花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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第26話 あなたを支える

 春休みに入り、私達は長野に来ていた。例のごとく、旅行である。

 

「…旅行しすぎじゃない?長期休みの度にしてる」

 

「嫌?」

 

「嫌じゃないけど」

 

「千景にいろんなところを見せてあげたいんだ」

 

 そう言いながら私の髪をわしゃわしゃと撫でてくるれんちゃん。

 辺りには、既にチラホラと桜が咲き始めている。春風に吹かれて花びらが舞う。

 

「なんで今回は長野?」

 

「蕎麦が食べたくなったんだ」

 

「蕎麦?スーパーに売ってるのに?」

 

 なぜわざわざこんなに遠出して食べに来たのだろう。

 

「長野の蕎麦はね、香川のうどんみたいなものなんだ」

 

「そうなの?…れんちゃんは食べたことあるの?」

 

「あるよ」

 

 香川にとってのうどんのようなものなら、確かにスーパーで1玉10円の蕎麦とは違うのだろう。

 香川で暮らし始めて2年弱、既にうどんに染まった身ではあるが、少し楽しみになってきた。

 

 

 

 

 蕎麦を求めて歩いていく途中、通りかかった公園で1人ブランコを漕ぐ少女を見つけた。ショートヘアで歳は私と近そうである。

 

 同じくその子に気がついたれんちゃんは、公園に入りその子の元へと歩いていく。

 手を繋いでいる私も当然そちらへ歩く。

 

「こんにちは」

 

「…え?わたし!?」

 

「うん」

 

 れんちゃんに挨拶され、少し驚く女の子。見知らぬ大人にいきなり声をかけられたのだから当然だろう。

 

「どうして1人で遊んでいるの?」

 

「えっと…わたし、あまり友達がいないから…」

 

「れんちゃん、いきなりそういう事聞いちゃダメよ」

 

「ごめん」

 

 れんちゃんのデリカシーの無い質問に釘を刺す。普段は気遣いの鬼なのに、どうしてたまにこうなるのだろう。

 

「じゃあ僕達と友達になろう」

 

「え?私も?」

 

 また初対面の相手にフレンド申請をするれんちゃん。そして巻き込まれる私と困惑する女の子。

 

「……いいの?」

 

「…まあいいけど」

 

 明るくなっていく女の子の表情を見て、私達も微笑む。

 そういえば大事なことを聞いていなかった。

 

「お名前は?」

 

「藤森水都、です」

 

「敬語じゃなくていいわ、歳近そうだし」

 

 ブランコから離れ、公園のベンチに腰掛ける。漕がないのにブランコの前にいても邪魔になってしまう。

 

「水都はこの近くに住んでるの?」

 

「うん、歩いてこの公園に来たの」

 

「じゃあさ、この辺で蕎麦屋さんを知らない?」

 

 そういえば私達は蕎麦屋さんを探していたのだった。

 

「知ってるよ」

 

「案内してもらってもいい?お昼に蕎麦食べたくてさ」

 

「わかった」

 

 立ち上がり、水都に続いて公園を出る。れんちゃんは少し方向音痴なところがあるので、案内してもらえるのはありがたい。

 

 

 

 

 

 5分ほど歩くと蕎麦屋に到着した。

 

「近かったね」

 

「それじゃあわたしはこれで」

 

「え?水都は食べないの?」

 

 帰ろうとする水都を呼び止めるれんちゃん。確かに水都は案内をしただけで、蕎麦を食べに来たわけではない。

 

「今お金持ってきてないから」

 

「それくらい僕が出すよ」

 

「でも、友達とお金の貸し借りはトラブルになるから良くないって聞いたし」

 

「貸すわけじゃなくて奢るつもりなんだけど…じゃあ友達としてじゃなくて、友達のお父さんとして奢るよ」

 

「…それなら、まあ」

 

「え、それでいいの?」

 

 3人で店に入り、空いている席に着く。

 

「好きなの食べてね」

 

「私は…肉そばにしようかな」

 

