花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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第16話 初家族旅行

 12月末、私達は空港にいた。正確には、飛び立つ直前の飛行機の中。今から北海道に向かうのである。

 

「飛行機に乗るのは初めて?」

 

「うん、初めて」

 

 というか旅行が初めてである。

 私はイヤホンをつけ、離陸の時を待つのだった。

 

 ──────────

 

「…耳が変」

 

「僕も」

 

 飛行機に乗ると耳が痛くなると聞いたことがあるが、本当になった。少し音が遠く聞こえる。

 

「初めての飛行機はどうだった?」

 

「空が綺麗だった」

 

 今日の天気は曇りだったが、雲の上に出た瞬間、窓の外は真っ青の晴天だった。思わずイヤホンを外して写真を撮ったほどに綺麗だった。

 

 

 空港を出ると、辺りは当然のように雪が積もっていた。

 

「雪すごい」

 

「これが北海道か」

 

 街が白い。香川ではほとんど見ることの無い光景である。

 

「とりあえず、旅館に向かいながら途中で散策しようか」

 

「うん」

 

 れんちゃんに手を引かれ、期待に胸を膨らませながら、私は北海道の大地に足を踏み出した。

 

 

 

 

 

「ラーメン美味かった」

 

「うん、おいしかった」

 

 私達は今、様々な店が立ち並ぶ商店街のような場所にいた。観光地が近いため、辺りを見回せば観光客らしき人がたくさん歩いている。

 

 昼食を食べ終え近くのお土産屋さんに入ると、すぐに目につく場所に白い恋人と白いブラックサンダーが置かれていた。

 

「これが白いブラックサンダー…!」

 

 私の知っているブラックサンダーとは違い、本当に白かった。

 

「知ってるの?」

 

「楓さんと琴音さんがおいしいって言ってた」

 

「じゃあお土産に買って帰ろう」

 

 白い恋人と白いブラックサンダーをカゴに入れるれんちゃん。しかし明らかに量が多い。

 

「そんなに買うの?」

 

「家でも食べるでしょ?今日旅館で食べてもいいし」

 

 なるほど。夜のおやつも含めた量ということらしい。

 

 レジを済ませて店を出て、また別の店に入るのを繰り返す。

 どの店に入っても大抵人は多く、冬休みの観光地の賑わいを知る。

 

 店を見て回っている途中、ふとれんちゃんが立ち止まる。

 

「すぐそこにトイレあるから、ちょっと行ってくるね」

 

「わかった、ここにいる」

 

 トイレに行くれんちゃんを見送り、その場にあったベンチに腰掛ける。

 

 何の気なしに正面を見れば、服屋のショーウィンドウ。そこに張り付く眼鏡を掛けた女の子。

 そこに飾られている服は明らかに大人用で、それを欲しがっているわけでもないだろう。服のデザインが好きなのだろうか?

 

 そんな事を考えていると、ふと振り返った女の子と目が合う。

 すぐに目を逸らしたが時既に遅く、なぜか女の子がこちらへ歩み寄ってきた。

 

「…すごくかわいい」

 

「…え、わたし?」

 

 なぜか唐突に褒められる。その女の子は私を見て妖しい笑みを浮かべている。

 

「えっと…何か用?」

 

 いつまでもこちらを見ている女の子に、問いを投げ掛ける。

 

「試着室でファッションショーしてください!」

 

「は?」

 

 少し着せ替え人形になってほしいということだろうか。

 そんなやり取りをしていると、れんちゃんがトイレから戻ってきた。

 そして私と眼鏡の女の子を見て、驚いたような表情を見せた。まるで若葉、ひなたと出会った時のような。

 

「…どういう状況?」

 

「この子が、試着室でファッションショーをしてほしいって言ってきて」

 

「そうです!」

 

 話を聞きながら、落ち着いた表情に戻るれんちゃん。

 

「君、名前は?」

 

「秋原雪花です」

 

「…そうか」

 

 今度は懐かしむような表情で雪花と名乗る女の子の頭を撫でるれんちゃん。

 そしてこちらへ向き直り、口を開く。

 

「いいんじゃない?」

 

「え、なんで?」

 

「可愛い千景が見られそうだから」

 

「えぇ…」

 

 そういうわけで、私達3人は服屋に入るのだった。

 

 ──────────

 

「じゃあこれ着てみて」

 

 試着室前で待つ千景に、雪花が一組の服を渡す。受け取った千景は試着室へと入り、そっとカーテンを閉めた。

 

「楽しみだ」

 

「うん!」

 

 雪花と共に試着室前で千景の着替えを待つ。数分も経たないうちに、カーテンが開かれた。

 

「着たけど」

 

「いいね、似合ってる!」

 

「ああ…可愛い……」

 

