ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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いつも応援ありがとうございます。

乙名史記者に自由に喋らせてたらアホほど長くなりました、なおこれでもカットしている模様。
かと言ってこれ以上インタビューを引き伸ばしたくなかったので分割はしませんでした。

ではどうぞ。


止まらない乙名史記者

 

 

 

「素晴らしいッッッッ!!!! つまり中森トレーナーは例え火に炙られようが猛獣の前に身を投げ出されようがその首を切り裂かれて胴と泣き別れようが必ずウルサメトゥスさんの身を第一に考え担当ウマ娘のために文字通り死して尚体を酷使してその夢を叶える!!! そういうことですね?!!! なんという気概、なんという情熱!!! この乙名史、感動せずにはいられません!!!!! そしてウルサメトゥスさんもトレーナーの身を案じつつも彼ならば必ず自らの『領域』を乗り越え新たな装いでの『領域』の威力を伝えてくれると信じ全力の『領域』を打ち込んだということですね!!!! 極限の信頼と互いの覚悟がなければ到底できない所業…そんなことを聞いてしまったら私はもう…もう…!!!!」

 

 俺の目の前で乙名史記者が白目を剥いて気絶しようとする。

 俺はそこに微弱な殺気を放って強制的に乙名史記者の目を覚まさせた。

 

「…はっ! 申し訳ありません取材中に! 綺麗な川が見えたと思ったら向こう岸に恐ろしい化け物が見えました、おかげで戻ってこられました。ありがとうございます、ウルサメトゥスさん!」

 

「いえ」

 

「では次の質問に移ります! オークスの後なのですが、同室のシャドウストーカーさんに付き纏っていた取材陣が突然気絶したという話について…」

 

 ハイテンションを維持したまま鼻息も荒く俺に質問を重ねる乙名史記者。

 ちなみに先程の気絶は既に4回目である。まだ取材始まってから1時間しか経ってないのに。当然トレーナーはドン引きしている。

 

 

 どうしてこうなってしまったのだ…

 

 

 

 

 

 

 最初は普通の取材だったんだ。

 

「普段ウルサメトゥスさんはどのようなトレーニングをされているのですか? 差し支えないようならお教えいただきたいのですが…」

 

「そうですね…今やっているトレーニングを教えることは流石にできませんが、少し前のものなら構いませんよ」

 

「おお、ありがとうございます!」

 

「ええと…あった。これが、昨年の夏に行っていたトレーニングですね」

 

 トレーナーがPCを操作して乙名史記者に見せる。乙名史記者はそれを見た後、驚いたように顔を上げた。

 

「これは…一日のトレーニングメニューですよね?」

 

「ええ。驚いたでしょう? しかし事実です。メトゥスはこの量のトレーニングを今から半年前には既にやっていた。そして、これは一週間のメニューです」

 

 トレーナーは少し意地悪げな顔で乙名史記者にPCを見せる。

 そうだ、もう日常すぎて何も思ってなかったけど、俺のやってるトレーニングは同年代のウマ娘から見たら虐待レベルのメニューだった。

 おいトレーナー、自慢げにしてるけどそれ下手したら乙名史記者に勘違いされないか? 俺に酷い扱いしてるって。

 

「ウルサメトゥスさんはこれに同意しているのですか?」

 

 ほら、ちょっと訝しげな表情になってるぞ。

 

「ええ。どうやら私の体は少し頑丈なようなので。できる限りのトレーニングを、とこちらからお願いしたのです。ただでさえ私は一般家庭の出身です。学園に来る前のトレーニングなどないに等しい。それを考えれば、同世代の名門たちに追いつくにはこれくらいは必要なことだと理解しています」

 

 仕方ないので俺から少しフォローを入れる。流石にまずいと思ったのか中森トレーナーがアイコンタクトで謝ってくる。全く、もっと感謝しろ? 

