ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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いつも応援ありがとうございます。

投稿遅れてすみません。いや一応不定期ではあるんですが…
書いては消し、書いては消していたら投稿できなかったという。
いろいろ考えましたが、悩むのはやめてもう潔くダービーに入ることにしました。

というわけで投稿!睡眠時間はゴールにシュー!!

ではどうぞ。


日本ダービー(前編)

 

 

 

 パシャリ、と控えめにシャッター音が鳴る。

 日本ダービーを翌週末に控えた今日、同レースの現時点での人気上位3人が一堂に会する合同会見が行われていた。

 壇上の席の中央には、一番人気であるナリタブライアン。その左右に、二番、三番人気であるウルサメトゥスとサルサステップが並んでいる。

 まだ会見の開始前であるが、例年ならばこの時点でシャッター音が絶えない会見になっていた。今期クラシックの上位ウマ娘3人が集まっている場面など滅多になく、言うなれば会見中全てがシャッターチャンスだからだ。

 しかし、今年は違った。例年とは比較するまでもなく、異常なほど空気が重い。

 

 理由は幾つかある。

 

 まず、二番人気であるウルサメトゥスとメディアの折り合いが悪いこと。ホープフルステークスでの彼女に対する仕打ちは記憶に新しい。唯一味方した大手の月刊トゥインクルが裏で各社を牽制していることで、皐月賞で活躍した彼女への取材は未だにトゥインクル以外のどの雑誌も出来ていないし、話題に出すことすらできない。

 この会見はその謎の多い彼女に質問する良い機会でもあったのだが、折り合いの悪さがここで響いてくる。この会見が行われるにあたって彼女のトレーナーから『トゥインクル以外からの質問は受け付けない』という連絡が来たのだ。

 

 ただ、それだけならば力の強い各社が強引に質問することも視野に入れていた。所詮は新人トレーナーと一般家庭出身のウマ娘であり、何かあっても握り潰せると考える者も一部にはいた。

 

 しかし、そうできなかったのは三番人気であるサルサステップがこの場にいることだ。サルサステップはウルサメトゥスと同期、つまり勝ちを争うライバルだが、プライベートでは仲がいいことが彼女のSNSで確認されている。休日は一緒に出かけることもあるし、トレセン学園のカフェテリアで一緒に昼食を取ることもある。

 そんなサルサステップは四大名家のステップ家、それも本家のウマ娘である。ウルサメトゥスに対し強引な質問を行えばサルサステップの気分を害することは想像に難くない。元はと言えば名家が主導してウルサメトゥスを干した筈だが、いつの間にかいくつかの家はその干し上げから降りていた。ただ、メディアとの意思疎通が上手くいっていない家も多く、その点ではメディア各社も混乱していた。

 

 そして最大の理由が、一番人気のナリタブライアンだ。

 先日のインタビューでは二、三質問に答えた後、「皐月賞は完勝でしたね!」という褒め言葉が出た瞬間、ナリタブライアンは自身のトレーナーを引き摺って帰ってしまった。

 そして今日の会見でもナリタブライアンからは常にプレッシャーが放たれている。そして、彼女の視線は何故か隣にいるウルサメトゥスにずっと向けられていた。

 一言も発さずにじっとウルサメトゥスを見つめており、視線を向けられているウルサメトゥスは冷や汗をかいている。

 写真を撮ればナリタブライアンから物凄い睨みを効かされる。先程シャッターを切った者はその行動力と蛮勇を称えられ、後に各社から写真を売るように頼まれた。

 

 司会が会見を始めるまでにかかった時間は10分弱だったが、一部を除いた記者たちには永遠に感じられるほど長かった。

 

「で、では時間も限られていますし、会見を始めましょう!」

 

 司会の号令でようやく会見が始まった。ここまで来れば記者たちも重い空気に抗い表情を引き締める。司会の言うように今回の会見は時間がかなり短い。ウマ娘たちの練習時間に配慮し、たったの30分しか用意されていなかった。しかし、その僅かな時間すらも、ダービーに向けて必死に鍛えているウマ娘たちにとっては長い。30分は、ウマ娘たちがメディアに用意できる最大の時間だった。

