花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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小学3年生から料理の練習してたら中学生になる頃には料理上手ですね。


第20話 贈る想いとチョコレート

「そういえば、もうすぐバレンタインですね」

 

「……そうだったわね」

 

 放課後、若葉達と帰っている時にふとそんな話題が出てきた。

 私は今まで縁がなかったから、すっかり忘れていた。

 

「ちーちゃんはれんちゃんにチョコあげるんですか?」

 

「そうね。できれば手作りしたいけど、作れるかな」

 

「店で買うのはだめなのか?」

 

「せっかくれんちゃんに料理を教えてもらってるし、成長を見せる意味でも手作りしたい」

 

 市販のチョコより味は落ちてしまうかもしれないが、料理は気持ちが大事なのだ。手作りで日頃の感謝を伝えたい。

 

「あ、でも…」

 

「どうした?」

 

「家のキッチンで作って冷蔵庫に入れていたら、れんちゃんにバレる」

 

「たしかに」

 

 作れるかどうか以前に、作れる場所が必要であることに気づいた。できればサプライズにしたいのだ。

 

 

 乃木家に着いた後、その事を楓さんに言ってみると。

 

「なら、放課後にうちの台所で作るか?」

 

「いいの?」

 

「ああ、いいよ。何を作るのか教えてくれたら、こっちで材料も用意しておこう」

 

「ありがとう」

 

 場所の問題はあっさりと解決するのだった。

 

「わたしもれんかさんにあげるチョコ作ろうかな。ついでに父さんにも」

 

「若葉、ついでとか言ったら父さんショック受けるぞ」

 

「ひなたはれんちゃんにチョコあげるの?」

 

「そのつもりです!」

 

「そうなのね」

 

 若葉とひなたもれんちゃんにチョコをあげるのか。作るものが被らないように相談しておこう。

 

 ──────────

 

 数日後の放課後。

 

「ちーちゃんは何作るんですか?」

 

「わたしはチョコマフィンを作ってみる」

 

「1人で作れるか?」

 

「レシピを見ながら作るから、多分なんとかなる」

 

 心配してくれる楓さんに、レシピ本のページを開いて見せる。作り方はたいして難しくはなく、ざっくり言えば材料を混ぜて型に流し入れて焼くだけである。

 

 既に15時半なので、れんちゃんが帰ってくるまで約2時間程度、あまり時間がないので早速作り始める。

 

 耐熱ボウルにマーガリンと割った板チョコを入れ、溶けるまで温めて混ぜる。

 そこへ砂糖、ココアパウダーを加えて泡立て器でよく混ぜ、卵を入れて滑らかになるまで混ぜる。

 その後、薄力粉とベーキングパウダーを加え、またひたすら混ぜる。

 

 私が混ぜている隣では、ひなたと若葉がそれぞれ母に手伝ってもらいながら調理している。

 

「お母さん、これでいいですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 その姿は、私がれんちゃんに料理を教わっている時を思い出す。優しく分かりやすく教えてくれる、れんちゃんと触れ合う時間は私の楽しみの1つだ。

 

 そうこうしているうちにいい感じになってきたので、生地を型に流し入れ、20分弱焼き始める。

 

「ちかげのほうからいい匂いがしてきたな。もしかしてもうすぐ完成するのか?」

 

「ええ、焼き終わったら完成」

 

「ちーちゃんすごいですね!」

 

 真っ直ぐ褒めてくるひなたの言葉に照れるが、自分が成長していることを実感する。

 

 少しして、焼き上がったチョコマフィンを1つ食べてみると、ちゃんと美味しくできていた。これなられんちゃんに渡しても恥ずかしくない味だ。

 

「よかった、ちゃんとできた」

 

「1つ食べていいか?」

 

「うん、多めに作ったからどうぞ」

 

 若葉が調理の手を止めて、私のマフィンを1つ口に運ぶ。

 

「おお、うまい!」

 

「わたしもいいですか?」

 

「うん」

 

「いただきます、はむ…おいしいです!」

 

 若葉とひなたの反応から、他人からしてもちゃんと美味しくできているとわかる。他人の評価は安心材料の1つになる。

 

「これを今日はここに置いておいて、明日の放課後に取りに来るのか?」

 

「うん、そのつもり」

 

