花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

29 / 95
友奈狙いでガチャを引いたら、友奈が出るまでにUR雀が2回出ました。


第27話 心の拠り所

「行ってらっしゃい、楽しんできてね」

 

「行ってきます」

 

 7月、駅で千景を見送る。これから千景は修学旅行に行く。

 千景達の通う小学校は、5年生の7月、授業日数の関係で夏休み中に修学旅行がある。

 集合場所に向かいながらも時折振り返る千景に手を振る。

 

 千景の姿が見えなくなると、僕は1人で帰路を辿った。

 

 ──────────

 

 修学旅行は1泊2日。れんちゃんに出会ってから、そんなに長く離れたことはない。

 学校の先生や同級生達と見知らぬ土地に行くというのは、楽しみでもあるが少し不安でもある。

 

「どうしたの千景?これ食べる?」

 

「…食べる」

 

 電車で隣に座る美琴に、食べていたクッキーを差し出される。1枚手に取り、口に運ぶ。

 このペースで食べていたら到着するまでにおやつは無くなりそうだが、大丈夫だろうか。

 

「美味しい」

 

「でしょ。私これ好きなんだ」

 

 そう言いながら鞄の中を見せてくる美琴。そこには同じクッキーの箱が複数入っていた。

 

「もしかして持ってきたおやつ、全部これ?」

 

「全部じゃないよ、7割くらい」

 

「…そうなのね」

 

「それで、どうかしたの?」

 

 美琴や凛は何かあればいつも気を使ってくれる。2人のおかげで私はこの学校に馴染めたと言っても過言ではない。

 

「…家族と離れて遠いところに行くって、少し不安じゃない?」

 

「ああなるほど、わからんでもない。この歳ではなかなかそんなことしないもんね」

 

 腕を組んでうんうんと頷く美琴。しかしすぐに顔をあげる。

 

「まあ1泊2日だしさ、滅多にない経験だと思って楽しもうよ」

 

「…そうね」

 

 美琴の明るい人柄にはいつも元気を貰っている気がする。

 できることなら、来年も、中学生になっても同じクラスになりたいものだ。

 

「とりあえず夜は枕投げだ!」

 

「それはダメって言われてるでしょ」

 

 ──────────

 

 夕方、仕事を終えて帰ろうとしていたところ、スマホにRINEの通知が来ていることに気づく。相手は琴音さん。

 

『ちーちゃんがいなくて寂しくしていそうかと思って、良ければうちで一緒に晩ご飯食べていきませんか?ひなたも喜ぶので』

 

 有難い申し出だ、断る理由も無い。ひなたも喜ぶというなら、尚更行かねば。

 しかし千景はいないのに、僕だけ行って喜んでもらえるのだろうか。

 

 少し考えた末、プリンでも買っていくことにした。

 

 

 

 

 

 上里家に到着しインターホンを鳴らすと、出迎えてくれたのはスーツ姿の伊織さんであった。仕事から帰ったばかりなのだろう。

 

「こんばんは」

 

「いらっしゃい、琴音から聞いてるよ」

 

 リビングに入ると、夕食の準備をする琴音さんと、それを手伝うひなたがいた。

 

「こんばんはー」

 

「え!?れんちゃん!?なんで!?」

 

「こんばんは〜。もうすぐ準備できるので、ちょっと座って待っててくださいね」

 

 僕の声に驚きながら振り向くひなた。ひなたには言ってなかったのか。

 

「どういうことですかお母さん!」

 

「今日はちーちゃんが修学旅行でいないから、寂しいんじゃないかと思って、晩ご飯に誘ったの。サプライズ大成功〜」

 

 サプライズだったらしい。さっきのひなたの驚いた顔を写真に撮ればよかった。

 とりあえず、買ってきたプリンをひなたに渡す。

 

「ひなた、プリン買ってきたから、晩ご飯の後にでも食べて」

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

「あら、美味しそうなプリン」

 

「ケーキ屋さんのプリンだからね」

 

