ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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最近たくさん感想がいただけて嬉しいです。
返信が遅れることもあるのですが、どうか待っていただければと思います。

今回でトーカちゃん先輩との併走はおしまいです。

ではどうぞ。


『領域』の価値

 

 

 

 

 トーカちゃん先輩と併走練習を始めてから早二週間。

 既に一月も終わりかけで、俺が出走予定の弥生賞まで残り一ヶ月強といったところだ。

 トーカちゃん先輩は大阪杯に出る前に一度レースに出るらしく、その調整があるので併走練習もそろそろ終わりだと言われた。寂しいね。

 

 で、今日は健康診断。トレセン学園全体でやるのだが、レースに出るウマ娘たちの都合などもあり数日に分けて行われる。

 さーて俺の体は去年と比べてどのくらい成長してるかなっと。

 

 

「…」

 

「あ、ウルちゃん。今日もよろしく、って、どうしたの? 凄い渋い顔してるけど」

 

「トーカちゃん先輩。いや、なんでもないよ」

 

「なんでもないってことはなさそうだけど…」

 

 いつものカフェテリアでトレーナーを待っていると、トーカちゃん先輩が来た。

 

 今年に入ってから(いや去年もだが)お世話になりっぱなしのトーカちゃん先輩だが、併走練習を始めた頃は何故か俺の顔を見てくれなかった。

 同室だし併走練習をしているから毎日顔を合わせるのだが、俺の顔を見るとそっぽを向いてしまうのだ。

 俺があんな怖がらせるような『領域』を仕掛けまくってるから嫌われてしまったのかと思ったが、他でもないトーカちゃん先輩から嫌いになったわけではないと聞いた。

 よく見たら顔が赤くなってるし熱でもあるのかと額を合わせたりもしたが、慌てた様子で熱はないと言われてしまった。

 まぁ自分の体調は当人が一番よく分かっていると思うので、その後は心配しつつも気にかけるだけに留めたんだが。

 

 一週間くらいすると以前のように顔を合わせてくれるようになった。

 結局原因は分からず終いだったが、女心と秋の空って言うしな。所詮女もどきの俺じゃ本当の女の子の気持ちなんて分からないってことだ。

 

 なんか代わりに視線が妖しくなった気もするが…気のせいだろう。レースでもない時の俺の直感なんて信用ならんしな。

 

「あ、もしかして健康診断のこと? ウルちゃん背が低いの気にしてたしね。…伸びてなかった?」

 

「…」

 

「私は156cmだったよ」

 

 聞いてないです(怒)

 

 そうだよ、身長は一ミリも伸びてなかったよ。145cmぴったりのままだよ。

 体重は増えてたが、これは筋肉がついたからだろう。

 はぁ…そんなに大きいわけじゃないトーカちゃん先輩にダブルスコアつけられてしまったよ。

 一年しか年齢は変わらないはずなんだが、何が違うのか…

 

「だ、大丈夫だよウルちゃん! まだこれから伸びるって! 私もまだ伸びてるし!」

 

「トーカちゃん先輩は、去年の今頃、どのくらいでした? 身長」

 

「えぇと…153cmくらいかな」

 

「はい、この話終わり。今日は特別強力なやつをお見舞いするので、覚悟しておくように」

 

「ええっ!! と、特別強力なやつ…?」

 

 なぜ顔を赤らめる? 

 とにかく、今更謝ったって許さんからな。

 いくらお世話になっている先輩だからって、俺は怒る時は怒るんだ。

 

「わ、私は小さいウルちゃんも好きだよ!」

 

 なんのフォローだよ!!! 

 

 

 

 

 

「…ヒュー……コフッ…」

 

「ふんっ」

 

 ぶっ倒れているトーカちゃん先輩を見下ろし、鼻を鳴らす。

 人のコンプレックスを刺激するからこうなるんだ。

 横を見ると中森トレーナーが渋面を浮かべ、暮林トレーナーは苦笑している。

 

「メトゥス…やりすぎだ」

 

 仰向けになって呼吸を整えているトーカちゃん先輩を見やる。

 ううむ、確かに少しやりすぎたかも? 

