ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件 作:アザミマーン
というわけで今回は皐月賞の続きです。
連休だからといって投稿ペースが上がる訳ではありません。すみません。
まぁ皐月賞の結果自体は一話でやってるので、今回はその主人公視点のお話ですね。
ではどうぞ。
『さあ間もなく始まります、今期クラシック路線を走るウマ娘にとって初めてのG1となる皐月賞。勝利を掴むのは一体どのウマ娘なのか!!』
『今は晴れていますが、今朝の雨の影響が抜けきっていないのかバ場は稍重での発表です。レースへの影響は少なそうですが、地面を踏みしめる感覚がいつもと少し違うかもしれませんね』
さっさとゲートに入り、スタートを待つ。
バ場は稍重か。その程度なら『領域』に影響はないかな。ターフを踏んだ時に水が跳ねて音がするとかじゃない限りは変わらない。
横を見るとブライアンも今ゲートに入ってきた。腕を組んで仁王立ちしてる。立ってるだけなんだがプレッシャーがヤバい。
まぁそれに呑まれるほど俺もやわじゃない。なんなら普段はプレッシャーかける側だし。
『では人気上位のウマ娘の紹介です。三番人気、3枠6番ウルサメトゥス。皐月賞トライアルである弥生賞を大接戦の末に制したウマ娘です』
『昨年の12月に行われたホープフルステークスを制したウマ娘でもあります。後ろからじわじわと追い詰めていくような追込のウマ娘ですね』
お、俺か。一応観客席に向かって軽く手でも振っとくか。忘れずトーカちゃん先輩にも。
しかし歓声がすごい。俺にもファンがついたって認識でいいのかな? この前弥生賞が終わった後にURAのホームページを見たときは、ファン人数がまた増えていた。これまでのを合計して25000人行かないくらい。
『二番人気、7枠13番リボンオペレッタ。こちらも皐月賞トライアルである若葉Sを制したウマ娘です。僅差でしたが、二番人気となりました』
『高いレース技術を持ちながらも、ここ一番での思い切りの良さに定評のあるウマ娘です。差しウマ娘ですが、前回の若葉Sでは早仕掛けで見事な勝利を収めました』
二番人気はリボンオペレッタちゃん。俺が紹介されたときよりも大きな歓声が上がる。知ってた。
四大名家の一人で、選抜レースでは他の四大名家とフェイント合戦をしてた。そしてそのフェイント合戦を始めたのは見てた限りこの娘だった様に思う。結果、最後オイシイパルフェちゃんに全員抜かれたというちょっとギャグみたいなことをしてたウマ娘だ。
しかし実力のあるウマ娘だということは、若葉Sを5バ身差で勝利していることからも明白で、警戒は必須だ。
しかし、分かってはいても今日のレースで警戒できるかは話が別だ。
『そして一番人気、3枠5番ナリタブライアン』
実況がそう告げた瞬間、レース場が揺れるほどの大歓声が沸き起こった。
これだけでブライアンがどれほどの期待を寄せられているか分かるってもんだ。大丈夫? ターフ上にいる俺ですらちょっとビクってなったのに、客席にいるウマ娘とか気絶してないだろうな。
『本レースでは他のウマ娘に大きな差をつけての一番人気。皐月賞トライアルのスプリングSでは1800mのマイルでありながら二着に9バ身差をつける圧倒的な勝利を飾りました』
『まさに大本命と言ったところですね。身体能力、レース感、技術の全てが高い水準で備わっているウマ娘です。中でもその身体能力には目を見張るものがあります。正直なところ、クラシックに出ているのが不思議なほどの実力を持っています』
これで紹介は終わりだ。その間にみんなゲートに収まったし、いつスタートとなってもおかしくない。
今回、心音で揺さぶりをかける戦術は使わない。あれは序盤から『領域』を使いたい時に、出遅れを誘発して相手を動揺させるためのものだ。
中盤から『領域』を使う予定の今回では必要ない。いやアドバンテージは取れるかもしれないが、あれも何度も使ってるとそのうち効かなくなりそうだしね。今回使ってここぞというところで効かなくなっても困る。
さて、そろそろ始まるか?
場内が静かになる…
今!
