは? まぁトーカちゃん先輩が納得してるならいいか。
「有馬は二人とも惜しかったね」
「俺たちもテレビで見ていたが、本当に誰が勝ったか分からないレースだったな」
「大接戦だったものねぇ」
有馬記念はビワハヤヒデ先輩が優勝した。二着はシニア級トップクラスの実力を持つロングキャラバン先輩、三着がドカドカ先輩、四着ウイニングチケット先輩、五着ナリタタイシン先輩だった。トーカちゃん先輩は六着と惜しくも入着を逃した。
前世ではBNWの時代の有馬ってトウカイテイオーが奇跡の優勝した年じゃなかったか? と思ったが、まぁ所詮は前世の記憶。この世界とは違って当然か。
なお今年の有馬は一着から六着までがほぼ団子状態、写真判定の連続という超激戦だった。現地でトーカちゃん先輩を応援していた俺も誰が勝ったか分からなかったくらいだ。
何の因果かブライアンと席がめっちゃ近くて微妙に緊張した。ブライアンはこっちを欠片も気にしていなかったが。そりゃそうか。
そのブライアンはウマ娘たちがゴールした直後、フッと笑ってそのまま会場を後にして行った。今思えば、姉のビワハヤヒデ先輩が優勝したことが分かっていたのだろうと思う。
「来年はウルもあの舞台に立っているのかしらねぇ」
「おいおい、俺たちの娘だぞ? いるに決まっているだろう!!」
「それもそうね!」
…ほんと、調子のいいこと言っちゃってさ。
ま、期待しててくれよ。
あなたたちが応援してくれるなら百万バリキだ。
ブライアンがなんだ、クラシック三冠全部もぎ取ってそのまま有馬も優勝してやるよ!
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「ユウ。ウルは寝たか?」
「タクマさん。うん、今日は練習してから帰って来たみたいだし、普段も寝るの早いみたいだから」
「そうか…」
ウルサメトゥスが眠った後も、ウルサメトゥスの両親、タクマとユウはリビングで杯を傾け、静かに話していた。
暖房をかけた室内は暖かいが、部屋に流れる空気は同様ではない。
二人とも娘の手前、表情に出さないようにはしていたが、ホープフルSの新聞の話題が出たときは顔が引き攣りそうだった。
怒りで、だ。
ウルサメトゥスは両親が新聞でのG1の扱いについて知らない、と判断したが、実際には知っていた。
大事な一人娘のことだ。調べないはずもないし、何よりホープフルSの直後に中森トレーナーから直接聞いていたのだ。
翌日、中森トレーナーからわけを聞いたときは、思わず二人とも声を荒らげてしまったほどだ。
もしその様子をウルサメトゥスが見ていたらとても驚いただろう。自分の両親がそこまで感情的に怒る姿を彼女は見たことがないからだ。
新聞の件からしばらくの間、特に母であるユウは怒髪天を突くという表現が似つかわしいほど怒り狂っていたが、ウルサメトゥスが帰ってくるという知らせを聞き、何とか普段通りの表情を取り戻していた。
まだ若干眉を顰めたままのユウがぽつりと言う。
「あの娘は、気にしてなさそうだったわね」
「ああ。まぁ、そうだろうとは思っていた。あの娘は昔から自分のことに関して、特に知らない他人からの評価に対して酷く無関心だからな」
タクマは幼少期のウルサメトゥスを思い出す。
以前から出来た娘だった。
他の子の親が言うような苦労を自分たちは殆どしなかった。同年代の子どもが自分の思うように振る舞う中、一歩引いた場所から観察しているような娘だった。
精神的に成熟していた、という表現が正しいかもしれないとタクマは思う。
子どもらしくない、しかしかわいい娘だった。
娘に、自分は変じゃないかと直接聞かれたことがあるが、そんなこと考えたこともない。
不気味? 実の娘にそんなこと思う親がいるか。
教えてもいない敬語を話す? 天才じゃないか!
急に活動的になった? いいことじゃないか。
何を不安に思っているかすら分からないとタクマは思った。
自分たち両親や祖父母のような近しい人に嫌われるのを酷く恐れる娘だったが、そんなのは子どもとして普通の反応だ。
その態度こそが、ウルサメトゥスを救っていたということをタクマは知らない。
そんな娘だったが、一方で、同級生や学校の先生なんかに対しては、常に一定の距離を保っているというか、端的にいえば非常に淡白だった。
だから、今回の件で中森トレーナーから娘の様子を聞いたときも、『そうだろうな』という感想しか出てこなかったほどだ。
「あの娘を見ていると、自分の器が小さく感じるよ」
「でも、あの新聞で怒らなかったらそれはもう親ではないわ」
「勿論だ。たとえウルが何とも思わなくても、それで俺たちが怒っちゃいけないってわけでもねぇ」
本人が気にしていないのにその両親が怒るのはどうなんだと思わないわけでもなかった。
しかし、親として譲れないものはある。
「私たちには、あの娘の心が潰れてしまわないように安心させてあげることしかできないのかしら」
「ユウ…だが、トレセン学園の理事長でもどうにもできなかった以上、そっちの方面で俺たちに力になれることはないよ」
「だけど…!」
「少し落ち着きなさい。ウルが起きてしまう」
溢れそうになる感情をぐっと堪え、言葉を飲み込む。
親であるが故に愛娘には何でもしてやりたいが、何ができるのか分からないのだ。
実際、タクマやユウが今、娘に出来ることは多くない。
しかし、その数少ない”してやれること”の一つ、『無償の愛情』こそがウルサメトゥスに唯一必要なものであるということも、両親には分からない。
「結局、俺たちにできることはこれまでと変わりない。あの娘が助けを求めて来たときに、それに応えてやることくらいだ」
「そう、ね…」
ウルサメトゥスが両親を想うように、両親もまた、娘のことを想っている。
そして両親が娘に対して何の見返りも求めていないのと同じように、ウルサメトゥスもまた、両親に対してこれ以上の見返りを求めていない。
彼女は、両親が愛してくれているということだけで十分なのだ。
それは両親にとっては当たり前のことであり、だからこそ彼女が既に満たされているということだけが伝わっていないのだった。
両親はそれでも娘にしてやれることを模索し、年末の夜は更けていくのだった。
「でもこれからもし私たちにあの子に関する取材があったら断りましょう!」
「当然だ! 手のひら返しなんて許さんからな!」
そんな相談があったとかなかったとか。
次回からクラシック編に入ると思います。