 中等部の少女の些細な失言には、重すぎる仕打ちだったかな。

 

「…そうですね。流石に大人気なかったとは思います」

 

「いや、歳はキミの方が下だろうに」

 

 そうだった。

 いや精神的な話だよトレーナー。

 まぁ精神的にトレーナーの年齢よりもだいぶ上だなんてことは言えるはずもないんだが。

 

「シャドウ。いくら気のおけない友人だからって、限度があるんだからな? 気性難のウマ娘を怒らせたらどうなるか、よく分かっただろう」

 

「そうだね…」

 

 トーカちゃん先輩が起き上がってこちらにフラフラと近づいてくる。

 

「ごめんね、ウルちゃん」

 

「いや、私こそ怒りすぎたよ。まぁ、今日のは怒りだけじゃなくて実験も入ってたんだけど」

 

「え?」

 

 そう、今回の『領域』は特別強力なもの、つまりレースで出せる最も強い出力を仕掛けた。

 まだレースでは一度も出したことはない。

 レース中に事故が起きたら怖いし、それで対戦相手が走れなくなるほどの大怪我を負ったり、最悪死んでしまったら俺は悔やんでも悔やみ切れないだろう。

 

 だから、ある程度俺の『領域』に慣れたウマ娘や、『領域』そのものに慣れた格上に対してだけ使おうと思ってたんだ。

 その点、トーカちゃん先輩はこの二週間、毎日俺の『領域』を受け続けていたし、俺より実力のあるウマ娘でもある。

 実際ここ一週間くらいは俺の『領域』が発動しても最初の頃の半分ほどの効果しか得られなくなっていたしね。丁度いいと思ったんだ。

 

 それを伝えると、トーカちゃん先輩は納得した表情になった。

 暮林トレーナーは先程の苦笑とは打って変わって真剣な表情で言う。

 

「事前に話は聞いていたし許可も出したが…これほどとはな」

 

「私は止めた方がいいと言ったはずですが…」

 

「中森トレーナーはまだ二年目だったか? このトレーナー業をそれなりに長くやっていると嫌でも分かることだが、『領域』を持ったウマ娘と対戦できる機会なんてそうそうないんだ」

 

 俺は今日の練習前に両トレーナーに確認を取っていた。正直止められると思っていたのだが、意外なことに暮林トレーナーが食い気味で許可を出したのだ。

 

「『領域』。ウルサメトゥスは簡単に使ってみせるが、本来その域に達することができるウマ娘すら一握りだ。発現するための条件だって簡単ではないと聞く。俺はトレーナーになって15年ほど経つ。シャドウ以外の担当ウマ娘をG1で勝利させたことだってある。だが、それでも『領域』を持つウマ娘を育てたことはないし、レースでぶつかった事すらそこまで多くない」

 

 確かにアプリ版ウマ娘でもネームドウマ娘以外は固有スキルを持っていなかったしな。いや、クライマックスシナリオでライバルとして出てくるウマ娘くらいしか持ってなかったことを考えると、もっと少ないのかもな。

 

「そして、俺のこれまでのトレーナー人生で最高のウマ娘と断言できるシャドウが、今『領域』を使ってくる相手にぶつかっている。あの不可解な速度の上昇、ビワハヤヒデが『領域』持ちだということはすぐに分かった。これでもそれなりの時間トレーナーをやってきているしな。だが正直、対策なんて思いつかなかった。『領域』持ちに対する情報が足りなさ過ぎるんだ。俺が知っているのは、何度も『領域』を受ければ慣れてくる、ということくらいだった」

 

 暮林トレーナーが俺の方を向く。

 

「そんな中キミを見つけた。『領域』の情報を求めてジュニア級のレースまで探した甲斐があったよ」

 

「私が『領域』を持っていることには、暮林トレーナーが気づいたんですね。そんなに露骨だったでしょうか?」

 

 さすがベテランといったところか。

『領域』の効果がアレだし、一応それなりに情報を隠しているつもりなんだが。今のところ誰にも気づかれてないと思ってたから意外だ。

 トーカちゃん先輩のトレーナーだし、同じように感覚が鋭いのかな? 

