ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件 作:アザミマーン
どうも、お世話になっております。
連休ですが、いかがお過ごしでしょうか。
私はここぞとばかりに育成していますが、完成するそぶりがありません…
今回は通常回です。というか掲示板回は基本主人公のレース後にあるので、次回はダービー後ですかね。
ではどうぞ。
「皐月激震 ナリタブライアン完勝」
「怪物爆誕、向かうところ敵なし」
「まず一冠 ナリタブライアンv」
皐月賞の翌日、俺は購買で売っていた新聞をいくつか買って読んでいた。
ふむ、まぁブライアンのことが中心に書かれている。当たり前か。
『領域』をもってしても届かなかった。
その事実は確かにちょっと、いやかなり俺に精神的ダメージを与えていたが、昨日トーカちゃん先輩にめっちゃ甘やかされて復帰した。頭がフットーしちゃいそう…! なことをされたのは秘密だ。
現状クラシックでは俺だけが使える『領域』を使って、それでもなお上回ってくるブライアンは恐ろしいが…そもそもそう簡単に勝てるなら苦労しないわな。
そして、マゾではないんだが、負けたことが少し嬉しくもある。
いや悔しいよ? 悔しいんだけど…やっぱり前世ではウマ娘ファンだったからさ。『怪物ナリタブライアン』の強さをこの身でしっかり味わえたというかなんというか…
うまく言えないけれど、勝ちたいという気持ちと、簡単に超えられる壁じゃなくて良かったという気持ちが混在してて…なんかアグネスデジタルみたいだぁ。
今日はレースの次の日なので休み。
いつものようにトレーナーと共に反省会だ。で、いつものカフェテリアでやろうと思ってたんだが…今日は別のカフェにいる。
なんでも皐月賞に合わせてカフェテリアで花火祭りの敢行を目論んだウマ娘がいたらしく、カフェテリアが一部損壊して現在補修中だそうだ。何考えてんだ。
「メトゥス、お待たせ」
「いえ、時間通りです」
お、トレーナーも来たな。…ん?
「トレーナー」
「なんだい?」
「目が赤いですよ」
PC片手に俺の正面に座ったトレーナーだったが、目が充血しててクマも出来ている。
これは…俺の勘違いでなければ、泣いてくれたんかな? 俺が負けたことに。
そうだとしたら…申し訳なくもあるけど、嬉しい、な。それだけ俺のことを真剣に考えてくれてるってことだろうし。
やべ、顔が熱くなってきた。やめろよ、感動系にはあんま強くないんだから。
「…よく気づいたね。これでもできるだけ治してきたつもりなんだけどな」
「トレーナーが私のことを見てくれているように。私もトレーナーのことをよく見ているんですよ」
「あはは、敵わないな。そう言うメトゥスも目元が赤いよ?」
「まぁ。隠すことでもないですが、帰ってから大泣きしましたからね。今回ほど寮の防音環境が整っていることに感謝したことはありません」
「そ、そう」
いやー本当に大泣きしたよね。泣き声140dBくらいあったんじゃない? トーカちゃん先輩も耳伏せながら俺の頭撫でてたしな。そういやトーカちゃん先輩のスマホがつきっぱなしだった気がするけど。〜音中という文字が一瞬見えたが…詳しくは分からん。そもそも気のせいかもしれないしな。
「じゃあ早速反省会に移ろうか」
「はい、お願いします」
おっと別のことに思考を割いている場合じゃない。しっかりレースを振り返って、次こそ奴に勝つんだ。
「今回の皐月賞で負けた原因だが…まずは僕の解析のミス。ナリタブライアンの成長速度が僕の想定よりも上をいっていた。ああ、これは僕の自責の念とか、キミに対する配慮とかではない。ただ客観的に今回の敗因を探った結果、こう考えただけだよ」
「まぁ、それは確かに要因の一つではありますね」
全部が全部トレーナーのせいというわけではもちろん無い。走るのは俺だし、俺もトレーナーの想定通りの動きができるわけじゃない。
