ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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流石にお盆休みに一度も投稿しないのはな…ということで投稿。
そして1話で弥生賞を終わらせるつもりが長くなり…といういつものパターン。
まるで成長していません。

ではどうぞ。


弥生賞・前編

 

 

 

 弥生賞。

 俺の転生前の世界では「弥生賞ディープインパクト記念」なんて改名されてたが、この世界では弥生賞のままだ。

 権威あるG2のレースであり、このレースで好成績を残せばクラシック三冠の一つである皐月賞へ優先的に出ることができる。

 このようなトライアルレースはG1によっては複数存在することがあり、皐月賞では弥生賞の他に若葉ステークスやスプリングステークスが該当する。

 若葉Sは昨日終わっており、スプリングSは再来週。そして3月最初の日曜である今日行われる弥生賞に、俺は出場する。

 

 改めて出バ表を確認した。

 最大出バ人数である18人、その中に名家はあれど警戒していたナリタブライアンの名前はない。

 共同通信杯の後のインタビューで、ブライアンは次の出走をスプリングSとすると明言していた。だからその情報自体は知っている。

 俺はそれを回避するためにもう一つの弥生賞に出バする…というわけではない。弥生賞に出ることは前からトレーナーと決めていたしね。ただ、不思議に思っただけだ。

 弥生賞は皐月賞と同じコース、同じ距離で行われるレースだ。優先出場権という意味だけでなく、そもそも皐月賞の前に走るレースとして、力を試す場としても優秀なのだ。

 ブライアンの最も得意な距離は中距離以上のはず。だから弥生賞を選んでくるかと思ったんだが…少し予想が外れたか。

 

「メトゥス、どうしたんだい? 今更出バ表なんて見て。キミのことだ、もう今回のレースに出る要注意のウマ娘なんて全て覚えているだろう?」

 

 中森トレーナーがお茶を汲んで戻ってきて、俺に渡してくる。もはやレース前のルーティーンと化しているな…トレーナーが飲み物を渡してくるの。

 ただ、ちょっと遅かった? 

 いやまぁ俺はトレーナーの彼女じゃないし束縛したいわけでもないんだけど少し気になっただけでそうなんとも思ってないから別にお茶だって義務じゃないしそもそもパドック前にトレーナーが何していようが自由なんだけどでもなんかあったとしたらモヤッとしなくもないというかその

 

 うん。

 なんでもないです。

 

「ええ、いや。ナリタブライアン先輩がなぜ弥生賞ではなくスプリングSを選んだかを考えていました。普通に考えれば、次のG1である皐月賞と同じ条件であるこのレースを選ぶのではないかと。実際、かなりの名家が今回出場していますし」

 

 今回、ホープフルに並ぶんじゃないかと思うほど名家が出場している。これが皐月賞の前哨戦であるとみんな理解しているからだろう。ブライアンとの対決を避けて出バを決めたって娘もいるかもしれない。

 ただ、ストレートバレットちゃんやジュエルアズライトちゃんはいない。2人ともスプリングSに出場すると表明していた。

 ジュエルアズライトちゃんはあまり関わりがないが、ストレートバレットちゃんはトレーナーが中森トレーナーの師とも言える黒沼トレーナーなので、中森トレーナーが練習内容をたまに相談するときとかに喋ったりする。

 優しそうな見た目をしているが、めちゃくちゃ負けん気の強いウマ娘だ。今回も共同通信杯でブライアンに負けたからやり返すためにってのもあるかもな。

 

「うーん、確かにそうだね。まぁ、スプリングSも距離は違うけど中山レース場で行われるし、全く参考にならないわけじゃない。開催される日程も二週間とはいえ皐月賞に近いわけだし、今は季節の変わり目。より皐月賞当日の気候に近い日にやりたかったとかじゃないかな」

 

「なるほど、確かにそういう考え方もありますか。ナリタブライアン先輩はマイルも強いですし、距離の差はそこまで気にならないと」

 

