花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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書いてて思ったけど、内容が日常的すぎる気がする。


第11話 新学期の始まり

「高知から来ました、郡千景です…よろしくおねがいします」

 

 九月になり、二学期の初日。私は教室の前で担任の山根先生に紹介され、転校の挨拶をしていた。

 

 …学校にはいい思い出が無い。前とは違う環境だけれど、私は馴染めるのだろうか。

 

 

 

 

 

 今日の学校が終わり、靴箱で上靴と下靴を履き替えて正門から出る。

 二学期が始まって数日はまだ給食がない。よって学校は午前で終わる。

 私の昼食は夏休みと同じように乃木家か上里家にお願いされている。なので今日は今から上里家に向かう。

 

 今日は色々話しかけられて疲れた。転校生が興味の対象になるのは珍しいことではない、と思う。

 

「あ、ちーちゃん!」

 

「本当だ!」

 

 声がした方へ振り返れば、若葉とひなたがこちらに走ってきた。今のところ、この二人は家以外では一緒にいるところしか見ていない。本当に仲が良い。

 

「今からわたしのおうちに行くんですよね?」

 

「うん、そう言われてる」

 

「ならいっしょに帰ろう」

 

 若葉、ひなたが私の隣に並んで歩き出す。学校からの帰り道を誰かと一緒に歩くのは初めてだ。

 

「ちかげ、今日は教室で色々聞かれたか?」

 

「ええ、それはもう…」

 

「おつかれさまです」

 

 やはり転校生にクラスメイトが群がるのはよくある認識らしい。

 

「そういえば、来週の土よう日はさんかん日ですね」

 

「先生がそんなことを言ってた気がする」

 

 授業参観。れんちゃんは校内を案内してもらった時によく気にしていたから、きっと見に来てくれるだろう。

 

「その代わりに月よう日が休みになるんだったか」

 

「そうですね、何しましょう」

 

「その日はわたしもどっちかの家に行くのかな」

 

 れんちゃんが仕事でいない平日だから、おそらくどちらかの家に預けられるだろう。

 

「わかばちゃんのおうちでかくれんぼしてみたいです」

 

「母さんに聞いておくか」

 

 あのお屋敷でかくれんぼ。隠れる所がたくさんあってきっと楽しいと思う。

 

 そんなこんな、他愛もない話をしながら歩いていると、あっという間に上里家に到着した。友達と話していると時間が早く過ぎる気がする。

 

「じゃあまた後でな」

 

「はい」

 

 若葉が自分の家に入っていくのを見て、私とひなたに続いて上里家に入る。

 

「ただいま~」

 

「おかえりなさい、ひなた、ちーちゃん」

 

「…ただいま」

 

 玄関の扉が開く音に気付いた琴音さんが出迎えてくれる。友達の家に来てただいまと言うのは少し変な気分だけど、悪い気はしない。

 

「お昼ご飯できてるから、手を洗ってリビングに来てね」

 

「「はい」」

 

 手を洗ったところでひなたと別れ、ひなたは自室へランドセルを置きに、私はまっすぐリビングに入った。

 

「ここに座ってね」

 

 琴音さんに促され、ダイニングテーブルに着く。目の前には肉うどん。もはや見慣れた光景である。

 

 すぐにひなたが二階から降りてきて隣に座る。ひなたの前にはとろろうどん。好物なのだろう、ひなたがよく食べているのを目にする。

 ひなたが手を合わせたのを見て私も手を合わせた。

 

「「いただきます」」

 

 ──────────

 

 夕日も沈みかける頃、仕事を終えて上里家へ千景を迎えに行く。

 インターホンを鳴らし玄関の扉を開けると、見慣れた靴があった。

 

「ただいまー」

 

「「「おかえりなさい」」」

 

 挨拶した瞬間リビングから飛び出してくる三人。

 近寄ってくる千景の頭を撫でる。しょっちゅう撫でている気がするが、サラサラな黒髪の手触りが良いので仕方ない。

 

「もう帰るの?」

 

「うん、もう晩ご飯の時間だしね」

 

 突然背後の扉が開かれる。入ってきたのは優しそうな男性。ひなたの父親だろう。

 

