ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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ついに感想が500件!いつもありがとうございます!!

感想はしっかり見てます。そのうち返すのでいつも通り気長に待ってください。

今回は連続幕間となってしまいましたが、ブライアンサイドのお話。

主人公が打倒ブライアンを目指す中、当のブライアンは何を思っているのか。

ではどうぞ。


幕間:怪物の気持ち

 

 

 

 皐月賞直後のインタビューにて

 

 

 ウイニングライブが終わり、勝者インタビューの場には数多の記者が集まっていた。

 壇上に姿を現したのは、今期のクラシック路線で早くも最強だと噂されているウマ娘であり、その大方の予想通りに皐月賞を優勝したナリタブライアンだ。

 

 記者の視線やシャッター音に全く臆することなく堂々と仁王立ちし、ナリタブライアンはインタビューの開始を静かに待っていた。

 少しして写真を一通り撮り終えたのか、記者たちのざわつきが少し納まる。そのタイミングを見逃さず、司会がインタビューを開始した。

 

「まず、この度は、皐月賞優勝おめでとうございます!!」

 

「…ああ」

 

 司会の賛辞に、呟くように返答が一つ。

 その様に、記者の間で動揺が起こる。ナリタブライアンの態度はあまりに淡白で──まさに、『勝って当然』と思わせるようなものだったからだ。

 クラシックG1の一冠目、栄誉ある皐月賞を制したにも関わらず平然としている。記者たちの多くは、そこに強者の余裕を見た。

 

 一方で、一部の記者たちはナリタブライアンがどこか心ここに在らず、といった風に感じられた。あのシンボリルドルフですら、皐月賞を制した際にはもう少し興奮していた。それが、ナリタブライアンには情動が無さすぎる。

 

「それでは質問をどうぞ」

 

 司会の言葉を皮切りに、記者たちの手が一斉に挙がる。パッと見ただけで30人はいるであろう質問者に、司会は目に見えた範囲で速かった順に当てていく。

 

「皐月賞を勝利された今、ご気分はいかがですか?」

 

「気分は良い」

 

「今回のレースを振り返り、反省点などはございますか?」

 

「…そうだな。想定外の出来事に対し、もう少し心構えが出来ていたら良かったかもしれない」

 

「次走はやはり日本ダービーでしょうか?!」

 

「ああ。ダービーを予定している」

 

 次々と質問が飛び、それに対しナリタブライアンは淡々と、簡潔に応えた。

 一度質問した記者も再び手を挙げていく。集まった記者の半数ほどが質問したが、内容が被ることはない。記者たちがどれだけナリタブライアンに注目し、事前に質問を考えていたかがそれだけで分かる。

 

「事前のインタビューでは、『全員ブッちぎって勝つ』と仰られていましたが、目標は達成できましたか?」

 

 その質問がされたとき、そこまで全く表情を動かしていなかったナリタブライアンの眉がピクリと動く。

 そして正面で固定されていた顔が記者の方を向いて、面倒そうに言った。

 

「…逆に聞くが」

 

「なんでしょう?」

 

「アンタは、今回私がその言葉を達成したと思ったのか?」

 

 形容し難い圧力が降りかかる。対峙している記者には、『そんなことも分からないのか?』と言葉裏に聞かれているように感じた。

 

「違うのですか?」

 

 記者の回答に、静かな溜息が一つ。ナリタブライアンのものだ。

 

「…少なくとも、私にとってはな」

 

 そしてナリタブライアンは酷くつまらなさそうにそう言い、それきり会話を打ち切ってしまった。

 記者は追加の質問をしようとしたが、ナリタブライアンはそれ以降、質問をした記者に反応しなくなった。

 会場の雰囲気が若干悪くなる。

 それを素早く察した司会は、これ以上の雰囲気の悪化を防ぐため、かなり時間を使っていることを理由に質問を変えた。

 

「で、ではここで最後の質問とします! 僭越ながら私から。ナリタブライアンさん、次走に向けて一言お願いいたします!」

 

 強引な幕引きだったが、会場から不満の声が上がることはなかった。そこにいた記者たちの殆どが、今回のレースでナリタブライアンは前言通り完勝したと思っていたからだ。そしてたった今当人によってその前提条件が覆された。

