春休み、私達は愛媛にいた。理由は暇だったから。
「千景、春休みの予定はある?」
「特には無いけど」
「じゃあちょっと旅行でもしようか」
といった軽い感じで決まった。
今は海に面した道の駅のレストランで昼食を食べている。
「午後は旅館周りを探索するか」
「うん」
愛媛に来たのも初めてである。やはり知らない土地を歩くのは少しワクワクする。
昼食を終えバスで旅館近くに向かい、のんびりと辺りを散策する。
「せっかく愛媛に来たんだし、どこかでみかんを買って帰りたいね」
「お土産にもちょうどいいね」
人通りの多い方へと歩いていくと、イネスに到着した。
「観光とは関係ないところに着いてしまった。千景は城とかの観光地を見るより、こういうところのほうが楽しめる?」
「そうかも」
「じゃあ入って色々見て回ろうか」
私のような子供には、観光地に行ってもあまり楽しみ方がわからない。まだ電気屋さんでゲームコーナーを見ているほうが楽しいのだ。
「なんか、いろんな店でみかんのスイーツがあるね」
「おいしそう」
「片っ端から食べていく?」
「うん」
そして私達はイネス内でスイーツ巡りを開始した。
「結構食べたね」
「そこそこお腹いっぱい」
みかんを使った和菓子やアイス、パフェなど色々食べたが、私は特にみかんの入ったミルクレープが気に入った。
「次はどうする?まだ食べる?」
「おいしそうなのを見つけたら食べる」
「そうか。…ん?」
本屋の前を通りかかった時、何かに気づいたれんちゃんが足を止める。
視線の先には、今にも泣き出しそうにおろおろとしている女の子がいた。
身長は私より少し低い、クリーム色でふわふわとした髪の女の子。
れんちゃんは真っ直ぐその子に向かって歩いていき、しゃがんで目の高さを合わせて声をかけた。
「ねぇ、どうしたの?」
「…本屋さんで本を見てたら、お母さんとお父さんがどこかに行っちゃって、見つからなくて…」
どうやら迷子らしい。
「そっか。お母さんとお父さんは本屋さんの外に行ったの?」
「わからない…」
「じゃあ、子供を置いて違う店に行ったりはしないだろうし、まだ本屋さんの中にいるかもしれないな」
「そうね」
もしかしたらこの子の両親も、本屋の中でこの子を探しているかもしれない。
「君、お名前は?」
「伊予島杏です…」
名前を聞くと、れんちゃんは杏ちゃんの手を取って立ち上がる。
「よし、一緒にお母さん達を探そうか!」
「あ…はい!」
杏ちゃんの泣きそうだった顔は、少し安心したような表情に変わる。
本屋に入って見渡すと、店内はそれなりに広く高い死角が多かった。
「杏ちゃんはどこにいたの?」
「あっちの、恋愛小説があるところです」
杏ちゃんが指さした方へ進んで周囲を見ると、それは案外あっさりと見つかった。
「私と似た髪色の子をこの辺で見ませんでしたか!?」
杏ちゃんと似た髪色の女性が、店員に話しかけていた。
「あ!お母さん!」
れんちゃんの手を離し、その女性の方へ駆け出す杏ちゃん。それに気づいた女性も、杏ちゃんに駆け寄り抱き締める。
「杏!どこに行ってたの?」
「お母さんたちが見つからなくて、本屋さんの外に行ったのかと思って…」
「そうだったの…ごめんね」
その様子を見守っていると、すぐに細身の男性も駆け寄ってきた。どうやら父親のようだ。
「見つかってよかったね、杏ちゃん」
「はい!」
「もしかして杏と一緒に探してくれていたんですか?」
「はい、店の前で泣きそうになっていたので」
「そうだったんですね、ありがとうございます!」
「いえいえ」
杏ちゃんの両親が私達に頭を下げて礼を言う。何はともあれ見つかってよかった。
「あの、お名前は?」
「郡蓮花だよ。この子は千景ね」
両親が見つかりほっとした様子の杏ちゃんの問いに、れんちゃんが杏ちゃんの頭を撫でながら答える。
れんちゃんは子供の頭を撫でる癖でもあるのだろうか。
名残惜しそうに手を離し、れんちゃんが立ち上がる。
「じゃあそろそろ行くね」
「さよなら」
「はい、さようなら!」
手を振る杏ちゃんに振り返し、私達はスイーツ巡りを再開した。
「お、みかんを売ってる屋台があるよ」
1階の広いスペースでれんちゃんが指さす先には、本当にみかんだけを売っている屋台があった。みかん農家が直接売りに来ているのだろうか。
「おっちゃん、みかんちょーだい!」
「タマちゃん、さっきも1個あげたろ?」
「もう食べた!」
「早いな。でもこれは売り物だから、食べたかったらお小遣い貰ってきなさい」
屋台では、小柄の女の子がおじさんにみかんをねだっていた。
その様子を見ながら、れんちゃんと屋台へと歩いていく。
「お、いらっしゃいませ」
「お、客だ。めずらしい」
「失礼な、珍しくないよタマちゃん」
この子とおじさんはコントでもしているのだろうか。
「そうだなぁ、3袋ください」
「ありがとうございます!」
いくつかのみかんが入った袋を3つ買い、店を離れる。
おじさんと女の子のやり取りが聞こえなくなったので振り返ると、なぜか女の子がついてきていた。
「…れんちゃん」
「ん?あ……おいで」
そう言ってれんちゃんは女の子を連れて近くの椅子に座ると、みかんを1つ取り出して女の子に差し出した。
「あげるよ」
「いいのか!ありがとうおっちゃん!」
「僕はまだお兄さんだよ…」
微笑みを崩すことなくダメージを受けるれんちゃん。
女の子は貰ったみかんをその場で皮をむいて食べ始めた。
「ここで食べるのか」
「家までガマンできない」
「そうなんだ…」
女の子はあっという間にみかんを食べ終え、こちらに質問を飛ばす。
「兄ちゃん達は旅行か?」
「そうだよ。香川から来たんだ」
「へぇー、うどんがうまいんだっけ」
「ええ、そうよ」
少しだけ話した後、女の子は立ち上がった。
「じゃあ帰るよ、みかんありがとう!またな!」
「え、うん」
「またね。………球子」
手を振り走り去っていく女の子の後ろ姿を、れんちゃんは少し寂しそうに見つめていた。
最後にボソッと何か言った気がしたが、私には聞き取れなかった。
タイトルの語呂がとてもいい。