 というかむしろブライアンはまだ中距離レースは一回しか走ってないし、マイルの方が得意と思われてる可能性もある?前世での印象が強すぎてその可能性は考えてなかったな。

 いや、ブライアンのことだから、もしかしたら皐月賞という滾るレースの前に、レースを走らない時間というのをできるだけ減らしたい、とかいう理由だったりしてな。ありそう。

 さて、そろそろ招集がかかりそうだし先んじてパドックに向かいますか。元社会人としては遅刻はヤなんだよね。

 

 俺が立ち上がるとトレーナーが声をかけてくる。

 

「そうだメトゥス」

 

「なんですか?」

 

「ゆっくり戻ってきてもいいからね」

 

 なんだそりゃ。

 

 

 

 

 

 パドックに集まり、顔見せを行う。弥生賞はG2なので勝負服ではなく体育着だ。ちなみにハーフパンツです。前世はオスだからね。

 まだ3月で寒い日が続いている。今日も寒く、みんなウォーミングアップは少し念入りにやっていた。

 天候は晴れ、良バ場発表だ。なんかこれまで俺が出場したレースは既に二回も悪天候に見舞われているが…そんなことはそうそう無い。特に冬なんて晴れの日の方が多いしな。

 

『3番人気、9番ウルサメトゥス』

 

『ホープフルステークスでは悪天候の中、見事勝利を掴んだウマ娘です。最近はレースに出場していなかったため3番人気となってしまいましたが、今日はホープフルと同じコースに同じ距離。好走が期待できそうですね』

 

 俺は今日は3番人気。天気やバ場以外は全く同じ条件で行われたG1で優勝しているのだから1番人気でもおかしくなかったんだろうが…まぁ勝ち方がアレだったし、三ヶ月くらいレースに出てなかったからね。仕方ないかもね。

 なお1番人気はサルサステップちゃん、2番人気はヴィオラリズムちゃんだ。どちらも四大名家であり、強力なライバルと言える。残りの二家のうちジュエルアズライトちゃんはスプリングSに出場、リボンオペレッタちゃんは既に若葉Sを優勝している。

 

「あの、ウルサメトゥスさん。ちょっといい?」

 

「はい?」

 

 パドックと返しを終えて控室に戻るところを、サルサステップちゃんとヴィオラリズムちゃんに呼び止められた。なんだ? 

 

「本当はレース前に言うことじゃ無いと思う。でも、どうしても言いたくて」

 

「なんでしょう。準備もありますし、手短にお願いします」

 

 サルサステップちゃんが真剣な表情で俺に言う。レース前にちょっとトイレ、いやお花を摘みに行っておきたいんだが…

 

「「本当にごめんなさい!!!」」

 

「…へ?」

 

 深々と頭を下げられた。なぜ? 

 

「ホープフルで私たちの家があなたにやったこと、私たちも知ってるの。止めるべきだった。でも、レースが終わった次の日に、気づいたらもうああなってて…」

 

「結果に納得しなかった一部のバ鹿どもが暴走して…私たちや当主たちが収めようと動いたときには、もう遅かったんだ。…いや、これは言い訳だな。結局弁解することができなかった私たちも同罪だ」

 

「あー…」

 

 なるほどね? 

 あの件は名家の総意じゃなかったのか。まぁ集まればURAにすら意見できるような大きな組織が一枚岩なわけないわな。それに一生懸命走った選手からしたら「負けたけど今回は運が悪かっただけだし揉み消しといたよ!」って言われてるようなもんか。あのレースに勝った俺が言うのはあれだが。

 

 俺としては特になんとも思ってないけどね。

 むしろ情報を隠すのにちょうど良かったまであるし。

 

「今言うのはダメだと思った。あなたに精神的な揺さぶりをかけるようなことはしたくなかったし、せめてレースが終わった後にしようって。でもこのままレースに挑んだら多分私たちはまともに走れないと思ったの」

 

「だから、失礼だけど先ほどウルサメトゥスさんのトレーナーにだけ伝えたんだ」

 

 あ、さっきトレーナーが戻ってくるのが遅かったのはそのせいね。ちょっとしたモヤモヤが晴れましたわ。いやー喉に刺さった魚の骨みたいな感じだったから気分が良くなるよね。