 これ以上ナリタブライアンに質問することは、ナリタブライアンの機嫌を著しく損なう危険性がある。それを避けたい記者たちは、一度時間を置こうと考えたのだ。競合しているはずの者たちが奇妙な内心の一致を見せたことにより、束の間、場が平静状態になったように見えた。

 

「一言か」

 

 ナリタブライアンの考え込む素振りに、記者たちはメモを片手にしんと静まり返る。

 十秒、二十秒と時間が過ぎる。そこまで長い時間ではないはずが、緊張状態にある記者たちには酷く長く感じられた。

 そして一分ほど間が空き、ナリタブライアンはようやく口を開いた。

 

「今回のレースは、これまでになく滾るレースだった。だから、次回も楽しみにしている」

 

 それだけ言い放ち、ナリタブライアンはさっさと壇上から降りた。そのまま自身のトレーナーを連れてインタビュー会場を出て行った。

 主役の消えた会場は静寂から一転して俄かに色めき立ち、記者たちは記事を書くために得られた言葉から更なる情報を書き連ねていった。

 

 

 ──────────────────────

 

 皐月賞からひと月ほど経ち、ナリタブライアンは今日も今日とて日本ダービーに向けてトレーニングしていた。

 そこに、ナリタブライアンのトレーナーがスポーツドリンクとタオルを持って駆け寄ってくる。

 

「不機嫌そうだね、ブライアン」

 

 ナリタブライアンは自身のトレーナーの声に反応し、筋トレを止めて振り向く。

 もう三時間はトレーニングをしているというのに、その顔にさほど疲労は見られない。しかし、ナリタブライアンをよく知らない人が見ればいつも通りに見える表情も、担当トレーナーである花咲にはナリタブライアンが不機嫌だということがよく分かった。

 

「そうかもな」

 

 ナリタブライアンは少し曖昧に返す。しかしそもそも、なんともないのなら担当トレーナーに声をかけられたところでトレーニングを中断することはない。トレーニングしながら会話しているはずだ。

 花咲からすれば、声に反応して練習を中断した時点で、掛けられた言葉を肯定しているも同然だった。

 

「今日これからやるインタビューが原因かな?」

 

「それ以外にないだろう」

 

 今期未だに負け知らずのナリタブライアン。その圧倒的な強さに、既に『怪物』というあだ名が付けられており、クラシック路線を走るウマ娘の中で最も注目を集めていた。

 それ故に、次走である日本ダービーに向けた会見の予定がトレセン学園側から組まれた。ナリタブライアン自身、面倒だとは思いつつも避けることができない。その合同インタビューが行われるのが今日の夕方であり、トレーニングする時間が潰されたナリタブライアンとしては面白くない。

 しかしインタビューは、例年最も注目されているウマ娘にトレセン学園が予定を組む。昨年のこの時期には皐月賞を制したナリタタイシンが同じようにインタビューされていた。だから、ナリタブライアンとしてもインタビューされることに関しては仕方がないと思っている。

 つまるところ不機嫌なのは、インタビューがあるというだけが原因ではなかった。

 

「それ自体は仕方がない、が。どうしようもない奴らをまた相手にするのは億劫だというだけだ」

 

「…もう少しオブラートに包んで、と言いたいところだけど、今回に関しては俺も同意見かな。あの皐月賞を見て、ブライアンが他をブッちぎって完勝した、なんて言葉が出るような記者たちじゃなあ」

 

 花咲はナリタブライアンに同意する。

 当時のやりとりを思い出したのか、ナリタブライアンの眉間に皺が寄り、明確に不機嫌そうな表情となった。それを揉みほぐしながら、ナリタブライアンはため息をつく。

 そのあからさまな顔を見て花咲は苦笑する。

 

「あの時、ウルサメトゥスがバランスを崩さなければ、少なくとも後1バ身は距離を詰められていただろう。勝敗がどうなっていたかは分からないけど、もっとギリギリの差になっていたはずだ」

 

「ああ。だが、あれだけの人数の記者がいて、それに言及したのはただの一人もいなかった。質問をしたのはあの記者だけだが、反対意見が出なかった時点であそこにいた全員が同じようなことを思っていた、ということだろう。もし違う意見を持っていたとしても、はっきりと口に出せるほどの確証はなかった、と言ったところか。…そんな奴ら相手に話すことなんて、な」

 

