花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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小学校低学年の千景は中学の時ほど大人びた口調ではない、と思う。


第2話 確かな愛情

 千景を引き取って二日後の昼、僕らは香川県丸亀市でうどんを啜っていた。

 注文したのはどちらも肉うどん。千景にオススメを聞かれたのでこうなった。

 メニューを見れば、ざるうどんやきつねうどん、肉うどんに肉ぶっかけうどん、天ぷらうどん、とろろうどんなど色々あるが、肉うどんと肉ぶっかけうどんの違いは僕にもよくわからない。

 

「…おいしい」

 

 千景は俯きがちだった顔を上げ、香川のうどんを堪能している。どうやらうどん県のうどんはお気に召したらしい。

 ここに来るまで千景は不安そうにしていたが、美味しいうどんを食べて零した微笑みを見て僕も少し安堵した。

 

「天ぷらとかおにぎりも食べる?」

 

「うん」

 

 メニューを見てかぼちゃやさつまいもの天ぷら、おにぎり数種を追加で注文する。

 

「食べ終わったら、モデルルーム見に行こうか」

 

「家を探すの…?」

 

「うん。いつまでもホテルに泊まり続けるのは財布に痛いから、早く見つけないとね」

 

 それなりに貯金を準備してきてはいるが、無限ではないのだ。早く見つけなければ、千景との新生活がもやし炒めスタートになってしまう。

 まだ見ぬ新居を想像しながら、僕らは運ばれてきた天ぷらを咀嚼するのだった。

 

「…美味い」

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を終えた僕達は、三つ目のマンションのモデルルームを見に来ていた。

 千景と二人での生活なら、マンションでも広さは十分だろう。そう思って近くのマンションを見て回っていたら、もう太陽は沈み始めていた。

 二人でモデルルームに足を踏み入れる。

 

「ここ、家賃のわりに広いし綺麗だね」

 

「うん」

 

 リビングの隣に和室、その他に部屋が二つ。二人で住むには十分な広さだろう。

 

「千景の住みたい家は今日見た中で見つかった?」

 

「……ここがいい」

 

「わかった、じゃあここにしよう」

 

「…れんかさんはいいの?」

 

 僕の即答に少し心配になったのだろうか、不安そうな顔で千景が聞いてくる。

 

「いいよ。千景に選んでほしかったし、僕も気に入った」

 

 千景が幸せに暮らす為の家なのだから、千景が気に入った家にしたいと思う。

 

「ならいいけど…」

 

「うん。選んでくれてありがとう」

 

「そんなこと…」

 

 お礼を言われ慣れていないのか、少し照れる千景が可愛い。

 千景の笑顔を隣で見守っていく為にも、頑張って早く手続きを済ませようと小さな決意をする。

 入居が決まるまではホテル生活が続くので、ホテルへ向かって二人で歩き出す。

 沈みゆく夕日に照らされた道を、小さな手を繋いで歩いた。

 目の前の多少の苦労と、その先にある幸せを思いながら。

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 入居の手続き等からしばらくして、入居日の昼過ぎ。私と蓮花さんは玄関前に来ていた。丸亀市のとあるマンションの2階である。

 

「今日からここが僕らの拠点です」

 

「うん」

 

 蓮花さんに促され、内心わくわくしながら中に入る。

 部屋に入ると、当たり前だが家具は無く、すっからかんだった。一応エアコンはあったが。

 

「まずは色々買いに行かないとな」

 

 続いて入ってきた蓮花さんが部屋を見渡し、必要なものをリストアップし始めた。タンスや食器棚はともかく、冷蔵庫や洗濯機などの家電はすぐにでも必要だろう。

 

「テレビが無いと千景がテレビゲームできないな」

 

「え、そこ?」

 

 ゲームはそこまで優先するべきことだろうか。

 

「うん。千景と一緒にゲームしたい」

 

「わたし、テレビゲームは持ってないんだけど…」

 

「……そうなのか」

 

 前の家で私がテレビを使える時間はあまり無かったから、自分でテレビゲームを買ったことはない。

 

「じゃあ家電を買いに行くついでに、ハードとソフトも買ってこよう!テレビが届き次第、一緒にゲームしたい」

 

「そんなにゲームが好きなの?」

 

 実はゲーマーだったりするのだろうか。

 

