ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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応援ありがとうございます。

後編…ではなく中編です。続けて書こうとしたら多分書き切れそうもなかったので。

ではどうぞ。


日本ダービー(中編)

 

 

 

「調子はどうだい?」

 

「聞かれるまでもなく最高ですよ、トレーナー」

 

 

 

「そんなに嬉しいのか?」

 

「ああ。奴との鍔迫り合いを想うと心が期待で震える」

 

 

 

 大歓声が迎える中、ウマ娘たちの一生に一度の戦いが始まった。

 

 

 ────────────────────

 

 天気は快晴、気温は25℃。良バ場。

 文句なしのコンディションだ。

 それは俺にとっても、他のウマ娘たちにとっても、だ。

 

『大歓声が東京レース場に響き渡ります。これから開催されますは日本ダービー、その名を知らない人など存在しないと断言できる大一番です。レースに対する期待の現れでしょう。客席は満員御礼、レース場の外にも大勢のお客さんが集まっております』

 

 実況の言う通り、客席は人で一杯だ。俺の応援に来てくれている両親やトレーナー、トーカちゃん先輩たちは固まってるはずだが…どこにいるか分からんな。

 俺自身の調子は最高だ。練習で出来ないことは本番でも出来ないなんて言うが、今日の俺なら今まで出来なかったことでも出来そうなくらいだ。やらんと思うが。

 

『そろそろ今日出走するウマ娘たちの紹介に移りましょう。まずは3番人気、4枠7番サルサステップ。表情がキリッとしていて、気迫に溢れています。調子は良さそうですね。前走の皐月賞では3着と好走したウマ娘です』

 

『素晴らしい脚技を見せてくれるウマ娘です。四大名家の一角ステップ家のウマ娘でもあり、確かな実力があります。今日のレースでも見惚れるような足捌きに期待できます』

 

 3番人気はサルサステップちゃんだ。ダービーのトライアルである青葉賞とプリンシパルステークスでは、優先出場権は四大名家の残りのメンツが埋めた。流石に譲れないといったところか。でも皐月で3着になったサルサステップちゃんが3番人気なあたり、四大名家の中でも期待されているのだと思う。

 

『続いて2番人気、2枠4番ウルサメトゥス。今日出走しているウマ娘の中で唯一、一般家庭出身のウマ娘です。しかしその実力は名家に劣るものではなく、皐月賞で二着だったことからもその力が伺えます』

 

『皐月賞トライアルの弥生賞までは知る人ぞ知る、と言う立ち位置にいたウマ娘です。ジュニア級のG1であるホープフルSを制していながらあまり知られていないウマ娘でしたが、先日の弥生、皐月で大きく知名度を上げました。最後方からの追込には目を見張るものがあります』

 

 おおう…俺の紹介だったが、なんか前よりも長かったな。めっちゃ持ち上げてくれるじゃん。確かに実力で劣ってるつもりもないけどね。練習で忙しくて最近公式ホームページ見てなかったけど、もしかして結構ファン人数増えてる? 

 観客席に手を振る。

 凄い歓声が返ってきた。うーん、これを機にSNS再開するか…? いややっぱ怖いからやめよ。

 

『そして皆様お待ちかね、1番人気、6枠11番ナリタブライアン』

 

 うおっ?! 

 思わずウマ耳を伏せるほどの大歓声。あ、ブライアンはちょっと迷惑そうな顔してる。贅沢な奴め。

 

『クラシックに入ってから未だ無敗。G1も朝日杯、皐月賞と制してきました。他の追随を許さない圧倒的なスピード、パワー。深く沈み込むような姿勢から繰り出される爆発的な加速に魅せられたという方も多いのではないでしょうか』

 

『本日も大本命のウマ娘です。先行という王道の脚質ですが、それを思わせない派手さがあり、人気にも繋がっています。皐月賞では一度抜かされてから再度差し返すというバイタリティも見せ、今回の日本ダービーを含め既にクラシック三冠を期待されているウマ娘です』

 

 そうだね、実際に三冠したからね()

 でも、この世界ではそうはいかない。なんせ、今日は俺が勝つからな。

 乙名史記者が調べた情報によると、ブライアンとそのトレーナーは俺の領域の効果を解析してスタミナを重点的に鍛えたらしいが…まぁ、俺のやることは変わらん。最初から『領域』を仕掛ける。トレーナーと相談して決めたんだ、間違ってるって事はないはずだ。

 効かなかったら? その時は実力勝負だ。

 

 さてウマ娘たちは全員ゲートイン。

 今回は事前に決めていた通り、中距離で最も距離が長い2400mということを活かして最初から『領域』を使う。相手、特にブライアンのスタミナ切れを狙う戦法だ。何故かは分からんがブライアンは『領域』のスタミナを削る方の効果が良く効くみたいだしな。