「ただい…あ、千景ちゃんのお父さんですね」

 

「どうも、おかえりなさい。郡蓮花です、千景がお世話になってます」

 

「上里伊織と申します、こちらこそひなたがお世話になっています」

 

 伊織さんというらしい。身長は僕と同じくらい(170ちょっと)で細身、全身から柔和な雰囲気が溢れている。ひなたの柔らかさは母親譲りかと思っていたが、父親の割合も高いかもしれない。

 

「お父さんおかえりなさい」

 

「ただいまひなた」

 

 ひなたの頭を撫でる伊織さんを隣で眺めていると、リビングからランドセルを背負った千景が出てきた。隣で若葉が名残惜しそうな顔をしている。

 

「帰るじゅんびできたよ」

 

「よし、じゃあ帰るか」

 

 玄関に皆が集まっていてかなりごちゃごちゃしているので早く出てあげよう。

 

「ありがとうございました」

 

「またね」

 

「ああ、また明日」

 

「さようなら」

 

「また来てね」

 

 上里親子と若葉に見送られて上里家を出る。

 もうほとんど沈みかけの夕日に薄く照らされながら、千景と手を繋いで僕らの家へと歩いた。

 

 

 

 

 

「今日、何かあった?」

 

 静かに声が響く浴室、帰ってきてからの千景がずっと何か言いたそうにしている気がしたので聞いてみた。僕らがその日あったことを話すのは大抵風呂である。

 

「…えっとね」

 

「うん」

 

 少しもじもじしながら千景がゆっくりと話す。可愛い。

 

「…来週の土曜日が参観日なんだって」

 

「まじか」

 

 そんなに早速なのか、授業参観。そして土曜日とはありがたい。

 

「…来てくれる?」

 

「もちろんさ」

 

 行かない訳が無い。千景の学校での様子を見ることができる数少ない機会だ。転校して二週間というタイミングはある意味ちょうどいいかもしれない。千景がクラスに馴染めているか確認できる。

 何より、千景に上目遣いでお願いされて断れる人はいるのだろうか。千景全肯定人間の僕には無理である。

 

「よかった…」

 

 安心したように微笑む千景が愛おしくて堪らない。なんだこの可愛い生き物は。

 

「あ、あとね」

 

「ん?」

 

 まだ続きがあるのか。さっきほどもじもじせずに話す千景。

 

「9月の最後の土曜日は運動会だって」

 

「まじか」

 

 突然の公式からの供給過多ですぐ死ぬオタクのように衝撃を受ける。

 

「朝6時から起きて場所取りに行くよ」

 

「え、そんなに早起きするの?」

 

「いい場所で千景を見たいから」

 

 早起きして場所取りをして弁当を作る。運動会は一番保護者が忙しい行事かもしれない。妥協はしないし自分で許さない。いい場所で千景を見て、美味しい弁当で千景を笑顔にするのだ。

 

 ──────────

 

 翌日の昼、昨日と同じように若葉、ひなたと一緒に帰り、なぜかひなたも一緒に乃木家に入ると琴音さんがいた。

 

「どうして琴音さんが?」

 

「皆で一緒にお昼ご飯食べようって話になったの」

 

「なるほど、それでひなたもこっちに来たのか」

 

 若葉も聞いていなかったらしい。広い居間の隅に三つのランドセルを置いておく。

 

「若葉は自分の部屋に置きに行かないの?」

 

「後でここで一緒に宿題しようと思ってな」

 

 なるほど、それはいい。

 

「まずは昼食だ」

 

 居間にうどんを運んでくる楓さんの後ろからついて入ってくるおばあちゃん。

 最近毎日うどんを食べている気がするが、美味しいので気にしない。

 

 

 

 

「ちかげ、れんかさんにはさんかん日のこと言ったか?」

 

 宿題しながら話しかけてくる若葉。手元を見る限り、既にほとんど終わっているらしい。夏休みの宿題も7月中に終わらせていたし、若葉は優等生なのかもしれない。

 

「ええ、来てくれるって」

 

「そうか」

 

「今月末の運動会のことは言いましたか?」

 

「うん。朝6時から起きて場所取りに行くって言ってた」

 

