ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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いつも応援ありがとうございます。

前回の掲示板回に出現したネームドの皆さんも無事(?)全員見つかったようですね。作者としては嬉しい限りです。
掲示板回は賛否ですが、まぁ基本は主人公がレース出た後の回しかやらない予定なので…

今回は反省会、説明が多くなってしまいました。
記者とか妨害名家とかは幕間作って次回書きます。

ではどうぞ。


日本ダービー反省会

 

 

 

「どうして…言ってくれなかったの…」

 

 俺の言葉に、トーカちゃん先輩は俯いた。

 違う、トーカちゃん先輩が悪いわけじゃないのに。そんな顔をさせたいわけじゃないんだ。トーカちゃん先輩は俺のためにやってくれたのに。

 だが、その気持ちとは裏腹に、俺の口から出るのはトーカちゃん先輩を責める言葉だった。

 

「こんなことになるなら、私に一言言ってくれればよかったんだ…!」

 

「ウルちゃん…でも」

 

「聞きたくない!!」

 

 トーカちゃん先輩の言葉を遮る。そしてトーカちゃん先輩が何かを話す前に、続け様に声を荒げてしまう。

 

「何で、無茶だったなら、無理だと思ってたなら! 何で相談してくれなかったの?! 私は、わたしは!!! こんなことになってまでトーカちゃん先輩に無理してほしくなかったよ…」

 

「…ウルちゃん」

 

 感情が昂り、涙が溢れる。

 ダメだ、泣きたいのはトーカちゃん先輩の方だろう。俺が泣いてどうするんだよ。

 ほら、トーカちゃん先輩まで目に涙を浮かべ始めてしまった。

 最低だ、俺。

 

「ごめん、ウルちゃん…ごめんなさい…」

 

 トーカちゃん先輩が本当に消沈した様子で謝る。それを見て俺の中の怒りが急激に萎み、反比例するように怒ってしまった罪悪感が膨れ上がってきた。

 

「…私の方こそ、ごめんなさい。こうなったのは私のせいでもあるのに、一方的に怒鳴って…」

 

「ううん、わたしが悪いんだ。わたしが勝手にやったんだから」

 

 トーカちゃん先輩が涙を拭う。

 

「それと、ありがとう。わたしのこと心配してくれたんだよね?」

 

「それは、そうだけど…」

 

「じゃあ、お互い様ってことにしよう?」

 

 トーカちゃん先輩がへにゃりと笑う。それがあまりにも力の抜けたものだったから、それまで泣いていたことも忘れて、俺も釣られて笑ってしまった。

 

「ふふふ、ふ」

 

「あはは!」

 

 全ては結果論だ。

 トーカちゃん先輩が無理をしなければこうはならなかったかもしれないし、俺が異変を察知してトーカちゃん先輩に聞いていれば避けられたかもしれない。でも、起こってしまったことは変えられない。

 

 なら重要なのはこれからどうするかだろう。少しでも早く、以前の状態に戻れるように。トーカちゃん先輩だけに頑張らせるなんてしない。俺も手伝うんだ。

 

「ウルちゃんが怒ってくれて、わたしも少し気が楽になったよ。こういうとき、誰も怒ってくれないのは逆にちょっと辛いんだよね」

 

「それは分かるかも。まぁ、それは置いておこう。とりあえず今は…」

 

 俺は目の前の光景を改めて見る。

 

 

 

 散乱した道具。

 爆発した電子レンジ。

 飛び散った生クリームのようなもの。

 荷物まで汚してしまっているチョコレート。

 丸焦げになったケーキのスポンジの残骸。

 異臭のするキッチン。

 

 

 

「片付けようか」

 

「そうだね」

 

 全て、俺の誕生日兼ダービー二着お祝いパーティーを企画したトーカちゃん先輩がやらかしたものだ。

 何で俺やトレーナーに相談しなかったんだ。料理が得意なわけでも無いだろうに…。「サプライズをしたかった」などと供述しているが、これじゃサプライズも何も無い。

 気持ちは嬉しいのだが、思いつきだけで始めるのはどうかと思うよトーカちゃん先輩…

 これは片付けで1日潰れるな。トレーナーとかカフェに応援頼むか。ついでにせっかくだからそのまま誕生日祝ってもらおう。

 

 

 

 あ、トーカちゃん先輩の故障は腱鞘炎だそうだ。流石に頑張りすぎてしまった、というか併走で俺と同じトレーニングをやっていたら体が追いつかなかったらしい。だから無理しなくていいと言ったのに…