「好きなことを一緒にするほうが仲良くなれるかと思って」

 

「……そう」

 

 私がゲーム好きだからそんなに一緒にしたがるのか。私も誰かと一緒にプレイしてみたいゲームは沢山あったから、いい機会かもしれない。

 

「あと、ゲームは普通に好きだよ。対戦ゲームでは多分千景には負けない」

 

 手加減されても嬉しくないので構わないが、仲良くなりたいと言いながらそれはどうなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家電やゲーム、食材を買って家に帰った私達は肉をこねていた。もう夕方なので夕食の準備である。

 

「なんでハンバーグ?」

 

「初めて千景に手料理を食べてもらうから得意料理にしようと思ってね。ハンバーグは嫌い?」

 

「……普通。ハンバーグは長い間冷凍のやつしか食べてない」

 

 最後に母がハンバーグを手作りしてくれたのはいつだったか。

 

「……そっか。じゃあ今夜は、世界一美味しいハンバーグを作ってあげよう!」

 

 なんと。ドヤ顔で世界一を宣言する蓮花さん。

 

「世界一なの?」

 

「さあ。周りの人達には『お前が店を出したら周りの飲食店が潰れるからやめろ』って言われたことがある。さすがに言い過ぎだと思うけど」

 

 そんなに美味しいのだろうか。自然とわくわくしてくる。

 

「きっと千景を満足させてあげられると思う」

 

 ハンバーグの形を整えながら優しく微笑む蓮花さん。

 私は、フライパンの上で良い音をたてるハンバーグが香ばしく焼きあがるのを楽しみに待つのだった。

 

 

 

 

 買ってきたばかりのテーブルの上に、買ってきたばかりの食器を並べる。

 そうこうしているうちに、キッチンから美味しそうな匂いが漂ってきた。どうやらハンバーグが焼けたようだ。

 蓮花さんが運んでくるハンバーグを盛りつけた皿には、ポテトサラダも乗っていた。

 

「ポテトサラダ、いつの間に作ったの?」

 

「ハンバーグを焼いてる間にぱぱっとね。さっ、食べよう」

 

 私の前に置かれたハンバーグ。見た目だけでもジューシーなのはわかる。箸で切ると、想像通りに大量の肉汁が溢れて手作りのソースと絡んでいく。

 蓮花さんは私の正面に座り、食べ始めることなく私を見ている。その表情を見るに、私が一口食べてどんな反応を見せるか待っているようだ。

 

「いただきます」

 

 一口サイズに切ったハンバーグを口に運び、咀嚼する。

 

 

 

 思わず、涙が零れた。

 

 蓮花さんのハンバーグは、私が今まで食べた料理のなかで間違いなく一番美味しく、温かかった。

 

「どっ、どうした!?熱かった!?」

 

 心配してくれる蓮花さんに対して首を横に振る。

 

「そうじゃ、ないの…………なんでかな…」

 

 心ではわかっていた。愛情の無い料理の冷たさを知っているからこそわかる温かさ。

 蓮花さんを安心させようとハンバーグを食べ進める。

 零れる涙は量を増し、抑えようにも止められない。

 

「千景…」

 

 蓮花さんが私をそっと抱き締め、優しく頭を撫でる。長い間感じていなかった人のぬくもりが伝わってくる。

 ついに嗚咽混じりに泣き始める私を、蓮花さんは何も言わずに泣き止むまで抱き締め続けた。

 

 

 

 僕にとって君は大切な人なのだと、僕がそばにいるから大丈夫だと、伝えるように。伝わるように。




郡 千景
 学校ではいじめを受け、村人からは冷たく当たられ、両親は親権を押し付け合っている状況の中、小学三年生の7月、突如現れた青年に引き取られ村を出る。自分の世界に浸れるためゲームが好きで、一人でできる携帯ゲームを多く持っている。パーティーゲームやボードゲームにも興味はあるが、一緒にする相手がいなかったので持ってはいない。

郡 蓮花
 千景の前に突如現れた黒髪の青年。おそらく千景全肯定マン。苗字は千景に合わせて郡にした。料理が非常に得意だが家事万能。インドアかと思われがちだが実はアウトドア寄りで、本当に人間なのかと疑われるほど身体能力が高い。すらっとした細マッチョのような体型をしているが、アスリートを軽く超える筋肉密度を誇る。
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