ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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昨日帰ってきて見たらお気に入りが爆増していて仰天しました。

どうやらランキングにも乗っていたようで、ちょっと理解が追いついていないです。
本当にありがとうございます。

評価もとても励みになります。

そしてまた急造したのでどうぞ。書き溜めなど、できていないのです…


潜む影

 

 ウマ娘たちが揃って出遅れるという異常事態から始まったレース。

 

 普通のレースならば、出遅れはレースへ与える影響がかなり大きい。しかし、ほぼ全員が出遅れているならば、不利はそこまで無い。

 唯一出遅れなかったウマ娘も、50mほどは先頭を進んでいたが、何故か有利を維持しようとはせず、ハナを取り返そうとして上がってきた逃げウマ娘に抵抗することなく下がった。

 そしてそのまま先行、差しのウマ娘に順に抜かされ、ずるずると下がって最後尾についた。

 

 最初の出遅れにさえ目を瞑れば、レースは既に平常を取り戻しているように見えた。

 レースを外から見ていたトレーナーたちも、最初だけ驚いたが徐々に落ち着きを取り戻す。

 

「出遅れには驚いたが、一週目の選抜レースだしこういうこともあるか」

 

「おいおい、集中できてないんじゃないのか?」

 

「まぁどうやらウマ娘たちも自分たちの位置に取り付けたようだし、ここからだな」

 

 しかし、落ち着きを取り戻したのは外野だけだった。

 観戦していたトレーナーたちは、先頭が最初のコーナーを抜けたところで、出走中のウマ娘たちの異常を知ることとなった。

 

『さあ先頭は第一コーナーから第二コーナーを抜け最初の直線へ向かうが…まだ加速している?! 掛かってしまっているのでしょうか? 後続も置いていかれまいとそれに続く!!』

 

「おい、ペースが速すぎるぞ。これじゃ最後まで持たない」

 

「ああ。いくら出遅れたからって気にしすぎだ。足が残らないだろう」

 

 逃げウマ娘たちは後続を引き離すために、スタート後の直線だけでなく最初のコーナーでも膨らみつつ加速していた。それ自体は、出遅れたことを考えると選択肢に入らないわけではない。

 しかし、逃げウマ娘たちはコーナーを抜けて直線に入ってもまだ速度を上げ続けていた。

 先行策を選択していたウマ娘も、引き離されすぎては最後追いつけないと考えたのか速度を上げる。差しを選択したウマ娘も同様だった。

 

 それはまるで、何かに追われているような、怯えているようにも見える走りだった。

 

 少し冷静になれば、これほどのペースで走り続けるなど不可能だと分かるし、それに気づけば脚を溜めることもできたはずだった。

 だが、走るウマ娘たちは、そんな選択肢など毛頭無いと言わんばかりにハイペースの展開を続ける。

 

『先頭が今1000mを通過し…タイムは0:59.6!? 出遅れでタイムロスしたことを考えると、破滅的なペースだ! 本当に大丈夫なのでしょうか?!』

 

「第一レースの中間タイムより速い…これで走り切れるなら将来有望どころの話じゃないな」

 

「本当にな。まぁ、そんな訳は無いんだが」

 

「ほら、もう一人脱落してるぞ」

 

 新人トレーナーたちの言うように、このままのペースで逃げ切れたのならゴールタイムはナリタブライアンより速くなる。しかし、今年デビューする、まだ本格化しきっていないウマ娘たちにそれほどのスタミナは無い。

 先頭から八番目までは10バ身ほどだが、一人スタミナが切れたのか、そこからさらに5バ身ほど離れたところに最後尾がいる。

 

「ここからどれだけペースが落ちるかな」

 

「やっぱり掘り出し物なんてそうそう無いわな」

 

 何人かの新人トレーナーは、完全に見る気を無くしている。そうでない者も、あまり集中して見ていないのが殆どだった。

 

 ただ一人、最初からこのレースに違和感を持っていた中森を除いては。

 

 

 

(あのシンガリを走ってる娘…最初に唯一出遅れなかった娘だ。最初あっさり先頭を譲り渡して最後方についた)

 

 中森は他のトレーナーが脱落したと評したそのウマ娘にこそ注目していた。

 

(途中、他のウマ娘の動きが激しすぎで良く見てなかったけど、もしかしてずっと後ろにいたのか?)