 で、最初から『領域』を使うときは毎回やっていることだが、心音を大きくする。死因を心に思い浮かべれば、エンジン起動ってな。ほら聞こえるだろう? 俺もうるさいと思ってるからおあいこってことで許してくれ。

 ただ、相手に心音を聞かせることで自分の心音と勘違いさせるこの方法だが、残念ながら効かない相手には効かない。実際、弥生賞でも何人かのウマ娘には効いてなかったしな。最大の標的であるブライアンに効かない可能性も十分に考えられる。

 

 だがその心配は既に過去のものだ。俺はタイシン先輩との練習で新たな可能性を手にした。

 

 さぁ集中しろ。いつも以上に。

 このスタートで、今日のレース結果が全て変わると言っても過言じゃない。

 

『各ウマ娘、準備が整いました』

 

 いつでもいいぞ。早く、開け。早く、早く──

 

 ガタ

 

 飛び出せ!! 

 

『スタートしました!! 素晴らしいスタートを見せたのは4番ウルサメトゥス! おっと、複数のウマ娘が出遅れてしまっています!』

 

 おっと、引っかかった娘たちはドンマイ。もうキミたちに逃れる術はないよ。

 そして、綺麗にスタートを切れて動揺していない皆様にも、俺からプレゼントだ。

 

 目を見開いて瞬きを止める。

 感覚を研ぎ澄ませ。

 耳を、尻尾を、前まで無かったということを理解している俺なら、他のウマ娘たち以上に新たな感覚器官を有効利用することが出来る筈だ。

 トーカちゃん先輩は練習の中で言っていた。何かを探すときは、一部を見つけるのではなく、全体を見て違和感を感じるのだと。

 思いだせ、あの仮想現実の中の感覚を、瞬時に違和感を感じる術を…

 

 カチリ、と切り替わる。

 

 視界に映るものがスローモーションに、そして鮮明になる。1秒が10秒に、1mが10mに感じられる。画素数の少ないカメラからいきなり超高画質の映像に変わったような感覚だ。

 あまりの情報量の多さに、短時間の使用すらも覚束ないこの状態、しかし効果は絶大だ。欲しい情報、薄い(・・)場所を見つけるのなんて訳もない。

 

 

 …見つけた、20m先、踏む足は右! 

 

 今だ!!! 

 

 

『…? 何か音がしたような、気のせいでしょうか』

 

『マイクが何か音を拾いましたかね? 大変失礼しました。解説に戻ります』

 

 轟音は離れた実況席でも聞こえてしまったようだ。ビックリさせてすまんな、これぞ猫騙しならぬウマ騙し。タイシン先輩がウマレーターを使わせてくれたことで出来るようになった技だ。

 極限の集中により感覚を鋭くし、ターフの薄いところを瞬時に判断して最大パワーで蹴りつける。やってることはそれだけだが、これがバカにならない効果を生み出す。

 ウマ娘のウマ耳は敏感だ。それこそ、ボソッと呟いた独り言を、10m先のウマ娘が拾ってしまうくらいには。

 ではスタート直後で距離がそう開いていない中、雷のような轟音が聞こえたら? 

 シニアトップクラスのタイシン先輩にすら攻略できなかった贅沢な猫騙しの完成だ。

 

 もういいか? じゃあ、俺の世界にまとめてご招待だ。

 いらっしゃい、そして、御愁傷様だ。そこに例外はない。例えブライアンであっても、だ。

 

『先頭が最初のコーナーを回りますが…加速し続けているように見えますね?』

 

『ええ、ちょっと掛かってしまっているのか…いや、これと同じ光景を弥生賞で見たような気がしますね。あの時も、距離を進めているのに脚を貯めようとしない展開だったような…』

 

 解説さん、鋭いね。他のウマ娘たちも、初見はともかく、殆どはもう既に俺の『領域』に呑み込まれたことに気づいただろう。視界が暗いんじゃないか? 

 でも残念、気づいたくらいで逃れられるなら『領域』なんて大層な言葉は使われないんだな。まぁこれはタイシン先輩とかカフェのおともだち情報なんだが。

 

 まだまだ、ここから更に詰めさせてもらう。

 

 俺の位置は現在最後方、まぁいつものことだな。で、前にいるのはこれまたいつものメンツ、オイシイパルフェちゃんにアクアラグーンちゃんと…後は知らない娘だな。大丈夫? 俺の被害者の会とか作られてない? 