 

「そしたら…」

 

 そう切り出してサルサステップちゃんはトレーナーと話したことを俺に伝えてきた。

 

 ────────────────

 

 パドックへの招集がかかる前、サルサステップとヴィオラリズムは中森を探していた。

 

 目的は、ホープフルSの後に起きたことについての謝罪である。

 

 あの件は彼女たちにとっても寝耳に水の話であり、状況を把握したのは全てが終わった後だった。ホープフルSの記事はねじ曲げられ、新聞社にURAをも巻き込んで大事となってしまった。

 結局記事が撤回されることはなく、暴走した本人たちも形だけの反省。当主たちは怒り心頭だったが、ここから更に事を大きくすれば、身内を制御できていないということで家の評判にも関わってしまう。どう見ても反省していないバ鹿共にも、謹慎程度で大した制裁はできなかった。

 

 他にできることと言えばレースを行った本人たちが内密に事情を話しに行くことぐらいだったが、サルサステップたちは皆高等部であり中等部のウルサメトゥスとは接点がほぼ無い。また、練習を邪魔することもできず、アポイントを取ろうとしても中森は警戒して電話をすぐに切ってしまう。

 それに、まだ高校生になったばかりの子供が、謝るためだけに大人の中森に話しかけに行くというのはかなりハードルが高く、ずるずると引き延ばしてしまい今日となってしまった。

 

 そんな中、中森が1人でお茶を汲んでいるところを見かけたため、声をかけた。

 

 本来ならばウルサメトゥスもいるところで、二人に同時に伝えるべきことかもしれないが、今はレースの直前。確実に平常心ではいられなくなってしまうであろう精神攻撃のようなことを、レース前の選手に行えるほど彼女たちは汚れていなかった。しかし、罪悪感を抱えたまま本人のいるレースに臨み、普段通りの実力を発揮できるほど彼女たちは大人ではなかった。

 なので、中森が1人でいるのはむしろ好都合だった。

 

『あの、中森トレーナーですよね?』

 

『ん? ああ、僕は確かに中森だけど…キミたちは、サルサステップとヴィオラリズムだね? どうしたんだい、レース前に。今日はキミたちも出場するんだろうし、こんなところにいていいのかい?』

 

 中森の態度は普通に見える。

 サルサステップとヴィオラリズムには、特に表情を変えずに話す中森が、自分たちに対してどのような感情を抱いているのか、少ない対人経験ではさっぱりわからなかった。

 ヴィオラリズムが意を決して話を切り出す。

 

『実は…』

 

 中森はヴィオラリズムが話し終えるのを静かに聞いていた。

 そして、話が終わるのを待ってから、落ち着いた調子で二人に話しかけた。

 

『まず結論として。名家に対して思うことはもちろんある、が…それでキミたち選手に対して何か悪い印象を抱くことは無い。別にキミたちが悪いわけではないようだしね。それにキミたちはまだ未成年の子供だ。できることは多くないだろうに、こうして謝りに来てくれた。それだけで好印象だよ』

 

 中森は先日の乙名史の取材のときもそうだったが、名家という大枠への悪感情とそこに所属しているだけの選手への感情を一緒にするほど狭量な人間ではないと自負していた。その考え方からすれば、精一杯の実力を発揮してレースを走っていた彼女らに対し、尊敬の感情はあれど怒りなど湧くはずもなかった。

 思わずホッとした顔つきになる2人に中森は但し、と付け加えた。

 

『メトゥスにもこのことを言ってやるといい』

 

『え、でも…』

 

 たった今、中森がひとりになったタイミングを狙った理由を話したばかりなのになぜそんなことを言うのか。そんな表情をする二人に対し、中森は平然と言った。

 

