今日は帰りが少し遅くしまったので、お土産にプリンを買って帰る。ひなたにあげたケーキ屋のプリンである。
家の前まで辿り着き、玄関の扉を開ける。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
エプロンを着たまま玄関に来て出迎えてくれる千景。
「もう晩ご飯はできてるから」
「ありがとう。プリン買ってきたから、後で一緒に食べよう」
リビングに入ると、テーブルの上には既に夕食の準備がされている。
最近、僕の帰りが遅くなった日は千景が夕食を作って待ってくれているようになった。正直とても助かっている。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
千景の作ってくれた料理を食べれば、その日の疲れなんて消し飛ぶ。気がする。
テレビの電源をつけるとニュースが映り、最近不審者が目撃されているとの情報が流れる。
「結構近いわね」
「気をつけてね。帰る時は複数人で帰ってね」
朝は班で登校するため、大丈夫だろう。
「大丈夫、帰りは若葉達と一緒だから」
「そうか」
ニュースの話題は変わり、仮装して街を歩く人達の映像が流れる。おそらく去年のハロウィンだろう。
「そういや、もうすぐハロウィンか」
「何かする?」
「お菓子作って皆でパーティーでもするか」
最近はひなた達も千景を見習って料理の練習を始めたらしい。各自で作った菓子を持ち寄るのはどうだろう。
そんなことを考えながらも食べ進め、夕食を終える。
「ご馳走様、今日も美味しかった」
「よかった」
千景が作ってくれた美味しい夕食を食べ、僕が美味しいと言えば千景が笑ってくれる。なんて幸せなのだろうと思った。
「先に風呂行ってて。食器洗い終わったら僕も行くから」
「わかった」
キッチンで夕食で使った食器を洗いながら、千景にそう伝える。
2人分の食器なのでそう時間はかからない。
「れんちゃん!!ちょっと来て!!」
なかなか聞くことの無い千景の大きな声が浴室の方から聞こえた。
「どうした?」
途中で手を止めて浴室へ向かう。
そこには、既に服を脱いだ千景。その脚を伝う赤い液体。
「なんか…血が…」
「…なるほど。遂に生理が来たんだね」
「これが生理…?保健の授業でやったけど」
「うん。大丈夫、心配しなくていいよ」
千景ももうそんな時期なのか。小学5年生だがまだ10歳、思っていたより早かったので生理用品の用意が無い。
「千景、今から琴音さんに電話して生理用品買ってくるから、シャワー浴びててくれ」
「いいの?」
「ああ、脚に付いた血も流さないといけないしね。で、僕が帰ってくるまでそのまま風呂場にいてほしい」
「わかった」
浴室の扉を閉め、すぐに琴音さんに連絡する。生理用品の選び方等、僕は男なのでわからない。
こういう時のママ友は安心感が違った。
「ただいま、買ってきたよ」
「こんばんは〜」
生理用品を買って家に帰り、浴室の千景へ声をかける。
夜だが琴音さんは買い物を手伝ってくれたうえ、千景に生理用品の使い方を教える為に家までついてきてくれた。
「体濡れてるけどどうしたらいい?」
「タオルで拭いていいよ。血が付いちゃってもいいから」
その後、体を拭いた千景と共に琴音さんから生理用品の使い方を教わる。
僕も一緒に教わるのはどうかと思ったが、この家には僕と千景しかいないため、千景の為にちゃんと知っておいたほうがいいと思った。
──────────
「もうすぐハロウィンね」
「そうだな」
放課後のいつもの帰り道、昨日れんちゃんが言っていた案を2人に話す。
「れんちゃんが、お菓子作ってパーティーでもするかって言ってたんだけど、どう?」
「いいですね!」
「ああ、会場はうちを貸し出そう」
「勝手に家を貸し出していいの?」
「問題ないだろう」
乃木家の居間は広いため、集まって何かをするのは大抵乃木家で行う。我が家からも近いので問題はない。
少しずつ落ち葉が増えていく通学路の風景に、夏から秋、冬へと季節が移り変わっていくのを感じる。
香川に来て、3回目の秋だ。
「じゃあまた明日ね」
「はい、また明日」
「またな」
いつものように分かれ道で若葉達と別れ、私は自分の家に向かう。
今日はれんちゃんの帰りは遅いのだろうか。それとも早く帰ってきてくれるのだろうか。
──────────
「ただいまー」
「おかえりなさい」
今日はあまり遅くならずに帰ってくることができたから、今日は僕が夕食を作ろう。
そう思いながら部屋に入ると、既に千景がエプロンを着け、キッチンに立っていた。
見たところ、夕食を作り始めたところのようだ。
「今日は僕が作ろうと思ってたけど、せっかくだし一緒に作るか。今日は何作るの?」
「今日はしょうが焼きとポテトサラダよ」
「了解」
荷物を置き、僕もエプロンを付けてキッチンに立つ。2人で並ぶには少し狭いが、一緒に料理をするのは楽しい時間となった。
夕食を食べている途中、僕のスマホの着信音が鳴った。電話をかけてきた相手は琴音さん。
「誰?」
「琴音さん。どうしたんだろう」
箸を置いて電話に出る。
「もしもし?」
『れんちゃん、そちらにひなたはいませんか!?』
スピーカーから聞こえてくる琴音さんの声には、焦りや不安が感じ取れる。
「いないけど、ひなたがどうしたの?」
『ひなたがっ、ひなたが帰ってきていないんです!!』
日常が一瞬、揺らいだ気がした。