ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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いつも応援ありがとうございます。

今回ちょっと雑かも?そのうち少し改稿するかもしれません。
その時はまたお知らせします。

ではどうぞ。


その走りに魅せられて

 

 

 

 乙名史記者の件からしばらく経ち、2月も中旬になった。

 今日は休日なので普段なら1日をトレーニングに当てられるのだが、今日は俺がトレーナーに頼んで午後を休みにして貰っている。

 次の目標である弥生賞まで約一ヶ月、この辺で一度休みを取って英気を養う…というわけではない。

 

 俺はトレーナーの運転する車に乗り、東京レース場に来ていた。

 

「はい、コーヒー。いくら上着を着ているとはいえ、スカートじゃ寒いだろう」

 

「ありがとうございます。わざわざ併設のカフェまで行ったんですか? 自販機の缶コーヒーでもよかったのに。それに軽食まで…」

 

 前の方の空いていた席で待っていると、トレーナーがレース場の隣にあるカフェでホットコーヒーを買ってきて俺に手渡してきた。それだけじゃなく、おそらくそのカフェで売っていたであろう出来立てホットドッグも。ウマ娘用の特別仕様で、大きいし、ソーセージだけでなくデカい人参も挟まっている。

 

「目的のレースはまだ先だろう? お腹が空くかと思ってね」

 

「相変わらず気が利きますね、トレーナー。ではありがたく頂きます…はむ」

 

 うん、美味い。

 人参も良いもの使ってるみたいで、噛むと口の中に自然な甘みが広がる。大きめのソーセージにしっかりした生地のパン、食べ応えもあって文句なしだ。この体になってから甘いものが美味しく感じるんだよなぁ。前世では甘党じゃなかったんだが。

 

「トレーナーは要らないのですか?」

 

「僕はウマ娘じゃないからね…お昼も食べたばかりだし、コーヒーだけで良いかな」

 

 トレーナーはそう言ってコーヒーを啜った。

 こうも寒い日にはやっぱコーヒーに限るよね。

 

「まぁそれはそうですね…あ、始まる」

 

 目の前では1勝クラスのレースが始まろうとしていた。

 レース自体は午前中からも行われており、今は第6R。目的のレースは11Rなのでもう少し先だが、重賞ではないとはいえレースはレース。見て学ぶことも大事ということで早めに来たんだ。

 

 最近練習しすぎだからトレーナーが午後まるまる休みにしただけで、本当なら直前まで練習しようとしていたことは内緒だ。

 

「仕掛けが早すぎましたね。後ろからのプレッシャーに耐えられなかったのでしょうか」

 

「メトゥスが圧力をかけてるわけじゃないし、プレッシャーに負けて飛び出すなんてことはそうそうないよ。今のは純粋に前との距離が気になって焦ってしまったんだと思う」

 

「なるほど…私は最後方から仕掛けますし、なんなら強制的に萎縮させますからね。ああいった先行脚質の心理状態を知れるのは収穫ですね。これだけで来た意味があります」

 

「今まであまりレースの映像を見せてこなかったからね…『領域』の情報を隠すためにもレースを片端から走ることは出来ないし、もう少し勉強の時間を増やしたほうが良いかもしれないね」

 

 レースが終わる毎にトレーナーと感想戦をしていく。

 今まで自主練として過去のG1レースとかシンボリルドルフ会長の出ているレースとかはUmatubeで見たことがあるが、やはり実際にレース場に来ると得られる情報量が違う。

 ウマ娘たちの走る際の表情や足音に振動、仕掛け時の足の筋肉の動きなど、近くで見ているからこそ分かることもある。

 

 そんなこんなで時間は経過し、もうすぐ目的のレースである第11Rだ。

 10Rの感想戦も終わり、暇なのでUmatterを眺めていると、コーヒーのおかわりを買って戻ってきたトレーナーが突然俺のウマ耳の近くで囁いた。

 

「メトゥス」

 

「うひゃっ?! …なんですかトレーナー」

 

 セクハラだぞ。

 

「あ、ごめん。いやそれより、向こうを見てごらん」

 

「向こう…? ふむ、そういうことですか」

 

 トレーナーの視線の先、距離にして50mほど。

 俺の同期、四大名家の一人であるヴィオラリズムちゃんだ。

 それ以外にも、探してみれば見たことのある顔がちらほら。俺が来た当初はいなかったから、後から来たってことか。みんな考えることは同じだな。

 見えないウマ娘たちは本当に来てないか…これから出るかってとこか。

 

