「暑い…」
「暑いねぇ」
夏休みに入り、私達は沖縄にいた。本当にれんちゃんは私を様々なところに連れて行ってくれる。
「でもなんで夏に沖縄?暑いのに」
「冬に沖縄に旅行するイメージできる?」
「……できないけど」
「夏はどこに行っても大抵暑いよ。楽しもう!」
そう言いながら近くのコンビニを探すれんちゃん。やはり暑いのだ。
美ら海水族館に到着した私達は、海人門の下を歩いていた。
「入り口から既に凄い」
「写真撮っとこ」
中に入り奥へ進んでいくと、ジンベイザメが泳ぐ大水槽に迎えられる。
人を丸呑みにしてしまえそうな大きな口と体は圧巻である。
「大きい…初めてジンベイザメを見たわ」
「千景、写真撮るから水槽の前に立ってみて」
「これでいい?」
「ああ……よし、撮れたよ」
撮れた写真を見せてもらうと、ちょうど私の真後ろにジンベイザメが寄ってきていた。本当に大きい。
その後も色々と見てまわる。水族館はあまり来ることがないので、とても新鮮に感じた。
昼過ぎ、海沿いの道を歩いていると、海上に少女が浮かんでいるのを見つけた。
「れんちゃん、あれ…」
足を止めて指をさし、れんちゃんもすぐに見つけて足を止める。
「ここは海水浴場じゃないはずだけど…ん?」
目を凝らして見るれんちゃん。
「あれは…多分大丈夫だな。一応行ってみるか」
浜辺に降り、海の方へ歩いていくれんちゃんに私も続く。
こちらに気がついたのか、浮かんでいた少女が陸地へと戻ってくる。
「こんにちは。どうしてここで浮かんでいたの?」
「どうしてか…。私は海が好きなんだ」
そう話す少女は高身長で肌が褐色であった。長い髪を後ろで1本に纏めている。海に入っていたので、当然水着を着ている。
「海水浴場には行かないの?」
「ここは私の家から近いから、よくここで海に入っているんだ」
「大丈夫なの?」
「ああ」
少女の落ち着いた声はとても聞きやすい。スッと耳に入ってくるようだ。
「2人はこの辺りでは見ない顔だが、旅行客か?」
「そうだよ、香川から来たんだ」
「なるほど。…タイミングがいいな」
「タイミング?」
「今夜はこの近くで夏祭りがあるんだ」
なんとタイミングのいいことか。旅行先で祭りにも参加できるのか。
「千景、行きたいって顔してる」
「えっ?…まあ行きたいけど」
「案内しようか?」
「いいの?」
「ああ、構わない」
とても親切な少女である。たまたま出会った旅行客を案内だなんて、私にはとてもできない。
「一応名前を聞いておこう。私は古波蔵棗だ」
「僕は郡蓮花」
「郡千景よ」
「蓮花さんと千景か、覚えた。…祭りまでまだ時間があるが、どうしよう」
まだ昼過ぎ、確かにまだ時間が早い。れんちゃんが顎に手を当てて考える。
「よかったら、この辺を案内してくれないか?お礼に祭りの屋台で奢るよ」
「わかった、少し待っていてくれ。着替えてくる」
そう言って近くの岩場の影に入っていく棗。そんな所で着替えるのか。
「あんな所で着替えるんだね…」
「同じことを思ったわ」
少しして、水着から着替えた棗が戻ってくる。
「来た時もあそこで着替えたの?」
「いや、来た時は服の下に水着を着ていたんだ。海に入る前に服を脱いであそこに置いていた」
「大丈夫なの?」
「問題ない」
ないのか。
棗に様々な所を案内してもらい沖縄を満喫していると、あっという間に空は暗くなってくる。
「着いたぞ」
祭り会場に到着すると、中心には神輿が置かれ、その周囲を人々が踊っていた。いわゆる盆踊りだろうか。
かき氷やわたあめ、焼き鳥などの屋台も出店している。
花火大会のような人口密度ではなく、地元感の強い祭りのようだ。
「お神輿凄い」
「凄いね。僕こういう祭りも好き」
まずは屋台の方へと3人で歩いていく。
「お、棗ちゃんいらっしゃい!こっちのお2人は友達かい?」
焼き鳥の屋台のおじさんが気さくに声をかけてくる。棗の知り合いだろうか。
「ああ、この2人は香川から旅行で来ているんだ」
「そうなのかい!じゃあ皆1本おまけするよ」
「ありがとうございます!」
全員分の焼き鳥を買い、次の屋台へと進んでいく。
「あら棗ちゃんいらっしゃい!」
「おう棗ちゃん来てくれたか!」
「棗ちゃん今日も海に入ってたのかい?好きだねぇ」
屋台に留まらず、進む先々で声をかけられる棗。棗は地元で有名なのだろうか。
「棗って有名人なの?」
「いや、この辺りはだいたい皆知り合いなんだ」
「そうなのね」
一通り屋台を回り、ベンチに座って踊りを眺めながら食べていく。
「千景、わたあめ1口ちょーだい」
「うん」
わたあめをれんちゃんの方へ向けると、れんちゃんが顔を近づけ1口食べていく。おじさんがおまけしてくれたのでわたあめは大きく、1口食べられた程度では減ったように見えない。
「もっと食べてもいいけど」
「…そうだな、残り全部を千景が食べるには多いね」
隣で黙々と食べ進める棗のわたあめを見ると、同じサイズを貰ったはずなのにもうかなり小さくなっていた。
「…では、踊ってくる」
「行ってらっしゃい」
早々に食べ終えた棗は、踊る人の列へと入っていく。周りの人と談笑しながら踊り始める。
…もし、何かが違っていれば、あんな風に私もあの村の人達と仲良くなれたのだろうか。
しかし、そうならなかったから今ここにいる。
私の隣にいる人を見れば、これで良かったのだと今は確信できる。
私の視線に気がついたれんちゃんがこちらに顔を向ける。
「どうかした?」
「…ううん、なんでもない」
不思議そうな顔をしながらわたあめに食いつくれんちゃん。もう渡しておこう。
「……ねぇ、れんちゃん」
「何?」
「私といて、幸せ?」
「ああ。幸せだよ」
笑顔でそう言ってくれるあなたの事が、私は大切なんです。