ただ、トレーナーは俺の成長速度と仮想敵であるブライアンの成長速度を比較して、勝つためにどのくらい俺をトレーニングすれば良いかを考えている。だから、今回ブライアンに勝つための身体能力を想定よりも低く見積もってしまっていたと言いたいのだろう。
「これを踏まえて明日からは相応のトレーニングを予定している。当然これまでよりもさらに厳しい練習メニューになってしまう」
そうなるよなぁ…。
でもこれは仕方ない。今のトレーニングで足りないというなら、もっと練習を増やすしかないのだから。
幸い俺の体はかなり頑丈だ。現在進行形でかなり厳しい練習をしていると自負しているが、それでも壊れる様子は微塵もないしな。
この点だけはホント光る女の人様様だよ。
「けど…キミの体をしっかり見ながらメニューは組むから、怪我はさせない。何より、キミならついて来てくれると信じている」
「トレーナー…」
全く頼もしい限りだ。信頼も重いくらい厚いしな。その調子で頼むぜ。ただ、一つ言うなら、だ。
「セクハラです」
「ええ?! これでもかい?」
しっかり体を見ながら、は完全にアウトやろがい。
「ま、まぁそれは一旦置いておこう」
「私だから良いですが、他のウマ娘に絶対言わないようにしてくださいね? 担当トレーナーがお縄とか笑い話にもなりませんよ」
頼むからしっかりしてくれよ…ただでさえ年頃のウマ娘たちなんだ。扱いは慎重すぎるくらいでいい。
まぁ俺はそんなに気にしないけど。俺の担当が終わったり、他のウマ娘を担当するようになったらそうはいかんからな。
他のウマ娘を担当する中森トレーナー…? 想像したら、なんかちょっと、イヤだな。
「肝に銘じておくよ…それで、話を戻すけど」
おっと、反省会の最中だったな。
「身体能力の向上に関しては今言ったとおりだ。もちろん、新しく効率の良いトレーニングを見つけたら積極的に取り入れていく」
「分かりました」
「では次に、身体能力以外の敗因だ。まずこれを見てほしい」
トレーナーがPC画面を操作し、皐月賞のレース映像を見せてくる。これは序盤の終わりかな?
「ここだ。このコーナーでキミは加速して他のウマ娘を牽制し、スタミナを使わせようとしている。何人かのウマ娘はここで引っかかって前に出ているが…一番引っかかってほしいナリタブライアンはこっちを見ていないから、そこには効果がなかった」
ここは覚えてる。ブライアンが引っ掛からなかったことも。
「もちろんナリタブライアンだけを見るわけにはいかないし、引っかかっているウマ娘もいるからこれに意味がないとは言わない。有効ではあるわけだし。ただ、こっちを見ないナリタブライアンにも有効な手が欲しいのは事実だ」
それはそう。
俺は年明けにやったトーカちゃん先輩との併走練習で相手を焦らせるために色々な技術を教えてもらった。コーナーで相手がこっちを見ているだろうときに加速して焦らせる、というのもその技の一つだ。
ただ、これは欠点として相手が後ろを全く気にしないウマ娘だった場合意味をなさない。
他に教えてもらった技も、相手の真後ろでしか出来ないものが多い。追込の俺からでは、先行のブライアンに届かないものが多いんだ。
「他にも、最後のここだ」
見せられたのは、レースの最後。芝がめくれた部分を俺が踏んで、ほんの少しバランスを崩したところだ。
普通だったら見逃すような場面だが、そこは流石に俺の専属トレーナーだな。俺をずっと見てる発言をしただけはある(一部捏造)。
「レース開始前にはなかったバ場の荒れだ、おそらくは一周目に出来てしまったものだろう。運で片付けることもできるが…気をつけることもできるはずだし、なんならそれを踏まないようにする練習だってできるかもしれない」
「そうですね、私も同じミスはしたくありません」
トレーナーの言う通り、運が悪かったと片付けることもできるだろう。しかし、それではまた同様の状況になったとき、「運が悪かった」で済ませるのか?
