ウマ娘に転生したけど影も踏めなそうな娘と同世代だった件   作:アザミマーン

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やべー勢いでお気に入りが増えてた…

ウマ娘すごい。そう思いました。

改めて、感想、評価、お気に入りありがとうございます。

モチベになります。

例の如く急造ですが、良ければどうぞ。



追われる恐怖を知る者

 みんな緊張した表情してるなぁ。いや俺も緊張してない訳じゃないんだけどね。

 さて、レースはまだ始まってないけど盤外戦術を始めさせて貰いますかね。

 

 目を閉じ、あのときのことを思い出す。

 他でもない、俺が死んだときのことだ。

 ハイキングコースのカーブを曲がった先、バッタリと出くわした茶色の毛皮。

 

 嫌につぶらな瞳と目が合って…

 

「ッ…!」

 

 思い出しただけで俺の心臓がバクバクと鳴り始める。

 

 これで準備完了だ。

 何をしたか? 俺の『固有』の発動条件の一つを満たさせて貰ったのだ。

 

 前世であんな死に方をしたからなのか、俺は今でも、あのときのことを思い出すだけで心臓が異常なほど拍動してしまうようになった。

 今のところこれで悪影響があったことはない。一応医者にも見てもらっているが、どうやら心臓が一般的なウマ娘と比べてもかなり強靭らしく、この状態が続いても多少疲れやすいくらいだ。ただ、非常にうるさい。

 

 

 ところで話は変わるが、前で走るウマ娘がどうやって他のウマ娘の居場所を把握しているかご存知だろうか? 

 全然把握していないなんてことはない。仕掛けどきを見極めたり、相手のコースをそれとなく妨害したりするためにも、最低でも大体の距離感くらいは分かっておく必要がある。

 

 目で見て把握している? 

 もちろん、それが一番確実だ。コーナーに差し掛かれば後ろの方で脚を溜めるウマ娘が見える。

 ただ、ウマ娘は馬じゃない。目はヒトと同様に顔の前面に付いているし、視野はほぼ180°。馬のように視野が350°あるなんてことはないから、近くにいるウマ娘も振り向かないと見えない。だから目から得られる情報だけじゃ不足する。

 

 前世の競走馬も視野を道具で制限していることはあるだろうって? あるが、前世の競走馬には、ウマ娘にはない決定的なモノがある。そう、ジョッキーの存在だ。

 彼らは走る馬の代わりに後方の目となり、そして頭脳となり仕掛けどきを判断し、馬に伝える。

 

 ウマ娘にジョッキーはいない。

 だが、ウマ娘たちは、その代わりとでもいうように、他の感覚を発達させている。それは聴覚、それに触覚だ。

 もっと言うとウマ耳とウマ尻尾のことである。

 

 ウマ娘のウマ耳はとてもよく聞こえる。例えば、ヒトがボソッと呟いたような独り言でも、10メートル以上離れたウマ娘が簡単に聞き取ってしまう。

 

 ウマ尻尾は、他のどの部分よりも敏感だ。集中すれば、微細な空気の振動すら感じ取れてしまう。

 

 

 これを踏まえて、ウマ娘が他のウマ娘の居場所をどのように把握しているか。

 

 それは、非常によく聞こえる耳で他のウマ娘の足音を聞き取り、更に超敏感な尻尾で空気を介して伝わる振動を感じ取って、距離を察知しているのだ。

 

 

 

 ではここで話を戻そう。

 俺の心臓は、クマに襲われたことを思い出すと非常にうるさくなる。

 どれほどうるさいかというと、ヒトでも隣にいれば余裕で聞こえるし、ウマ娘の優れた聴覚なら、俺の半径10m以内にいれば聞こえてしまうくらいにはうるさい。

 そして、ゲートの広さは約2~2.5m。

 つまり、4枠8番という今の俺の位置からなら、今回出走するウマ娘は全員俺の心音が聞こえる範囲内というわけだ。

 

 そして、この「俺の心音が聞こえる状況」こそ、俺の『固有』発動のキーとなりえる。

 

 トレセン学園入学前のトレーニング中に、固有の発動条件は一通り調べた。

 そうして分かったのは、俺の固有は発動条件が複数あり、効果が二つあるということ。固有が二個あるという訳じゃないと思う。なぜなら一個目の効果がかかっていない相手には二個目の効果が発動しないからだ。

 

 一つ目の効果。それは、相手を掛からせる効果だ。

 

 最初の条件は、「相手が動揺すること」。

 レースに集中している相手を動揺させるには、普通なら技術が必要だ。

 だが、何度も言うように俺の心音は爆音だ。

 普段なら他人の心音が聞こえても「こいつ大丈夫か」で救急車を呼ぶくらいで済むかもしれない。でも俺がこれをやるのはレース中。

 自分の心音すら雑音として排除してしまう程の集中のさなか、突然無視できないほどの大きな心音が聞こえてくるとどうなるか? 