 

 しかし、それすらも長いと思うウマ娘がいた。

 

「まずは各ウマ娘の皆さんに、今回のダービーに向けての抱負を────」

 

「いいか?」

 

 司会を遮り、ナリタブライアンが声を発する。その視線は変わらずウルサメトゥスの方を向いており、記者たちには一瞥もしない。

 司会が許可を出す、もしくは遮る前に、ナリタブライアンはそのまま続けた。

 

「まず、私からアンタら記者に話すことはない。意味もないだろうしな。…だが、言っておくべき事はある」

 

 常識的に考えて暴挙なのだが、この場の空気はナリタブライアンに支配されていた。誰も口を挟むことなどできず、また考えもしなかった。

 

「何を仕掛けてこようが、どんな策があろうが、私は正面から受けて立つ。だから全力で来い。そうでなければ面白くない。そして、その上で私が勝つ」

 

 ナリタブライアンは立ち上がる。立っても変わらずウルサメトゥスの方を向き、彼女に話しかけているのは誰の目にも明白だった。

 ナリタブライアンはそこまで大柄な方ではない。しかし、小さくはないし、普通のウマ娘には無い圧力があるため、ナリタブライアンは身長以上に大きく見える。

 そんなナリタブライアンと、元々小柄な上に座っているウルサメトゥスが並んでいると、大人と子供のように見えてしまう。

 しかし、ナリタブライアンがウルサメトゥスに向かって話し始めてからは、ウルサメトゥスは平静を取り戻しているように見えた。会見開始前に浮かべていた汗も今は無い。大の大人である記者たちが余波だけで身を竦めてしまうような圧力にも、ウルサメトゥスはどこ吹く風だった。

 ウルサメトゥスがナリタブライアンの言葉を全て聞いてから話し出す。

 

「元より全力で向かう所存です。皐月のように行くとは思わないでください。あの時よりも400m長いのです。ナリタブライアンさんにはこの意味が分かりますよね?」

 

「ああ」

 

「そこまで啖呵を切るからには、終了後のインタビューで『影に怯えて負けた』なんて情けない答えはしないでくださいね、ナリタブライアンさん」

 

「フッ…当然だ。熱いレースを期待しているぞ、ウルサメトゥス。今日はそれだけ言いに来た、もう帰る。それと…」

 

「なんです?」

 

「ブライアンでいい。さんも敬語も要らん」

 

 ナリタブライアンは展開について行けないメディアとサルサステップをそのまま置き去りにし、会見場を後にした。

 

「さて…」

 

 ウルサメトゥスが立ち上がり、記者たちを一瞥する。たったそれだけだったが、肉食獣に捕捉された餌のような、そんな悪寒がその場にいた者たちの背筋を襲った。

 

「主役であるナリタブライアンさんが帰ってしまいましたし、私もこの辺で失礼致します。…まぁ、どちらにせよ皆さんは私に質問することなど無いかもしれませんが」

 

 実際にはそんな事はないのだが、ウルサメトゥスから発せられる正体不明の存在感が記者たちの言葉を鈍らせる。

 

「質問よろしいですか!」

 

 しかしそんな中でも背筋を伸ばし、ビシッと手を挙げる記者が一人。真っ白なスーツを着た長髪の女性だ。

 

「月刊トゥインクルの乙名史です。聞きたいことはたくさんあるのですが、ここでは我慢して一つだけ! ダービーに向けて、一言お願い致します!!」

 

「一言ですか。そうですね」

 

 空気を読まないインタビュアーにも、ウルサメトゥスが気分を害した様子はない。そこからは確かな信頼関係が見てとれた。他の記者が羨ましく思うのは、その関係が喉から手が出る程欲しく、しかしもはや永遠に手に入る事はないものだからだろうか。

 

「皐月の焼き増しになってしまいますが、私が勝ちます。ナリタブライアンさんにも、サルサステップさんたち名家の方々にも」

 