 これ1つでスーパーの3つ入りプッチンプリンが2つほど買える。ちょっとした贅沢である。

 ひとまずプリンを冷蔵庫に入れるひなた。

 

「これは食後にれんちゃんと一緒に食べます」

 

「え、僕もいいの?」

 

「買ってきてくれたんですから半分こします」

 

「ありがとうひなた。でもひなたの為に買ってきたから、僕は1口くらいでいいよ」

 

 なんて優しい子なのだろう。思わずいつものようにひなたの髪を撫でる。

 

 少しして、部屋着に着替えた伊織さんがリビングへと戻ってきた。

 

「じゃあ皆揃ったので食べましょう」

 

 

 

 

 

 

 夕食を終え、すぐに冷蔵庫からプリンを取り出すひなた。

 

「それどうしたんだ?」

 

「れんちゃんが買ってきてくれました」

 

 プリンに興味を向ける伊織さん。人数分買ってくるべきだっただろうか。

 

「もう食べるの?」

 

「はい、早く食べないとれんちゃんの帰りが遅くなりますから」

 

 僕の隣に座り、箱からプリンを取り出し蓋を開ける。

 柔らかく揺れるプリンにスプーンを入れるひなた。

 

「いただきます!」

 

「召し上がれ」

 

 プリンを口に入れたひなたは、とても良い笑顔を見せてくれた。事前に準備しておいたスマホのカメラで写真を取る。

 少し顔を横に向けると、伊織さんもカメラを構えていた。

 

「すごく美味しいです!」

 

「よかった」

 

 もう一度スプーンでプリンを掬い、今度はこちらにスプーンを向けてくる。

 

「あーん」

 

「あ、あーん…美味しいね」

 

 大変満足げな表情をするひなた。

 とても嬉しいが、両親の前であーんをされるのは少し恥ずかしい。

 琴音さんは微笑んでいるが、カメラを構える伊織さんは何とも言えない表情をしている。

 

「残りは全部食べていいよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 笑顔でプリンを食べるひなたに、千景のいない寂しさが少し紛れるように感じた。

 

 

 

 

 

 

 誰もいない家に帰り、1人で風呂に入り、洗濯物を干して明日用の米を洗い炊飯器を予約する。

 1人ではすることも無く自分の無趣味を痛感しながら、時間は早いが布団に横になる。

 普段なら、この時間は千景と一緒にゲームをしていたりする。

 

「千景…」

 

 ここに来てから、千景のいない夜は初めてだ。

 

 もう寝よう。1人の夜は嫌な事を思い出す。

 少しでも早く、この時間が過ぎ去ることを願った。

 

 ──────────

 

 夕方、駅に帰ってきた私は、おそらく迎えに来ているはずのれんちゃんを探す。

 辺りには、同じように我が子を迎えに来ている親がたくさんいる。

 美琴や凛は自分の親を見つけて寄っていくのをさっき見かけた。

 

「れんちゃん…」

 

 ようやく会えるはずなのに見つからないことに、なぜか焦りを覚える。

 

 

「千景!」

 

 声がした方を見ると、こちらへ歩いてくるれんちゃんを見つけた。

 重い旅行鞄をその場に置き、彼の元へ走り出す。

 その胸に飛び込んだ私を、れんちゃんは優しく受け止めてくれた。

 

「おかえり」

 

「ただいま」

 

 この人の傍が私の、一番安心できる場所なのだ。

 

 ──────────

 

 右肩に千景の旅行鞄を掛け、左手を千景と繋いで歩く。

 

「帰ったら土産話をいっぱい聞こうかな」

 

「いっぱい話してあげる」

 

 夕日に照らされながら手を繋いで家に帰る、という状況は何度もあったが、並び立つ背の高さとその手の大きさに時間の経過を実感する。

 もうそんなに一緒にいるのか。

 

「…私がいなくて寂しかった?」

 

「寂しかったよ」

 

 昨日の時間を埋めるように、今夜はたくさん話そう。千景を傍に感じられるように。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。