花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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第1話に挿絵を追加しました。


第21話 本とみかんとエンカウント

 春休み、私達は愛媛にいた。理由は暇だったから。

 

「千景、春休みの予定はある?」

 

「特には無いけど」

 

「じゃあちょっと旅行でもしようか」

 

 といった軽い感じで決まった。

 

 

 今は海に面した道の駅のレストランで昼食を食べている。

 

「午後は旅館周りを探索するか」

 

「うん」

 

 愛媛に来たのも初めてである。やはり知らない土地を歩くのは少しワクワクする。

 

 

 

 

 昼食を終えバスで旅館近くに向かい、のんびりと辺りを散策する。

 

「せっかく愛媛に来たんだし、どこかでみかんを買って帰りたいね」

 

「お土産にもちょうどいいね」

 

 人通りの多い方へと歩いていくと、イネスに到着した。

 

「観光とは関係ないところに着いてしまった。千景は城とかの観光地を見るより、こういうところのほうが楽しめる?」

 

「そうかも」

 

「じゃあ入って色々見て回ろうか」

 

 私のような子供には、観光地に行ってもあまり楽しみ方がわからない。まだ電気屋さんでゲームコーナーを見ているほうが楽しいのだ。

 

 

「なんか、いろんな店でみかんのスイーツがあるね」

 

「おいしそう」

 

「片っ端から食べていく?」

 

「うん」

 

 そして私達はイネス内でスイーツ巡りを開始した。

 

 

 

 

「結構食べたね」

 

「そこそこお腹いっぱい」

 

 みかんを使った和菓子やアイス、パフェなど色々食べたが、私は特にみかんの入ったミルクレープが気に入った。

 

「次はどうする?まだ食べる?」

 

「おいしそうなのを見つけたら食べる」

 

「そうか。…ん?」

 

 本屋の前を通りかかった時、何かに気づいたれんちゃんが足を止める。

 視線の先には、今にも泣き出しそうにおろおろとしている女の子がいた。

 身長は私より少し低い、クリーム色でふわふわとした髪の女の子。

 れんちゃんは真っ直ぐその子に向かって歩いていき、しゃがんで目の高さを合わせて声をかけた。

 

「ねぇ、どうしたの?」

 

「…本屋さんで本を見てたら、お母さんとお父さんがどこかに行っちゃって、見つからなくて…」

 

 どうやら迷子らしい。

 

「そっか。お母さんとお父さんは本屋さんの外に行ったの?」

 

「わからない…」

 

「じゃあ、子供を置いて違う店に行ったりはしないだろうし、まだ本屋さんの中にいるかもしれないな」

 

「そうね」

 

 もしかしたらこの子の両親も、本屋の中でこの子を探しているかもしれない。

 

「君、お名前は?」

 

「伊予島杏です…」

 

 名前を聞くと、れんちゃんは杏ちゃんの手を取って立ち上がる。

 

「よし、一緒にお母さん達を探そうか!」

 

「あ…はい!」

 

 杏ちゃんの泣きそうだった顔は、少し安心したような表情に変わる。

 本屋に入って見渡すと、店内はそれなりに広く高い死角が多かった。

 

「杏ちゃんはどこにいたの?」

 

「あっちの、恋愛小説があるところです」

 

 杏ちゃんが指さした方へ進んで周囲を見ると、それは案外あっさりと見つかった。

 

「私と似た髪色の子をこの辺で見ませんでしたか!?」

 

 杏ちゃんと似た髪色の女性が、店員に話しかけていた。

 

「あ!お母さん!」

 

 れんちゃんの手を離し、その女性の方へ駆け出す杏ちゃん。それに気づいた女性も、杏ちゃんに駆け寄り抱き締める。

 

「杏!どこに行ってたの?」

 

「お母さんたちが見つからなくて、本屋さんの外に行ったのかと思って…」

 

「そうだったの…ごめんね」

 

 その様子を見守っていると、すぐに細身の男性も駆け寄ってきた。どうやら父親のようだ。

 

「見つかってよかったね、杏ちゃん」

 

「はい!」

 

「もしかして杏と一緒に探してくれていたんですか?」

 

「はい、店の前で泣きそうになっていたので」

 

「そうだったんですね、ありがとうございます!」

 

「いえいえ」

 

 杏ちゃんの両親が私達に頭を下げて礼を言う。何はともあれ見つかってよかった。

 

「あの、お名前は?」

 

「郡蓮花だよ。この子は千景ね」

 

 両親が見つかりほっとした様子の杏ちゃんの問いに、れんちゃんが杏ちゃんの頭を撫でながら答える。

 れんちゃんは子供の頭を撫でる癖でもあるのだろうか。

 名残惜しそうに手を離し、れんちゃんが立ち上がる。

 

「じゃあそろそろ行くね」

 

「さよなら」

 

「はい、さようなら!」

 

 手を振る杏ちゃんに振り返し、私達はスイーツ巡りを再開した。

 

 

 

 

 

「お、みかんを売ってる屋台があるよ」

 

 1階の広いスペースでれんちゃんが指さす先には、本当にみかんだけを売っている屋台があった。みかん農家が直接売りに来ているのだろうか。

 

 

「おっちゃん、みかんちょーだい!」

 

「タマちゃん、さっきも1個あげたろ?」

 

「もう食べた!」

 

「早いな。でもこれは売り物だから、食べたかったらお小遣い貰ってきなさい」

 

 屋台では、小柄の女の子がおじさんにみかんをねだっていた。

 

 その様子を見ながら、れんちゃんと屋台へと歩いていく。

 

「お、いらっしゃいませ」

 

「お、客だ。めずらしい」

 

「失礼な、珍しくないよタマちゃん」

 

 この子とおじさんはコントでもしているのだろうか。

 

「そうだなぁ、3袋ください」

 

「ありがとうございます!」

 

 いくつかのみかんが入った袋を3つ買い、店を離れる。

 

 おじさんと女の子のやり取りが聞こえなくなったので振り返ると、なぜか女の子がついてきていた。

 

「…れんちゃん」

 

「ん?あ……おいで」

 

 そう言ってれんちゃんは女の子を連れて近くの椅子に座ると、みかんを1つ取り出して女の子に差し出した。

 

「あげるよ」

 

「いいのか!ありがとうおっちゃん!」

 

「僕はまだお兄さんだよ…」

 

 微笑みを崩すことなくダメージを受けるれんちゃん。

 女の子は貰ったみかんをその場で皮をむいて食べ始めた。

 

「ここで食べるのか」

 

「家までガマンできない」

 

「そうなんだ…」

 

 女の子はあっという間にみかんを食べ終え、こちらに質問を飛ばす。

 

「兄ちゃん達は旅行か?」

 

「そうだよ。香川から来たんだ」

 

「へぇー、うどんがうまいんだっけ」

 

「ええ、そうよ」

 

 

 少しだけ話した後、女の子は立ち上がった。

 

「じゃあ帰るよ、みかんありがとう!またな!」

 

 

「え、うん」

 

「またね。………球子」

 

 手を振り走り去っていく女の子の後ろ姿を、れんちゃんは少し寂しそうに見つめていた。

 最後にボソッと何か言った気がしたが、私には聞き取れなかった。




タイトルの語呂がとてもいい。
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