 全治一ヶ月ほどとのこと。大事をとって安田記念や宝塚記念は回避するそうだ。俺もレースでトーカちゃん先輩と対戦することを楽しみにしてるし、ぜひゆっくり休んで早く治してほしいところだ。

 

 

 

 

 

『二冠目 ナリタブライアンV』

『激走日本ダービー ハナ差決着』

『ライバル出現?! 波乱の日本ダービー』

 

 ダービーの翌日の朝刊はこんな感じだった。購買に売ってたやつの幾つかを読んだが、今回はブライアンのことばかりじゃなかった印象だな。メインにブライアンのことを持ってきつつ、二着である俺のことも結構がっつり触れている新聞が多い。

 実はダービーの後、俺にもインタビューがあった。ダービーが終わってトレセン学園に戻った後のことだ。レース直後じゃなかったのはおそらくブライアンにインタビューしてたからとかだと思う。

 弥生や皐月の時はトレーナーが断ってたんだが、今回は後ろで見ているだけだったのでかなりの数の記者に囲まれた。ただ、記者たちにあんまり元気がなかったように見えたが、何かあったんかな。

 

 ともかく今日は反省会。昨日やるはずだったのだが昨日は誕生日会騒動で一日潰れてしまったので今日になった。いつものカフェテリアでトレーナーを待っていたのだが…

 

「ねぇ、あの娘って…」

「写真より可愛い…」

「一般家庭出身なのにすごいわよね…」

 

 ひそひそ、ひそひそと。

 あの、俺もウマ娘だってことを忘れてないか? そこで見てる生徒さん達よ。全部聞こえてるんだが。

 さっきからカフェテリアを使ってるトレセン学園の生徒達の小声が聞こえてきてコーヒーの味に集中できない。くそ、こんなこと今までなかったんだが。今回のダービーでブライアンと接戦を演じたからか、昨日から視線を凄く感じるし何かを言われているのも聞こえる。別に批判的なものではなくむしろ好意的な声や視線が多いのだが、俺としてはそっちの方がむず痒くて気になる。

 

「メトゥス、お待たせ…いや、場所を変えようか?」

 

「トレーナー、お疲れ様です。そうして頂けると有り難いですね…」

 

 結果、トレーナーが来るまでの10分程度の時間で俺が無駄に消耗、それに目敏く気づいたトレーナーからの提案で場所を変更することに。難聴系のくせに無駄に気が利くなホント。

 

 カフェがバイトしている喫茶店に移動した。今日も働いていたカフェの案内で店の奥のスペースを貸してもらうことになった。

 

「ありがとうございます、カフェさん。コーヒーも美味しいです」

 

「いえ…困っている友人を助けるのは…当然のことですから…。それよりも、私ではなくここのマスターに…お礼を言ってあげて下さい」

 

 俺がカウンターの方に視線を向けると、筋骨隆々なマスターがこっちを見てサムズアップする。俺はそれを見て軽く頭を下げ、マスターは厨房の奥へと下がっていった。おお、大人の対応って感じでかっこいい。でもあのマスターさんは何者なんだ、頬に傷があるんだが…ヤーさんじゃないよな? 流石に失礼か…

 

「では私は仕事に戻りますね…。追加の注文がございましたら…そちらのベルを鳴らして…お知らせください」

 

「分かりました」

 

 カフェがキッチンの方へ行き、洗い物を始める。この水音の中ではいくらウマ娘といえど会話が聞こえることはないだろう。気を遣ってくれたっぽいな。

 

「では反省会を始めようか。でも毎回こんな感じだとこれから困るかもしれないね。申請して学園のどこかの部屋を借りるか、いっそ部室申請するかな…」

 

「担当しているウマ娘が一人でも部室を借りられるものなんですか?」

 

「普通は無理だけど、キミは自分が何をしたのか覚えていないのかい? ジュニア級G1のホープフルSを優勝し、クラシックに入ってはG2の弥生賞を優勝。さらにはクラシックG1の皐月賞と日本ダービーでどちらも二着、ダービーに至ってはハナ差での決着だ。そんな有望なウマ娘のためなら部屋くらい理事長も快く貸してくれるさ。メトゥスは知らないかもしれないが、シャドウストーカーだって自分の部室を持っているよ」

 

「そうなんですね」

 

 それは知らなかったな。まぁでも確かにトーカちゃん先輩ほどのウマ娘が作戦会議とかするための個室を持ってないってのも変な話だな。

 

