ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件 作:アザミマーン
そんな中サンブレイクとチャンミでリソースを取られて投稿が遅くなったのはドイツだ?
私です…申し訳ない。
そして今回そんなに中身がない、本当にすみません。
それでもよろしければ、どうぞ…
「それでは、よろしくお願い致します!!!」
シワ一つない白いスーツ姿の女性が、電話先に向かって腰を折る。
オフィスに隣接する廊下で電話をしていたため、彼女の大きな声が周囲に響き渡るが、それを咎める者は誰一人としていなかった。
自分たちの仕事が忙しくて気にしている余裕がないというのもあるが、最大の理由はこれが彼女の周囲の者にとって「いつものこと」だからである。
女性は電話先の相手が電話を切るのを待ってから自身も通話を切ると、かけ足にならないギリギリの早歩きでオフィスに戻る。
「失礼致します、編集長! 今お時間よろしいでしょうか!」
「ああ。それで、上手くいったんだな?」
眉間の皺が特徴的な50代の男性が応える。
彼女が向かった先は、上司である月間トゥインクルの編集長の元だ。
確認を取るまでもなく、編集長は彼女の要件を察していた。というか聞こえていた。
「はい! 来週の月曜に取材のアポが取れました!」
「そうか。なら、今回の取材はお前に一任する。元々お前が見つけたウマ娘だ。で、くれぐれも暴走しないようにな。苦情があったらどんなに出来が良くても記事は取り止めにするから」
「承知しております!」
「分かってるならいい。頑張れよ」
編集長は彼女に期待しているが、同時に危険人物だと考えていた。
取材力や書く記事の面白さ、そして何よりウマ娘への知識が異常なまでに豊富。しかし取材先から、
『担当ウマ娘を見る目がギラギラしすぎて怖い』
『こちらの情報に詳しすぎる。部室に盗聴器でも仕掛けているのではないか?』
『インタビューの最中、突然白目を剥いて気絶しかけた。担当ウマ娘が気味悪がっているので二度と来ないで欲しい』
など様々な苦情が何度も寄せられている。
最近では入社直後よりは遥かにマシになっているが、それでもまだ苦情の電話が来ることはあるため油断ならない。
そんな問題児たる彼女だが、優秀なことは間違いなく、苦情云々のことを加味しても記者三人分の働きをする。それに彼女はまだ入社二年目だ。なんだかんだと言われつつも、編集部全体で可愛がられていた。
「あ、そうだ乙名史」
「なんでしょうか?」
編集長が思い出したように言う。
取材準備のために自分の席に戻ろうとした白スーツの彼女──乙名史悦子は用件を聞くために振り返った。
「お前、今年分の有給1日も取れてねぇぞ。三末までにちゃんと五日間使っとけよ、最近厳しいんだからな」
働き者なのは結構なのだが、取るべきものを取れていないのは問題である。それに、全然休もうとしない乙名史を、(疲れているようには見えないが)編集長は心配していた。
そんな上役としての義務と配慮が入り混じった言葉に、乙名史は笑顔で返す。
「はい! 有給を使って来年デビューしそうなウマ娘たちに目をつけておきますね!!」
そう言って去る乙名史に、編集長や近くにいた先輩社員は皆一斉にこう思った。
違う、そうじゃない、と…
乙名史悦子は記者である。
趣味はウマ娘のレースを見ることで、仕事もウマ娘に関する情報を発信すること。
自他ともに認めるほどのウマ娘オタクであり、そして乙名史も
そんな風に、乙名史自身と他人との間で認識がずれているからこそ、乙名史は過度にトレーナーを尊敬しており、自分では思いもよらないような育成をしていると思っている。
結果として、乙名史が期待を持てると思ったウマ娘やそのトレーナーのことを記事にした際、
ただ、乙名史の記事がウマ娘やトレーナーを過大評価気味に書いても、彼女が目をつけたウマ娘たちは大抵結果を残すため、『記事に書かれていたことが本当かもしれない』と思ってしまう層が一定以上存在するのは確かである。
「月曜、しっかり準備しないと!」
そんな乙名史が今回目をつけたのは、先日クラシック級に上がったばかりのウルサメトゥスというウマ娘だ。
