「あ、かなりいい聖遺物ができたわ」
「え?」
9月末。少しずつ秋に移り変わり始めているが、まだ暑さが残る季節。千景の言葉に反応し、テレビに映るゲーム画面を見る。そこに映っていたのは、特級呪物一歩手前のサブオプションに育った聖遺物。
「いいなぁ…羨ましい」
僕も神聖遺物を手に入れるべく、再びノートPCに向き直り、終わらない聖遺物厳選に身を投じるのだった。
「もうすぐひなたの誕生日だね」
「そういえばそうね」
休憩がてら、午前中に作ったベイクドチーズケーキを切り分けて千景と2人で食べている時、そんな事を思い出した。
ひなたの誕生日は10月4日、もう1週間を切っている。
「今年も上里家で誕生日パーティーやるんだっけ」
「うん、平日の夜だから来れたら来てって言われてる」
「行こうか」
「ええ」
ひなたの誕生日を祝わないわけにはいかない。アイスコーヒーを入れたコップに口をつけながら、絶対に時間は空けておこうと考える。
「このチーズケーキ美味しい」
「よかった。千景はチーズケーキはベイクドとスフレどっちが好き?」
「うーん…どちらかというとベイクドかな」
「そうなんだ」
チーズケーキを咀嚼しながら微笑む千景。千景は僕の料理を食べている時、大体いつも笑顔になってくれる。やはり美味しい料理は人を笑顔にする。
「…あ、そうだ」
「どうかした?」
「ひなたの誕生日プレゼントなんだけどさ」
「うん」
「一緒にケーキ作らない?」
「…なるほど。作る」
何か物をあげるのもいいが、思い出に残るような凄いケーキを作るのもいいだろう。
誕生日パーティーのケーキは僕達が作っていいかと琴音さんに連絡し、どんなケーキにしようかと想像を膨らませるのだった。
──────────
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「もう行ける?」
「うん」
「じゃあ行こうか」
家に帰ってきてすぐ、千景を連れてまた家を出る。これから向かう先は上里家、ひなたの誕生日パーティーだ。
「「誕生日おめでとう、ひなた」」
「ありがとうございます!」
玄関で出迎えてくれたひなたに、千景と共に祝いの言葉を伝える。
にこにこと笑っているひなたを見ると、どうしても頭を撫でたくなるのは何故だろうか。
「こんばんは」
「こんばんはー」
リビングに入ると、既に誠二さんを除く乃木家の皆も集まっていた。
「誠二さんはまだ仕事?」
「ああ、今日は遅くなるらしい。料理は残しておかなくてもいいから」
テーブルの上には、おそらく楓さんと琴音さんが作ったのであろう数々の料理が置かれている。
「じゃあはい、とりあえず晩ご飯にしましょう」
────────
夕食を大体食べ終えてきた頃、既に食べ終えたれんちゃんが立ち上がった。
「そろそろケーキ持ってくるね」
「ああ」
楓さんから鍵を受け取ったれんちゃんが乃木家の冷蔵庫へ向かう。それを見たひなたは不思議そうな顔をした。
「ケーキ、うちの冷蔵庫に入っているんじゃないんですか?」
「入ってないよ、ひなた」
「…え」
一瞬悲しそうな顔になったひなたに、伊織さんが笑いかける。
「まあ楽しみに待っていなさい、大丈夫だよ」
「どういうことですか?」
琴音さんも立ち上がり、取り分ける皿とフォークの用意をする。
すぐに戻ってきたれんちゃんの手には、大皿に乗った3段のケーキが抱えられていた。
「え!?何ですかこれ!?」
「よいしょっと、ケーキだよ」
テーブルの中心にケーキが置かれる。
「僕と千景からの誕生日プレゼントだよ」
「そういうことよ」
ホールを3段積んだ巨大な誕生日ケーキ。1段目の1番大きなホールはチョコ、2段目と3段目は生クリームであり、1段目はバナナ、2段目はイチゴ、3段目はみかんを間に挟んでいる。
そして1番上には、チョコの板にホワイトチョコで書いた『ひなた Happy birthday!!』の文字と蝋燭。
「僕も初めて見たけど、凄いの作ったね…」
「ひなたの思い出に残るように頑張ったよ」
高さ30cmを超えていそうな巨大なケーキを前に、ひなたの目は輝いている。隣の若葉の目も輝いていた。
「ありがとうございますっ!」
「どういたしまして」
「蝋燭に火をつけるね」
れんちゃんがライターで蝋燭に着火していく。全ての蝋燭に火をつけ終わり、琴音さんが部屋の明かりを消すと、ひなたが全ての火を吹き消す。
『誕生日おめでとう!!』
「ありがとうございます!」
──────────
切り分けられたケーキを頬張り、ひなたは満面の笑みを見せた。
「すごくおいしいです!」
「…よかった」
ケーキを食べ進めるひなたを見て、少し安心したように微笑む千景。
自分の作った料理で人が笑顔になる喜びを、少し理解したのだろうか。
「よかったね」
「うん」
嬉しそうにする千景を見ていると、僕も嬉しくなってくる。
ケーキを食べる皆も、作った側の千景も笑顔の素晴らしい時間を、僕は写真として切り取り残した。
そこに僕がいなくても、千景が自然と笑えるようになってほしいと願いながら。
蓮花が撮った写真に、蓮花自身は入っていない。