 その心音を自分のものだと勘違いしてしまうのだ。もちろん、実際の自分の拍動とは差異が発生する。それにより呼吸が乱れる。集中も乱れる。

 そこで極め付けに、俺がクマ仕込みの殺気を放ってやれば? 

 

『スタートしました…っておおっと! いきなり全員、いや八人出遅れた!? いったいどうしてしまったというのか!!』

 

 こうなる。

 俺が綺麗にスタートさせて貰う中、見事に(?)他は全員出遅れだ。さて、君ら今動揺したな? 動揺したよな? 

 ここまで上手くいくことは珍しいんだが、そこはラッキーということでね。

 

 逃げ先行の娘は立て直そうとして加速してくる。

 俺はちょっとだけ加速して、並んでやることでさらに動揺を誘うかな。小細工だが、出来るならやった方がいいだろう。そんである程度で下がると。

 

 さぁ、ここが仕掛けどきだ。

 

 他のウマ娘たちは、動揺からくる焦りで、立て直すのに普段より大きくスタミナを使う。これだけで結構有利を取れた。

 そして少し冷静になって今の状況を把握するために感覚を集中させると、感じ取ってしまうのだ。

 

 ドスン、ドスンという追ってくるような大きな振動を。

 

 これこそ俺の固有発動条件の二つ目。「相手が俺の足音をはっきり認識していること」だ。

 そう、俺の固有は相手に作用するだけあり、発動条件が相手依存なのだ。

 しかも個別。だからかかる相手には効くし、かからん相手には何のこっちゃなのだ。

 足音が聞こえる範囲が効果範囲。だが俺は独自に開発した「足音が大きく聞こえる走り方」を習得している。

 

 その範囲は約半径40m弱。大体15バ身くらいだ。

 それ以上遠くなると、流石に周囲の音や他のウマ娘の足音の中に埋没してしまう。ただ聞こえているだけじゃダメなのだ。

 だが狙いは一緒に走るウマ娘。

 最後尾から先頭まで、範囲が15バ身もあれば十分(つーか、それが限界)。

 動揺してなおかつこの範囲に入ったウマ娘たちは、もれなく俺の固有にご招待という訳だ。

 

 さあ掛かれ掛かれ! 

 スピードに劣っている(と思われる)現状、俺の勝ち筋は他の速い娘に遅くなって貰うしかないのだ。

 スタミナを使え。脚を消費しろ。最後にスパートできないほどに消耗してしまえ! 

 

 

 その先に俺の勝利がある。

 

 

 

 

 

『先頭が今1000mを通過し…タイムは0:59.6!? 出遅れでタイムロスしたことを考えると、破滅的なペースだ! 本当に大丈夫なのでしょうか?!』

 

 ここからは後半。そろそろ疲れてきただろう? 

 俺は先頭から15バ身以内の位置、且つ最後方で脚を溜め続けている。

 

 俺の固有は、一度動揺してしまうと、それからは足音が聞こえる範囲にいる限り永続だ。

 だから今回のように前半からかけ続けられると最高、と思うかもしれないが、これ、こっちも結構疲れる。

 相手との距離を保ったり、走行姿勢を維持するのにかなり気を使ってしまい、普通に走るより疲れるのだ。

 

 で、固有を序盤から使うと、第二の効果が使えなくなる。第二の効果は、体力に余裕がない状態で発動すると俺が自滅してしまうのだ。

 何故体力が必要か? まぁ、それは使うときにまた。

 今回は最初から第二の効果を使う気がなかったからね。

 使う気がないというか、使えないというか。最低出力だと効力が低く、第二の効果を使っても発動しているか分からないくらいまで効果が落ち込んでしまうのだ。

 

 序盤から使って相手を消耗させ続けるか、それとも中盤以降に使って第二の効果まで発動させるか。

 今後はレース前にしっかり相手を研究して、どっちを使うか決めなきゃな。

 

 レースはここから第三コーナー、他のウマ娘の速度も落ちてきたし、俺は距離を詰めさせてもらいますか。

 