『スタートしました!! ウマ娘たちが綺麗なスタートを切ります』
『目に見えて出遅れたウマ娘はいませんね。差がない中、これからどのようにレースを展開していくのかに注目です』
出遅れは無し、と。まぁ俺は確認することもなく誰より早くスタートしてハナを奪ったから分からんのだが。
『前に出たのは逃げ・先行のウマ娘に加えて、6番ウルサメトゥス。彼女は追込のウマ娘ではなかったでしょうか?』
『まだレースは始まったばかりですから、勢いで前に出ただけかもしれませんね』
そうそう、勢いだよ勢い。
少しの間、気持ち速めのペースで先頭で走る。う、ちょっとキツいが…まぁ俺はすぐ下がるからね、大丈夫大丈夫。
後ろから抜かしてくる気配がしたので息を入れながら素直に譲る。まぁ内側から下がっていくんだが。邪魔してごめんね。
さて、少しはペースが上がった状態で進むかな?
『先頭が10番ジュエルアズライトに代わります。それを追走するのは14番リバイバルリリック。6番ウルサメトゥスは下がっていきます』
『通常通りの走りに戻るのでしょう。先頭に出た二人はグングンとそのまま伸びていきますね。ジュエルアズライトにリバイバルリリック、二人とも名の知れた逃げウマ娘です』
そのまま最後尾へ。ほら、俺、遅いでしょ? 抜かしちゃっていいよ、一思いにさ。いや別に心苦しくはないか。
今何をしたか?
最序盤だけ前で速めに走れば、そのペースを超えるスピードでレースを展開してくれるかと思ったんだよ。スタミナ勝負になれば、俺は『領域』で相手の体力を削れるから有利になる。
それが上手くいってるかは…走りながら確認するとしよう。
『先頭が最初のコーナーに差し掛かります。現在先頭から10番、14番、一バ身離れて1番、7番。二バ身離れて11番、8番、5番ナリタブライアンここにいた。更に一バ身離れて2番、4番並びかけて来た。三バ身離れて18番、13番リボンオペレッタ追走、3番、一バ身離れて15番。そこから三バ身離れて16番、17番、9番、12番。最後尾に6番ウルサメトゥスという順番になっています』
『現状はどのウマ娘も予定通りといったところでしょう。しかし、流石に「最も速い」ウマ娘が勝つレースとされているだけありますね。全体的にペースが速い』
目の前にいるアクアラグーンちゃんを追い立てながら実況と解説を聞く。お、ペースが速くなってるか、いいね。最も、それが俺の小細工によるものなのか、皐月賞のペースがもともと速いのかは分からんが。
どちらにせよ、スタミナ勝負にしてくれるなら大歓迎だ。もっとペースあげてもいいよ? 俺は目の前のウマ娘…アクアラグーンちゃんが逃げたから今度はオイシイパルフェちゃんだな。それを風除けにして走ってるからさ。
いやー二人とも毎度ごめんよ。でも追込で走る限り俺の妨害からは逃げられないから、是非これからも一緒に頑張って行こうな!
『先頭が2コーナーを回ります。順位に大きく変化はありませんが、後続が若干詰めて来ているように見えます』
『実際、後方集団が前に寄って来ていますね。列が少し短くなっています。先ほどまではかなり縦に長い展開でしたからね、いくら中距離と言っても2000m、ここである程度詰めておかないと最後間に合わないと判断したのでしょう』
それもあると思うけどね。俺が焦らせたのもあるよ、外から見てる分には分かりづらいと思うが。
足音を立てる、逆に足音を消す。これを繰り返すだけでも、すぐ前にいるウマ娘は俺の位置が分からなくなって混乱するし、そのまま並びかけてやれば驚きもする。
で、先頭が2コーナーに? ならちょっと加速して…
お、何人かこっち見てたかな? 加速したのが見えたぞ。
よし、いい感じに勘違いしてくれたかな。トーカちゃん先輩ほど上手くはできないが、多少焦らせることはできたか。
名家のウマ娘も何人か引っかかったな。リボンオペレッタちゃんなんて顕著に加速したぞ。コーナーは後ろを見やすくていいよね。ただそっちから後ろが見えるってことは、こっちも前の様子が見えるってことなんだ、よく覚えときな。
まぁ肝心のブライアンはこっち見てませんでしたけどね。そう上手くは行かんか。
そして並びかけられた目の前のウマ娘は焦ったように前へ、おっとこれは完全に二次災害、いや俺にとっては一石二鳥か。
さて、序盤の小細工はいい感じだな。追い立ても成功して、前との距離は現在17バ身といったところ。十分射程圏内だ。誰が? ブライアンに決まってる。
逃げウマ娘には悪いけど、最悪ブライアンだけでも『領域』に入れられれば勝ちの目はあると思ってる。
それほどまでに、ブライアンと他のウマ娘たちの差が顕著だ。
もう少しすると先頭が1000m、中間地点に差し掛かる。
今回は第二の効果である、「終盤の萎縮」を使うために『領域』は中盤から使う。序盤から『領域』を使ったときは、第二の効果は使えない。理由は疲れている時に第二の効果を使うと俺が自滅するからだ。
では自滅とは何か?
