朝6時。起床し、隣で眠る千景の穏やかな寝顔を見てほっこりしてから顔を洗う。
炊飯器を確認すれば、昨日の夜に予約しておいたので既に米は炊けている。
場所取りは誠司さんがやってくれるとの事で、その分空いた時間を弁当と朝食作りに回すことができる。
今日は、運動会である。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、頑張ってね!」
千景を見送り、僕も家を出る準備をする。弁当は既に完成している。水筒に氷とお茶を入れながら、リビングから聞こえてくる天気予報に耳を傾ける。今日は一日中快晴のようだ。
スマートフォンのSDカードと三脚も持った。これでいくらでも写真と動画を撮ることができる。せっかくだから、若葉とひなたも撮りたい。
そろそろ楓さん達との集合時間になることに気づき、僕は足早に小学校へ向かった。
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「次は2年生の50m走か」
「若葉ちゃんとひなたが出ますね」
「カメラの準備だ」
誠司さんが取ってくれていた場所は、そこからでも運動場がしっかりと見えるとても良い場所だった。
僕と誠司さんと伊織さんがそれぞれ横並びに各々の三脚を立てる。
少ししてから2年生が入場し、50m走が始まった。前半は男子で後半は女子である。
しばらくして、ひなたの番が来た。
「ひなたぁぁぁ!!」
「!?」
「頑張ってー!」
伊織さんが今までで一番大きな声を出して驚いてしまつた。
まあ、おそらく数時間後の僕もこんな感じになるのだろう。
そしてピストルが鳴り、ひなたを含む5人の女の子達が走り出す。
必死に腕を振ってはいたが、結果は4着となった。ただ、とても可愛かった。
そして今度は若葉の番がやってくる。
「若葉ぁぁぁ!!」
「!?」
「あはは…」
今度は誠司さんが叫ぶ。隣で急に叫ばれるとさすがに驚く。楓さんが少し苦笑いしていた。
おそらく誠司さんも伊織さんも僕も、似たような親バカなのだろう。
若葉達が走り出す。そしてまた僕は驚いた。
若葉は50m走で20m近く差をつけて1着となった。圧倒的である。
「…えげつないな、若葉」
「去年もあんな感じでしたね」
「そうだったな」
去年のことを思い出す琴音さんと楓さん。去年もあんな風に圧倒的だったのか。想像に難くない。
しばらくして、今度は3年生の100m走が始まった。
そして千景の番が来る。
「千景ぇぇぇ!!頑張ってぇぇ!!」
「「!?」」
「何を驚いている。さっきのお前達もこんな感じだったぞ」
「「え」」
さすがに僕の声が大きすぎたのか、声に気づいた様子の千景が少し苦笑いしていた。
そしてポニーテールにした黒い髪を靡かせて走り、結果は3着であった。
結構インドアな子だから、上出来である。後で褒めてあげたい。
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午前の競技が終わり、れんちゃんが迎えに来てくれるのを待つ。私はどこにレジャーシートがあるのかわからない。
「千景、おまたせ」
迎えに来てくれたれんちゃんについて行きレジャーシートに辿り着くと、既に若葉とひなたも集まっていた。
「さあ千景、弁当沢山作ったから好きなだけ食べてくれ」
れんちゃんが大きな弁当箱を開けると、明らかに2人分ではないような量のおにぎりとおかずが入っていた。
「……さすがに多い」
「ちょっと作りすぎちゃった」
「わたしもちょっと食べていいですか?」
「わたしも食べたい」
一緒に弁当を食べてくれるというひなたと若葉。
「私も食べたい!」
自分で自分の弁当を作っているはずの楓さんも食いついていた。
まあ残れば夜にでも食べればいいと思いつつ、弁当を食べ始める。
「…おいしい」
感想を漏らした瞬間、れんちゃんにスマホのカメラを向けられる。
「なんで今?」
「可愛い笑顔になってたから」
思っていた以上に顔に出ていたらしい。
「うまい!」
「これも美味いぞ!」
れんちゃんの弁当を食べた乃木母娘が目を輝かせている。それにつられて父親達も気になっているようだ。
「いっぱいあるからどうぞ」
「頂きます」
そしてれんちゃんの弁当を食べた誠司さん達も笑顔になる。
美味しい料理は自然と人を笑顔にできるのだと、改めて実感する。
そうして皆で弁当を食べた結果、沢山あったれんちゃんの弁当が残ることはなかった。
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「そういえば千景、100m走の時僕の声聞こえてた?」
弁当を食べ終えてのんびりしている時、ふと思ったので聞いてみた。
関係ないが、なぜか若葉が僕の脚の間に座っている。
若葉が座ってきた時、誠司さんが無言でショックを受けていた。僕はそっと目を逸らした。
「聞こえた。さすがにはずかしかった」
「それはごめんよ」
少し反省するのだった。
「そういえば、門のところでアイスを売ってましたね」
「食べたいです」
「わたしも食べたい」
琴音さんの言葉にひなたと若葉が食いつく。さっき弁当を食べたところだが、デザートは別腹らしい。
「千景も食べる?」
「食べる」
「じゃあ皆で買いに行こうか」
子供達を連れて立ち上がる。
「お金は後で渡しますね」
「うん」
同じようにアイスを買う親子は多く、門の回りにはそれなりに人が集まっていた。
少し列に並んでアイスを買う。
夏の終わりのよく晴れた日に、冷たいアイスは身体によく染み渡るのだった。