「わたしは月見そばで」

 

 注文し、運ばれてくるのを待っている間に店内を見回すと、隣のテーブルでは女の子が1人で、物凄く美味しそうに笑顔で蕎麦を食べていた。その子も私と歳が近そうな、ショートヘアの女の子である。

 

「ねえれんちゃん、あの子、1人で来ているのかな」

 

「え?…!!」

 

 私が指をさした方を見ると目を見開くれんちゃん。確かに子供1人でいるのはあまり見ないが、そんなに驚くことだろうか。

 

 れんちゃんは立ち上がり、その子の正面の椅子に座り話しかける。

 

「君は、1人で食べに来ているの?お父さんやお母さんは?」

 

「家にいます。わたしは家が近いから、よく1人で食べに来るんです!」

 

「そっか」

 

 家が近くて常連なのか。なら店の人とも顔見知りだろうし、親も安心しているのだろう。今見知らぬ大人に話しかけられているが。

 

「遠くから来た人?」

 

「うん、香川から旅行で来てる」

 

「香川!ということはうどん好きの人!?」

 

「まあそうだけど」

 

 女の子の声が大きくなった辺りで注文した蕎麦が運ばれてくる。それに気づいたれんちゃんは立ち上がり戻ってくる。

 

「蕎麦来たから戻るね」

 

 そして蕎麦を食べ始める。

 その味と感動は、初めて香川に来てうどんを食べた時と似ていた。

 

「凄く美味しい」

 

「おいしいね」

 

 私達が蕎麦を食べ進める横で、食べ終えたさっきの子がこちらのテーブルにやってくる。

 

「うどんとそば、どっちが美味しいですか!?」

 

「え?」

 

 この子は戦争がしたいのかしら?

 

「どっちも美味しいじゃダメなの?」

 

「ダメ……ではないですけど」

 

「いいのか」

 

 実際どちらもとても美味しいので、優劣をつける必要は無いだろう。

 

「あら?あなたは見覚えがある気がするわ」

 

「…え?わたし?」

 

 30分ほど前に同じ声で同じセリフを聞いた気がする。

 れんちゃんは蕎麦を食べる手を止めて、女の子と水都の会話を見守り始めた。蕎麦がのびないだろうか。

 

「多分学校ね。あなたは香川じゃなくてこの辺に住んでる人?」

 

「う、うん」

 

「もしかして同じ学校に通ってるの?」

 

「そうかも」

 

 どちらもこの近くに住んでいるのなら、学校が同じでもおかしくはない。

 

「君の名前は?」

 

「白鳥歌野です!」

 

「そっかそっか」

 

 歌野の頭を撫で、また蕎麦を食べ始めるれんちゃん。

 そんなやり取りを聞いている間に、私は蕎麦を食べ終えた。

 

「ごちそうさま。満足」

 

「美味しかったね」

 

 いつの間にかれんちゃんも食べ終えている。それを見た水都が少し急ごうとする。

 

「急がなくていいよ、ゆっくりで」

 

「うん、ありがとう」

 

 落ち着て食べようとする水都を見て、れんちゃんが微笑みを零す。優しさに満ちた瞳で見守っている。

 

「…友達になったのはいいけど、僕ら明日には帰っちゃうんだよね」

 

「…そっか、そうだよね」

 

 目に見えて落ち込む水都。せっかくできた友達が明日でお別れなのだから、仕方ない。

 

「一生の別れじゃないし、またここに来れば、一緒に蕎麦を食べましょう」

 

「うん」

 

 大人になれば、会いに行こうと思えばいくらでも会えるだろう。私達が長野に行くだけでなく、水都が香川に来ることもできるようになるだろう。

 

 

「じゃあ、わたしとも友達になりましょう!」

 

 急に歌野が身を乗り出し、水都にそう提案をする。対する水都は驚き、箸で挟んでいた蕎麦が滑り落ちる。

 

「え!?…いいの?」

 

「ええ!あなたのお名前は?」

 

「藤森水都」

 

「藤森水都……じゃあみーちゃんね!!」

 

