ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件 作:アザミマーン
それもただの応援メッセージではなく、しっかりお話を読み込んだ上での批評でした。
もうめちゃくちゃ嬉しかったです。
ちゃんと読んでいただけてるんだな、と実感しました。
こんなメッセージなら大歓迎なので、気になった点があるけど感想じゃちょっと…と言う方がいらっしゃいましたら是非メッセージを寄せてください。
ただ、返信やそもそもご指摘いただいたことをお話に反映させるかは私の判断となってしまいますが…
それでもよければ、よろしくお願いします。
ではどうぞ。
「昨日は僕の慢心だ。すまない、メトゥス。謝罪で済む問題ではないのは分かっているが…」
乙名史記者襲来の翌日。
授業が終わりいつも通りカフェテリアでトレーナーを待っていたら、開口一番に謝られてしまった。
うーん、確かにトレーナーの返答にも難はあったが…正直あれは相手が悪すぎるだろう。
そして慢心してたってのは俺も同じだしな。相手はあの乙名史記者。レース外でも危険な『領域』を使えるという特異性から、俺の場合『領域』バレが即選手生命の終了に繋がりかねない以上、もっと警戒するべきだった。
特に、俺はトレーナーと違って乙名史記者が有能だって知ってたんだから、もっと警戒すべきだったんだ。
「それは私も同じことなので、トレーナーだけの問題ではありません。まさかあの限られた情報だけでレース外でも『領域』を使えることを見破るなんてあり得ないだろう、という考えは私にもあったのですから。それに、記者に『領域』が分かるわけない、なんて考えもあったかもしれません」
「しかし…」
「中森トレーナー、貴方が嘘をついたりごまかしたりするのが苦手だということは私も承知しています。でなければ普段から私に対してセクハラにもなりかねないことを言ってませんでしょうし。それを知っていて対策を大して練らなかった私にも問題があります」
「せ、セクハラ」
容姿がいいとか告白まがいの発言とか普通にセクハラじゃね? いや俺は嬉し…元男だしそんくらいは気にしないが。
「必要なのはこれからの対策です。今回は乙名史記者がアレだったのでどうにかなっているだけです」
そう、重要なのは今回の失敗を次に繋げることだ。
本来ならあの時点で俺たちは詰んでいた。その後乙名史記者が暴走し始めたから有耶無耶になっただけ。
俺はゲーム知識で乙名史記者を知っていた、暴走するが誠実な記者だと。優秀だということも。
ゲームと
もし、アプリ版では優秀であることを示唆されていた乙名史記者も、この世界では標準だったとしたら?
選抜レースではあの場にいなかった記者たちも、あの場にいたら乙名史記者のように『領域』を見抜いてきたのでは?
「私たちには危機感が足りませんでした。こんな『領域』なのですから、どこまでが話していいのか、どこからが悪いのか、突っ込まれた質問に対してどう対応するか、しっかり考えておくべきでした。トレーニングも必要ですが、こっち方面の対策が疎かだったという他ありません」
他の記者まで同じようなレベルだったとしたら、次に俺に取材が来た時点で『領域』についてバレてると言っても過言ではないだろう。なんせこれまでのレースでも何度も使ってるんだ。
まぁベテランの暮林トレーナーが気づかなかったって言ってたくらいだし、可能性的には低いと思うが…俺はそれが判断できるほどこの世界の記者事情について詳しくない。
「でも、実際問題どう対策するかですね。乙名史記者が異常なレベルで鋭いだけなのか、それとも他の記者も同様なのか、私は知りません。おそらくですが、トレーナーも知りませんよね?」
「ああ。僕もまだ新人トレーナーだし、取材を受けるのは今回が初めてだ。ただ、それなら分かる人に相談すればいいんじゃないかい?」
分かる人とな?
