ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件 作:アザミマーン
チャンミ、A決勝にはなんとか進みましたが優勝はできませんでした。
そして唐突に始まる死体蹴り。
絶対に許さん。
また次回がんばりましょうということでね。
では本編をどうぞ。
ナリタタイシンは寒門出身である。
正確には名門の分家だが、実家はウマ娘関連の仕事ではなく花屋を営んでいる。
本家のように幼少期からのトレーニングなどはほとんど無く、それでも幼い頃は走りに対する渇望から自己流のトレーニングを続けていた。
それを見かねた両親が本家に打診して専門のトレーニングを受けたのが小学校高学年の頃。名家のウマ娘と比べたら非常に遅いスタートだった。しかも本家も期待していなかったのか、教官がくるのは月2回ほど。劣悪までは行かないが、恵まれない環境でトレーニングしていたことは間違いない。
また小学校では同級生が、小柄な体格や少食というアスリートに向かない体質を理由に「自分でも勝てる」などと言い、ナリタタイシンをずっと下に見ていた。
トレセン学園に入学してからも、ナリタタイシンの才能を見抜く人間は現れなかった。本格化の兆候がありデビューの申請をしても扱いは変わらず。それどころか、一部のトレーナーや記者まで元同級生と同じような理由で嘲笑うものが現れる始末だった。
──────どいつもこいつも、バカにしやがって!!!
絶対に見返す。最初はそんな反骨心から始まった。
今のトレーナーに才能を見出されてから、ナリタタイシンは必死で走った。
皐月賞で同期の注目株であるビワハヤヒデとウイニングチケットを破り、一躍最前線に躍り出たナリタタイシンだったが、一時はビワハヤヒデの強さに心を折られかけたこともあった。
菊花賞では散々な結果で、一矢報いるために挑んだ有馬でもやはりビワハヤヒデには勝てなかった。
自分はもう二度とビワハヤヒデに勝てないのではないだろうか
こんな、不純な動機で走っているからだろうか
元々ネガティブなところのあるナリタタイシンがそう思うまでに時間はかからなかった。
それからはトレーニングも疎かになり、現実逃避する日々がしばらく続いた。
もう諦めよう。
どうせ勝てない。
本心からそう思った。そう思いたかった。
しかし、なぜか。こんなにも自分の心は燻っている。
走らなくなったナリタタイシンの心を炙ったのも、結局のところ「走りたい」という気持ちだった。
そして紆余曲折あったが、ナリタタイシンは心の調子を取り戻して再起した。
その結果が、先日の大阪杯での二着だった。
練習用コースに引かれた線の後ろに二人横並びになる。
中森トレーナーが準備をしている間に、ナリタタイシンは隣に立つ後輩のウマ娘を一瞥した。
美しい青鹿毛の髪、晴天を思わせるような碧眼に、幼さの強い顔立ち。
一目見た限りでは名家と変わらないような鍛え方をされた脚。
そして、自身と同じくらいの小柄な体格。
ウルサメトゥスのことを調べ、そして実際に会って、走って、ナリタタイシンは彼女のことをかなり気に入っていた。もっと言えば、親近感を覚えていた。
ナリタタイシンは考える。
ウルサメトゥスは一般家庭出身であり、他のウマ娘に比べ圧倒的に不利な状態から始まった。入学時には誰にも期待されず、おそらくレースで勝ってもフロック扱いされていたはずだ。
実際調べた限りでは、ホープフルステークスを優勝したにもかかわらずその記事は揉み消されたに近い扱いを受けている。そのせいで知名度は上がらず、ほぼ同じ条件のレースである弥生賞では三番人気。挙げ句の果てには、皐月賞で圧倒的一番人気のナリタブライアン相手に、1 1/2バ身差まで食らい付いたのに、それに触れた新聞はほとんど無かった。
(アタシと似てるんだ、この娘は)
期待されず。
不愉快な扱いを受け。
同期には圧倒的な実力を持つライバルがいる。
(でも、アタシとは違う。心が強いんだ)
『領域』というアドバンテージを持ちながら、それでも届かないナリタブライアンという怪物。
ナリタタイシンは思う。自分だったら、ウルサメトゥスと同じ状況に置かれていたら、どうなっていたか。
(あれで折れないのは、すごいと思う)
答えは簡単だ。自分だったら折れている。特に、クラシック序盤の頃の自分なら。
自分にはできない。だからこそ、それでも勝つことを諦めない隣の後輩がナリタタイシンには眩しく映る。年下をここまで尊敬したのは初めての経験だった。
しかし。
(それとこれとは別。アンタを利用してでも、アタシは強くなる!)