 そして場内アナウンスが響き渡り、第11Rの開始を告げた。

 

『これより第11R、GⅢ共同通信杯を開催いたします。選手の皆様はパドック裏にご集合下さい』

 

 そう、この共同通信杯こそ俺が今日ここに来た主目的。

 

「キミだけじゃなく、みんな見に来たということだね。ナリタブライアンの走りを」

 

「ええ。注目しているのは私だけではない。みんな、この世代最強と目されているナリタブライアン先輩を少しでも研究しておきたいのです」

 

 共同通信杯、朝日杯から沈黙を保っていたナリタブライアンが、暫くぶりに出場するレースだ。

 

 

 

 

 

 

『1枠2番ナリタブライアン、一番人気です』

 

『昨年の朝日杯では圧巻の走りを見せ、今回も堂々の一番人気です。闘志が滲み出ているように見えますね。調子は良さそうです』

 

 ブライアンは1枠2番か。今日最後のレースで芝が多少荒れているとはいえ、晴れているし良バ場だ。内枠もそこまで不利じゃないだろう。めくれた芝が飛んでくることに気をつけるくらいだろうか。

 

 それよりも、重要なのはブライアンの様子だ。今日はそれを見るために来たんだ。

 

「…これは」

 

「凄いな。朝日杯の映像でも分かっていたが、体つきが他のウマ娘と既に一線を画している。何より、朝日杯よりもさらに仕上がっている」

 

 ブライアンもウマ娘なので、ぱっと見はそこまで筋肉がついているようには見えない。しかし、ウマ娘やトレーナーの視点で見てみると、その柔らかそうな脚はしっかりと筋肉が詰まっており、少しでも力を入れれば筋肉の動きが見えるだろうことが察せる。

 

「他のウマ娘たちも悪いというわけではない。クラシック序盤としてみるなら、むしろよく仕上がっていると思うよ。ただ…ナリタブライアンはこの前併走したシャドウストーカーにすら比肩しているかもしれない」

 

「トーカちゃん先輩に…」

 

 トーカちゃん先輩はシニア級、それも上位争いをしている実力者だ。

 それに並ぶというだけで凄まじさが分かるというものだ。

 

 パドックと返しが終わり、ウマ娘たちがゲートに並ぶ。

 先ほどまで歓声に包まれていたレース場も、今は開始を待ちわびて静まりかえっていた。

 

『各ウマ娘ゲートに収まりました…スタートです!』

 

『真っ先に飛び出してハナを取りに行ったのは9番ブラボーアール、序盤のハナの取り合いに強いウマ娘です。追従するのは5番ジュエルアズライト、言わずと知れた名家であり、このレースでも有数の実力者です。今回のレースはこの2人の逃げウマ娘が牽引する形になりそうですね』

 

『少し離れて6番、その後ろ1番、半バ身離れて2番ナリタブライアンここにいた。そこから1バ身離れて4番、8番、10番、13番と、ここまでが先行か。更に2バ身離れて3番、7番、11番、15番。そして後方2バ身離れて16番、14番、12番と続きます』

 

 ちなみに今回出ているウマ娘たちで、俺が対戦したことがあるのは、2番のブライアンと5番のジュエルアズライトちゃん、7番のストレートバレットちゃん、11番のミニコスモスちゃん、14番のアクアラグーンちゃんだ。

 ブライアンだけでなくどの娘も実力者で、なんなら一度負けてる娘もいる。

 

 さて序盤は割と落ち着いた展開だ。ペースもそこまで速くない。

 

『只今先頭が2コーナーを通過して中盤といったところですが…そこまで速くないように見えます』

 

『実際タイムから見ても高速とまではいかないペースですね。どのウマ娘も様子を伺っているようです』

 

 しかし逃げの2人とそれを追うウマ娘たちの間にはそこそこ距離ができている。

 これ、様子を見てるんじゃなくて先行を選択したウマ娘たちがブライアンを牽制しまくってるな。

 だから自然とペースが少し遅くなって、逃げとそれ以外の間に距離ができてるんだ。ブライアン走りづらそうにしてるし。

 牽制はいいけど、距離が開きすぎてこのままいけば最後まで脚を残した逃げがそのまま逃げ切る感じになると思うが…まぁ、そうはならないんだろうなぁ。

 

「このまま逃げ切れると思うかい?」

 

「ジュエルアズライトさんはかなりの実力者ですし、もう1人の逃げの方も相応の実力を持っているのでしょう。普通なら逃げ切ると言いたいところですが…」

 

 そんなことを言っている間に集団は坂を下りながら3コーナーへ。

 まだ固まっている。逃げの2人が4コーナーへと差し掛かり……!!!