スタミナが足りないと『領域』による幻覚が俺をも対象にしてしまうのだ。
いくら『領域』として昇華しているとはいえ、元々俺のトラウマだ。
体力的に余裕のある状態でないと持ち主である俺にも爪を立ててくる。
いいように使うことは許さないってか? らしいと言えばらしいのだが、いい迷惑だよちくしょう。
だからこれまでは中間地点を超えてから使っていたわけだ。それ以上はスタミナが持たなかったからね。
ただ逆に言えば、最終的にスタミナが足りるなら少し早く発動することもできる。
こんなふうに、な!!
『さぁかなり速いペースでレースが展開されています! 先頭の1000メートルのタイムは58.5秒! しかし先頭集団のスピードは衰えない!! 掛かってしまっているのでしょうか、これは後半に脚が残っているのか?』
『とんでもないですねぇ。クラシック序盤、2000メートルのレースとは思えないペースです』
まぁそれでもそこまで早くはならないけど。
今回は10バ身程先を走る先行のウマ娘たちが1000mの標識を抜けたところで『領域』を展開させて貰った。
うん、先行というかブライアンメタだよね。
今回は元々のレース展開が速くてスタミナが心配だったから、多少早く発動させる程度にしか出来なかったけど…もう少し前倒しでも良かったかもな。案外俺に余裕がある。
というか、いつの間に距離が少し縮まったのか逃げウマ娘たちも『領域』に飲まれてるな、これはラッキー。
さて、前を走るウマ娘のペースが上がっていく。
俺もその真後ろにピッタリと張り付いて走る。スリップストリームを十分に受ける形だ。
前のウマ娘がかかってペースが上がったら、結局自分のスタミナも消費が早くなってしまうんじゃないかって?
いやいや、違うんだなこれが。
自分で制御したペースの変更と、かかったことによる焦りでペースが上がってしまったのとでは、消費するスタミナに天と地ほどの差がある。
レース中の精神状態というものは、それほどまでに体に与える影響が強い。
それに加えて、今ウマ娘たちは俺の『領域』に補強されたかかりを受けている。
ちょっとやそっとじゃ抜け出すこともできないはずだ。
残り800m。
まだ仕掛けには早い。第二の効果を使うには早すぎる。普通ならな。
でもブライアンならやらかしかねない。
だから目を、耳を、尻尾を、感覚を全部ブライアンに向けろ。
仕掛けのタイミングを正確に把握するんだ。
残り700m。
まだ早いか?
ブライアンに動きはない。
ただ忘れるな、俺は追込の位置、最後方。
俺自身の仕掛けのタイミングも把握しとかなきゃいけない。
残り600…っ!
今!
ブライアンに仕掛けの兆しが見えたその瞬間、一時的にプレッシャーを切り、足音も消す。
さぁ、殺気が無くなっただろ? 暗い空間も、恐怖も消えた。
スパートする絶好のチャンスに感じるはずだ。
名家だろうが怪物だろうが関係ない。生き物ってのはな、チャンスだと感じて行動するときに一番隙が出来るようになってるんだよ!
残り500!
第二の効果、存分に食らいやがれ!
『おおっと! ここでウマ娘たちが揃って速度を落としたぁ! やはり前半に飛ばし過ぎたのか?!』
『どうしたのでしょうかねぇ。こうも一斉に走りが乱れるとは…』
実況を聞いている暇もない。
持ちうるパワーの全てを使って前に出る。
一向に加速しない追込勢を、身の入らない走りをする差しウマ娘たちを、一瞬にして置き去りにする。
あとは先行、貰ったぞブライアン…?!
あと数歩で追いつく、そう思った俺の目が捉えたのは、急激に加速し始める『怪物』の姿だった。
『ナリタナリタナリタ! ここでナリタブライアンが速度を上げた! 本性を現した怪物が!! これまでのハイペースを物ともせず、バ郡から一気に抜け出し、加速していく!!! やはり強い、強いぞナリタブライアン…』
しかし、これを予想していなかったわけではない。
お前のことだ、そんくらい仕出かしてもおかしくないと思ってたよ!