────────────────
「…というわけでして」
「なるほどなぁ…」
中森の説明に、暮林は眉間に寄ってしまった皺を伸ばすように揉み込む。
中森とウルサメトゥスが呼んだのはベテラントレーナーの暮林だ。
これまで何人もの重賞ウマ娘を送り出し、何度も取材を受け、そしてウルサメトゥスの『領域』を受けた経験を持つ。
相談にはこれ以上ないくらいの相手だった。
(しかし記者相手にその対応はなぁ…今回ばかりは悪手と言わざるを得んな)
優秀なウマ娘とトレーナーだから暮林も忘れていたが、ウルサメトゥスはまだクラシックに入ったばかりの中等部生で、中森はトレーナー二年目。経験が圧倒的に足りないのだ。
「まぁ、『領域』がバレたことに関しては、その記者が異常だっただけだ。これは断言できる。そもそも『領域』を知ってる記者なんてそういない。雑誌の編集長レベルでもないとな。だから、そこは安心してもいい」
「そうですか…」
中森はあからさまにホッとした表情になる。
そういう分かりやすいのも記者を相手にするには向いてないんだよな…と暮林は思いつつ言葉を続けた。
「だが、あの『領域』を直接受けた身からすれば、バレるべきじゃない。コントロールできているとはいえ、ウルサメトゥスの性格を知らない人間からすれば、危険な『領域』をいつでも展開できるなんて脅威でしかないんだ。今回担当だった乙名史という記者は本当に誠実なようだな。話さないという約束を守っているようだし」
「え?」
「ウルサメトゥス、中森トレーナー、記者を信用するな。少しタチの悪い記者だったら、今頃ウルサメトゥスの力について記事やSNSでばら撒かれているだろう。約束を守るなんて思うな。そんな誠実な記者なんてのは一部だ。ウチのシャドウストーカーへの執拗な取材、それにホープフルでの対応を忘れたわけではないだろう? 全てとは言わん、だがああいうことをするのが記者なんだ」
ウルサメトゥスが信じられないという顔をしているが、暮林や長年トレーナー業をやっているトレーナーからすれば当たり前の話だった。
「今回はこちらでもおかしな出版社ではないか調べてから受け入れていましたが…」
「そんなものいくらでも誤魔化せるんだ。表は綺麗ぶってても裏では別の出版社と手を組んでるとかな。相手は情報戦のプロだ、だからこそ取材対応は神経質なくらい警戒していい」
暮林はオークスのときにシャドウストーカーを襲撃した大量の取材陣を思い出しつつ言う。あのときは暮林ですら選別、精査に手間取りシャドウストーカーの練習時間を減らしてしまったほどだった。
だからこそ、おそらく今後そういった目に合うことのなる後輩やその担当ウマ娘に、今ここで色々話しておくべきだと考える。
「本来なら先輩から教わるものだが…そうか、中森トレーナーの教導をしていたのは黒沼トレーナーか。流石に直接的なライバルに情報を与えられないか」
「はい。説明するにはどうしてもメトゥスの『領域』を話す必要がありますし…」
「しかし、中森トレーナーも知っているとは思うが、黒沼トレーナーは誠実な方だ。どこの者とも知れない記者に話すよりは余程マシだっただろう。インタビューの話が来た時点で一度相談するべきだったな」
「返す言葉もないです…」
項垂れる中森トレーナーに、ウルサメトゥスは心配そうな視線を向けている。
しかし、暮林からすれば今回最もまずい対応をしたのはウルサメトゥスの方だ。
「何を他人事のような顔してるんだ、ウルサメトゥス。話を聞く限り、今回一番ダメな対応をしたのはキミだ」
「私、ですか」
「ああ。今話した通り、記者などそうそう信用すべきではない。そして、『領域』について口を濁らせた中森トレーナーに対し、キミは素直に『領域』の効果、そして最も話してはいけない、レース外で『領域』を使えるということを話してしまった。俺の話を聞いた今なら、本来キミがどういった対応をすべきだったか分かるか?」
「…私は『領域』の話が出た時点で知らないとシラを切るべきだった。そうですね?」
「そうだ。言質を取られなければ、向こうが勝手に推測しているだけだと言い張れる。今回だったら『領域』の話になった時点で知らないと言えばいいし、中森トレーナーが倒れたことを突っ込まれたら、事前に用意していた言い訳である「過労だった」でゴリ押せば良かったんだ」
短い付き合いだが、ウルサメトゥスが賢いウマ娘だと暮林は知っている。だからこそ、今回記者に対して簡単に口を割ってしまったことに関して少し疑問だった。
しかしよく考えなくてもウルサメトゥスは中等部生であり、取材慣れもしていないのでそこまで不自然ではないと考えた。
前世から乙名史記者のことを知っていて油断していたなんて微塵も考えなかったのは当然である。
「ここまでの話で記者に対してどう対応すべきか、どこまで話していいのかは大体分かったな? 答えは「必要なこと以外は何も話さなくていい」だ。特にウルサメトゥスの場合、『領域』についてはな。ただ、取材を断りすぎるとそれを弱みとして突いてくることもある。…いや、キミらの場合はホープフルでの一件を盾に断ることはできるか」