 

 スタートに成功したはずのウマ娘があっさりと後ろに下がり、そのまま後方待機している。それは、典型的な追込脚質のウマ娘の走りだった。

 そして、追込が最後尾で足を溜めているのだとすればそれは作戦であり、疲労で後ろに下がっているわけではないはずだ。

 

(離れてる距離から考えると…追込脚質として見るなら、いいペースだと言える。デビュー前のウマ娘として考えるなら、むしろかなり速めなくらいだ。でも、あの娘は多分掛かってるわけじゃない。その証拠に、フォームも前との距離もずっと一定だ)

 

 遠くてしっかりと確認することはできないが、体力が切れはじめたのか、前を走るウマ娘たちは段々とフォームが崩れて来ているように見える。

 そしてそれとは対照的なのが、最後尾のウマ娘だ。一人だけずっと一定の走りを続けている。

 独特なフォームで、あまり綺麗な走り方とは言えないが、それは寒門の出ということを考えれば別段おかしなことではない。

 

 レースは後半に入った。トレセン学園の模擬レース場は複数あるが、選抜レースに使用されるコースはその中でも最も平坦なコースである。起伏も、角度あるコーナーもなく、走りやすいがその分地力の高さが求められる。

 

 そして、前方を走るウマ娘たちは、坂でもないのに減速し始める。スタミナが切れたということは誰の目から見ても明らかだった。

 

『おおっと、ウマ娘たちが最終コーナーに差し掛かるが、速度が落ちていく! やはり前半の超ハイスピードなレース展開が堪えてしまったか!』

 

「言わんこっちゃない。身の丈に合わないスピードを出すからだな」

 

「前走、前々走に影響されたか。あのハイペースの展開を見て自分たちもって思ってしまったのかもしれない」

 

 周囲が既に見るべきところは無いと総評を始めるが、中森の耳にそれらの音は入っていなかった。目に映るのは、未だ最後尾にいる青鹿毛のウマ娘のみ。最後尾なことに変わりはない。変わっているのは前との距離だ。

 第三コーナーに入ったとき前のウマ娘と5バ身開いていた差が、今は全く無くなっていた。ピッタリと後ろに付いている。

 

(前の集団も距離が詰まってきている。コーナー前まで先頭から八番目まで10バ身開いていた差が、今は6バ身くらいだ。そして、全体のスピードは確かに下がって来てはいるが、さっきまでが異常だっただけだ。今も逆噴射というほどに遅くなっているわけじゃない)

 

 スピードは下がっている。しかし、スタミナの切れたウマ娘たちはそれでも必死の形相で走っている。距離が近づいたことで表情が見え、ウマ娘たちが歯を食いしばって無い脚を回していることが良く分かる。

 

(それなのに距離が無くなった。つまり、あの娘はここに来て自ら速度を上げ始めたということだ。同じペースで走っていただけならここまで距離が詰まっていないはずだ。やはり、序盤は一人冷静に脚を溜めていたんだろう)

 

 最終コーナーを抜け、残り400m。殆どのウマ娘が息も絶え絶えに気合いと根性だけで走っている。もはや集団に差はなく、ひと塊となって直線を走り始めた。

 

 そんな中、青鹿毛のウマ娘はコーナーの終わりでスッと外に抜け出す。意識の外を突くような移動に、中森は目を見張る。一瞬の出来事であり、もし中森が瞬きしていたら、最初から外側にいたと勘違いしていただろう。それほど機敏な動きだった。

 外から見ている中森ですらそうなのだ。同じコースを走っているウマ娘は気づけないはずだ。それを証明するかのように、青鹿毛のウマ娘は誰にも邪魔されることなく、外側からゆっくりと進出していく。

 

『残り200m! この塊となった状態で、いったい誰が抜け出すのか! これは…外だ! 外から少しずつ上がって来ている! 8番ウルサメトゥス、ジワジワと前に出ていく! 前半のハイペースを超え、最後まで脚を残せていたのか!? ウルサメトゥス、そのまま差し切ってゴール!!!』

 

「終わったか。最後は根性勝ちって感じか?」

 

「ま、勝つ気持ちが強かった娘が勝ったってことだな」

 

『タイムは2:04.1、二着は1 3/4バ身差で…』

 

 レースを碌に見ていなかったトレーナーたちが口々に適当なことを言う。中森が(何故か記者の一人も)そんなトレーナーたちを冷めた目で見るが、すぐに視線を戻した。

 あのレースを見て何も思わない有象無象より、このレースを作り出した者の所へ向かわなければ。

 

 中森が見る先のウマ娘、ウルサメトゥスは一着だったことを喜ぶように満面の笑みだ。そして、周囲のウマ娘が疲労で歩くのも覚束ない中、一人軽く息を整える程度で済んでいた。

 

 レースを終えたウマ娘がコースから出てくる。中森は急ぐ気持ちそのままに、駆け足で一人のウマ娘の元へ向かった。

 

 中森は半ば直感で理解していた。今回のレースを作り出し、支配していたのがこのウマ娘だったのだと。違和感の正体も、異常なハイペースも。

 もしかしたら、最初の出遅れすら手のひらの上だったのかもしれない。

 

 ここでスカウトできなければ、もう中森にチャンスはないだろう。

 今は見向きされなくとも、いずれこの娘は実力を認められ、誰かに取られてしまう。

 その前に、自分が。

 

「キミ、ちょっと時間を貰えないか? まずは、選抜レース一着おめでとう。僕はトレーナーの中森という者なんだけど…」

 

 そして中森は知る。

 目の前の小さなウマ娘が、自分の想定をはるかに超える異質な才能を持っているということを。

 

 すぐに身をもって思い知らされることになるのだった。




また後でちょいちょい直すかもしれません…
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