 そう言い残し、ウルサメトゥスは会場を去った。言い方は努めて冷静だったが、乙名史記者はその言葉に込められた感情を正確に読み取り尊死した。

 

「えー、皆さん帰られてしまったので私も一言で終わりにしますね」

 

 サルサステップは若干気まずげにしながら席を立つ。それを咎める記者はいなかった。

 

「ナリタブライアンさんはどうやら一人しか見えていないようですが…私や、他の名家も自分たちを精鋭であると自負しています。足元が見えていないようなら、そこを掬って差し上げようと思います」

 

 サルサステップが一礼して会場を去り、これで主役であるウマ娘は全員退場してしまった。

 会見が始まってから僅か10分のことだった。

 

 記者たちは記事にどう書こうかと頭を抱えるのだった。

 

 

 ────────────────────────

 

「ん…」

 

 もぞり、と体を動かし、目覚ましを止める。確認してはいないが、おそらく6時の10分前くらいだろう。

 いつも通りの時間、そしてこれから朝のランニングに行く予定なのもいつも通りだ。

 一つ違うのは、今日が俺にとって、いや今期のクラシック戦線を走るウマ娘たちのとってとても重要な日であるということ。

 

 今日、日本ダービーが開催される。

 

 いつものルーティーンを崩さないのは、これから行われる本番レースでいつも通りの力を発揮するため。変にいつもと違うことをして調子が出なかったら洒落にならないからな。緊張はほどほど、戦意は高く、そして体はいつも通りに。

 てか、なんか暗い? もう5月になるし朝はそこそこ日が登るのが早い筈なんだが、雨でも降ってるんだろうか。それは『領域』に関わるから止めてほしい、昨日の天気予報は晴れだったんだが…

 

 そう思って目を薄く開ける。

 

 

 そこには俺の上にウマ乗りになったトーカちゃん先輩がいた。

 

 

「おはようウルちゃん」

 

 あーなるほど暗かったのはトーカちゃん先輩の顔が俺の目と鼻の先にあって光を遮ってたからねそういうことか…

 

 

「うわああああああああああああ!?!???!??」

 

 

 部屋が揺らぐほどの大音量の叫び声を上げた俺は悪くないと思うんだ。

 トーカちゃん先輩は小揺るぎもしてなかったけどな。

 

 

 

 

「勘弁してよ…」

 

「えへ、ウルちゃんの寝顔が可愛かったからつい…」

 

「ついじゃないよ」

 

 ダービーは午後、なので午前は少し体をほぐす程度に運動してからレース場に向かう。てか調子狂うところだったんだからトーカちゃん先輩はもう少し反省しなさい。

 

「私と一緒にヤってきた成果が今日ついに出ると思うといても立ってもいられなくて…」

 

「言い方ァ」

 

 とんでもない誤解が生まれそうな言い方をされたが、要は昨日までトーカちゃん先輩と併走練習してたってだけだ。いや格上のウマ娘と一緒に練習出来るのはこっちとしてはありがたいんだけれども。

 ただ、トーカちゃん先輩からしたらそんなに練習になったとも思えない。トーカちゃん先輩が直近で目標にしていたヴィクトリアマイルは1600mで、俺の目標であるダービーは2400m、距離が噛み合わない。他にも、『領域』を使ったとはいえ、トーカちゃん先輩は既に『領域』を使われることへの耐性は完全だ。なんなら俺の『領域』も中盤から使うパターンでなければもはや通用しない。

 先日は、

 

『なんで効かないの…』

 

『最初は怖かったんだけど、ウルちゃんが私に全意識を割いてくれてるって思ったら嬉しくなっちゃって』

 

『ええ…(困惑)』

 

 という一幕があった。

 俺が申し訳なさそうにしているのを察知したのか、トーカちゃん先輩が笑顔で頭を撫でてくる。

 

「大丈夫だよ、気にしなくて! 実際、私は大丈夫だったでしょ?」

 

「まぁ、そうなんだけどさ」

 

 そう、なんとこの先輩、俺のダービーの練習に付き合っていたというのに先日行われたヴィクトリアマイルでは二着に5バ身半差をつけて圧勝した。ヤバい(確信)

 これでトーカちゃん先輩はG1を5勝した。世代最強じゃんもう…中距離マイルでトーカちゃん先輩に勝てるウマ娘いんの? 