「流石だな」

「流石ですね」

 

 後ろで聞いていた楓さんと琴音さんが感心している。

 

「やっぱり早い?」

 

「まあそうだな、6時起きということは学校が開いたらすぐ入るのだろう。いい場所を確保できるだろうな」

 

「れんちゃんってちーちゃんの為ならとことん頑張りそうですものね」

 

 琴音さんの言葉に嬉しく感じながらも手は止めず、宿題を進めていく。

 

「…空を飛んでって言ったら飛ぶのだろうか」

 

「さすがに無理だと思いますよ?」

 

「でもあの筋肉なら何とかならないか?」

 

「ならないわよ」

 

 若葉にとって筋肉は万能な存在なのだろうか。思っていた以上に若葉は脳筋なのかもしれない。

 

「だがふれずにかべを切ったんだぞ」

 

「たしかにあれはよくわからないけど、それと空を飛ぶことは関係ないでしょう」

 

「あれなんだったんでしょうね」

 

 未だにれんちゃんが練習刀で壁を裂いたことはよくわからない。

 

「あれのおかげで少しの間、道場の風通しがよかった」

 

「そうなんですか…」

 

 ──────────

 

「今日はうちで夕食を食べていくか?」

 

「いいの?」

 

 仕事を終えて乃木家に千景を迎えに来ると、楓さんに夕食に誘われた。

 

「ああ。もうすぐ誠司と伊織さんも帰ってくるだろうから、それから皆で食べよう」

 

「了解です」

 

 居間に入るといつものように三人で遊んでいた。そのすぐ傍で、おばあちゃんが顔の皺を増やして微笑みながら見守っている。

 

「あ、れんちゃんおかえりなさい!」

 

「おかえりれんかさん」

 

「ただいま~」

 

 僕に気づいて笑顔で迎えてくれるひなたと若葉。

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま」

 

 小さく笑ってくれる千景に笑顔で返し頭を撫でる。もう癖になってしまったように思うが、千景が嫌がっている様子もないので直そうとも思わない。

 

 

 三人で遊んでいるところをおばあちゃんと将棋をしながら見守っていると、しばらくしてから誠司さんが帰ってきた。伊織さんはまだのようだ。

 

「今日はまた多いな」

 

「晩ご飯に誘われたんだ」

 

「ああ、そうなのか」

 

「おかえり、伊織さんはまだか」

 

 楓さんが台所から戻ってきて、伊織さんだけまだ帰ってきていないことを確認する。

 

「まあそのうち帰ってくるだろう、そろそろ居間に運び始めるか」

 

「手伝うよ」

 

「ああ、頼む」

 

 おそらくもうできているのだろう料理等を運ぶ為、僕は楓さんに続いて台所へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

「皆一緒に食べることってよくあるの?」

 

「まあ時々な」

 

 夕食を食べ終え、男共三人で片付けをしていた。

 ママ友ほどよく話すわけでもなく、早々に食器洗いを済ませて居間に戻った。

 

「終わったよ」

 

「ああ蓮花、ちょっと提案なんだが」

 

 居間に戻ってすぐ、楓さんに提案を持ち掛けられた。

 

「どうしたの?」

 

「今月末の運動会だが、代わりに場所取りしてあげようかと思ってな」

 

 なんと、代わりに6時起きしてくれるというのか。それは大変ありがたい。

 

「いいの?」

 

「構わない、場所を取りに行くのは誠司だ。というか、うちの大きなブルーシートを敷いて一緒に弁当を食べるか」

 

「僕はいいけど、千景もそれでいい?」

 

 すぐ傍にいる我が家のお姫様に一応聞いてみる。振り返った千景は特に悩むこともなくすぐに微笑んで答えた。

 

「うん、それがいい」

 

「そっか。じゃあお願いします、誠司さん」

 

「ああ」

 

「お弁当はそれぞれで作っていく?」

 

「そうしよう。食べる量や好きな味付けは家族が一番知っているだろう」

 

 …それは確かにそうかもしれないが、千景は僕の料理を何でも美味しいと言ってくれるので、いまいち好き嫌いがわからない。運動会までに調べておこうと思った。

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