乙名史は月間トゥインクルという高い人気を誇る月刊誌の記者だ。(本人は若干大袈裟な記事を書くが)そこらの三流ゴシップ雑誌の記者ではないため、記事にはそれなり以上に精度の高い情報が求められる。
また、乙名史自身が他人がつけた評価というものをあまり信じない。それらの事情が合わさり、乙名史には自分の目で物事を確認する癖がついていた。
乙名史がデビュー前のウマ娘を自分の目で見に行くのもその一環である。
デビュー前のウマ娘というものは評価が難しく、ウマ娘関係の情報の中でも他人の評価が特に信用できないことで知られている。
そのためなのか、トレセン学園で行われる選抜戦には、まともな新聞社や出版社からはベテランの記者が見極めに来るのが通例となっている。
しかし乙名史は昨年も今年もそれについてきた。新人であるにも関わらず、だ。新人にデビュー前のウマ娘を見せるのは、難易度が高すぎて見極め切れないばかりか、変な癖がついてしまうことがあるためご法度であり、普通はついてくることすら許されない。
だが、乙名史の類稀な観察眼、そして大学で四年間研究室に居座り、ウマ娘を研究し続けて学会に論文を出したこともある実力を見込まれ、特別に許可されていた。
実際、昨年度の選抜戦では、そこまで知られた名家とは言えないウマ娘であるドカドカをいち早く見出した。
ジュニア級ではそこまで芽が出なかった彼女も、距離が伸びるにつれ評価を上げていき、今では今年の天皇賞(春)の優勝候補として名前が上がるほどになっている。
それを誰よりも早く見つけ、真っ先に独占取材を成功させた乙名史の評価は鰻登りだった。尤も、本人は気にした様子もなかったが。
今年度の選抜戦でも、乙名史は観察眼だけで様々な有力ウマ娘を見出し、記事に貢献してきた。
そして注目が集まる中距離の選抜戦になり、同行するベテランの記者がナリタブライアンや各名家の取材に行く中、乙名史はレースの観戦を続けていた。
ナリタブライアンは確かに逸材であり乙名史も興味を惹かれたが、ナリタブライアンが有力であることは昨年度から既に分かっていたことである。
そのためそちらにはベテラン記者が確実な情報収集と取材に回り、乙名史はまだ見ぬ原石を発掘する業務を任されたのだった。
そんな中、誰も注目していなかった中距離第三レース。
乙名史は、巨大なダイヤの原石の姿を目にしたのだった。
「本日はお忙しい中、取材の許可を頂きありがとうございます。私、月刊トゥインクルの乙名史と申します。よろしくお願い致します」
「ああこれはご丁寧に。中央トレセン学園所属、ウルサメトゥス専属トレーナーの中森です。こちらこそよろしくお願い致します」
「トレセン学園中等部一年のウルサメトゥスです。よろしくお願い致します、乙名史さん」
来る月曜日、乙名史は目的の人物たちと会合していた。
昨年度のジュニア級で乙名史が最も注目していたウマ娘とそのトレーナーだ。
「乙名史さん。いきなりで申し訳ないのですが、この取材内容は…」
「中森トレーナーが許可を出すまでは公開しない。もちろん分かっております」
「電話でも言いましたが、しつこくてすみません」
実の所、中森は誰の取材も受けるつもりはなかった。
弥生賞、そしてそれに続くクラシックG1を前にした今、ウルサメトゥスの情報を隠しておきたいというのが本音だ。
ウルサメトゥスもその方針に納得しており、取材の依頼を片端から断っていた。
しかし、乙名史があまりにも粘り強く何度も中森に声をかけ、それに根負けした中森が、ウルサメトゥスが良いと言ったらという条件で許可を出した。
当のウルサメトゥスは月刊トゥインクルの乙名史記者の名前を聞いた途端、二つ返事でOKを出した。
あまりにも早い返事に中森が訝しんでいると、
『あまり変なところでなければ、どこの記者でも同じでしょう。それに、我々が許可するまで情報を出さないと約束させればいいのです』
という言葉が返ってきた。
中森は担当ウマ娘の冷静な対応に感心していたが、本人はアプリゲームに登場していたメインキャラとも言える乙名史記者からの取材に内心テンション爆上がりして、勢いのままに承諾しただけだった。