『おおっと、ウマ娘たちが最終コーナーに差し掛かるが、速度が落ちていく! やはり前半の超ハイスピードな試合展開が堪えてしまったか!』

 

 ごめんそれ俺のせいだわ。

 理不尽? うんそうだね。まさか選抜レースに出てくるウマ娘が、最低出力とはいえ固有を使ってくるとは思わんわな。

 

 でもこれ競争なんだよね。悪いとは思ってるけど、使えるものは使わせてもらう。

 戦争ではないから最高出力は一生封印してると思うけど。

 

 前から八番目の娘の後ろにピッタリと張り付き、隙を伺う。選抜レースとはいえ、ここにいる時点で入学試験を突破した猛者たちだ。油断なんてしない。

 前の娘たちが気力と根性で走るが、やはり速度が落ちて位置がどんどん固まっていく。塊になる。ゴールまで残り、400m。

 

 ────ここだ!!! 

 

 俺は最大の武器であるパワーを使い、コーナーで一気に外に抜け出す。

 これまでとは逆に音ができるだけ響かないように気を使った足運びだ。多分、俺が横に飛び出したことに誰も気づけなかっただろう。

 

 残り200m。他の娘も必死にスパートをかけるが、速度が上がらない。

 当たり前だ。全てはこの瞬間のために、俺が仕掛けた罠。

 かかったら最後、誰も逃れられない! 

 

 200mしかないのに最後方からなんて大丈夫かって? 

 十分だ。なんせもう先頭から後ろまで3バ身くらいしかない。しかも他の娘の脚はズタボロ。

 そんな中、一人だけ脚が残っていれば結果は明白だ。

 阻むものもない。

 

『残り200m! この塊となった状態で、いったい誰が抜け出すのか! これは…外だ! 外から少しずつ上がって来ている! ウルサメトゥス、ジワジワと前に出ていく! 前半のハイペースを超え、最後まで脚を残せていたのか!? ウルサメトゥス、そのまま差し切ってゴール!!!』

 

『タイムは2:04.1、二着は1 3/4バ身差で…』

 

 俺の勝ちだ。

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 アクシデントもなく、順当な勝利だった。

 

 いやぁ、笑いが止まらないな!! 

 まだスタミナに余裕はあるし、固有も全力じゃない。

 

 この固有は相手を妨害する類のものだし、試してないけど何回も同じ相手に見せたら効果が薄れる気がするんだよね。

 だから最低出力にした。今回一緒に走った娘もここで諦めるとは思えない。また対戦することもあるだろう。その時に慣れられてたら困るのだ。

 

 しかし…トレーナーがいねぇ! 

 いや正確に言えば数が少ない。そしてこっちを見もしない。

 

 そんなに不甲斐ないレースしたかな? いや、確かに前二つのレースに比べたら見どころはなかったかもしれないけどさぁ。

 一着取ったんだよ? 一人くらい来ない? 普通。

 

 お、そんなこと考えてたらこっちに来る人がいる。

 凄い早足だ。

 早足ってより駆け足だ。

 

 いやなんか目が血走ってるんだけど。

 怖いよ! 

 

 え、もしかして俺の固有バレた? 

 そんで他の娘応援してて、勝った俺に文句ないし危害を加えようとしてるとか? 

 

 ああ、茶色のスーツがクマの毛皮に見えてきた。俺を殺した憎きアイツ。

 一度そう思ってしまったら、俺の心臓は高鳴り始める。

 大きな身体。あれはクマか? いや違う。でもこっちに血走った目で駆け寄ってくる。やっぱりクマか? 

 

 

 来るな…来るなよ! 

 

 もうなんでもいいよ、俺に近づくな! 

 

 こっちに来るな!!! 

 

 

 

「キミ、ちょっと時間を貰えないか? まずは、選抜レース一着おめでとう。僕はトレーナーの中森という者なんだけど…」

 

『来るなぁ!』

 

 全力で固有を発動した。

 

 この固有の元になったクマには効かないかもしれないが。

 

 衝動のままに、無我夢中で腕を振り下ろす…

 

 

 

 

「あ」

 

 眼前の男性が気を失ったところで我に返った。

 

 やべ、これクマじゃなくてトレーナーじゃん。

 

 周りの目が痛い。

 

 と、とにかくこのトレーナーを保健室に運ばなきゃ! 

 

 

 

 

 うぅ、土下座で許してもらえるかな…

 

 

 




今回少し難産だったので、後で矛盾が見つかるかも…
見つかったら直します。

あ、タグに色々と追加しました。予防線ですね。
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