 

「夏休み中のオフが二週に一回しかありませんが…」

 

「ああ、それは私から断りました。夏休み期間中は授業がないし、丸一日トレーニングに当てられる貴重な期間です。活用しない手はありません。本当なら一日も要らないと言ったのですが、中森トレーナーから休み無しは許さないと言われてしまったので」

 

 いやーほんとこの体はずるいと思うよ。

 なんせトレーナーにマッサージしてもらって寝れば次の日には体力完全回復だ。

 休みを挟まなくてもトレーニングできるというのは、他のウマ娘に比べて圧倒的なアドバンテージだ。

 

「いえ、そういうことではなく…練習続きで、調子を落としたりなどは…?」

 

「? なぜトレーニングで調子を落とすのですか? 別に疲れが残っている状態でトレーニングしているわけではありませんし」

 

 体力残ってて練習失敗したわけでもないのに調子が下がるわけなくね? 乙名史記者も変なこと聞くなぁ…

 乙名史記者が俺を見て「信じられません」とか呟いてるけど全部聞こえてるぞ。何が信じられないのかよく分からんが。

 

 そんな乙名史記者を見てトレーナーが苦笑して言う。

 

「メトゥスはこんな娘なんです。私が遊びに行くことを提案したときも『それ要ります?』とバッサリ切られてしまいましてね。最近は同室のシャドウストーカーやクラスメイトと遊びに行くこともあるようなのですが」

 

「調子を崩しづらい特殊な精神性…なるほど、それがこの強行とも言えるトレーニングスケジュールを可能としているというわけですか」

 

 乙名史記者が俯いて何かを堪えるようにプルプル震えている。

 お、あれが出るか? 

 

「…ふぅ。ありがとうございます。では、質問を続けます」

 

 出ないか。元アプリトレーナーとしては結構楽しみにしてるんだが…

 その後もいくつか質問が続き、俺とトレーナーが出会ったときの話になった。

 

 

 そして乙名史記者がおかしくなったのもこの辺からだった。

 

 

「中森トレーナーとウルサメトゥスさんが出会ったのはいつですか?」

 

「ああ、それは選抜レースのときですね。忘れもしません、四月の最終週、選抜レース一週目中距離の第三レース。そこで彼女と出会いました」

 

 なんか懐かしく感じるが、まだ一年も経ってないんだったな。今考えるとあの頃の俺はまだ弱かったなぁ。

 

「第一レースにはナリタブライアンを含む有力選手が多数、第二レースには四大名家の全てが出場するというどちらも注目の集まるレースでした。そしてメトゥスの出場する第三レースは…こう言ってはなんですが、はっきり言って重要視されるようなウマ娘が誰も出場していない、トレーナーも記者も殆ど見ていないようなレースでした」

 

 そうそう、前二組に有名どころが集まりすぎて俺の組は出涸らしだったよな。

 記者は休憩に入るしトレーナーたちは帰るしで誰も見とらんのかと思ったわ。

 中森トレーナーもよく見てたもんだ。

 

「しかし、中森トレーナーはそのレースを見ていた」

 

「そうですね。まぁ…正直に言ってしまうと、僕もそんなに期待していたわけではないんですよ。名家や知られた家からの出場は誰もおらず、前二組ほどのレースは見られないと思っていました。残っていたのも、先輩たちが見向きもしないようなウマ娘の中から掘り出し物が見つからないかとダメ元で観戦していただけです」

 

 あ、そうなんか。まあそりゃそうだよね。こんな一般家庭出身とか寒門ばっかのレースに期待する奴なんておらんわ。

 トレーナーがそう話す中、乙名史記者が鋭い表情で語り出す。

 

「…実は、あの選抜レースは私も現地で見ていました。もちろん、第三レースもです。しかし、あの場にいてウルサメトゥスさんをスカウトしに行ったのは中森トレーナー、あなただけでした。一体何故、ウルサメトゥスさんをスカウトしようと?」

 

「あー…僕も別に、しっかりとした根拠があった訳ではなかったんです。ただ、あのレースは始まる前から違和感を感じていたから、真剣に見ようと思ったんです」

 

「レースが始まる前に、違和感? 開始後、ウマ娘たちがみんな出遅れたからではなく?」

 

「ええ。なんというか…開始前のウマ娘たちの表情が硬かったんですよ。それも初レースでの緊張からくる硬さというより…命の危険を感じる、みたいな。僕もあのレースを最前列で見ていたのですが、背筋が寒くなるような、恐ろしいものに睨まれている感覚を味わいました」

 

 ほぇー、トレーナーも俺からの圧力を感じてたんだな。でもゲートからトレーナーたちのいる場所まではそれなりの距離があったし、俺も全開でプレッシャーを放ってた訳じゃないから…トレーナーはかなり感覚が鋭いんだな。ウマ娘でもあそこまで離れてたらそうそう気づかんぞ普通。

 

 俺がそんなことを考えていると、急にガタンッという音がして机が揺れた。

 乙名史記者が立ち上がった音だった。

 え、何? 