 ナリタブライアンは、端的に言って記者たちに失望していた。圧倒的な力を持ち、姉であるビワハヤヒデが「才能の塊」とまで賞したナリタブライアン。それにあと一歩のところまで迫ったウルサメトゥスに関する言及がないだけで、あの場にいた記者集団を見限る理由としては十分だった。

 

 ナリタブライアンは皐月賞の走りを思い出す。

 

 これまでにない充足感だった。

 常に飢え、焦がれていた心が、あの一時だけは満たされていたのだ。

 

 獰猛な殺気、物理的な圧力を伴っているかと思うようなプレッシャー、そして最後の幻覚。

 どれを取っても今まで経験したことのない感覚だった。一瞬でも気を抜けば即座に飲み込まれてしまうような緊張感が最後の最後まで続いていた。

 

 そして、それらを打ち破って優勝した時、ナリタブライアンはこれまでのレースが全てお遊びだったのではないかと思えるような満足感を得た。

 レース後のインタビューの際にぼうっとしていたのはその感覚を噛み締めていたからだった。

 

 その後に腹が立つ質問をされて冷めてしまったことも思い出し、ナリタブライアンはさらに機嫌が悪くなる。

 

「『次も楽しみにしている』って言ったのは、ウルサメトゥスに向けてだったか?」

 

「それ以外に何がある? 確かに、名家の連中も精鋭であることには間違い無いだろう。だが、それだけだ。精鋭というだけなら、私が勝つ」

 

 ナリタブライアンは無造作に、当たり前のことのように言う。傍から見ればそれは傲慢に見えるが、ナリタブライアンとしては事実を口に出したに過ぎない。

 名家のウマ娘たちは全員が全員優秀であり、身体能力も技術も一流だ。しかし、それはあくまで『クラシック級で』という注釈が付く。身体能力がクラシック級を超え、既にシニアの域にあるナリタブライアンにとっては有象無象も同然だった。それに加え、ナリタブライアンは身体能力だけの脳筋というわけではなく、レース技術も一流で、勝負勘も歴戦のウマ娘に引けを取らない。

 

「皐月賞も、本来なら私は宣言通り他のウマ娘をちぎって勝てたはずだ」

 

「そうだね。俺もそう思うよ。多分だけど、最低でも3バ身差はつけられていたと思う。なんなら三着のサルサステップには3バ身半差をつけていたし」

 

「あの『領域』でスタミナを削られていたとはいえ、削り切られていたわけでは無いからな。…最終直線での凌ぎ合いは、思い出すだけで熱くなる」

 

 スタミナが残っていたということは、最終直線で自分が遅くなっていたわけではなく、ウルサメトゥスが自分の身体能力に身体能力で対抗したということだ。

 後からそれに気づいたとき、ナリタブライアンは思わず口角を上げてしまった。

 

「随分褒めるね。そうだ、『領域』といえば、ビワハヤヒデに併走を頼んでみた?」

 

 花咲はふと、ウルサメトゥスの『領域』対策としてビワハヤヒデに協力してもらえないか、妹のナリタブライアンから打診するように言ったことを思い出した。

 ウルサメトゥスは強力な『領域』を使ってくる。それに対抗するには、『領域』そのものに慣れることが一番早い。しかし、『領域』を使うウマ娘は──ウルサメトゥスを除けば──シニア級のごく一部にしかいない。いくらナリタブライアンがシニアでも通用する実力とはいえ、相手もシニア級だ。『領域』と引き換えに並走するほどのメリットは相手側には無い。

 しかし、ナリタブライアンの肉親であるビワハヤヒデならば、併走を受けてくれる可能性がある。なんだかんだ妹に甘いビワハヤヒデにナリタブライアンが自ずから頼めば或いは、と花咲は考えていた。

 

「ああ、そのことか。断られた」

 

「やっぱりダメか」

 

「姉貴も今は宝塚記念に向けて鍛え直したいそうだ」

 

 ナリタブライアンは、先日ビワハヤヒデに併走を頼んだ時のことを思い出す。

 天皇賞・春でナリタタイシンに敗北した彼女は、悔しそうにしながらも獰猛に笑っていた。

 

『すまないが、私も現役のウマ娘で、勝ちたい相手がいる。言い方は悪くなるが、今は格下(・・)との練習に時間を割いている場合ではないんだ』

 

