ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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書いてたらちょっと長くなってしまったので少しキリが悪いですが一旦投稿。
続きは近いうちに上げます。

ではどうぞ。


先輩の実力、影を覆う影

 

 

 

 

「大丈夫? ウルちゃん」

 

「だ、だいじょうぶ…」

 

 トーカちゃん先輩が心配そうに俺に声をかけてくる。

 咄嗟に大丈夫とか言ったけど、全然大丈夫じゃないわこれ。

 膝に手をついて息を整えようとしているが、まだ回復には少し時間がかかりそうだ。

 

「少し休憩だな。メトゥスの消耗が激しい。まぁ、2000mを続けて2回走ればそうもなるだろう。慣れないこともしたしな」

 

 そう。俺はトーカちゃん先輩と模擬レースをやってたのだ。

 タイマンで。

 まぁ他に併走するウマ娘もいないしね。

 

 最初は互いの得意脚質通りに俺が追う側、トーカちゃん先輩が追われる側だった。

 厳密にはトーカちゃん先輩は先行なので追う側であり追われる側なのだが、試しってことで好きなように走っただけだ。

 2回目は逆で、俺が先行してトーカちゃん先輩が追う側。いい機会だし、普段俺がやってるのと逆のこともしようってね。

 

 で、走って見た感想だが。

 

(トーカちゃん先輩強すぎぃ!?)

 

「?」

 

 なんとか顔だけでトーカちゃん先輩を見上げる。

 内心俺が恐れ慄いているのを全く分かっていないようで、トーカちゃん先輩は首を傾げている。可愛い。

 いやそうではなく。

 

「メトゥスも走ってみて分かっただろうが、僕がシャドウストーカーを併走相手に選んだのは何もキミと仲が良くて強いからってだけじゃない。もちろん1番の理由はそれだが、追うことと追われること、両方を常にこなしている先行脚質のウマ娘だからというのも理由の一つだ。これによってキミは普段できない、幅広い経験をできるようになる」

 

「ええ…よく分かりましたよ」

 

 トーカちゃん先輩は強い。分かっていたことなんだが、見てるのと実際に走ってみるのとでは全く違うということを思い知らされた気分だ。

 

(トーカちゃん先輩はこんなことを普段からやってるのか…)

 

 ニコニコとこちらを見る様子からは全く想像もできない。

 いやはや、改めて尊敬の念しかないわ。

 

 

 まず、俺が追う側のときのこと。

 俺は前世で運動とかあんまりやってなかったので、ウマ娘になって初めて走りを競技として体験している訳だが…実際にレースをすると分かってくることがある。

 

 レースでは、基本的に追う側の方が有利だということだ。

 追う側は、当然ながら前を走る相手の後ろを走る。

 真後ろにいればスリップストリームを使って体力を温存できるし、温存した体力を使って後ろから並びかけ、前にプレッシャーを与えることもできる。

 前を走るウマ娘は並ばれれば抜かされまいと速度を上げることが多いし、最悪それがなくても心理的に焦りを与えられることが多い。

 

 俺なんかは普段それらをレース中にやって相手のペースを乱したり、自分の体力を温存したりしてレースを終始後ろから自分の思い通りの展開に運んでいる。

 

 しかし、トーカちゃん先輩とタイマンして、終わったあと地に伏しているのは俺だけだった。

 トーカちゃん先輩は軽く息を整えているだけ。

 俺も結構スタミナには自信がある方だが、たった2000m走っただけでスタミナを削り切られてしまったのだ。

 それも俺が追う側でだ。

 

 何をされたのか? 

 

 トーカちゃん先輩は、後ろを振り向くこともせず、常に俺の位置を正確に把握できているかのようだった。

 具体的には、俺が加速してプレッシャーをかけようとしたタイミングでトーカちゃん先輩が加速したり。そのせいで俺はタイミングを外され逆に追いつくのに多くスタミナを吐かされた。

 外から回ろうとしたタイミングでコースを若干塞がれたり。内にも入れない絶妙のコース取りで、結局大回りすることになった。

 いくらウマ娘は尻尾のおかげで感覚が人より優れているとはいえ、流石にタイミングがドンピシャすぎる。後ろに目でもついているんじゃないかと疑ったほどだ。

 トーカちゃん先輩はエスパーだった??? 

