冬休みに入り、クリスマスイブ当日。僕達は昼前に乃木家へやって来た。
インターホンを鳴らすと、ドタドタと廊下を走る足音が聞こえてくる。
「「メリークリスマス!」」
玄関を開けて出迎えてくれたのは、赤い三角帽子を被った若葉とひなた。なんて可愛いのだろうか、もうクリスマスプレゼントを貰った気分である。
居間に入ると、テーブルの上には既に様々な菓子が広げられていた。
「好きなだけ食べてくれ」
「いいの?」
「ああ」
若葉が千景を菓子へ促す。おそらくこれらを買ったのは楓さん達なのだろう。少しそちらへ視線をやると、楓さん達は微笑んで返してくれた。
「誠司さん達は今日も仕事?」
「はい」
「ご馳走が食べられなくて可哀想だな。代わりに私がしっかり食べておこう」
一体何が代わりなのだろう。
「パーティーゲーム、色々持ってきたよ」
千景が持ってきたカバンからテーブルゲームを色々取り出す。一瞬クトゥルフ神話TRPGのルールブックが見えた気がしたが、さすがにそれを出すことはなかった。
子供達がゲームをして遊んでいる中、僕達保護者組は台所に立っていた。
「さて、やるか」
「頑張りましょう」
「2人とも、いいお母さんだね」
一体何品作るつもりなのか。台所に広がる沢山の食材を見て、子供の為にこれだけ頑張れる親は世の中にどれくらいいるのだろうと思った。
沢山の料理を居間に運び昼食を食べ始める。それぞれの量は程々だが、品数が多い。
「おいしいです!」
「こっちもうまいぞ」
声と表情から喜んでいるのがよく伝わってくるひなたと若葉。千景はにこにこしながら無言で食べ進めていた。
「はぁぁ……可愛い…」
笑顔で並ぶ3人を、そっと写真を撮るのだった。とても良いものを得た。
「頑張った甲斐があったな」
「そうですね」
子供の笑顔は何よりも尊い、そう思う瞬間だった。
「そろそろプレゼント交換しましょうか」
「そうだな」
そう言ってプレゼントを持ち寄るひなたと若葉。千景もカバンからプレゼントを取り出す。
「どうやって交換するの?」
「番号を付けてくじ引きで決めますか?」
準備をする子供達を見守る中、僕はある事に気づいた。
「3分の1の確率で自分のプレゼントが帰ってくる?」
「あ」
「ならよくある、曲を流している間に隣に回すやつでやるか」
楓さんがスマホで動画アプリを起動する。そして流れる…国歌。
「楓さん…まじか」
「え?」
「もう楓ちゃんたら、私が流します」
そして琴音さんのスマホから流れ出すジングルベル。曲に合わせて3人もプレゼントを回し始める。
そして曲が止まり、千景の所にはひなた、ひなたには若葉、若葉には千景のプレゼントが渡った。
「今開けていいの?」
「どうぞ!」
千景がひなたのプレゼントを開けると、入っていたのは赤いリボンだった。
「わかばちゃんでもちーちゃんでも、リボン付けたらぜったい似合うと思うんです!」
「千景、付けてあげようか」
「うん」
さらさらの髪に触れ、ひなたと同じように千景にリボンを付ける。
「おお、似合う」
「いいですね!お母さん、カメラかして下さい!」
「はいはい」
赤いリボンを付けた千景は、それはもう可愛かった。思わず無言でスマホのカメラを向けて連写してしまった。
「…………はぁぁぁぁ…可愛い……」
「満足そうだな」
「それはもう」
今日は素晴らしい日だと思った。
「わたしも開けますね」
「ああ」
次はひなたが若葉のプレゼントを開ける。
「これは、シュシュですね」
「ひなたもちかげも、ポニーテールとかにしているのを見たことがないから、似合うと思ったんだ」
「わかる」
若葉がシュシュを選んだ理由に大いに共感する。千景もひなたも、後ろ髪は基本的にストレートで纏めていない。時々はポニーテールも見てみたいものである。
「じゃあ、ポニーテールにしておきますね」
シュシュで髪を纏めるひなた。普段の落ち着いた雰囲気から、少し元気っ子のような印象へと変わる。
なんて可愛らしいのだろう。
「凄く…良いね…」
「ありがとうございますっ」
そして最後は、若葉が千景のプレゼントを袋から取り出す。
「ジグソーパズルか」
「うん。1人でも皆でも楽しめるかと思って」
少し前に2人でイネスに行って選んだジグソーパズル。ボードゲームにすることも考えたが、完成した後は飾っておくこともできる。
「なるほど、なら今からみんなで完成させよう」
「え、今から?」
「ああ、後でわたしの部屋にかざろう」
そしてパズルをテーブルに広げ、3人で囲む。
若葉・ひなたと一緒に遊んでいる時、千景はいつも笑っている。こんな光景がずっと続いてほしいと思いながら、その姿を写真に残した。
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翌日。目を覚ますと、布団の傍にラッピングされた袋が置かれていた。誰がどう見てもクリスマスプレゼントである。
袋から出して確認すると、お願いしていたれんちゃんのエプロンだった。
立ち上がりリビングへ向かうと、キッチンに立つれんちゃんの姿が見えた。
「おはよう、もうすぐ朝ごはんできるからね」
「うん、おはよう」
洗面所に行き、顔を洗いながら考える。
クリスマスプレゼント、中身がわかっているのに何故わざわざラッピングしてあったのか。
わかっている。私の生まれて初めてのクリスマスプレゼントが良い思い出になるように、しっかりラッピングしてくれたのだろう。
もう5ヶ月も一緒に暮らしているのだ、れんちゃんがそういう人だということはわかっている。
リビングに戻ると、れんちゃんはテーブルの上に朝食を運んでいた。
「…ありがとう」
プレゼントの内容も、それに込められた愛情も嬉しい。それらを纏めて、素晴らしいプレゼントを貰ったことに対して感謝を伝える。
「…メリークリスマス、千景」
急に言われた感謝の言葉に少し驚いた後、れんちゃんはいつものように、優しい笑顔を私に見せてくれた。
その笑顔も含めて、私のクリスマスプレゼントだ。