 

「いや。あのホープフルの映像、俺だってシャドウのために血眼になって『領域』に対する手がかりを探してなかったら分からなかっただろうな。キミの『領域』は外から見ている分には効果が非常に分かりにくい。しかも『領域』を知っているトレーナーほど気づかないだろう。『領域』をジュニア級のウマ娘が使うなんて前代未聞だし、何より『領域』は心象の具現。必然的に自分に作用するものが殆ど、というよりキミを見るまで他者に作用する『領域』があるなんて知りもしなかった。俺だって半信半疑で、何度も映像を見直したよ。まぁ、シャドウはレース映像を二度見ただけで気づいてしまったが」

 

 お、トーカちゃん先輩がちょっと恥ずかしそうにしてる。

 めっちゃ持ち上げられてるからね。でも正当な評価だよ。

 その恥ずかしげな表情、エモいね…ぐへへ。

 

「メトゥス、変なことを考えているだろう」

 

「…そのような事実はありません」

 

 鋭すぎない? ちょっと怖いよトレーナー。

 暮林トレーナーは俺たちのやりとりを見て朗らかに笑っている。

 

「気安いやりとりができるのは、トレーナーとウマ娘でいい関係が築けている証拠だ。…話が逸れたが、とにかくキミとの併走はこっちにとっても渡りに船だったし、『領域』をシャドウが感じ取れるだけでもありがたかったんだ。全力を出して使ってくれるなんて、願ってもない。これで今後シャドウはどんな『領域』を受けようとも易々と動揺することはなくなっただろう」

 

「そうだね。それに、ウルちゃんのアレを受けた今なら分かるけど、ビワハヤヒデ先輩の『領域』はなんか…まだ完成しきってないように感じる。ウルちゃんのに比べたら、粗があるって言うのかな?」

 

 一応これでも幼少期から練習してるからね。練度に関してはそうそう負けないよ。

 あ、でもシンボリルドルフ会長の『領域』は映像からしてヤバかったから、もし対戦したらどうなるか分からないけど。

 それ以外だったら、よほど相性が悪いとかいうことがない限りは出力負けとか塗り替えられるとかはないと思う。そもそも他の『領域』持ちと対戦したこと無いし『領域』がぶつかった時にどうなるのかなんて分からんのだが。

 

「これでウルちゃんとレースで対戦しても、次は勝てるね?」

 

「私の『領域』は人数が多い方が効果が落ちるし、実際のレースだったらトーカちゃん先輩に対する効果はさらに減るよ。でも、一度見たくらいで対処できると思わないでね」

 

「メトゥス。キミのことは信用しているが、ほどほどにな」

 

「分かってます。フルパワーの『領域』なんてやりませんよ」

 

「え?」

 

 トーカちゃん先輩が信じられないようなものを見た、という顔で俺を見ている。

 どうした? 

 

「全力じゃないの? あれで? 私、確実に自分が死んだと思ったんだけど」

 

「ああ…私の『領域』は非常に攻撃的だから、全力を出してしまうとあまりにも危険なんだよ。だから、事故を極力起こさないためにもレース中に全力で使うことはしないって決めているんだ」

 

 忘れもしない、中森トレーナーと出会った日のこと。

 トラウマに負けた俺が手加減無し、正真正銘全力の『領域』を放ってしまい、結果トレーナーは気絶した。

 一歩間違えれば容易に他人を傷つけてしまう。そのことを俺は常に分かっていないといけない。

 

「ちょっと待て、キミはレース外でも『領域』が使えるのか?」

 

 あ、そうじゃん。普通はレース外で『領域』なんて使えないよ! 