ナリタタイシンはもう決めたのだ。どんな手を使ってでも、今度こそビワハヤヒデとウイニングチケットが出る大舞台で、あの二人に勝って優勝すると。
大阪杯では確かに自分の方が順位は上だった。しかし、あれは全てシャドウストーカーというウマ娘の掌の上で行われたこと。自分の実力で勝ったとは言えないし、そもそも優勝できていない。
(…もしかしたら、今日この娘の『領域』を受けて、それでもアタシが勝ったら。何度やってもアタシの勝ちで終わったら。今度こそ、この娘は自信を失って心が折れてしまうかもしれない)
ナリタタイシンの心が痛む。
全ては想像に過ぎない。ナリタタイシンの考える限り、ウルサメトゥスは強い心を持つウマ娘だ。自分に負けたところでなんともないかもしれない。逆に反骨心で食い下がってくるかもしれない。
だが、先程2回走った限りでは、『領域』があったところでナリタタイシンに及ぶとは考えづらかった。
(たとえウルサメトゥスの『領域』がハヤヒデと同程度だったとして…それでも、そのくらいじゃ負けない)
2度走り、両方とも10バ身近い差をつけて終わった先程の模擬レース。どのタイミングで加速しても、それでウルサメトゥスがナリタタイシンを抜かすビジョンは無い。
(…ごめん)
心の中だけで謝罪する。
高確率で先程の考えが起きてしまうとナリタタイシンは思っていたが、今だけはその考えに蓋をした。
全部終わったら、謝りにこよう。
ナリタタイシンはそう決め、レースに集中する。
しかし集中しきれていないのか、心音が大きく聞こえる気がした。
(くそ、悩むのは後にしろ、アタシ!)
「スタート!!」
「っ!」
中森トレーナーが合図する。
ウルサメトゥスは綺麗にスタートしたが、ナリタタイシンはシニア級とは思えないほどの無様なスタートだった。
「くっ」
すぐに加速し、ウルサメトゥスに追いつく。上手くスタートを切れなかったことに多少
勢いのままウルサメトゥスの横を抜ける。その時、一瞬彼女の表情が垣間見えた。
その目は見開かれ、真っ赤な口内が見える口は、大きく弧を描いていた。
先程尊敬の目でナリタタイシンを見ていたウマ娘と同一人物とはとても思えない、狂気を孕んだ顔。
そして、それに一瞬怯んだナリタタイシンの耳元で囁いた。
────動揺しましたね?
その瞬間。
ナリタタイシンの視界は昼の太陽が照らすターフから一転し、真っ暗な闇に包まれた。
(『領域』か!)
視界すら奪うほどの異常。
そんなもの、ナリタタイシンは『領域』以外知らない。
一変した風景に、ナリタタイシンは最大限警戒する。
(ハヤヒデのときは、アタシは盤上の駒になるような感覚を覚えた。これもその類か? なら、すぐに終わる…?)
全ての『領域』がそうなのかは知らない。しかし、ビワハヤヒデの『領域』しか知らないナリタタイシンはそう予想した。そして、その予想は一部正しかった。すぐに終わったのだ。
何も起こらない時間が。
「え」
突然、ナリタタイシンの後ろに何かが出現した。
そして、背筋が凍るような感覚を覚える。
「いや」
レース中に後ろのウマ娘がプレッシャーをかけてきたときに僅かに似ている。
しかし、それとは比べ物にならないほどの、圧。
ナリタタイシンはこれまでのウマ生で感じたことのない
「あああああああああああああ!?!?!?!?」
死に物狂いで走る、走る、走る!
そうでもしないと殺されてしまう!
後ろに迫る何かが、重い足音をたてて猛追する何かが、恐ろしい唸り声を上げる何かが!!
自分を食い殺すために追いかけてきている!!