 

「流石にレースではこんなに上手くいくことは少ないよ。今回は相手がウルちゃんだったからできただけ」

 

 それは俺が分かりやすいってことなのか? いやさっきのレース中は普段の足音を大きくする歩法とは逆の消音の方もやってたんだけど? 全然通用しなかったが。

 

「ウルちゃんのことはよく知ってるし、よく見てるからね」

 

 なるほど? 同室で性格とか走りとか知ってるから、なんとなくタイミングも分かるってか。いや分かるか! それだったらトーカちゃん先輩のレースを欠かさず見てる俺も分からんとおかしいだろ? 

 ん? 待て、レース中にここまで上手くいくことは少ない? 少ないだけでそこまで知らない相手でも出来たことあるんかい! 

 

 そしてトーカちゃん先輩は俺の位置を正確に把握しているだけではない。もう一つ捉えられなかった理由がある。

 それは走法。ステップというのが正しいか? 

 後ろに付いて観察すると分かる。

 朧げ、という表現が近いだろうか。次に踏み出す足がどこに着地するのか全く予想がつかない幻惑のステップ。

 アプリ版ウマ娘のスキルに「幻惑のかく乱」というものがあったが、もし実際にスキルとして存在するならこんな感じなのだろうと思ってしまったほどだ。

 とにかく捉え所がないのだ。加速するタイミング、コース取り、それらがトーカちゃん先輩の脚を見ていると全く分からなくなってしまう。普通の走法と折り混ぜてくるからタチが悪い。

 ウマ娘たちの仕掛けのタイミングは、脚を見るのが一番分かりやすい。力を入れて筋肉が膨張したり、歩幅が変わったりするからだ。

 しかしトーカちゃん先輩の脚は見ると幻惑される。

 駆け引きしたりプレッシャーをかけるのに脚を見る必要があるのに、脚を見るとこちらが乱されるという。なんというか、分かりやすい無理ゲーをやっている気分だった。

 

「結構難しいし、走り方との相性もあるからこれをやってるウマ娘はあんまりいないけど、それなりに知られた家なら教えられる走法だよ。ここまで露骨なものじゃなければそこそこ使ってるウマ娘はいると思うよ」

 

 まぁ私はほぼ独学で覚えたけどね、と自慢げに言うトーカちゃん先輩。可愛い。

 いやこんなの使えたらそりゃ自慢げにもなりますわ。

 

 

 そして次に、追われる側のときのこと。

 元々俺は追われる、ということ自体がトラウマ気味であり、得意ではない。

 しかし今後必ずしも最後尾でずっとレースを進められる、なんて楽観的な考えはできない。

 今は(色々あって)無名の俺だが、この先レースで良い成績を残せばマークされることだってあるだろうし、走りを研究されることもあるだろう。『領域』の条件がバレることだってあるかもしれない。

 そうなったときのために今からトーカちゃん先輩相手に練習しようとしたのだが…

 

「しかし、ここまで苦手とはね」

 

「面目次第もありません…」

 

 ギリギリ1000mくらいなら集中力が持つ。

 しかしそれ以上になるとダメだ。後ろが気になりすぎて走りに集中できない。

 トーカちゃん先輩が追うのも上手いというのもあるだろうが、1000mを超えたあたりから別にトーカちゃん先輩は何もしていないのに俺が勝手に掛かってしまう始末。

 

「メトゥス」

 

「…なんでしょう」

 

「シャドウストーカーが併走に付き合ってくれている間は、追われる練習を欠かさずやろうか」

 

「そうですね…」

 

 ほんと、不甲斐なくてすまん。

 