 今日はバレンタイン前日、今日持って帰って冷蔵庫に入れているとバレてしまう。それでは意味が無い。

 

「じゃあ、暗くなる前に帰るね」

 

「はい、また明日!」

 

「またな」

 

 

 乃木家を出て家に向かう。真冬の夕方、既に夕日は落ちかけていた。

 ──────────

 

「ただいまー」

 

 玄関の扉を開いて家に入る。玄関にはいつも見ている千景の靴。

 

「おかえりなさい」

 

 リビングの扉からひょこっと顔を出した千景が迎えてくれる。顔の出し方が可愛らしい。

 

「すぐ晩ご飯作るね」

 

「うん、手伝う」

 

 荷物を置いて上着を脱ぎ、キッチンへ向かいエプロンをつける。

 

「今日は生姜焼きにしようかな」

 

「あの、れんちゃん」

 

「ん?」

 

 後ろ手に何かを持ち、モジモジとしながら近づいてくる千景。そんな姿もまた可愛い。

 

「……これ、どうぞ。…いつもありがとう」

 

 差し出されたのは、可愛らしくラッピングされた袋。その中に入っていたのはチョコマフィン。

 

「もしかして、バレンタインのチョコ?」

 

 僕の問いに千景は小さく頷く。なんということでしょう。

 

「ありがとう千景。凄く嬉しい…」

 

「…よかった……」

 

 安堵したように笑顔を見せる千景をとても愛おしく思い、少ししゃがんで抱き締める。

 

「じゃあ、これは晩ご飯の後に食べるね」

 

「うん」

 

 一旦マフィンを冷蔵庫に入れ、今度こそ夕食を作ろうとした瞬間、インターホンが鳴った。

 

「ん、誰だろう……はい?」

 

『こんばんは〜』

 

「ひなた?」

 

『はい!』

 

 インターホンに出てみれば、帰ってきたのはひなたの声だった。こんな時間にどうしたのだろうかと思いながら玄関の扉を開く。

 

「「こんばんは!」」

 

「こんばんは、どうしたの?」

 

 扉の前には、ひなただけでなく若葉と、おそらく付き添いで楓さんもいた。

 

「バレンタインチョコのおとどけです!」

 

「わたしからもどうぞ」

 

 そういって包みを渡してくるひなたと若葉。おそらく今の僕は顔のにやけを隠せていないだろう。

 

「ありがとうひなた、若葉」

 

 可愛らしい2人の少女達の髪を撫でると、くすぐったそうにしながらも嬉しそうにしてくれる。

 

「今度おいしかったか教えてくださいね」

 

「ああ、わかった」

 

「それじゃあ帰ろう、晩ご飯が待っている」

 

「ああ」

 

「またね」

 

 3人の後ろ姿を見送り、キッチンに戻った僕は今度こそ夕食を作り始めた。

 

 

 

 

 

 夕食を終えて風呂にも入った後、僕は3つのチョコをテーブルの上に置いた。

 

「もしかして1人で作ったの?」

 

「うん。若葉とひなたもおいしいって言ってくれたから、多分味は大丈夫」

 

「じゃあ、いただきます」

 

 チョコマフィンを口に運び咀嚼する。

 

「おお、美味しい!焼き加減もちょうどいいね、中がフワフワだ」

 

「喜んでもらえてよかった…」

 

「成長してて凄いよ千景!」

 

「うん…」

 

 髪をわしゃわしゃと撫でると、照れて少し俯く千景。

 続いて若葉とひなたのチョコも食べながら、ホワイトデーのお返しは気合いを入れようと決意するのだった。

 

 

 

 

 明かりを消し、千景と一緒に布団に入る。千景の誕生日以降、千景が僕の布団に潜り込んでくるようになっので、1枚の布団で一緒に寝るようになった。

 

「ありがとね、千景」

 

「え?何が?」

 

「チョコもだけど、僕は毎日千景に癒されてるから」

 

「…そう」

 

 千景の笑顔の為ならば、僕はどんなことでも頑張れる。今までも、これからも。

 

 チョコと共に日頃の感謝を伝えてくれた千景に、何度目かわからないが僕も想いを伝える。

 

「千景。大好きだよ」

 

「……ん」

 

 胸板に顔を擦り寄せてくる千景を抱き締め、幸せに浸りながら眠りに落ちていった。

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