 そう話す姉に、ナリタブライアンも不敵に笑って返した。

 昨年の秋以降、新たなトレーナーの元でナリタブライアンは強くなった。しかし、それを「格下」だと一蹴した姉に喜び、頼もしさすら覚えた。

 

(そうでなくてはな。このまま私が強くなれば、拍子抜けするほど簡単に姉貴を追い抜かしてしまうのでは無いかと考えたこともあったが…杞憂だった)

 

「そっちはどうだったんだ? 東条ハナに協力を打診したんだろう」

 

「こっちもダメだったよ。今のリギルに所属しているウマ娘で『領域』が使えるのはシンボリルドルフとマルゼンスキーだけど…どちらからも断られた」

 

 花咲は、『領域』の対策として真っ先にチームリギルのメイントレーナーである東条に相談した。そして、東条からは許可を貰えたものの、当ウマ娘たちに断られてしまったのだ。

 

「理由は?」

 

「シンボリルドルフは、『解答を与えられてばかりではつまらないだろう?』と。マルゼンスキーは、『お姉さんが『領域』まで使ったら心が折れちゃうかもしれないから…』だそうだ」

 

「ふん…。まぁいい。どちらにせよ、聞いた限りでは他のウマ娘の『領域』とアイツの『領域』は性質が違いすぎる。対策にはならないような気もするしな」

 

 チームからの援助は受けられなかったが、ナリタブライアンとしてはあの恐怖の『領域』に対し、他の『領域』を受けることが有効的な策であると考えていなかったため、そこまで頓着していなかった。

 強いて言えば、本気の強者たちと対戦できなかったことに対しては非常に残念に思っていた。

 

「まぁ『領域』について分かったこともある。能力としては、スタミナを削る能力と、最後に萎縮させる能力か」

 

「ああ。それと、発動タイミングも2パターンあるみたいだ。皐月のように中盤から発動するパターンと、弥生のように序盤から発動するパターンだ」

 

「何か違うのか?」

 

「情報が少なくてまだ確定では無いけど、萎縮は中盤から使うパターンでないとできないみたいだね。ほらこれ、ホープフルと皐月、そして弥生賞の映像だ。弥生ではウマ娘たちは萎縮してないだろう?」

 

 花咲が見せる映像では、確かにその通りのように見えた。それを前提とした上で、花咲は日本ダービーでウルサメトゥスが取るであろう戦法を予測する。

 

「多分だけど、ダービーでは最初から『領域』を使ってくると思う。皐月でキミと他のウマ娘で萎縮している時間を比べてみたけど、明らかにキミだけ復帰が早い。だから、ウルサメトゥスがキミを意識するなら最初から『領域』を使ってくるはずだ」

 

『領域』の発動条件とかは分からないから対策できないけどね、と花咲は言うが、ナリタブライアンにはその情報だけでも十分だった。

 

『勝たせてもらうよ! ナリタブライアン!』

 

 レース中、そう言ってきたあのウマ娘が自分を意識していないはずがない。ナリタブライアンはウルサメトゥスが自分をピンポイントで狙ってくるだろうと半ば確信していた。

 

「ならば、私はスタミナを重点的に鍛える。そうだな?」

 

「うん。明確な対策ができない以上それしかないね」

 

 それからしばらくの間、練習しながらああだこうだと日本ダービーについて話し合っていたが、花咲が腕時計を確認したことで唐突に会話が終わる。

 

「あ、ブライアン。あと一時間でインタビューの時間だ。今のうちに汗を流して着替えてきなさい」

 

「もうそんな時間か。面倒だな…」

 

「そこはしっかりしてね、キミも女の子なんだから」

 

「分かっている。身だしなみを整えないと姉貴に色々言われるしな」

 

 ナリタブライアンは踵を返してチームの部屋へと戻っていく。

 これから行われる不毛なインタビューを思ってか、花咲にはその背が心なしか煤けているように見えた。

 

 ナリタブライアンはシャワーを浴びて体を冷ましながら、小柄なウマ娘を想う。

 

(本当に、楽しみだ。次回のレースも期待しているぞ、ウルサメトゥス)

 

 冷たい水で体は冷やせたが、心の熱はしばらく冷めそうもなかった。

 

 

 

 

 

 なお、不毛なインタビューによりあっさり心の熱も冷めた。

 一時間を予定されていたインタビューは、ナリタブライアンが途中退席したことにより二十分で終了した。




あの、育成終わらないんですけど…
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