「ねぇ、蓮花さん」
「ん、どうした?」
「趣味ってありますか?」
ある冬の日、部屋でのんびり過ごしていると、なぜか僕の部屋で同じようにのんびり過ごしているひなたにそんな事を聞かれた。
「そういえばなんで僕の部屋にいるの?」
「こたつがあるからです」
「なるほど」
冬にこたつの有無は確かに重要である。特にこの寮は壁が薄い。唯一僕の部屋にはこたつがあり、今はひなたとこたつを挟んで向かい合っている。
「それで、趣味ってありますか?」
「趣味といえるほどのものは無いかな」
今も特にすることが無く、こたつの上にあるみかんの皮を剥いてはひなたに餌付けしている。
「なんでそんな事聞いたの?」
「プライベートでは部屋で何して過ごしているのかと思いまして」
そう答えながらひなたは窓の外を指さす。今日は雪が降っている。それも、球子や友奈が部屋に引き篭るほどの大雪である。
「今日はどこかにお出かけしたりもできませんし」
「そうだねぇ。はい、あーん」
「あーん」
みかんをひなたの口に入れる。こののんびりと過ごす時間が幸せで好きなので、別に趣味が無くても困らない。
「皆は部屋で何してるんだろう」
「若葉ちゃんは千景さんの部屋でゲームしてるはずです」
「他の三人は?」
「杏さんは読書でしょうか。友奈さんと球子さんはわかりません。次下さい」
足先で内腿を撫でてみかんを催促してくるひなた。これは甘えてくれていると考えていいのだろうか。
「はい、どうぞ」
「あむ。…このみかんとても甘いですね」
「球子の実家から送られてきたやつだよ」
「愛媛のみかんですか」
球子や杏の部屋には、実家から時々大量のみかんが届く。それをいつも分けてくれている。
「話を戻しますが、趣味を探そうとは思ったりしないんですか?」
「別に思わないかな。こういう時間が好きなんだ」
「…私と過ごす時間が好きってことですか?」
「まあそうだね」
「…そうですか」
頬を少し赤く染めるひなた。とても可愛らしいので是非とも写真に収めたい。
「写真撮っていい?」
「ダメです」
即答されてしまったので止めておこう。
「千景さんとゲームをする若葉ちゃんは楽しそうですし、蓮花さんも一緒にどうですか?」
「二人でお楽しみ中なところを邪魔したら迷惑じゃない?」
「変な言い方しないでください!…好きな事を共有できる人が増えるのは嬉しいんじゃないでしょうか」
それは確かに一理ある。僕がゲームにハマることで、千景の笑顔は増えるのだろうか。
「ふむ…じゃあ千景の部屋に行こうか」
「はい…え、私もですか?」
「部屋の主が出るんだから、こたつの電源は切るよ」
「わかりました…」
手に持っていたみかんの最後の一つを口に入れて立ち上がる。
渋々といった感じで立ち上がるひなたの手を取り、僕達は千景の部屋へ向かった。
「あ、みかん持って行ってあげようかな」
「こたつを持って行ったほうが喜ばれると思います」
──────────
「そんなわけで来たよ」
「…えっと、いらっしゃい」
千景の部屋に入ると、ひなたの言った通り若葉もいた。そして友奈もいる。
「友奈さんもここにいたんですね」
「うん、三人で狩りしてるの!」
「モンハン?」
「モンハン!」
モンスターハンティング、有名な狩りゲーである。僕も小さい頃にした事がある。
「何したい?」
「そうだなぁ…」
千景のゲームのパッケージが並んでいる棚を見る。見た事のあるもの無いもの様々である。
「あ、これ懐かしいな」
手に取ったのは、ぷよ的なものを繋げて消していく落ち物パズルゲーム。
「じゃあ、それやる?」
「いいの?三人で狩りしてたんでしょ?」
そう言って若葉達を見ると、視線に気づいたのか若葉が顔を上げる。
「ああ、構わない。暫く友奈と練習しておこう」
「わかった」
そうして千景がディスクを入れたりテレビの電源をつけたりと準備をしてくれる。
「そういえば、なぜひなたも蓮花さんと一緒に来たんだ?」
「蓮花さんの部屋のこたつに入ってたんですけど、部屋を出るからこたつの電源を切るって言われまして」
「なるほどな」
「まあ当然ね」
千景が賛同しながらリモコンを渡してくれる。
「僕がふとんの代わりにでもなってあげようか」
「お願いします」
千景のベッドの縁にもたれて座る僕の足の間にひなたが座る。ひなたを覆うように両手でリモコンを持つ。
「これいいですね、暖かいです」
「なら良かった」
ご満悦の様子なのでこのままゲームをするとしよう。暖かい上にいい匂いもする。
「ゲームの邪魔にはなりませんか?」
「大丈夫、このままでいいよ」
「私、手加減はしないわよ?」
「大丈夫、普通にやっても多分勝てない」
僕はゲームが得意というほどでもないので、千景に勝てる気はしない。楽しめたらそれでいい。
「負け続けて楽しい?」
「千景と遊ぶのが楽しい」
「ならいいけど」
そして対戦は始まった。
数十分後、僕は10連敗していた。
「いやぁ強いな、思っていた以上に勝てない」
「ぐんちゃん強い!」
「ありがとう高嶋さん」
「ちょっと休憩しませんか?」
ひなたが部屋から持ってきたみかんの皮を剥き始める。
「そういや球子はどうしてるんだろう、杏の部屋にいるのかな?」
「多分そうだろうな」
若葉もゲーム機を置いてみかんの皮を剥き始める。
「球子さんが一緒なら、杏さんは読書中ではないんでしょうか。はい、あーん」
「あーん。後で覗いてみようか」
さっきとは逆にひなたに餌付けされる。今日はもうそれなりにみかんを食べているが、食べさせてくれるのを断りたくはない。
「最近の上里さんは人目を気にせずイチャつくようになってきたわね」
「千景が人の事を言えるのか?」
「わ、私はまだ人目がある所ではしないわよ!」
「そうだねぇ」
甘いみかんを咀嚼しながら考える。僕らがどういう関係なのか、正直自分でもよくわからない。
「それで、ゲームしてみてどう?」
「一人でもやり込むほどになるかはわからないけど、誰かとするのは楽しいな」
大切な人と、その人が好きな事をして同じ時間を共有することに幸せを感じている、ように思う。
「千景が時々相手してくれるなら、ちょっと頑張ってみようかな」
「いつでも相手してあげるわ」
少し視線を下げれば、ひなたが次のみかんを差し出していた。
「趣味は見つかりましたか?」
「趣味になるように時々やろうかな」
口でみかんを受け取り、ひなたの髪を撫でながら、一応目標を考える。千景と一緒に遊んで楽しむだけより、目標があったほうが成長が早いだろう。
「そうだな…今は1月か。じゃあ今年中に千景に勝つよ」
「あら、言ったわね。楽しみにしているわ」
そう言ってくれる千景の微笑みに、確かな幸福を感じた。
西暦2019年1月のとある休日。