「では…取材の前に」
乙名史は直角に体を折る。
「この度は我々メディアの行いで、ウルサメトゥスさん、中森トレーナー及び関係者の皆様に大変不快な思いをさせてしまいました。誠に申し訳ありませんでした」
そう謝罪した。
「…頭をあげて下さい、乙名史さん。確かにあの件は不愉快でしたし、許すことはできません。しかし、乙名史さんはそれに参加していたわけではないのでしょう? あの新聞の件に全ての出版社が関わっていたわけではないことは僕も知っています。実際、月刊トゥインクルは表立ってそういった行動は取らなかった」
中森は乙名史を擁護した。
乙名史が先日のホープフルS後のインタビューの際にその場におらず、またこの件に月刊トゥインクルも関わっていないことを知っていたからだ。
そもそも、そうでなければいくら乙名史が熱心にインタビューを申し込んでもバッサリと断っていただろう。
ウルサメトゥスに対するメディアの扱いには未だに怒りが込み上げてくるが、それを個人への感情と一緒にするほど中森は狭量な人間ではないつもりだった。
「いえ、我が社も圧力をかけられ、本来ならば2月号に入れるはずだったホープフルSの情報がほとんど載せられませんでした。それに、私の謝罪は月刊トゥインクルを代表するものではありますが、この件に関わった多くのメディア各社を代表するものではありません。つまり、この謝罪は所詮自己満足でしかないのです」
しかし乙名史は月刊トゥインクルにも関係のあることだったと話す。
そしてこれが無意味なものであると、自分たちの自己満足であるということを言い切った上で謝罪した。
乙名史は、取材する相手には可能な限り誠実でありたいと考えている。
自分たちのやったことを考えれば、自己満足と誹られようと、謝罪もなしに取材するなんてことはできなかった。
たとえこの場で取材を断られることになろうとも、だ。
重い空気が会議室を覆う。
沈黙を破ったのは、それまでただじっと聞いていたウルサメトゥスだった。
「謝罪を受け入れます、乙名史記者。確かに、あなたの謝罪に意味はないのかもしれません。しかし、別にこの取材に月刊トゥインクルの裏事情を明かす必要なんてないのに、乙名史記者は素直にそれを話してくれました。それを言えば、その場で取材を断られてもおかしくないというのに。私は、そんな誠実な乙名史記者のことを好ましく思います」
ちょろいと言われてしまうかもしれませんが…とウルサメトゥスは茶化す。
そんな担当ウマ娘の姿を見て、中森も口の端に笑みを見せた。
「まぁ、そんなわけで、そもそもこの子がこんな感じなのでね。乙名史さんがそこまで責任を感じる必要はないんです。さて、謝罪もいただきました。時間も無限ではありませんし、取材に移りませんか?」
乙名史はそんな二人を見て、叫び出しそうになる己をグッとこらえる。
乙名史は知っている。この件で一番頭にきているのが中森トレーナーであるということを。電話での会話でも、それはひしひしと伝わってきており、ホープフルの後に取材のアポを初めて取ろうとした時は即座に電話を切られたほどだ。
そんなトレーナーの心情を慮り、自ら沈黙を破ったウマ娘。そしてそのウマ娘の内心を正確に察し、怒りを飲み込んで取材を促すトレーナー。
まさに一心同体、以心伝心。
少なくとも乙名史にはそう見えていた。事実とは異なるかもしれないが。
「すっ…!!」
「す?」
「いえ、なんでもないです!」
口から漏れそうになる情熱をなんとか押し戻した。
それを見た中森は不思議そうな顔、そしてウルサメトゥスは何故か少し残念そうにしていた。
乙名史はここまで少し暗かった表情をしていたが、二人の言葉でそれも無くなった。そして乙名史は顔に会心の笑みを浮かべ、
「では、取材に入る前に…まずは、ウルサメトゥスさん、ホープフルステークス優勝おめでとうございます!!」
ずっと言いたかった言葉を口に出したのだった。
感想への返信なのですが…鋭い読者様が多くて返信どうしようかなと思ってます。
いや、もうバレても仕方なくはあるのですが。散々匂わせてますしね…