 やべ、どうしよ。俺の『領域』めちゃくちゃ危ないし。

 他の人に知られたことが原因でレース出られなくなるかもしれん…

 

 そう考えていると、中森トレーナーが俺の一歩前に出た。

 

「暮林トレーナー、どうかご内密にしていただけませんか。メトゥスが『領域』をレース中ではなくても使えると知られたら…僕に彼女を守るほどの力はないのです」

 

「わ、私からもお願いします!」

 

 中森トレーナーが直角に腰を折る。

 俺も追従して頭を下げた。俺の失言をカバーするために相棒が頼んでくれてるんだ、当人である俺が頭下げなくてどうするんだ。

 それを見た暮林トレーナーは困り顔で少しおろおろしている。

 

「い、いや。元より他言することはない。『領域』を惜しげもなくシャドウに見せてくれた君たちには誠実でありたいしな。そもそも『領域』への対価が払えていたかも怪しいところだ。シャドウの技術を見せたが…技術が高いウマ娘なら、正直シャドウでなくても大勢いるはずだ。『領域』をみせることを対価にすれば、すぐにでも食いつくウマ娘は多いだろう、我々のようにな」

 

「しかし何もなしというのも…」

 

 暮林トレーナーは一息吐き、俺を真剣な目で見る。

 え、何? やっぱダメ? 

 

「では、ウルサメトゥス、キミに頼みたいことがある」

 

「な、なんでしょうか」

 

 な、なんだろう。もしかしてえっちなこととかお願いされちゃう?! 

 だ、ダメだぞ。俺の中身は男だし、トーカちゃん先輩だって中森トレーナーだっているし! 

 

「俺に全力の『領域』を使って貰えないか?」

 

「…は?」

 

 マゾか??? 

 

 

 

 

「俺はトレーナーだ。担当ウマ娘に対し、あのウマ娘が『領域』を持っているから気を付けろ、と言うことはできる。しかし、自分で『領域』を体験できることはないから、具体的なことは何も言えなかった。今まではな」

 

「それで私の『領域』を受ければ何か分かるかもと?」

 

「そうだ」

 

 そういうことらしい。

 そういうこと…なのか? 

 

「いや、私の場合確かに全力で発動させる時に限っては条件は必要ありませんが…」

 

 全力でやると俺の心音と足音と特に絶大な殺気を受けることになるからか、事前に掛からせてなくても第二の効果まで行ってしまうようなのだ。

 でも、うーん?必要かなぁ…その体験。

 中森トレーナーだって俺の『領域』を受けたからって『領域』に対する理解が深まったわけじゃないと思うが…

 

「頼む、この機会を逃したら、俺は一生『領域』を体験することはできないだろう。この通りだ!」

 

「えぇ…」

 

 俺は助けを求めるようにトーカちゃん先輩の方を見るが、首を横に振られてしまった。

 

「ウルちゃん…残念だけど、諦めてやってほしいな。こうなると止まらないから」

 

「いやでも…」

 

「いいの、トレーナーの経験にもなるだろうし、結果的に私のトレーニングの強化にも繋がるかもしれないし」

 

「…分かりました、そこまで言うならやりますが。後悔しないでくださいね?」

 

「男に二言はない」

 

 まぁ…そこまで覚悟が決まってるなら大丈夫か? 

 俺も積極的に使いたいわけじゃないんだがなぁ。暮林トレーナー、いい人だし。

 でも頼まれちゃったしな。忠告もしたし。

 一応中森トレーナーに目配せして、何が起きてもいいようにしておく。

 

 では、気は進まないけどやりますか。

 

「さぁ、やってくれ!!」

 

「ではいきます…『追われる恐怖を知れ』!!」

 

 

 

 

 

 その日、二人のウマ娘に担架で保健室に運ばれるトレーナーが目撃されたそうな。

 

 

 

 




次のチャンミは宝塚ですが…誰を出そうかまだ悩んでいます。
推しの娘は確定として、あとは誰にしようかな…
せっかく引いたしチアネイチャでも育てようかとは思ってます。
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