 乙名史記者は立ち上がっても俯いたまましばらく震えていたが、何かを我慢できなくなったのかいきなり正面を向いて叫び出した。

 

「…素晴らしいッッッ!!」

 

 で…

 出たあああああ!! 

 

 乙名史記者の生「素晴らしい」いただきました! 

 やっと聞けたよ、さっきから我慢してるのは見えてたけど、別に我慢しなくてよかったのに。

 隣のトレーナーは思いっきり後ろに身を引いてるけど。

 乙名史記者はそんなトレーナーの様子は見えていないようでその勢いのまま語り出す。

 

「さすがはG1ウマ娘を育成するトレーナー、一般的なトレーナーとは目の付け所が違うということですね?! 私も少しばかりウマ娘に対して詳しいと思っていましたが、私はあのレースが始まるまではそんな違和感など気づきもしませんでした!! この感覚の鋭さでこれまでも何度もウルサメトゥスさんを導いてきた、そういうことなんですね!!!!!」

 

「いやそういう訳では…」

 

「素晴らしい!!! それほどに鋭い感覚をお持ちならばレースの際にもどのウマ娘が手強いか、調子が良いかなんて立ちどころに分かるはず!! ウルサメトゥスさんにもそれを伝えることで強敵を事前にマークし、レースを有利に進めることができる!! もはやウマ娘並の知覚力と言っても差し支えないでしょう!!!」

 

「あの」

 

「素晴らしい!!!!!!」

 

 やべぇこの人止まらねえ。

 あ、白目剥いてる。気絶した? 

 

「乙名史記者? あの…もしかして気絶してます? どうしようかな…メトゥス、ちょっと起こしてあげてくれないか」

 

 トレーナーがおろおろしてる。珍しいものを見られたな。

 まぁこんなでも乙名史記者は美人な女性だし、男性のトレーナーが起こすのはハードル高いか。

 

「分かりました。…『起きてください』」

 

「?!」

 

 お、ちょっと殺気ぶつけたら帰ってきた。

 乙名史記者はハッと意識を取り戻すと周囲を見回す。

 

「申し訳ありません、少したかぶってしまいました」

 

(少し…?)

 

「しかし、今何か恐ろしい気配が…? まぁ、それはさておき。続けましょう」

 

 再び真面目な表情に戻って取材を再開する乙名史記者。トレーナーはドン引きしているが、それを気にする事もない。それでいいのか…

 

「中森トレーナーはレース後、すぐにウルサメトゥスさんをスカウトしに行きましたよね?」

 

「ああ、見られていましたか。そうですね。あのレースはメトゥスが制しましたが、僕は直感的にメトゥスがあの状況を作り出したのだと考えたのです」

 

「あの状況というと…ウマ娘たちが掛かってしまってペースを乱した事ですね?」

 

「それもですし、もしかしたらウマ娘たちが一斉に出遅れたことすら、メトゥスが作り出したものなのかもしれないと思っていました」

 

 おお、もうこの時点でトレーナーにはお見通しだったってわけか。

 さすが、今年初めてウマ娘を持ったトレーナーの中で最も優秀と囁かれるだけはあるな(暮林トレーナー情報)。

 

 そして乙名史記者は明らかに今の短いやり取りから得られる以上の情報をノートに書き込んでいる。記事になったときに一体何を書かれているのやら…

 

「なるほど…そして、ウルサメトゥスさんをスカウトしに行った、と。その後中森トレーナーはウルサメトゥスさんの前で倒れられましたよね? 一体何があったんですか?」

 

「! それはですね…」

 

 来たか。

 いや、乙名史記者を想定していた訳ではないのだが、いつか聞かれることはあるだろうと思っていたんだ。

 人は少なかったがあの場にはレースに出ていたウマ娘もいたし、記者も数人残っていた。そんな中ウマ娘をスカウトしに行ったトレーナーが倒れたんだから、それを覚えていて聞かれる事もあるだろうと想定していた。

 あれは俺の『領域』が暴発した結果が顕著に現れている、他人に知られるわけにはいかない。知られてそれを周囲に吹聴されるだけで俺の選手生命は終わりかねない。

 

 そしてそれに対する回答は二人で相談してある。中森トレーナーはウマ娘をスカウトしようと頑張りすぎたあまり、過労で倒れてしまったのだと。

 実際あのときの中森トレーナーはスカウトのために寝る間も惜しんで資料を読み込んだり情報を集めていたりしていたらしいし、保健医さんも過労だって言ってたしな。目も血走ってたし。

 

 中森トレーナーは事前に用意してあった台詞を言おうとした。

 しかし、乙名史記者がそれを遮る。

 

「『領域』ですね?」

 

「なっ!!?」

 

 嘘だろ?! あれを見ただけで『領域』に繋げたってのか? 