答えは否。一度目は仕方ないにしろ、極力防げるものは防ぐべきだ。
「これらを総合すると、メトゥスには経験が足りないということになる。レースの経験もそうだし、もっと言うと他のウマ娘と競って走る経験だ。これに関しては、今まで『領域』を隠す方向だったから仕方ないとも言えるが…」
「今回大々的に使ったことで、隠す意味も無くなったから経験を積みたいと」
「そうだ。経験の浅いトレーナーはともかく、今回の皐月賞でベテランのトレーナーにはメトゥスが『領域』を使えることが、対戦したウマ娘越しに伝えられているだろう。あの『領域』がそう簡単に対策できるとも思えないが…とにかく、もう隠す意味は殆どない。しかし、隠さなくなったからこそできることもある」
「と、言いますと?」
「他のウマ娘と積極的に併走練習ができる」
なるほどな。これまでは『領域』が他のウマ娘にバレないように立ち回っていたから併走できる相手があんまりいなかったと。まぁ同期は元々併走相手には出来ないし、先輩方はこんな一般家庭出身のウマ娘を相手にしないしな。
だが、俺が『領域』を使えるとなれば話は別だ。
「暮林トレーナーも言っていたように、『領域』を使えるウマ娘なんてそういない。それに、『領域』を使えるウマ娘は多くがシニア級。シニア級になって『領域』もちの相手とぶつかっても、対策が出来ない。なぜなら、同じシニア級同士、レースでぶつかるかもしれない相手に『領域』の情報を晒すウマ娘なんていないからだ。必然的に、『領域』持ちと併走練習ができるのは東条トレーナーとかの大規模なチームくらいになる」
「しかし、そこに突然、クラシック級で『領域』の使える私が現れたと」
「そうだ。レースでしばらくぶつかることはないから併走を頼める。向こうは『領域』の対策を、こっちはレベルの高いウマ娘との併走で経験の積めるWin-Winの関係だ。現に、昨日の今日だが、僕宛に併走練習をしないかという提案が何件か既に来ている」
大人気じゃん俺。
それなら不足していた経験を補えるかな?
「ここからピックアップしてメトゥスのためになりそうなウマ娘との併走練習を組む。ダービーまでそんなに時間がないから併走練習ができるのは一人か二人になるだろうが、それでも良い経験になるはずだ。少し先の話になるけど、菊花賞までにはまだ時間があるから、そこまで見るなら相当な経験になるはずだ」
ありがたい。『領域』を晒すことにはなるが、ブライアンに勝つためだ。そのくらいは妥協、必要経費ってやつだな。ブライアン以上の実力を持つであろう先輩ウマ娘と併走し、しっかり経験を積むとしよう。
「それじゃ最後に…『領域』に関してだ」
「はい」
「これを見てくれ」
トレーナーが俺に見せたのはレースの終盤場面。俺が『領域』の第二段階を発動し、ウマ娘たちを萎縮させたところだ。
「明らかにナリタブライアンだけが早く復帰している」
「ええ、それは私もよく分かりました」
あのとき。
満を持して発したクマ仕込みの『領域』を、ブライアンはほんの一瞬で解除した。
「理屈は分からない。だが、ナリタブライアンにメトゥスの『領域』の第二段階が効きづらいことは分かった」
そう、それが事実だ。ブライアンにどうして萎縮が効きづらかったのかなんて分からないし、『領域』が不可思議なものである以上、今後分かることもないのかもしれない。
重要なのは、あいつに効かなかったという、ただそれだけ。
「それを踏まえた上で、この映像を見てくれ」
そう言ってトレーナーが見せてきたのは、今回の皐月賞のレース直後の映像だった。
レース中なら分かるが、レース後?
「これは?」
「いいから。ナリタブライアンの様子はどうだい?」
「どうって…あれ?」
皐月賞のブライアンを見る。
俺がぶっ倒れているのを尻目に、他のウマ娘と同様に
…息を整えている?
これは前世の記憶になるが…アプリ版ウマ娘のストーリーでは、ブライアンは日本ダービーを勝った後、息一つ切らしていないことをゴールドシップに言及されていた。皐月よりも400mも長いダービーを走った後でだ。
しかし、この映像ではたった2000mで息を切らしている。俺の『領域』でかかっていたとはいえ、『領域』第一段階の効果があったのは、レースの残り1000m強~残り500mくらいまでの約500mほど。
いくら皐月から一ヶ月後で身体能力が少し強化されているとはいえ、日本ダービーの2400mを息も切らさず余裕で走り切れるほどのスタミナを持つブライアンが、短い時間の『領域』くらいでここまで息を乱すか?
