花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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時系列的に原作の3年前から始めたわけだから、もっとテンポを上げないと終わらない気がしてきた。


第12話 参観と友達

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

 玄関で手を振って千景を見送る。今日は土曜日だが、千景は昼まで学校がある。

 そう、参観日である。

 

 授業参観は十時半頃。千景の学校での様子をこの目で直接見ることができる数少ない機会だ。

 それまで時間に余裕があるので、今のうちに洗濯などを済ませておこう。

 

 ──────────

 

 授業参観。今まで自分の親が来てくれたことはほとんど無い。しかし、今日はれんちゃんが見に来てくれるということで少し緊張している。

 

 クラスメイト達は皆仲良くしてくれていて、今のところ私はクラスに馴染めている、と思う。

 きっと今日クラスを見て、れんちゃんも安心してくれると思う。逆に心配をかけるようなことがあってはならない。

 

「むずかしい顔してどうしたの千景?」

 

「大丈夫、なんでもない」

 

「もしかして緊張してる?」

 

「…ちょっとだけ」

 

 クラスメイトの弥勒美琴と橋本凜に声をかけられ、緊張が顔に出ていたことに気づく。

 この二人は多分、友達と呼んでも差し支えないだろう。席が近く同じ班なので、給食を始め色々なところで一緒に行動することが多く、自然と親しくなれたと思う。

 美琴ちゃんは距離感の近い子で、名前で呼んでほしいと言われたのでそうしている。それならばと凜ちゃんも名前で呼んでいる。

 前までは、班行動は他人との関わりを強制させられる煩わしいものだったが、今は他人と仲良くなるのを助けてくれるものだ。

 

「千景ちゃんのお家の人は来るの?」

 

「うん、来てくれるって」

 

「お父さん?お母さん?」

 

「えっと…お父さん」

 

 学校ではれんちゃんのことはお父さんと言ったほうが、ややこしくならずに済む。普通の子は両親と暮らしているから。

 

「そっか、どんな人?」

 

「え?えっと…」

 

 美琴ちゃんにれんちゃんのことを聞かれ考える。私から見た特徴を淡々と言えばいいのか。

 

「料理がすごく上手で、筋肉がすごくて、すごく優しくて…かっこいい」

 

 すごくを沢山並べてしまった。語彙力の低下。

 

「筋肉がかっこいいの?それともイケメン?」

 

「両方かな」

 

 ただし筋肉は脱がないとその凄さがわかりずらい。自慢したくても友達の前で脱いでもらうわけにはいかない。

 

「ちょっと楽しみ」

 

「えぇ…」

 

 話しているうちに授業開始一分前になり、少し教室を見回してみる。

 教室後方ど真ん中、その姿はすぐに見つかった。

 れんちゃんも私を見ていたのか目が合い、小さく手を振ってきたので振り返す。

 

 そこで授業開始のチャイムが鳴った。前を向いて座り直し、背筋を伸ばして姿勢を正す。

 ちゃんと授業を受けて、いつもの私を見てもらうのだ。

 

 ──────────

 

 授業の終わりを告げるチャイムが静かな教室に鳴り響き、クラスメイト達のほとんどは立ち上がって家族のもとへ向かう。

 例に漏れず私もれんちゃんの所に歩いていく。

 

「お疲れ様。この後もまだ授業あるんだよね?」

 

「うん」

 

 頭を撫でながら労ってくれるれんちゃん。

 

「その人が千景ちゃんのお父さん?」

 

「えっと、そう」

 

 自分達の家族から離れてこちらにくる美琴ちゃんと凜ちゃん。

 

「千景の友達かな?」

 

「はい、弥勒美琴です!」

 

「は、橋本凜です」

 

「弥勒?」

 

 れんちゃんの問いに自己紹介で返す二人。

 友達であるとはっきり肯定してくれたことが、とても嬉しく思った。

 れんちゃんを見てみれば、きっと今の私よりも嬉しそうな顔をしていた。

 

「…そっか。千景をよろしくね」

 

「はい!」

 

 相変わらず元気の良い返事をする美琴ちゃんと頷く凜ちゃん。

 

「じゃあ帰って昼ご飯作って待ってる。残りの授業も頑張ってね」

 

「うん」

 

 もう一度私の頭を撫でてから教室を出ていくれんちゃんの横顔は、とても満足気に微笑んでいた。

 

 ──────────

 

 千景がどんぶりによそってくれた炊き立てのご飯の上に、とんかつとトロトロの卵をのせる。今夜はカツ丼である。

 

 二つのどんぶりをリビングのテーブルに運び、一緒に食べ始める。

 

「おいしい…」

 

「うむ」

 

 良い揚げ具合だ。卵の半熟具合もちょうどいい。サクサクのとんかつとトロトロの卵でどんどんご飯が進む。多めに米を炊いておいてよかった。

 

「月曜日は朝から若葉の家に行こう」

 

「うん」

 

 今日の授業参観の代休で千景は休みだが、僕は仕事でいない。なので乃木家で預かってもらう約束をしている。運動会の代休は上里家で預かってもらうことになるだろうか。

 

「若葉達とは何して遊ぶの?」

 

「テーブルゲームとか色々。月曜日はかくれんぼするかも」

 

「ほほう」

 

 乃木家でかくれんぼとな。あの広い敷地でかくれんぼとは、広さも隠れる所もたくさんあって絶対楽しい。

 

 

 千景と話しているとあっという間に時間が過ぎていく気がする。毎日千景と一緒にいるので、毎日があっという間だ。

 こんな幸せな日常は、もっと長く感じていたいものだ。

 

 夕食を食べ終えてテレビゲームを起動しコントローラーを握る千景の隣で、同じくコントローラーを握り腰を下ろす。

 

「そういえば」

 

「なに?」

 

 少し視線をテレビからこちらに移す千景。僕を見据える紅い瞳はかつての友を思い出させる。

 

「運動会のお弁当のおかず、何食べたい?」

 

「んー…なんでもいい」

 

「そうか」

 

 それはまた、悩む。

 

「何入れる予定?」

 

「えっとね、ウインナーと玉子焼きと、唐揚げも入れよう。あとはポテトサラダとか?」

 

 弁当のおかずの定番である。ただ、少し品数が少ない気がしないでもない。

 

「あとどうしよう」

 

「それだけあれば充分じゃない?」

 

「それは…そうだな」

 

 あまり悩まずに済んだ。今度材料を買っておこう。

 

 千景の運動会の思い出の一部分になれるよう、最高に美味しい弁当を作ろうと思った。

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