 それとも俺のレースを見て総合的に『領域』だと判断した? いや、ベテランの暮林トレーナーですら、トーカちゃん先輩のために『領域』に関する情報を詳しく集めていたから気づけたって言ってたんだぞ。いくら乙名史記者が敏腕だからって、そう簡単に行き着くわけ…

 

「『領域』を知っているのですか?」

 

「はい。幸いにも大学でウマ娘を研究する機会が少々ありまして。その時にそういった存在があることを知りました」

 

 絶対少々じゃない…四年かけてがっつり研究してるよ…

 乙名史記者に限ってウマ娘のことに関して中途半端で終わらせる訳ないもん。

 

「私は、あの第三レースが始まったときにウルサメトゥスさんが『領域』を使ったことに気づきました。お恥ずかしながら、中森トレーナーのように開始前に違和感を感じられた訳ではないのですが」

 

 いやあのレースだけでバレたのかよ! 想定の5倍くらい上をいかれたわ!! 

 しかもレースが始まってからの情報だけで気づいたとか、そっちの方が凄いだろ! 

 

「そして、先程の中森トレーナーのお話を聞いた後で考えると、おそらくウルサメトゥスさんは、相手を恐怖させることで強制的に掛からせる『領域』を使う。そうですね?」

 

「…」

 

 もう全部バレてる…乙名史記者恐るべし…

 そしてトレーナー、その沈黙は正解ですと言ってるようなもんだぞ。

 

「だから、あのとき中森トレーナーが突然倒れたときも、ウルサメトゥスさんに『領域』を使われたのだと思ったのです」

 

「…そうですか。しかし、仮にメトゥスが相手に作用するような『領域』を使えたとして、あれはレースが終わった後のことですよ? ウマ娘がレース外で『領域』を使えるわけないんじゃないですか?」

 

 その言い方だともう『領域』に関して認めているようなもんじゃないか? ちょっと迂闊すぎるぞトレーナー。しかし俺は今回援護できない、俺が口を挟んだらかなり必死さを感じるし余計に乙名史記者に確信を与えかねん。

 ただ話の方向性としては間違ってない。『領域』がバレるのは、まぁよくはないが珍しいだけでいなくはないしな。

 問題なのはレース外で『領域』を使えて、それがさらに他人に危害を加えられるというのが発覚することだからな。常識的に考えてあり得ないという方向に持っていけば…

 

「今までそういったウマ娘がいなかっただけで、ウルサメトゥスさんが最初なのでしょう。どの事例でも、『最初の事例』というのはそれまでの常識を破壊するものです」

 

 だめだ、考えるまでもなく、この人は常識はずれという言葉の具現みたいな記者だった! 

 どうする、記者にバレるなんて最悪の事態だぞ…こうなったらもう最初の約束を全面に押し出して、この部分だけは永遠に公開しないようにお願いして、あとは乙名史記者の良識に賭けるしか…

 

「中森トレーナー」

 

「…なんでしょう」

 

 トレーナーの顔が青い。それはそうだ、俺の弱みを握られたようなもんなんだから。多分俺の顔色も土気色になっていることだろう。

 じっと乙名史記者の言葉を待つ。

 

「ウルサメトゥスさんの『領域』を受けて、あなたは倒れられました。想像でしかありませんが、とても恐ろしいものを見て、ショックで気絶したのではないですか?」

 

「…」

 

「中森トレーナー?」

 

 これは…もう無理だな。

 乙名史記者は俺の『領域』に関してある程度効果を把握していると見て間違いない。

 言い逃れは難しいだろう。

 

「乙名史記者。確かに私は『領域』を使えます。そしてそれは、相手に恐ろしいものの幻覚を見せて恐怖させ…最後には幻覚内で相手の首を飛ばす、というものです。選抜レースで使ったのは、その一部です」

 

「なんと!」

 

「メトゥス?!」

 

「いいのです、トレーナー。もう乙名史記者に誤魔化しは効かないでしょう。そして私は、あのとき迫り来るトレーナーに恐怖して咄嗟に『領域』をトレーナーにぶつけました。トレーナーが突然気絶したのはそれが原因です」

 

 乙名史記者に正直に話して、ここから交渉する。もうそれしか道はない。

 トレーナーが心配そうな表情でこっちを見ているが、任せとけって。伊達にトレーナーより長い人生送ってきてないんだ、経験の違いを見せてやるよ。

 乙名史記者は俯いている。人間に危害を加えることのできる『領域』、ショックを受けないはずもないだろう。

 

「それで乙名史記者、今回の取材、申し訳ないのですがこのことは…」

 

「すっ」

 

「え?」

 

「素晴らしいッッッッ!!!!!!!!!!」

 

 

 え???? 