「はい、今までも取材は断ってきましたし、その言い訳も何度も使ってます」
「まぁ、向こうからしたらそれを出されたら引くしかないだろうな。URAも一度は引いたようだが、次は流石に強く出るだろうしな。いくらURAが甘くても、次は切る。確実にな」
暮林は何かを思い出すように遠い目をしながらそう言った。
その後も暮林による取材対策は続いた。
契約書は必ず二人以上で確認すること、記事を出す前にこちらが先に内容を確認すること、見せられた記事の下書きは書類として提出させ、必ず記者本人の手書きサインを書かせること等々…
対策が概ね片付いた頃、暮林が思い出したように言った。
「ああ、トレーナーたちに『領域』を看破される可能性だが…まぁ、そこまで心配しなくていいんじゃないか」
「と、言いますと?」
「この前も少し言ったが」
そう前置きして暮林は語る。
「『領域』を知らないトレーナーはそもそも警戒する必要がない。そして『領域』を知っているトレーナーだが…『領域』について詳しいほど、ウルサメトゥスの『領域』を見破るのは難しい。『領域』は心象の具現。つまり内容として、自分の理想の走り、または勝った先にある自身の夢になるはずなんだ。スーパーカーのように速く走りたいとか、全て計算され尽くした勝利とかな。だからこそ、『領域』は自分に作用する」
例外として『領域』慣れしていないウマ娘を動揺させると言う効果はあるがな、という発言は、ウルサメトゥスたちに先日のシャドウストーカーを思い起こさせた。
「キミのように他人にのみ影響を及ぼす『領域』など、俺も見たことも、存在を聞いたことすらない。『領域』=ウマ娘の強化と捉えているトレーナーがほとんど、そして、その常識が邪魔をして見抜けなくなるんだ。俺の経験が浅いだけと言われてしまえばそれまでかもしれないが、それでも概ね間違った認識じゃないはずだ」
「でもトーカちゃん先輩はすぐに分かったんですよね?」
「あのな、実際にレースに出て『領域』を受けたことのあるウマ娘と、レースに出ることもできないトレーナーを一緒にするんじゃない。それにシャドウは感覚がウマ一倍鋭い。キミのことをよく知ってもいるしな。だから気付くのも早かったんだろう」
そのとき、学園のチャイムが鳴り、暮林が時計を確認する。
「お、もうこんな時間か。じゃあまたな、キミたちには借りがあるし、八百長以外の相談ならいつでも頼ってくれていい」
暮林が冗談めかしてそう言い立ち去ろうとするのを、何かを考えていた中森が顔を上げて引き留める。
「…待ってください。では、僕たちの取材を担当した乙名史記者は…?」
「最初に言っただろう。その記者は異常だとな。少し聞いただけでもおかしいと分かる。大学で四年ウマ娘を研究した? その程度で『領域』を見抜くなんぞ普通は不可能だ。それに今年二年目? それもおかしい。新人記者は目利きに変な癖がつかないよう、デビュー前のウマ娘を見せることは本来タブーのはずだ。月刊トゥインクルなんて有名どころがそれを知らないはずもない。なのに今年も去年も選抜戦に来ていた? もう何もかも異常なんだよ、その記者は」
それを聞いた中森は唖然とし、ウルサメトゥスは遠い目をしている。
暮林は楽しげに笑った。
「…ああ、そうだ。先輩トレーナーからの助言だが、有能な記者とは仲良くしておいたほうがいいと思うぞ。誠実なら尚更な。俺はこれからその乙名史とかいう記者に話を聞いてみようと思うが…キミたちも、今回のことで縁ができたんだ。活用しない手はないと思うぞ」
暮林はそう言い残して去っていった。
中森とウルサメトゥスは顔を見合わせ、早速乙名史に連絡を取るためにPCを開いた。
すると、一件のメールが中森に届いていた。
差出人:乙名史記者(私用)
件名:大変申し訳ございませんでした
中森 道之 様
昨日は大変申し訳ございませんでした。
取材に行ったはずが、途中で暴走し、あろうことか個人情報となり得ることまで話させてしまいました。
<中略>
したがって全ての責任は私にあります。
お詫びとしてはささやかになってしまい申し訳ないのですが、私に協力できることがあれば全力でご支援いたします。
重ねての謝罪となりますが、この度は大変ご迷惑をお掛け致しました。
恐れ入りますが、今後ともよろしくお願いいたします。
乙名史 悦子
「…こちらから連絡するまでもありませんでしたね」
「そうだね。まぁ、得したと思っておこうか」
「弱みに付け込むようで少し申し訳ないですね」
ウルサメトゥスはそう言ったが、中森は容赦無く乙名史に今後の活動での全面協力をメールで要請した。
ウルサメトゥスは若干引いた。
なお、5秒で了承の返事が来た。
ところで次回は短距離チャンミですが、皆さんはもうどの娘を出すか決めましたか?
私は全員嫁編成で行こうと思ってます。