 で、とりあえず最初のまともに思考が働いてた1000mの走りから得られた情報だが。

 なんというか…俺の上位互換といった感じだ。

 俺が普段やっていることを、さらに高レベルにした感じ。流石に足音や心音、殺気で圧力をかけてくることはないが。それをやられたらもう俺いらないしな。

 並びかけることでのプレッシャー、真後ろにピッタリ付けてスリップストリームを受けることで気配をわざと察させて焦らせるなんてのは序の口。

 俺はトーカちゃん先輩ではないので、正確な位置を知るには基本振り向くしかないんだが、トーカちゃん先輩は俺が振り向くといつも距離を縮めようとしているところなのだ。

 振り向いたタイミングで距離を詰めようとしているのが見えたら、前を走る身としては焦るし、距離を広げようとする。

 しかし、後から映像を見ると実際にはトーカちゃん先輩との距離はそこまで縮まっていないのだ。

 つまり、こっちが振り向くタイミングを察して加速し、俺が焦ったのを見て減速していたということになる。化け物かな? 

 

「どうやって振り向くのを察知しているんですか?」

 

「耳の向きとか、あとはコーナーを走るときは後ろを確認しやすいでしょ? そのタイミングで加速すれば自然と相手がこちらを見るタイミングで視界に入れる。要は工夫だよ」

 

 なるほどなぁ。

 耳の向きは流石に参考にならない気がするが、コーナーの話は今からでも実践できる。

 やっぱり格上のウマ娘と走ると得られるものが多い。

 

「メトゥス、そろそろ大丈夫かい?」

 

「ええ、休憩は十分です」

 

「では次は『領域』を使った模擬レースだ。距離は先ほどと同じ2000m。ここからはいつも通りの脚質で行こう」

 

「ウルちゃん、よろしくね」

 

「任せて!」

 

 よし、貰ってばっかりじゃな。次は俺の番だ。

 お世話になってる先輩にあの『領域』をぶつけるのは少し気が引けるが…その当人からのお願いなら、遠慮する方が失礼か? 

 いい機会だと思うことにしよう。

 明確な格上にも通用するのか、試させてもらおうじゃないか。

 

 ──────────────

 

 シャドウストーカーに併走の話が来たのは、ちょうど彼女が『領域』の対策に悩んでいたときだった。

 有記念でビワハヤヒデの『領域』を見たとき、初めて『領域』を見たということもあり完全に飲み込まれてしまった。

 シャドウストーカーの次の目標レースである大阪杯は中距離であり、有で対戦した面々が出てくる可能性が高い。ビワハヤヒデもその内の一人だ。

 故に早急な対策を必要としていたのだが、年が明けても何も思いつかないでいた。

 

「『領域』に慣れるには、『領域』を何度も受けるか自分の『領域』を作り上げるしかない」

 

「トレーナー、でもそんなに急に『領域』を作れるとは思えないし、『領域』を使ってくれる相手なんて…」

 

 冬休みのある日、シャドウストーカーは自身のトレーナーと『領域』に関しての対策会議をしていた。シャドウストーカーの担当トレーナーは既に何人ものウマ娘を育成してきた暮林トレーナーと言い、『領域』のことも教えていなかっただけで知っていた。

 暮林トレーナーは俯くシャドウストーカーに明るい表情で提案する。

 

「そこでだ。シャドウ、キミと同室のウルサメトゥスから併走の話が来ている。正確には彼女のトレーナーからだがな」

 

「ウルちゃんから? 併走の話と今の話に一体なんの関係が?」

 

「これを見ろ。今のキミなら分かるはずだ」

 

 暮林トレーナーが言う『領域』への対策と、ウルサメトゥスとの併走に関連性が見られない。シャドウストーカーとしてはウルサメトゥスに助けられていると思っているため、話は受けたい。しかしそれが自身の成長に繋がるとは考えていなかった。そう考えるのは当然のことである。昨年度のクラシック級で上位の実力を持つシャドウストーカーとクラシック級に上がったばかりのウルサメトゥスでは、力の差がありすぎるからだ。

 

 しかし、この話を持ってきたのが暮林トレーナーであるので、シャドウストーカーは余計に混乱した。ベテランである彼にも力の差は分かっているはずだったからだ。

 混乱したまま、トレーナーが見せてくる映像を見る。ウルサメトゥスが優勝したホープフルSの映像だ。

 正直、これを見ると可愛い後輩が勝って嬉しいという感情と共に、メディア各社と名家に対し抑えられないほどの怒りが湧いてくるため、シャドウストーカーとしてはあまり見たくない。