 

 

 

 そして何故か乙名史記者の暴走が始まった。

 

「相手に恐怖を与える幻覚を見せる『領域』?! 聞いた事もありません! それだけでも凄まじいというのに、最後には首を落とす幻覚を見せる!? そんなことをしたらレース中に中森トレーナーのように気絶してもおかしくないというのに、これまでのレースで一度もそうなっていないということはウルサメトゥスさんは『領域』を完全に操ってレースで事故が起こらないような調整をしているということ!! 素晴らしい!!! なんというスポーツマンシップ!! 一般家庭の出であり、勝つためにどんなことをしてもおかしくないはずなのにそれでも対戦相手のことを考えた威力の『領域』を使っている!!! 私は今猛烈に感動しています!! こんなにも優しいウマ娘がいるとは!!!!!!」

 

「え──」

 

「そして中森トレーナー!! こちらも素晴らしいとしか言いようがありません!! 自分が殺される幻覚を見せられたというのにも関わらずあっさり水に流した上にそれを才能と見做して自分を気絶させた張本人であるウマ娘をスカウトするというプロ根性!!! まさにトレーナーの鑑!! あなたがウルサメトゥスさんを見出さなければ彼女はG1を獲るどころか多くのありふれたウマ娘として埋没していたに違いありません!!! そうですよね!! これほどの才能を見せつけられて、スカウトしないなんてトレーナーとしてあり得ない!! 中森トレーナーにとってはウルサメトゥスさんの才能の前では自分の死など些細なことであるという証拠!!!!!」

 

「あの」

 

「重ねて! すっっっっっばらしいいいい!!!!!!!!」

 

 

 あ、また気絶した。

 

 そして乙名史記者の暴走は止まらない。

 

 

 

「自分があれほどのトレーニングを行っていて、疲れているにも関わらず!! それでも普段お世話になっている先輩のために長い時間をかけて選んだプレゼントを渡し!!!! そしてその先輩はウルサメトゥスさんが苦しい時に力になってくれた!! まさに友情、情けは人の為ならず、シャドウストーカーさんに返した恩が、さらにウルサメトゥスさんに帰ってきてその身を助けた!!!! これだけでもう涙が止まりません!!!!!」

 

「そうですか」

 

 

 

「ご両親のために走り、敗北の恐怖に怯えるもそれすらご両親やトレーナーからの激励で乗り越え! そして全てを出し切り見事G1ホープフルステークスで優勝という最高の結果を生み出したのですね!!! まさに親孝行の極み!!! 私がウルサメトゥスさんのご両親だったらもう昇天しているでしょう!!!!」

 

「あなたは私の親ではありません」

 

 

 

「日々のトレーニングメニューを考え、新しいものをどんどん取り入れていく! 寝る間も惜しんでトレーニングの効果を吟味しそれをまた新たな糧とする!! そして担当ウマ娘のマッサージを自らこなし、昼食まで用意するなんて、こんなに甲斐甲斐しく担当ウマ娘の面倒を見るトレーナーはそうはいません!!! 素晴らしい!!!!!」

 

「あ、そうなんですね」

 

「いや、まぁ…うん」

 

「伝えていなかったのですね?! 担当に余計な心配をかけさせないために!!! 素晴らしい!!!!!」

 

 

 

 取材は昼過ぎから始まり、18時まで続いた。

 その間、乙名史記者はずっと叫び続けていた。

 帰る頃には俺たちはげっそり、そして乙名史記者はツヤツヤした表情だった。

 なんかもうよく分からなかったけど…乙名史記者が乙名史記者だということだけは分かった。

 こう…すごく、すごいです。

 

 

 あ、レース外で『領域』が使える件に関しては内緒にしてもらえることになった。

 結果論だけど、乙名史記者がウマ娘を傷つけるようなことはしないか。

 とりあえず一安心…でいいのか?

 いいや。

 

 

 




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