花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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第17話 たくさんの初めて

 片手にソリを持ち、もう片手に千景の手を繋ぎ、雪を歩き踏みしめる。僕達はゲレンデに来ていた。

 

「さすがに人が多いな」

 

 冬休みの北海道のゲレンデは、たくさんの旅行客で賑わっている。

 雪で遊ぶということもあり、今日の千景は厚着をしている。もこもこしていてとても愛らしい。

 

「じゃあ早速、ちょっと登って滑ろうか」

 

「うん」

 

 千景の手を引いてリフトへ向かう。列ができているので最後尾に並ぶ。

 

「ベンチが回ってる…!」

 

「リフトって言うんだよ。これに乗ったら上まで運んでくれるんだ」

 

 少しして順番が来たら、回ってきたリフトに腰掛ける。千景は上手く座れるか不安がったので、僕が抱きかかえて乗ってから隣に座った。

 

「すごい、高い」

 

 しばらく乗っていれば、全く足が届かないような高さに上がっていく。

 

「落ちたらどうなるのかな…」

 

「雪に落ちても柔らかいから多分大丈夫だよ」

 

 少しすれば降り口が見え、リフトから立ち上がり降りる。それなりの高さではあるが、一番下まではいくつか段階がある。

 

「この辺からちょっとずつ滑っていこう」

 

「うん」

 

 ソリを置いて僕が座り、脚の間に千景が座る。腕で千景を覆うため、千景が落ちることはない。

 

「よし、じゃあ行くよ?」

 

「いいよ」

 

 体重移動でソリを少し前へ動かし、坂を下り始める。千景にとっては幸か不幸か、その坂は少しだけ急な傾斜であり、それなりにスピードが出てしまった。

 

 

「きゃあああー!!」

 

 

 

 

 一旦平らな所まで滑り降り、自然とソリが止まった。

 

「えっと、大丈夫?」

 

「大丈夫、これ楽しい」

 

 千景はジェットコースターとかが好きなタイプだろうか。先程の悲鳴は怖くて叫んでいたわけではなく、はしゃいでいただけのようだ。

 千景が大きな声を出してはしゃぐ姿はとても珍しく、ここに来て良かったと心から思った。できることならはしゃぐ様子を動画で撮りたいが、スマホを持って滑るのは危ないのでやめておこう。

 

「じゃあ、ここから一気に途中で止まらずに滑ってみる?」

 

「うんっ」

 

「よし、行くぞ!」

 

 勢いを乗せて坂に入り、どんどんソリは加速していく。

 

「きゃああああぁーーー!!」

 

 千景の楽しげな声は僕の胸に響く。とても楽しんでくれていることに嬉しくなる。

 

 勢いを乗せたソリは坂と平場で加速と減速を繰り返しながらも、止まることなく一番下まで滑り降りた。

 

 

 

 何度かリフトで登って滑ってを繰り返し、お昼時になってきた頃。僕達はさっきまでとは別のリフトに乗っていた。

 

「なんでさっきのリフトじゃないの?」

 

「このリフトは頂上まで登るんだ。で、頂上にはレストランがあるから、そこで昼ごはんを食べよう」

 

「なるほど」

 

「その後、頂上から滑って降りようか」

 

「うん!」

 

 すっかりソリにハマったようである。もう少し大きくなったら、スキーを教えてみようか。

 

 ──────────

 

「カツカレーおいしかった」

 

「暖まったね」

 

 レストランでカツカレーを食べ終え外に出る。今も続々と、昼食を食べるためにリフトで人が登ってくる。

 

「だいぶ混んできたな。ちょっと早めに来てよかった」

 

 レストランの回りに大量のスキー板が雪に刺さっている中、れんちゃんがソリを見つけ歩き出す。

 

「じゃあ、下まで滑ろうか。さすがに高いから、一気に滑らずに途中で止まるね」

 

「うん」

 

 坂の近くにソリを設置して乗り込むれんちゃん。続いて私も乗り込み、スタートを待つ。

 

「…ん?」

 

 しかし待ってもソリは動かず。どうかしたのかと、振り返りれんちゃんを見る。

 すると、れんちゃんは正面の空を見ていた。

 

「どうしたの?」

 

「見てごらん、千景」

 

 れんちゃんが指さしたほうを見れば、空が輝いていた。

 

「きれい……これ何?」

 

「ダイヤモンドダストなのかな?僕も見た事無いからわからないけど、空気中の氷の結晶に日光が反射して輝くんだって」

 

 これがダイヤモンドダストなのだろうか。そうであってもなくても、とても貴重な光景を見ることができた。

 

「写真撮っておこう。千景も入って」

 

「うん」

 

 ソリから立ち上がり、れんちゃんがダイヤモンドダストを背景にして、私にスマホのカメラを向ける。

 

「撮るよ?はい、チーズ」

 

 撮れた写真を2人で見る。

 

「綺麗だね…」

 

「うん」

 

 写真の中の私は笑っている。そして今の私も笑っているだろう。

 れんちゃんは私に、たくさんの初めてを経験させてくれる。今回の旅行も、初めて雪山で遊んだし、凄く綺麗な光景も見られた。旅行自体も初めてである。

 

 帰りの飛行機の中、これから先はどんな初めてを経験させてくれるのだろう、なんてことを考えながら、疲れから来る眠気に身を任せた。

 

 ──────────

 

「なんてことがあったの」

 

「すごいですね、この写真!」

 

 旅行から帰った翌日、お土産を渡す為に乃木家に集まり、旅行中に撮った写真を見せていた。

 

「これが白いブラックサンダーか。たしかに白いな」

 

「美味しいよ」

 

 乃木家にあげた白いブラックサンダーは、若葉の手によって即開封される。

 

「街中で急に試着をお願いしてくる女の子…、子供じゃなかったらただの不審者だな」

 

「…確かに。でもまあいい子だったよ」

 

「うん」

 

 確かに、知らない人に声をかけて着替えさせるなんて、雪花はちょっと変な子ではある。

 

「次は夏休みに沖縄でも行こうかな」

 

「本当に!?」

 

「うん、千景が行きたいなら行こう」

 

 夏休みの絵日記に書くことが決まった。

 

「いいなぁ沖縄」

 

「またお土産買ってくるね」

 

「ありがとうれんかさん!」

 

 笑顔になる若葉の髪を撫でるれんちゃん。

 

「気にしなくていいんだぞ?」

 

「構わないよ、この子達がそれで喜んでくれるなら」

 

 れんちゃんは私達が喜ぶことなら、何でもしてくれて喜ばせてくれる。

 だから私は、れんちゃんが喜ぶことをしてあげたい。

 私はまだ子供だから、たくさんお金が使えるわけでも、できることが多いわけでもない。

 

「…ん?千景、どうかした?」

 

「ん〜ん、何でもない」

 

 それでも、私のできることで頑張ろう。私を見て微笑んでくれるれんちゃんを見て、そう思った。

 

 最近はれんちゃんに料理を教えてもらっているし、1人で何か作ってみようか。




千景
 蓮花がたくさんのものをくれるから、出来る限りお返しがしたいめっちゃ良い子。高い物を買ってプレゼントしたりはできないけれど、想いを込めて料理を作ることはできそう。味は別として。

蓮花
 千景達が笑顔でいてくれれば十分嬉しい人。

乃木家の白いブラックサンダー
 若葉と楓に完食され、誠司の口には入らなかった。
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