 

「? どうしたの、遠い目して」

 

「いや、私がトーカちゃん先輩に並ぶ日は来るのかなぁと…」

 

「すぐに来るよ! だって私のウルちゃんだもん!」

 

 トーカちゃん先輩からの評価が異常に高い。そして俺はあなたのものじゃないからね? 

 

 そうしてトーカちゃん先輩と一緒に長い時間軽い運動をしてウォーミングアップを済ませる。これで準備完了だ。

 見計らったかのように中森トレーナーが来る。暮林トレーナーも一緒だ。

 

「メトゥス、準備はいいね? そろそろ移動しよう」

 

「分かりました。トーカちゃん先輩たちも一緒に移動ですか?」

 

「ああ、応援に来てくれるみたいだからね。キミも心細くなくていいだろう?」

 

 緊張をほぐすためか、トレーナーが揶揄ってくる。心配しなくても過度に緊張はしてないよ。

 

「そうですね。行きましょう」

 

 

 皐月から今日まで、2ヶ月もなかったが濃い毎日だった。

 

 練習はそれまで以上に厳しくなり、俺の肉体が悲鳴を上げるほど。トレーナーの適切なマッサージと練習量の見極めがなきゃ、どこかで怪我していただろう。

 カフェと出会い、後ろのやべーやつと話をつけて? 貰ったりもした。カフェの話では魂の侵食とかは今のところ起きてないらしいが、本当に大丈夫なんかこれ。いや現状使わない選択肢はないんだが…俺もどこかで一回こいつと腰を据えて話さなきゃダメかもな。

 そしてタイシン先輩やトーカちゃん先輩との併走練習。いろんな技術を習得し、タイシン先輩には練習機材の提供までして貰った。もう先輩方には世話になりすぎて足を向けて寝られない。でもトーカちゃん先輩は俺のベッドに潜り込んでくるのは止めてね。

 

 出来る事はやった、と思う。

 

 それでも不安になる事はある。

 これでもブライアンに届かなかったら? 今以上に練習を増やす事はできない。これ以上は俺の体が壊れてしまう。『領域』を強化しようにも、危険だしそもそもいつ俺に牙を剥くのか分からない。シニアが近くなってくれば、もう先輩方も力を貸してくれないかもしれない。

 そんな不安たちが俺の心に暗い影を落とすことは何度もあった。でも。

 

「行くよ、メトゥス」

 

「行こう、ウルちゃん!」

 

 でも、俺には先導してくれる(トレーナー)がいる。励ましてくれる友達(トーカちゃん先輩)がいる。

 

「あ、電話鳴ってるよ?」

 

『ウル! 東京レース場に着いたぞ! お前の出番はまだか!?』

 

『あなた、ウルちゃんの出番は午後よ』

 

『何ィ?! 待ちきれんぞ!!』

 

 応援してくれる両親(おや)がいる。

 

「ふふ…」

 

『どうした?! 面白いことでもあったか!!?』

 

「いや、なんでもないよ。それより、今日は勝つから。一番良い席のチケット渡したんだし、しっかり応援してよね」

 

『任せなさい!』

 

 だから、勝って報いたいと思うし、何度負けても立ち上がって見せよう。

 

 

 ブライアン、首を洗って待っているといい。

 その綺麗になった怪物の首、今日こそ俺が食い破ってやる。

 

 




チャンミはB決勝で1位でした。キタサン最強!
そしてロブロイ来てあーブライアンの新衣装もヘリオスも来なかったかーじゃあ安心してサポカ回せるなーと天井したら

このタイミングでブライアン新衣装(しかも超かっこいい)

ええい、回さずにいられるか!私は回すぞ!
幸い50連で来てくれました。ありがとうブライアン。次の長距離チャンミで使うね。
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