「気づいたと思うけど、皐月賞後、ナリタブライアンはかなり息を切らしている。これはスタミナがギリギリだったということだ。僕の想定していた身体能力では、スタミナを切らすなんてことは無いはずだったにも関わらず、だ」
「つまり…ブライアン先輩が想定よりもスタミナが無かった、もしくは私の『領域』が想定以上に効いていた」
「そういうことになる。そして、ナリタブライアンの身体能力が僕の想定以上だったことを考えると、スタミナが無かったということは考えづらい。従って、何故かはわからないが、メトゥスの『領域』の第一段階が他のウマ娘よりも効いていたという可能性が高い」
なるほど。
なら、ダービーでは最初からかからせる方針で行ったほうが良いってことか?
「ダービーでは最初から『領域』を使うようにしますか?」
「キミの『領域』だから僕に確実なことは言えないが、そのほうが勝率が高いと僕は思うよ」
「それなら、ダービーでは最初から使うということにしましょう。少なくとも、今のところは」
「そうだね、様子を見ながらだけど、とりあえずはそうしようか」
よし、だいぶ対策も煮詰まってきたな。
しかし…こうなると『領域』もなんとか強化できないかなぁ。
でも出力を上げたら下手すると大変なことになるし、どうにか大きく出力を上げずに調整できないもんかね…
俺が悩んでいると、目の前にコトリとコーヒーが置かれる。
少し前に注文していたブレンドコーヒーだ。俺の容姿を見てか、コーヒーを持って来てくれたウマ娘は、砂糖とミルクも持って来てくれている。使わないけど。
「…どうぞ」
「ありがとうございます」
ずず…うむ、うまい。
いつものカフェテリアのコーヒーよりも少し苦味が強いが、コクがあり、深みを感じる。俺的には酸味の強いコーヒーより苦味が強いほうが好きなので、こっちの方が好みかも。
「これ、美味しいですね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、嬉しいです」
「…もしかして、これ、あなたが入れたんですか?」
「ええ」
美しい漆黒の髪に、小柄な体躯。俺と同じ中等部か?
金色の瞳には何故か光がないように見え、少し陰気な印象を受けるが、それを鑑みても一般的なウマ娘より容姿がいいと断言できるだろう。
「アルバイトさんですか? このコーヒーいいですね、通っちゃうかも」
俺が本心からそう言うと、漆黒のウマ娘は少しはにかむ。
「まだ未熟ですが…精進します。…あの、さっきの話が少し聴こえてしまったのですが」
「え?」
げ、しまった。
店員が近づいているのが分からないほど熱中して話しちまったか。
幸い、見た感じは本格化してなさそうだしまだレースには出ていないだろう。口止めできるかな…
「あの、キミ。申し訳ないけど、このことは内密に…」
トレーナーが店員のウマ娘に頭を下げる。店員のウマ娘は少し驚いたように目を見開き、首を横に振った。
「い、いえ。そんなつもりはありません。ただ、もしかしたらお力になれるかも、と」
「私たちの、力に?」
「はい」
店員のウマ娘は俺をしっかりと見据え、話し始めた。
いや…よく見たら俺の後ろを見ている?
「あなたの後ろにいる子…」
「え?」
「もしかして、見えてないのに使っているのですか?」
「…何がですか? というか、あなたは?」
不思議ちゃん発言を繰り返す眼前のウマ娘に少しイラつき、語調が強くなってしまった。
しかしそんなことは全く気にせず、店員のウマ娘は自己紹介し始めた。
「これは、失礼しました。初めまして、私は中央トレセン学園中等部2年生の、マンハッタンカフェと申します。別のクラスですが、あなたのご活躍はよく存じています、ウルサメトゥスさん。それで先程の話の続きですが、あなたの後ろの子、コントロールしたいならお力になれるかもしれません」
え?
あのマンハッタンカフェ???
なんか小さくね?
店員のウマ娘改めマンハッタンカフェは、様々な驚愕で動きを止めた俺にゆっくり首をかしげたのだった。
シチー難しすぎて諦めました。無理…
代わりにブライアンを育て始めました。
めっちゃ踊るブライアン可愛いですね。違和感は否めませんがw