 下はプリーツミニスカートとニーハイソックス、上は長袖Tシャツの上にジップパーカーを着ている。

 僕はスマホのカメラをそっと連写した。

 

「じゃあ次はこれおねがい」

 

 いつの間に用意したのか、雪花が次の服を千景に渡す。

 

「今着てるこれはどうしたらいい?」

 

「買おう」

 

「え、買うの?」

 

「時々着てほしいな」

 

「…まぁ、いいけど」

 

 そしてまたカーテンを閉める千景。視線を下げると、雪花がこちらを見上げていた。

 

「気に入りました?」

 

「そりゃあもう」

 

 千景が着替えている間に、ふと思ったことを雪花に尋ねる。

 

「なんで1人でこんなところにいるの?家族は?」

 

 小学2年生の女の子が1人でぶらついているのはどうなのか。

 

「わたしの家がこの近くで、この辺はよく1人で来るんです」

 

 うちの近所の商店街に若葉達だけで行くようなものだろうか。

 周りの店の店員さん達が顔見知りであれば、多少は安心できる。

 

 そんなことを話しているうちに千景の着替えが終わり、カーテンが開く。

 今度は黒いワンピースで、腰の辺りをベルトで締めている。少し大人びた雰囲気の服装だが、普段落ち着いた性格の千景の魅力を引き出しているように感じる。

 

「…素晴らしいな」

 

「でしょ?かわいいから色んな服が似合うし、えらぶのも楽しい」

 

 またそっとカメラを連写する。夜に旅館で写真を整理しよう。

 

「…これも買うの?」

 

「買ったら着てくれる?」

 

「それはまあ、着ないともったいないし」

 

「じゃあ買おう」

 

 

 

 その後も何度か着替えを繰り返し、その全てを購入することとなった。選んだ雪花も大変満足気である。

 

 

「それじゃあ僕らはそろそろ行くけど、1人で帰れる?家まで送ろうか?」

 

「大丈夫だよ。あ、そうだ」

 

 何か忘れていたことを思い出したように、雪花が言葉を続ける。

 

「ちかげさんは聞いたけど、お兄さんの名前はまだ聞いてなかったね」

 

「あ、言ってなかったか。郡蓮花だよ」

 

「じゃあちかげさんはこおりちかげ?」

 

「うん」

 

 僕が千景と呼んでいたから、そこだけ知っていたのか。

 

「よし、おぼえた!また北海道に遊びに来てね!」

 

「ああ、元気でな」

 

「またね」

 

 手を振りながら去って行く雪花を見送り、僕達も旅館への道を歩き出した。

 

 ──────────

 

「あ"あ"〜いい湯だ…」

 

「おじいちゃんみたい」

 

「せめてオッサンと言ってくれ」

 

 夜、旅館にて。僕達は部屋に個別である温泉に浸かっていた。多少値は張ったが、千景を1人で大浴場に行かせるのも少し不安な為、部屋に温泉がついている旅館を選んだ。

 

「上がったら買ってきたお菓子食べようか」

 

「うん、じゃあ上がる」

 

 行動が早い千景。まあ既にそれなりの時間浸かっているので、別に構わない。

 

 

 

「今日は面白い子に会ったね」

 

 白い恋人を食べながら今日を振り返る。

 

「わたしはつかれたけど」

 

「お疲れ様、可愛かったよ」

 

 千景の服を大量に買った。しばらく冬服には困らないだろう。何枚か半袖の服もあったから夏も困らないかもしれない。

 

「また会えるといいね」

 

「…そうね」

 

 同じ時間を楽しんだ仲だが、友達と呼ぶには一緒に過ごした時間が短いだろうか。

 

 まあ焦る必要はない。きっとまた会えるだろう。

 

 おやつタイムを終え、千景が布団に入っていく。

 

「電気消すね」

 

「うん」

 

 消灯し、僕も布団に入る。たくさん歩いた疲れからか、急に眠気が強くなる。

 

「明日は雪山で遊ぼうか」

 

「うん。わたし、スキーとかした事ないけど」

 

「一緒にソリで滑ろう、スキーと違って座ってるだけだから、難しくないよ」

 

「うん」

 

 隣に並んだ布団から、千景の手がこちらに伸びてくる。僕も布団から手を出し、千景の手を握る。

 最近は、こうして手を繋いで眠ることが多くなった。

 手から伝わる温度に安心感を覚え、眠りにつきやすいように思う。ただ相手の体温を感じていたいという思いもあるが。

 

「おやすみ、千景」

 

「おやすみなさい」

 

 明日を楽しみに思いながら、僕達は睡魔に身を任せた。




秋原雪花
 北海道で暮らす小学2年生の女の子。眼鏡をかけており、モフりがいがありそうなフワッとした髪をしている。オシャレが好きでファッションに興味がある。
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