「それと今回のダービーを機にメディアへの規制を緩めたから、取材の申し込みとかが暫くは頻発すると思う。学園や乙名史記者が協力してくれるから悪質なところからの取材は来ないけど」

 

「なるほど。ではスケジュールに無い取材は?」

 

「その場で断っていい。何かされそうだったら、キミは最悪『領域』を使ってでも逃げてくれ。その後で僕や学園に通報して貰えればあとはこっちで対応するよ」

 

「了解です」

 

 トレーナーが断言してるんだし、その辺に関して俺が何か心配することはないだろう。俺は予定に入った取材だけ対応して、あとはトレーニングに集中しろってことか。いざとなったら『領域』ぶちかまして気絶させるが…できればやりたくはないな。

 

「じゃあ反省会だ。今回のレースで、ミス…というよりは一点だけ気になったところがある。映像の…ここだ。ここで君は何故か体勢を崩した。別にバ場が荒れていないにも関わらずだ。そして、その瞬間後ろにいたナリタブライアンが急激に速度を上げている」

 

 映像はダービーの終盤。それまで前を走っていた俺が急に体勢を崩し、ブライアンがそれを追い抜かす。他にも、ブライアンはそれまでの消耗した様子から一転して余裕を取り戻したように見える。

 

「予想だが…ここでナリタブライアンは『領域』を発現した。それも、キミの『領域』に干渉するような形でだ。違うかな?」

 

「流石の観察眼と言ったところですか。ええ、間違いないです。私が体勢を崩したのはブライアンの『領域』…それも『領域』を壊す『領域』を受けたからです」

 

【Shadow Break】とはよく言ったものだ。

 名前からして俺の影の『領域』を壊しそうだし、実際壊してくれやがった。相性最悪だな。しかも、ダービーの動画を見返すとブライアンは速度を上げるだけでなくスタミナを回復させているように見える。前世のアプリゲームの固有の性能超えてるじゃん…

 だが、過去の動画の『領域』や前世のゲームの知識、そして実際に長年『領域』を使っている俺の経験上、あれだけ強力な『領域』の発動条件が緩いなんてことは無いはずだ。他人の『領域』を無効化しつつ速度を上げてスタミナを回復するなんて効果の『領域』なら、相応に厳しい発動条件があるのでは無いかと睨んでいる。

 

「ブライアンの『領域』は、発現すると他人の『領域』を破壊し、自分の速度を上げつつスタミナを回復させる。そんな効果のようですね」

 

「成程。…なんというか、キミの『領域』に対抗したような効果だね…」

 

「ええ、本当に。ただ、これほど強力な『領域』がなんの条件もなく発現できるとは思えないんですよ。相当強い制限があるはずです」

 

 俺の『領域』を含め、ウマ娘達が使う『領域』にはなんらかの発動条件がある。

 過去の動画ではシンボリルドルフ会長が終盤で3回相手を抜かした時にすごくスピードが上がっていたし、最近ではビワハヤヒデ先輩が有記念や天皇賞・春で、終盤にウマ娘を抜かした時に速度を上げていた。

 しかしその二人では会長の『領域』の方が効果が高かった。例が少ないのではっきりとは言えないが、発動条件が厳しい方が効果が高いと考えられる。アプリの固有もそんな感じだったしな。

 …最強の固有といえばクリスマスオグリキャップの固有を思い出す。しかし、アレも現実のレースで考えればかなり厳しい発動条件だ。実際レースを走ってみると思うが、レース中に3回も息を入れるなんて不可能に近い。そんな暇がないのだ。

 

 それを思うと、今回のブライアンの『領域』もかなり厳重な制限があるのでは? と考えたわけだ。

 

「それこそ、『終盤に他のウマ娘が『領域』を発現している最中でないと使えない』なんて条件でも不思議ではありません」

 

「成程ね、そこまで自由なものではないということか。『領域』に関してはメトゥスの方が圧倒的に詳しいだろうし、考察は任せるよ。それで、対策は?」

 

「対策というほどのものは現状では無いですね。ただ、今回崩されたのは初めて『領域』を破壊されたからです。次はそこまで動揺しないでしょう。それに、一応収穫もありました」

 

「収穫?」

 

 そう、収穫。俺だってタダでやられた訳ではない。

 俺は動画を少し先に進める。

 

「ここです。トレーナーは不思議には思いませんでしたか?」

 

「正直に言うと、思った。しかし、あり得るのかい? 一度のレースで2度別種類の『領域』を使うだなんて…」

 

「正確には、元から持っていた物の進化ですね。細かい検証はまだやってないので分かりませんが、私も新しいものが掴めたようです」

 