 

 俺の直感が最大限の警笛を鳴らした。

 

「動きます」

 

「何…本当だ」

 

 一瞬。

 ほんの一瞬だけ、前との距離を気にしたウマ娘がブライアンから意識を逸らして囲いが空いた。

 

 そしてそれをブライアンは見逃さなかった。

 

『ここで動いた! ナリタブライアンが集団から抜け出し、猛然と加速していく!』

 

『それを見た後ろのウマ娘たちも加速していきますね。先頭まではまだ差がありますが、これを返せるのでしょうか?』

 

 返すさ。

 だって初めは5バ身あった差が、もう3バ身になってる。

 京都ジュニアSで対戦した時もそうだったが、ほんの一瞬でも隙を晒せばブライアンはそこを突ける。

 耳は前向きだったし、あの位置から真後ろの様子が見えているとも思えない。つまりは完全に感覚頼りなんだろうが、本当にあり得ないほど直感が鋭いな。

 いや…こうして観戦してると異質さがよく分かるな。

 

『速い速い! ナリタブライアン圧倒的! みるみるうちに差を詰め、今先頭に立った!!』

 

『後ろから他のウマ娘たちも懸命に追いますが…これは、厳しそうですね…』

 

『一陣の風となり、ナリタブライアン今ゴール!! タイムは1:47.5!! レースレコードです!!!』

 

『二着は5バ身差で5番ジュエルアズライト、三着ストレートバレット…』

 

 まさに圧倒的。

 1800mのマイル戦で5バ身差とは…怪物の名は伊達じゃないってか。

 思わず体が震える。

 これは、圧倒的な走りを見せられたことによる恐怖? 

 

「メトゥス、どうだった?」

 

「…そうですね。世代最強と言われるのも納得の走りです。身体能力、抜け出しのセンス。分かっていたことですが、この世代の中では頭ひとつ、いや二つくらい抜けているかもしれません。…私が『領域』を使っても、確実に勝てるなど口が裂けても言えないでしょう」

 

 そう、そんなことは去年の時点で分かってるさ。なんなら選抜レースの時からな。路線変更しようかと考えたこともあったくらいだし。

 

「けど、勝てるさ。勝たせて見せる。根拠がないわけじゃない。朝日杯の頃のナリタブライアンの身体能力と、今日のレースの能力。この場では概算しか出せないけど、概ね予想通りの伸び方だ。そしてそれをキミの成長と照らし合わせれば…勝率はかなり現実的になる」

 

「トレーナー…」

 

 だが、俺のトレーナーがこう言ってくれてる。その言葉だけで自信100倍だ。

 何より、俺が勝ちたい。

 両親への恩返しのため、トレーナーへの恩返しのため。

 いや、それだけじゃない。京都で負けて、それきりなんてな。

 やっぱ勝ちたいよね、相手が最強だって分かっててもさ。

 

「私は、勝ちたい。いえ、勝ちます。負けっぱなしは性に合わないのです」

 

 それになんだかんだ言って…俺もこうして前世から知っていた、好きだったウマ娘と勝負できるのが嬉しい。

 こうしてブライアンの走りを見て。体が、心が疼いて、はっきり自覚したよ。

 走りを見て体が震えたのは、武者振るいだ。

 

 そして、勝負するからには勝つ。

 トーカちゃん先輩が言ってた通りだな。勝ちたい理由なんてなくても、本能が勝ちたいと叫ぶんだ。

 

「表情から闘気が伝わってくるようだ。でも、今日はトレーニングしないからね?」

 

「分かっています。ただ、軽いランニングくらいは許してくれませんか?」

 

「まぁ、そのくらいならいいかな。キミも治まりがつかなそうだしね」

 

 ブライアンの言う「飢え」ってこんな感じなのかな。

 とにかく走りたい。あんなのを見せられちゃね。

 今は視界にも入ってないんだろうが…すぐにでも振り向かせてやるよ。

 

 

 

 

 

 しばらくして、この時の思考が『推しに認知されたい厄介オタク』と同レベルとなっていることに気づき悶絶するのはまた別の話。

 

 

 




チャンミですが、今回は嫁グルーヴがうちのエースになりそうです。
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