片手にソリを持ち、もう片手に千景の手を繋ぎ、雪を歩き踏みしめる。僕達はゲレンデに来ていた。
「さすがに人が多いな」
冬休みの北海道のゲレンデは、たくさんの旅行客で賑わっている。
雪で遊ぶということもあり、今日の千景は厚着をしている。もこもこしていてとても愛らしい。
「じゃあ早速、ちょっと登って滑ろうか」
「うん」
千景の手を引いてリフトへ向かう。列ができているので最後尾に並ぶ。
「ベンチが回ってる…!」
「リフトって言うんだよ。これに乗ったら上まで運んでくれるんだ」
少しして順番が来たら、回ってきたリフトに腰掛ける。千景は上手く座れるか不安がったので、僕が抱きかかえて乗ってから隣に座った。
「すごい、高い」
しばらく乗っていれば、全く足が届かないような高さに上がっていく。
「落ちたらどうなるのかな…」
「雪に落ちても柔らかいから多分大丈夫だよ」
少しすれば降り口が見え、リフトから立ち上がり降りる。それなりの高さではあるが、一番下まではいくつか段階がある。
「この辺からちょっとずつ滑っていこう」
「うん」
ソリを置いて僕が座り、脚の間に千景が座る。腕で千景を覆うため、千景が落ちることはない。
「よし、じゃあ行くよ?」
「いいよ」
体重移動でソリを少し前へ動かし、坂を下り始める。千景にとっては幸か不幸か、その坂は少しだけ急な傾斜であり、それなりにスピードが出てしまった。
「きゃあああー!!」
一旦平らな所まで滑り降り、自然とソリが止まった。
「えっと、大丈夫?」
「大丈夫、これ楽しい」
千景はジェットコースターとかが好きなタイプだろうか。先程の悲鳴は怖くて叫んでいたわけではなく、はしゃいでいただけのようだ。
千景が大きな声を出してはしゃぐ姿はとても珍しく、ここに来て良かったと心から思った。できることならはしゃぐ様子を動画で撮りたいが、スマホを持って滑るのは危ないのでやめておこう。
「じゃあ、ここから一気に途中で止まらずに滑ってみる?」
「うんっ」
「よし、行くぞ!」
勢いを乗せて坂に入り、どんどんソリは加速していく。
「きゃああああぁーーー!!」
千景の楽しげな声は僕の胸に響く。とても楽しんでくれていることに嬉しくなる。
勢いを乗せたソリは坂と平場で加速と減速を繰り返しながらも、止まることなく一番下まで滑り降りた。
何度かリフトで登って滑ってを繰り返し、お昼時になってきた頃。僕達はさっきまでとは別のリフトに乗っていた。
「なんでさっきのリフトじゃないの?」
「このリフトは頂上まで登るんだ。で、頂上にはレストランがあるから、そこで昼ごはんを食べよう」
「なるほど」
「その後、頂上から滑って降りようか」
「うん!」
すっかりソリにハマったようである。もう少し大きくなったら、スキーを教えてみようか。
──────────
「カツカレーおいしかった」
「暖まったね」
レストランでカツカレーを食べ終え外に出る。今も続々と、昼食を食べるためにリフトで人が登ってくる。
「だいぶ混んできたな。ちょっと早めに来てよかった」
レストランの回りに大量のスキー板が雪に刺さっている中、れんちゃんがソリを見つけ歩き出す。
「じゃあ、下まで滑ろうか。さすがに高いから、一気に滑らずに途中で止まるね」
「うん」
坂の近くにソリを設置して乗り込むれんちゃん。続いて私も乗り込み、スタートを待つ。
「…ん?」
しかし待ってもソリは動かず。どうかしたのかと、振り返りれんちゃんを見る。
すると、れんちゃんは正面の空を見ていた。
「どうしたの?」
「見てごらん、千景」
れんちゃんが指さしたほうを見れば、空が輝いていた。
「きれい……これ何?」
「ダイヤモンドダストなのかな?僕も見た事無いからわからないけど、空気中の氷の結晶に日光が反射して輝くんだって」
これがダイヤモンドダストなのだろうか。そうであってもなくても、とても貴重な光景を見ることができた。
「写真撮っておこう。千景も入って」
「うん」
ソリから立ち上がり、れんちゃんがダイヤモンドダストを背景にして、私にスマホのカメラを向ける。
「撮るよ?はい、チーズ」
撮れた写真を2人で見る。
「綺麗だね…」
「うん」
写真の中の私は笑っている。そして今の私も笑っているだろう。
れんちゃんは私に、たくさんの初めてを経験させてくれる。今回の旅行も、初めて雪山で遊んだし、凄く綺麗な光景も見られた。旅行自体も初めてである。
帰りの飛行機の中、これから先はどんな初めてを経験させてくれるのだろう、なんてことを考えながら、疲れから来る眠気に身を任せた。
──────────
「なんてことがあったの」
「すごいですね、この写真!」
旅行から帰った翌日、お土産を渡す為に乃木家に集まり、旅行中に撮った写真を見せていた。
「これが白いブラックサンダーか。たしかに白いな」
「美味しいよ」
乃木家にあげた白いブラックサンダーは、若葉の手によって即開封される。
「街中で急に試着をお願いしてくる女の子…、子供じゃなかったらただの不審者だな」
「…確かに。でもまあいい子だったよ」
「うん」
確かに、知らない人に声をかけて着替えさせるなんて、雪花はちょっと変な子ではある。
「次は夏休みに沖縄でも行こうかな」
「本当に!?」
「うん、千景が行きたいなら行こう」
夏休みの絵日記に書くことが決まった。
「いいなぁ沖縄」
「またお土産買ってくるね」
「ありがとうれんかさん!」
笑顔になる若葉の髪を撫でるれんちゃん。
「気にしなくていいんだぞ?」
「構わないよ、この子達がそれで喜んでくれるなら」
れんちゃんは私達が喜ぶことなら、何でもしてくれて喜ばせてくれる。
だから私は、れんちゃんが喜ぶことをしてあげたい。
私はまだ子供だから、たくさんお金が使えるわけでも、できることが多いわけでもない。
「…ん?千景、どうかした?」
「ん〜ん、何でもない」
それでも、私のできることで頑張ろう。私を見て微笑んでくれるれんちゃんを見て、そう思った。
最近はれんちゃんに料理を教えてもらっているし、1人で何か作ってみようか。
千景
蓮花がたくさんのものをくれるから、出来る限りお返しがしたいめっちゃ良い子。高い物を買ってプレゼントしたりはできないけれど、想いを込めて料理を作ることはできそう。味は別として。
蓮花
千景達が笑顔でいてくれれば十分嬉しい人。
乃木家の白いブラックサンダー
若葉と楓に完食され、誠司の口には入らなかった。