『領域』が破壊された後。

 俺はクマ公の力を借りて新たな『領域』に目覚めた。キムさんは【小山神への祈り(メトゥシカムイノミー)】とか言ってたな。

 映像をもう一度確認すると、明らかに速度が急激に上がっている。体感だが、最高速度も加速力も上がり、スタミナも回復していたと思う。

 

「かなり強力な『領域』です。ただ…」

 

「ただ?」

 

「これは、言ってしまえば借り物の力です。自由に使えるものではないと思います」

 

「ふむ…よく分からないけど、キミがそう言うなら、極力作戦に組み込むのはやめようか」

 

 強力なのは間違い無いのだが、これに関してはクマ公の協力が必須だ。それにまだ試してはいないが、相応に厳しい条件もあるだろう。あまり頼りにはできないかもな。

 どこかでもう一度山の方々と話したいところだが…あいにく俺はカフェのように霊感がある訳ではない。ダービーの時みたいな状態にでもならなければ話すことすらできないと思う。

 

「体勢を崩した原因については分かった。ただ、その対策は現状どうにもできないな…。僕も考えてはみるけど、あまり期待しないでくれ」

 

「ええ、私の方でも何か対策を練っておきます」

 

「よし、それはひとまず置いておこう。とは言ってもあとは細かいところだな。見てる限りで少し思ったのは…ナリタブライアンの後ろに付くまでのところか」

 

「ええ、今までは前後から挟まれる経験が無かったので…そこは練習が必要ですね」

 

 動画を見返すと、中盤の競り合いでサルサステップちゃんやヴィオラリズムちゃん、リボンオペレッタちゃん達に押されているのが分かる。あの『領域』の中で冷静にフェイントや位置取りをできるのは流石としか言いようがないな。

 

「追われることに多少慣れたとはいえ、ここで必要なのはそれを前提とした部分。経験豊富なウマ娘の方に併走練習してもらえるのが一番いいのですが…」

 

「今回必要なのは…そうだな。ナリタブライアンに追いつく前だから、差し集団に突っ込んだところか。先行や差しのウマ娘と併走練習をしたいところだね」

 

 こうなるとトーカちゃん先輩が故障してるのが悔やまれる。流石に怪我人に併走させるわけにはいかないし、早く治して欲しいしな。

 

「併走相手についてはこっちで探してみるよ」

 

「お願いします」

 

 反省会としてはこんなところか。

 コーヒーがなくなったのでベルを鳴らしてカフェに追加注文する。

 

「そういえば、そろそろトレーナーと契約してデビューしてから一年ですね」

 

「ああ、もうそんなに経つのか。キミとの時間が濃密すぎて、時が経つのが速く感じるよ」

 

またそんな歯の浮くようなセリフを…。トレーナーは今年は選抜レースとか見に行かないんですか?」

 

「僕もトレーナーだし興味がないわけじゃないけど…今はメトゥスだけで手一杯かな。専属契約もしているしね」

 

 ふ、ふーん。別に嬉しくなんて…いや嬉しいです。

 俺は知っている。専属契約していても他のウマ娘と契約できないわけじゃないということを。十分な実績と双方の同意があれば可能だということを。ただ同じ世代に複数人の専属契約は不可らしいが。

 だからトレーナーはやろうと思えば今期デビューのウマ娘と新たに契約することができる。でもそうせずに俺のことに注力したいと言ってくれたんだ。嬉しくないわけない。

 いや俺は惚れないが。

 

「ふふ、そうですか。なら、今度選抜レースの様子を見に行きませんか? 息抜きになりますし、一度練習から離れればいい案が浮かぶかもしれませんしね。未来のライバルの偵察にもなります」

 

「まぁ、キミは練習しすぎだし、次の目標レースの菊花まではだいぶ時間が空く。そのくらいなら良いよ。じゃあ、次の選抜レースが行われる日は一緒に見に行ってみようか」

 

「ええ、是非」

 

 たまには息抜きもいいよね。トレーナーも契約しないって言ってるから安心して見てられるしな。

 

 あれ、これってもしかしてデート? しかも俺から誘った? 

 

 

 

 …そのような事実はありません。

 

 

 




次回チャンミはダートマイル。
うーんリッキーと推しの子は確定かなぁ…あとはデジの助でも入れるか。

しかしダートマイルともなると因子がさらに地獄になりそうだ…

ちなみに日本ダービーどっちが勝つと思ってましたか?

  • ウルサメトゥス
  • ナリタブライアン
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