意識が戻ったって言ってもほんの少し前だろう?
まだ加速しきれてない今なら、まだチャンスはある!!
『そしてもう一人! 他のウマ娘が速度を落とした隙をついたのか!? 最後方から一気に上がってきた!! ウルサメトゥス、ナリタブライアンの一人旅に待ったをかける!』
「何?!」
思わず、ってか? 声が漏れたぞブライアン。
敵なんていないと思ってたか?
そうだろうな、皐月賞トライアルでダービーを見据えた走りをするくらいなんだから。
けど、そうは行かない。
京都ジュニアSのリベンジだ。今日こそは…
「勝たせてもらうよ! ナリタブライアン!」
『ウルサメトゥス、どこにそんな脚が残っていたのか! ナリタブライアンをかわしてトップに立つか!?』
ジリジリと差を開けていく。
俺の方が先に加速してたってのに、こんなにも差が広がらないか?!
ブライアンの身体能力を舐めてたわけではないが、これほどか!!
だが、俺の考えは完全に甘かった。
「ぐっ…だが!」
そう後ろから聞こえた瞬間、俺の真横に抜かしたはずのブライアンの姿があった。
「! まだ伸びるの?!」
「舐めるなあああアアアア!!!!」
『しかしここで終わらないのがナリタブライアン!! 伸びる伸びる!! できた差を瞬く間に差し返した!!!!』
嘘だろ?! まだギアが上がるってのか?!
だが俺だってまだ終わるわけにはいかないんだよ!!
脚を回せ、速度を上げろ!
まだ100mはある、まだ間に合…!?
「しまっ…!」
スローで流れる景色の中、視界に入ったのは芝の緑ではなく、茶色くなった地面。一周目で捲れたのか?
咄嗟に足の踏む位置を変えることはできず、剥き出しになった地面を踏み抜く。
「くっ」
芝を踏みしめるつもりで蹴った脚の感触が異なり、若干体勢が揺れる。
倒れるなんてことはないし、遠目に見ても分からないほどの変化だろう。
しかし、この場においてはあまりにも致命的だった。
たった一瞬で前を走る背中が遠くなる。
ああ、俺はまた…
『ナリタブライアン、一着でゴール!!!! タイムは1:59.0、皐月賞のレースレコードどころか、中山レース場のコースレコードを記録しました!!! 強い、強すぎるナリタブライアン!! このウマ娘に勝てるウマ娘はいるのか!!!!』
『二着は1 1/2バ身差でウルサメトゥス、三着は…』
負けたのか。
疲労と無力感からターフに倒れ込む。
涙が止まらない。
ああだめだ、邪魔になっちまうな。
俺は涙を拭うこともせずに立ち上がり、ターフを後にした。
「メトゥス! お疲れ様、大丈夫かい?」
「トレーナー…」
控室に戻るところを、トレーナーが駆け寄ってくる。
タオルを受け取り、それで顔を乱暴に拭った。
「大丈夫、とは言えませんね。大口を叩いておいて、あの様です」
「僕の分析が足りなかったんだ、キミが気に病む必要はない」
そうは言ってもな、負けは負けで、実際に走ったのは俺だ。
気にもするさ。
けど…
「まだです」
「え?」
「まだ終わってません」
そう、まだクラシックは始まったばかりだ。
皐月は負けた。それは覆しようのない事実だ。
だから、次は勝つ。
もう既に一回負けてるんだ。また負けたくらいでへこたれていられるか。
「そう、だね。そうだ。その意気だメトゥス。次に活かそう」
「ええ」
トレーナーにタオルを投げ、鏡を確認する。
うん、ちょっと目元は赤いけど、これくらいなら化粧で隠せるか。
目が充血してるのは仕方ない。このままで。
さて、ウイニングライブに行こう。
今回はセンターを譲ってやる。
レースは負けたが、それはそれ。
センターが一際目立つように、完璧な歌と踊りを披露してやるよ。
溢れそうな涙は、一旦仕舞っておいてな。
なんとか育成は間に合い、逃げリッキーを育成することができました。マヤも。
ただファル子は間に合わず、ネイチャを使うことに。いや手は抜いてませんけどね。
そしてスタミナを舐め舐めしたクリオグリを封殺することはできました。
なんとかA決勝、ただ3位だろうなぁ…
今回のチャンミはそんな感じでした。