「みーちゃん!?」

 

 唐突にあだ名をつけられたことにまたも驚く水都。今日は感情が忙しい日だ。

 

「あだ名をつけたほうが親しみやすいかと思って」

 

「なるほど…」

 

「水都も歌野にあだ名をつけてあげたら?」

 

 れんちゃんの提案を受け、箸を置いて考え込む水都。もう麺はのびているだろう。

 

「白鳥歌野さんだから…………うたのんなんてどうかな」

 

「あら、いいわね!よろしくね、みーちゃん!」

 

「こちらこそよろしくね、うたのん…!」

 

 立ち上がり握手を交わす2人。その様子を、れんちゃんは静かに写真に収めていた。

 

 ──────────

 

「それから、香川の2人もわたしと友達になりましょう」

 

「私達も?」

 

「もちろんよ、みーちゃんの友達はわたしの友達!」

 

 なんてフレンドリーな子なのだろう。千景や水都には無いコミュニケーション能力である。

 

「あなた達のお名前は?」

 

「そういえばわたしもまだ聞いてなかった」

 

「あれ、言ってないか…言ってないな。郡蓮花だよ」

 

「私は郡千景」

 

 まだ名前を言っていなかったことを忘れていた。名前も知らない初対面の友達についてきた水都が少し心配になる。

 

「2人は親子?」

 

「まあそうだね。歳は14歳差だけど」

 

「今更だけど兄妹のほうが良かったかしら」

 

 14歳差の親子と聞いて歌野と水都が首を傾げる。当たり前だ。どんな複雑な家庭だ。……うちも普通ではないが。

 

「……ん?どういう関係?」

 

「いろいろあってね、血は繋がってないけど家族だよ」

 

「夫婦?」

 

「ふっ!?」

 

「夫婦は確かに血は繋がってないけど家族だね」

 

 隣の千景は顔を真っ赤にして大変可愛い。なので写真を撮った後頭を撫でておく。

 

 そして水都が食べ終わると、入った時とは違い4人で店を出る。

 視界に広がる桜色の景色が、少女達の出会いを祝福しているように感じた。

 

 ──────────

 

 その後、夕方まで歌野と水都に近くを色々と案内してもらい、2人を家に送り届けた後、私達は旅館にチェックインした。

 

「今日は楽しかった?」

 

「ええ。友達も増えたし」

 

 夕食と入浴を終え、広縁の椅子に座りバニラアイスをスプーンで口に運ぶ。温まった体に冷たいアイスが染み渡る。

 前回の旅行では冬だったため遠慮したが、旅館で入浴後に食べるアイスはとても美味しく感じる。

 正面では、れんちゃんがチョコアイスを食べている。後で少し貰おう。

 

「ねぇれんちゃん」

 

「ん?」

 

「私達って、旅行の先々で私と歳が近そうな女の子に出会うね」

 

「確かにね」

 

「その内、今後再会できる子は何人いるかわからないけれど」

 

 不思議なものだ。

 

「まるで神様が引き合わせているみたい、なんてね」

 

「…そうだね」

 

 いつものように微笑んでいるれんちゃん。その笑顔はただアイスが美味しいからなのか、何か想いを隠しているのか、私にはわからない。

 

 ただ一瞬、その顔が少し淋しげに見えた気がした。

 

「れんちゃん」

 

「どうした?」

 

 れんちゃんのそんな表情を見ることはほとんど無いから。

 私は椅子から立ち上がり、れんちゃんの元へ近寄る。

 両腕をれんちゃんの首の後ろに回し、そっと抱き締める。いつもれんちゃんがしてくれるように。

 

「…私は、傍にいるからね」

 

「……ありがとね、千景」

 

 私の背中に腕を回し、抱き締め返してくれるれんちゃん。

 いつもはれんちゃんがこうして私の心を支えてくれるから、今は私がこの人を支えてあげられたら、と。そう思った。




没ネタ

「藤森水都……じゃあフジモンね!!」

「フジモン!?」
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