もはやナリタタイシンの脳内にこれが『領域』の効果だの、ウルサメトゥスとレースをしているだの、そんな些細なことを考えている余裕は一切なかった。
後のことは考えず、ただこの場を生き残るために、全身全霊で走っていた。
ナリタタイシンにとって不幸だったのは、ビワハヤヒデの『領域』を2度受け、『領域』を感じ取る力が強くなっていたことだった。
もしこの『領域』が初めての『領域』だったのなら、ここまで強い効果を受けることはなかった。
そしてもう一つ不幸があった。
それは、
使う本人も無自覚のうちに強化されてしまった『領域』が、本来なら周囲にいる多数のウマ娘に同時に効果を発揮するソレが、ナリタタイシンただ1人に対して文字通り牙を剥いていた。
「うわあああああああああ!?!?」
恐怖のあまり、ナリタタイシンの目には涙が浮かび、視界がにじむ。
助けを求めるため、または意味もなく叫ぶ。
普通ならこの異常に気づいた周囲の人間が、レースを止めるだろう。
しかし、そうはならなかった。
なぜならここは『領域』、具現化された心象の内部。それも、以前よりも強まってしまっている。
結果として、外から見たナリタタイシンは一言も発さず、ただ顔色だけが変化して、非常に早いペースでターフを走っていた。
一体どれだけの時間走り、叫んだのか。
既にナリタタイシンの体力は擦り切れ、声も枯れていた。
「いやあぁぁ…助けて、トレーナー…ハヤヒデ…チケット…」
自分はここで死ぬのかもしれない。
一向に距離が離れない後ろの気配に、ナリタタイシンが生を諦めかけたそのときだった。
急に視界が開ける。
暗闇が消え、空に色が戻る。
後ろにいたはずの恐ろしい怪物の気配も消えていた。
そして唐突に、ナリタタイシンは自分の置かれた状況を思い出した。
(そうだ、模擬レース中だった!!)
永遠にも思えたあの空間で過ごした時間は、僅か1分半ほど。
残り距離は500m。
ナリタタイシンは知らないが、それはとある赤毛のウマ娘が初めてウルサメトゥスの『領域』を受けたときの状況に酷似していた。
違うのは、ナニカの影響で『領域』の効果が高くなっていたこと。
「なんか、ごめんなさい…先に分かっていたら威力を落としたのですが」
そしてそれを明確に感じ取っていた元凶のウマ娘は、非常に申し訳なさそうな表情でナリタタイシンを抜き去っていった。
「待て…!?」
当然ナリタタイシンはそれを追おうとする。
しかし、『領域』によるスタミナの減少か、それとも心があのバケモノに屈してしまったからか。
「あっ…」
ナリタタイシンに、ラストスパートする力は残っていなかった。
3バ身半。
それがナリタタイシンとウルサメトゥスの着差だった。
「本当にごめんなさい!!」
「ああうん、いいよ…」
目の前で90°に腰を折るウマ娘が本当に先程の凶悪な『領域』を使ってきたのかと、ナリタタイシンは信じられない気持ちでいた。
曰く、いつも通りの出力で使ったつもりが、一段階強い出力になってしまったとのこと。
(???)
ナリタタイシンは、そもそも『領域』に出力とかあるのかとか、あの強烈な殺気の正体はなんだったのかとか、様々な疑問に襲われていた。
(よく分からないけど…踏み台にするどころか、油断したらこっちが再起不能にされそうだってことは分かった)
改めて気を引き締める。
その上で、ウルサメトゥスの『領域』について考えた。
「アンタの『領域』は、他のウマ娘を恐怖させることでかからせ、スタミナを削る。これで合ってる?」
「はい。あの威力の『領域』の中しっかり効果を見破るなんて…さすがですね」
「まぁ…状況証拠というか」
普通に2000m走っただけでは、ナリタタイシンのスタミナが切れることはありえない。それはナリタタイシンの持つ高い身体能力もさることながら、独自の走法がスタミナを保つことを可能にしていた。
にも関わらず最後に脚が残っていなかったということは、冷静さを強制的に失わせ、独自の走法を使えなくさせられていたということに他ならない。
「恐ろしい『領域』だよホント。けど、種が割れれば構えることくらいはできる。次もこう上手くいくとは思わないでよね」
結局はビワハヤヒデの『領域』と同じ、慣れればいいのだとナリタタイシンは考えた。
「はい、さっきので出力は掴みましたので、次はいつも通りの出力で行けそうです。…次も出力が上がってたら今度は洒落にならないですし」
「? よく分かんないけど、時間は有限なんだからさ。さっさとやろうよ」
「はい! あ、タイシン先輩」
「何?」
「次は中盤から使いますね」
「なに、タイミングまで自在なの? まぁいいよ。教えてくれるんなら今度は怖くないね。アタシにハンデなんてつけたこと、後悔させてあげるんだから!」
後輩に気を使われ、ナリタタイシンは気色ばむ。
今度は思い通りにはさせない。
強い意志を胸に、ナリタタイシンは練習用コースに向かった。
その意志が無惨にも散ったのは、僅か二分後のことだった。
今回は時間がなかったので色々荒いし修正するかも。
と言いつつも修正したこと一回しかないんですけどね笑
あとナリタタイシン持ってないから描写が難しい…