花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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第28話 私の大切

「暑い…」

 

「暑いねぇ」

 

 夏休みに入り、私達は沖縄にいた。本当にれんちゃんは私を様々なところに連れて行ってくれる。

 

「でもなんで夏に沖縄?暑いのに」

 

「冬に沖縄に旅行するイメージできる?」

 

「……できないけど」

 

「夏はどこに行っても大抵暑いよ。楽しもう!」

 

 そう言いながら近くのコンビニを探すれんちゃん。やはり暑いのだ。

 

 

 

 

 

 美ら海水族館に到着した私達は、海人門の下を歩いていた。

 

「入り口から既に凄い」

 

「写真撮っとこ」

 

 中に入り奥へ進んでいくと、ジンベイザメが泳ぐ大水槽に迎えられる。

 人を丸呑みにしてしまえそうな大きな口と体は圧巻である。

 

「大きい…初めてジンベイザメを見たわ」

 

「千景、写真撮るから水槽の前に立ってみて」

 

「これでいい?」

 

「ああ……よし、撮れたよ」

 

 撮れた写真を見せてもらうと、ちょうど私の真後ろにジンベイザメが寄ってきていた。本当に大きい。

 

 その後も色々と見てまわる。水族館はあまり来ることがないので、とても新鮮に感じた。

 

 

 

 

 昼過ぎ、海沿いの道を歩いていると、海上に少女が浮かんでいるのを見つけた。

 

「れんちゃん、あれ…」

 

 足を止めて指をさし、れんちゃんもすぐに見つけて足を止める。

 

「ここは海水浴場じゃないはずだけど…ん?」

 

 目を凝らして見るれんちゃん。

 

「あれは…多分大丈夫だな。一応行ってみるか」

 

 浜辺に降り、海の方へ歩いていくれんちゃんに私も続く。

 こちらに気がついたのか、浮かんでいた少女が陸地へと戻ってくる。

 

「こんにちは。どうしてここで浮かんでいたの?」

 

「どうしてか…。私は海が好きなんだ」

 

 そう話す少女は高身長で肌が褐色であった。長い髪を後ろで1本に纏めている。海に入っていたので、当然水着を着ている。

 

「海水浴場には行かないの?」

 

「ここは私の家から近いから、よくここで海に入っているんだ」

 

「大丈夫なの?」

 

「ああ」

 

 少女の落ち着いた声はとても聞きやすい。スッと耳に入ってくるようだ。

 

「2人はこの辺りでは見ない顔だが、旅行客か?」

 

「そうだよ、香川から来たんだ」

 

「なるほど。…タイミングがいいな」

 

「タイミング?」

 

「今夜はこの近くで夏祭りがあるんだ」

 

 なんとタイミングのいいことか。旅行先で祭りにも参加できるのか。

 

「千景、行きたいって顔してる」

 

「えっ?…まあ行きたいけど」

 

「案内しようか?」

 

「いいの?」

 

「ああ、構わない」

 

 とても親切な少女である。たまたま出会った旅行客を案内だなんて、私にはとてもできない。

 

「一応名前を聞いておこう。私は古波蔵棗だ」

 

「僕は郡蓮花」

 

「郡千景よ」

 

「蓮花さんと千景か、覚えた。…祭りまでまだ時間があるが、どうしよう」

 

 まだ昼過ぎ、確かにまだ時間が早い。れんちゃんが顎に手を当てて考える。

 

「よかったら、この辺を案内してくれないか?お礼に祭りの屋台で奢るよ」

 

「わかった、少し待っていてくれ。着替えてくる」

 

 そう言って近くの岩場の影に入っていく棗。そんな所で着替えるのか。

 

「あんな所で着替えるんだね…」

 

「同じことを思ったわ」

 

 

 

 少しして、水着から着替えた棗が戻ってくる。

 

「来た時もあそこで着替えたの?」

 

「いや、来た時は服の下に水着を着ていたんだ。海に入る前に服を脱いであそこに置いていた」

 

「大丈夫なの?」

 

「問題ない」

 

 ないのか。

 

 

 

 

 

 

 棗に様々な所を案内してもらい沖縄を満喫していると、あっという間に空は暗くなってくる。

 

「着いたぞ」

 

 祭り会場に到着すると、中心には神輿が置かれ、その周囲を人々が踊っていた。いわゆる盆踊りだろうか。

 かき氷やわたあめ、焼き鳥などの屋台も出店している。

 花火大会のような人口密度ではなく、地元感の強い祭りのようだ。

 

「お神輿凄い」

 

「凄いね。僕こういう祭りも好き」

 

 まずは屋台の方へと3人で歩いていく。

 

「お、棗ちゃんいらっしゃい!こっちのお2人は友達かい?」

 

 焼き鳥の屋台のおじさんが気さくに声をかけてくる。棗の知り合いだろうか。

 

「ああ、この2人は香川から旅行で来ているんだ」

 

「そうなのかい!じゃあ皆1本おまけするよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 全員分の焼き鳥を買い、次の屋台へと進んでいく。

 

 

「あら棗ちゃんいらっしゃい!」

 

 

「おう棗ちゃん来てくれたか!」

 

 

「棗ちゃん今日も海に入ってたのかい?好きだねぇ」

 

 

 屋台に留まらず、進む先々で声をかけられる棗。棗は地元で有名なのだろうか。

 

「棗って有名人なの?」

 

「いや、この辺りはだいたい皆知り合いなんだ」

 

「そうなのね」

 

 一通り屋台を回り、ベンチに座って踊りを眺めながら食べていく。

 

「千景、わたあめ1口ちょーだい」

 

「うん」

 

 わたあめをれんちゃんの方へ向けると、れんちゃんが顔を近づけ1口食べていく。おじさんがおまけしてくれたのでわたあめは大きく、1口食べられた程度では減ったように見えない。

 

「もっと食べてもいいけど」

 

「…そうだな、残り全部を千景が食べるには多いね」

 

 隣で黙々と食べ進める棗のわたあめを見ると、同じサイズを貰ったはずなのにもうかなり小さくなっていた。

 

 

 

「…では、踊ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

 早々に食べ終えた棗は、踊る人の列へと入っていく。周りの人と談笑しながら踊り始める。

 

 

 …もし、何かが違っていれば、あんな風に私もあの村の人達と仲良くなれたのだろうか。

 

 しかし、そうならなかったから今ここにいる。

 私の隣にいる人を見れば、これで良かったのだと今は確信できる。

 

 私の視線に気がついたれんちゃんがこちらに顔を向ける。

 

「どうかした?」

 

「…ううん、なんでもない」

 

 不思議そうな顔をしながらわたあめに食いつくれんちゃん。もう渡しておこう。

 

 

 

「……ねぇ、れんちゃん」

 

「何?」

 

「私といて、幸せ?」

 

「ああ。幸せだよ」

 

 笑顔でそう言ってくれるあなたの事が、私は大切なんです。

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