『顔を見ればわかる、君たちの罪悪感は本人に言わなければ全ては拭えないんだろう? 僕に言っただけではまだ心にしこりがある、と。しかし、それは無用な心配だ。メトゥスはその程度のことで心が揺らぐことはないよ。彼女は中等部とは思えないほど精神が強いからね。むしろ、それを黙っていたことでキミたちが実力を発揮できなかったとして、それを後から知ってしまったら逆にそのことを気にしてしまうほど優しい娘だ。だから、メトゥスに変な心配をかけさせないためにも、本人に言ってくれ。返しが終わったタイミングにでも声をかければいいよ』

 

 中森はウルサメトゥスの心の強さを知っている。一部の状況には非常に弱いことも。しかし、それは今回該当しない。だからウルサメトゥスがこの話を知ったとして、なんともないと分かっていた。

 また、彼女らが精神的に完全ではない状態でレースが行われたら、また言い訳の余地を残してしまう。今回本気で走ってそれでもウルサメトゥスが勝てば、それもなくなる。そうなれば、ウルサメトゥスへの不当な評価がなくなるのではないかという打算もあった。

 ただ、どの考えも最終的には自分の担当ウマ娘がその程度で揺らぐことはないと信頼しているからできることだ。中森は言葉だけでなく、態度からもそれが滲み出ていた。

 自らの担当に絶対の信頼を置くその姿を、2人のウマ娘は少し羨ましいと感じた。

 

 

 ────────────────ー

 

「ということがあって…」

 

「なるほど」

 

 うーん、信頼が厚い! 

 今日はキザなセリフを吐かないと思ってたらこれかよ! あのトレーナーはイケメンな行動を取らないと死ぬ病にでもかかってるのだろうか? 

 だが、実際その通りだ。そんな話を聞いたところで俺のメンタルが揺らぐわけもなく、サルサステップちゃんたちが全力で走ってくれなくなる方がモヤッとするよね。

 どうせならお互いなんの憂いもなく、全力で走ろうぜ? 

 まぁ俺は妨害するけどな! 使えるものは全部使うってだけだし、それも正々堂々のうちってことで。

 

「事情は把握しました。トレーナーの言う通り、それについて私が思うことは何もありません。感情がないというわけではないのですが…どうにもこの業界の常識には疎くて。ああすみません、皮肉ではないです」

 

「いえ、ならいいのだけど…」

 

 言い方が悪かったかな? これじゃ一般家庭出身ということを盾にしたように聞こえちゃうかも。

 まぁいいって言ってるし良いか(適当)

 

「とにかく、今日はお互い全力で頑張りましょう。まぁ、今日も勝つのは私ですけどね」

 

 ちょっと挑発的に笑う。

 最近色っぽいトーカちゃん先輩の真似だ。いやほんと前から可愛かったんだけど最近理性を揺さぶってくる方向で可愛いというか…恋でもしたんかね? 

 この笑い方は相手をお手軽に挑発できる方法がないか探してたときに、その当人から教わったんだが…自分に使って欲しいって強請ってくるんだよなぁ。トーカちゃん先輩を挑発する意味なくね? あと少し目が怖かったんでやらなかった。

 まぁトーカちゃん先輩にはレースでかち合うことがあったらやるとして…効果はどうかな? 人に対して初めてやるからこれで挑発できるかは分からんが。

 

「ッ上等! 私だって、あのホープフルの実力が全てじゃないって分からせてやるんだから!」

 

「私も火がついたよ。あの時から実力だって上がってるんだ。今日はあの日の焼き増しになんてさせない!」

 

「楽しみにしています、先輩方。そちらこそ、泣いて謝ってももう遅いですからね? 覚悟しておいてください」

 

 おーおー顔赤くしちゃってさ。

 挑発には成功、これで変な憂いも消えたかな? 

 先輩方には本気になってもらわないと、それより強いと思われるブライアン相手の予行演習にならないかもしれんしね。

 

 さて、俺も気合い入れよう。

 これまでのトレーニングの成果を今日この場で発揮しようじゃないか。

 

 

 




レオ杯はA決勝に行けました。
環境のタイキオグリに対抗できるか心配していたのですが…カレンが強敵をバッタバッタと薙ぎ倒してくれました。

そして投稿が遠のいていたのは7割方チャンミに勤しんでいたからという。
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