 今更何なんだと思いつつも映像を見進める。

 

 映像の中のレースは後半に突入する。そこでシャドウストーカーは、トレーナーが今このタイミングで映像を見せてきた理由を理解するのだった。

 

 

 

 

「では次は『領域』を使った模擬レースだ。距離は先ほどと同じ2000m。ここからはいつも通りの脚質で行こう」

 

 中森トレーナーが指示を出す。

 ウルサメトゥスと一緒に走ってみて、シャドウストーカーは感心していた。

 先日までジュニア級だったとは思えないほどのパワー、そして前を焦らせる技術。もちろん、シャドウストーカーと比較したら流石に完成度は低い。

 レース歴が一年違う上に、ウルサメトゥスは一般家庭出身。技術的にも身体能力的にも非常に不利であるはずだ。

 しかし、ウルサメトゥスは一年前の自身よりもよく走れているとシャドウストーカーは思った。

 

(これでまだクラシックなりたて。凄いよウルちゃん、将来有望だね。それに、ここから『領域』を使うの? そりゃ、並の名家じゃ敵わないわけだ)

 

 そう、ウルサメトゥスには『領域』という切り札がある。ここまでの走りにそれが加わったとき、果たして自分の走りを保っていられるのか。シャドウストーカーは身構えずにはいられなかった。

 

「メトゥス、今日はあと2回ほど同じことをしてもらうが、最初はどうする?」

 

「では、初めはいつもの出力で、スタートから使うことにします」

 

「何の話?」

 

「私はこれでも『領域』には自信があるんだ。出力調整も使うタイミングもお手の物なんだよ」

 

 シャドウストーカーは『領域』を使うウマ娘とあまり走った経験がないのでそんなものかと思っていたが、話を聞いていた彼女のトレーナーは別だった。

 

(『領域』がジュニア級で使えるってだけでそもそもおかしいのに、出力調整? タイミングも自由自在?! 異常にも程があるだろう!)

 

 そんなウマ娘は聞いたことがない。それなりに長いことこの職業をやってきたが、ここまで驚いたのは初めてかもしれないと暮林トレーナーは思った。

 

 

 二人のウマ娘はスタート位置に並べられたゲートに入り、中森トレーナーの合図を待つ。

 集中を研ぎ澄ませる中、シャドウストーカーは異変に気づいた。

 

(心音が、大きく聞こえる?)

 

 集中すればいつもは心音なんて聞こえなくなってしまうのだが、今はやけに心臓がうるさい。自然と集中力が欠け、呼吸も少し乱れる。

 

(静かにしてよ…ッ!?)

 

 そのとき、原因不明の悪寒がシャドウストーカーの背筋を駆け巡る。

 

(なん…)

「スタート!」

 

 気を取られた瞬間、中森トレーナーのスタートの声が響く。

 すぐに反応してスタートするも、明らかにウルサメトゥスと比べて出遅れてしまった。

 

「くっ…」

 

 出遅れで焦り、さらに追込のはずのウルサメトゥスが引き離そうとする自分に並んでくることでさらに動揺してしまう。

 

「トーカちゃん先輩、大丈夫?」

 

「大丈夫に決まってる!」

 

 横にいるウルサメトゥスがシャドウストーカーに話しかけてくる。

 心の乱れを気を取られないように毅然と返すが、しかしこの問答に意味はなかった。

 

「嘘。私には分かっちゃうんだよね。嘘つきな先輩にはお仕置きしないと」

 

「何を…?!」

 

 なぜなら、シャドウストーカーは既に動揺してしまっていたからだ。

 言葉と同時、ウルサメトゥスが後ろに下がる。

 シャドウストーカーが身構えるが、か弱い抵抗だった。

 

 

 大きな音が鳴り響く。

 それと同時に、シャドウストーカーの視界は昏い影に飲み込まれた。

 

 

 




チャンミはB決勝でした。
準備期間無いのに皆さんよく仕上げられますねほんと…すごい。
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