 前に行くように圧力をかける。タイシン先輩直伝の、真に迫るプレッシャーだ。新しい技だけじゃない、元からやってたことだって、さらにレベルアップさせて今日に臨んでるんだ。そう簡単に逃れられると思うなよ。

 

「ぐっ」

 

 お、今日初めて見た知らない娘はこれで前に行ってくれた。この調子で他の娘も詰めてくれるといいんだが…そうもいかないか。オイシイパルフェちゃんとアクアラグーンちゃんはもう何回も対戦してるだけあって、なかなか前に出てくれない。なら他のアプローチだ。

 

「ほら、前に行かないと間に合わなくなってしまいますよ」

 

「っ!」

 

 耳元で囁いてやる。こういう言い方はアレだが、キミ、耳元でなんか言われると気が散るタイプだろ? オイシイパルフェちゃん。

 他にも二、三言呟いてやると前に出てしまう。これでさらに一人。

 で、残るはアクアラグーンちゃんだが。

 

「その手には乗らない…! あなたが最後方から出てこないのは、追われたくないからでしょう? 前に出たいなら、勝手に出ればいい!」

 

「…ふぅん」

 

 そう。まぁ、確かに俺は今まで一度として前に出なかったし、苦手だってのも間違っちゃいない。追われるとトラウマを思い出して集中できなくなってたからな。

 だが、いつまで経っても追われる側ができないなんて思うなよ? 

 

 タイシン先輩との併走が終わってからずっと、今度はトーカちゃん先輩との併走をやってた訳だが…

 

「なら、前に出させていただきますが」

 

「!?」

 

 その時に主にやっていたのは、追われる練習だ。

 トーカちゃん先輩は先行のウマ娘で、追う側も追われる側も慣れている。両方のスペシャリストと言ってもいいくらいの熟練度だ。

 トーカちゃん先輩は自分の練習を放り出して俺に付き合ってくれてた。本当に頭が上がらない。まぁ結局練習に関係なくヴィクトリアマイルは獲ってしまったが…それはともかく。

 

 そんな高レベルの指導を受けたんだ。今更クラシックレベルの追い技術で2400m追われたところで、集中力は切れないんだよ。

 

「それで…私に一度抜かされておいて、もう一度抜き返せると思わないことです」

 

「なに?」

 

 そしてこっちは教わったわけではないが、あれだけ近くで何回も見せられたんだ。劣化は激しいが、その真似事くらいは出来るようになるさ。

 

「脚が…?!」

 

 まだトーカちゃん先輩のようなクオリティも持続時間もないが、普通の走法に織り交ぜるだけで効果抜群だろ? 

 まぁ練習では追われる側だとギリギリ2400m走れるくらいなんだが…今日は調子良いし行けそうな気はする。

 

 さて、これで一人脱落だ。レースはまだ序盤、今はとにかく距離を詰めてブライアンを仕留められる範囲に収めよう。

 

 

 

 

『先頭が残り1000mの標識を通過しました! レースは後半戦へ、依然ハイペースの展開が続いていますが、ウマ娘たちはスタミナが持つのでしょうか?!』

 

『先程通過した1200m地点のタイムは1.12.1。日本ダービーの平均ラップタイムが1.13.3あたりであることを考えると凄まじいペースだということが分かります』

 

 残りは1000m。

 そろそろスパートをかけるタイミングを考え始める距離だ。

 俺の現在位置は…先行集団の手前。差し集団のトップだ。他のウマ娘たちを急かし、時には追い抜き、時には抜かれ、前から後ろから脚技で妨害を重ね…としていった結果今の位置まで進出してしまった。

 時折あの化け物の影が頭をチラつくが…大丈夫、まだ集中力は持つ。そして何より、今集中力を切らすわけにはいかない。

 先行集団の一番後ろ。つまり俺の前にいるウマ娘は。

 

 ブライアンだ。

 

 手が届く位置にブライアンがいる。

 コーナーで覗いたブライアンの顔はいつになく苦しそうだった。つまりは、俺の『領域』が効いているということだ。

 いける。抜かせ。

 そう逸る心を抑え、冷静にレースを進める。

 

 まだだ、まだ。今仕掛けても俺の方が先にバテる。

 機を見極めるんだ。だが、そう遠くない。

 

 残り900m。

 

 踏む足を強める。少しずつギアを上げろ! 

 だがまだ最大加速はしない、『領域』を維持したまま、できる限りでいい。

 ブライアンのスタミナを限界まで削る。

 

 大丈夫だ、その証拠にほら、ブライアンは反応できていない! 

 

 速度を上げられないブライアンと、その前にいたウマ娘をまとめて抜く。

 そこでブライアンは漸く俺の存在に気づいたようだった。だが、もう遅い! 

 

 残り800m。

 ブライアンの足音が強くなる。加速し始めたか? 

 いや、このまま押し切る! 

 緩い加速じゃダメだ、ここで最大パワーに切り替えろ!

 

 俺が完全にギアを切り替え、『領域』を切る…その時だった。

 

 

 ウマ生で鍛えられたレース感が、生存本能が、悪寒が。

 その全てが、俺の脳内で全力の警鐘を鳴らす。

 

 

 

 ビシリ

 

 

 

 真っ暗な空間に、真っ白なヒビが入った。

 

 

 




次で日本ダービーは終わりです(多分)

良いお年を!
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